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文: Vegas PR Group 編:riko ito
7月の<FUJI ROCK FESTIVAL ‘23>に続き、8月の<SONICMANIA>(以下、ソニマニ)や<SUMMER SONIC 2023>(以下、サマソニ)も終わり、夏フェスシーズンも一段落。今年も話題に事欠かない、さまざまなアーティストのパフォーマンスが繰り広げられた。
Thundercat(サンダーキャット)やTwo Door Cinema Club(トゥー・ドア・シネマ・クラブ)などの親日家として知られるアーティストはもちろん、日本初のステージとなったNewJeans(ニュージーンズ)やFLO(フロー)、WILLOW(ウィロー)など、枚挙にいとまがない。
なかでも、<ソニマニ>と<サマソニ>の両方に出演したCamilo(カミーロ)は、コロンビア出身でグラミー賞受賞歴もあるアーティスト。筆者も<ソニマニ>で彼のステージを観たが、初来日ながら日本のファンから暖かい歓迎を受けていたのが印象的だった。
Camiloに限らず、非英語圏のアーティストが世界の音楽シーンの中心で活躍する機会が増えている。
8月にアメリカ・シカゴで行われた音楽フェスティバル<Lollapalooza>にもNewJeansや、同じく韓国のTOMORROW X TOGETHER(トゥモロー・バイ・トゥギャザー)が出演。非英語圏のアーティストの躍進は疑いようがなく、グローバルな音楽シーンのエコシステムは変わりつつある。
さらに4月までさかのぼると、アメリカ・カリフォルニア州で2週にわたって開催された世界最大級の音楽フェスティバル<Coachella Valley Music and Arts Festivall>(以下、コーチェラ)でも、同様の傾向が読み取れる。〈88rising〉のステージに急遽宇多田ヒカルが登場し、日本のアーティストとして初めてメインステージでパフォーマンスをした昨年に引き続き、非英語圏のアーティストの活躍が目立つものとなった。
初日のヘッドライナーをプエルトリコのラッパー・Bad Bunny(バッドバニー )が務め、BLACKPINK(ブラックピンク)がアジアのアーティストとして初めてヘッドライナーのステージに登場し、2日目の<コーチェラ>を締め括った。さらに、同日の準ヘッドライナー枠には、スペインのアーティスト・ROSALÍA(ロザリア)が抜擢され、インクルーシブでジャンルを問わないラインナップが毎年注目される<コーチェラ>らしい顔ぶれだったと言えるだろう。
第1週目のハイライトは、スペイン語と英語どちらで話すのがいいかというBad Bunnyの投げかけに、オーディエンスが即座に「スペイン語!」と反応したシーン。非英語圏のアーティストがヘッドライナーを務めることの意味を実感した瞬間だった。前週にワールドツアーの東京公演を終えたばかりだったBLACKPINKも、ピンク色に染まった会場でアウェイ感を微塵も感じさせない、“凱旋”という言葉もふさわしいくらいのパフォーマンスだった。
BTS(ビーティーエス)のようなK-POPアーティストのグローバルな音楽シーンでの躍進は言うまでもないが、スペイン語圏のアーティストの活躍もめざましい。メインストリームに迎合せず、自分のルーツに忠実な楽曲が評価されている非英語圏のアーティストの活躍を紐解くと、日本のアーティストが海外で活躍するためのヒントが見えてくる。
Bad Bunnyは、2022年にSpotifyの「最も再生されたアーティスト部門」でTayor Swift(テイラー・スイフト)を抑えて堂々の第1位、「バイラルアーティスト部門」でもTayor Swift、 The Weeknd(ザ・ウィークエンド)に次いで第3位。さらに、グラミー賞で「最優秀ラテン・アーバン・アルバム賞」を受賞した『Un Verano Sin Ti』は、Spotifyで「最も再生されたアルバム部門」でも第1位になっている(※1)。
2019年以来2度目の<コーチェラ>登場となるROSALÍAも、2022年にリリースした3作目となるアルバム『Motomami』が最優秀ラテン・ロック/アーバン・オルタナティヴ賞を受賞したばかり。今年の<コーチェラ>のラインナップは、そんな昨年2022年の音楽シーンを反映したものと言える。
ではなぜ、Bad BunnyやROSALÍAはここまでの成功を収めるに至ったのだろうか。
まず挙げられるのが、サウンドスタイルだ。フラメンコシンガーとしてキャリアをスタートさせたROSALÍAの1st アルバム『Los Ángeles』には、「Catalina」など伝統的なスペインのフラメンコ音楽にポップスのエッセンスを加えた楽曲が多く見られる。一方、Bad Bunnyも、ラテントラップやレゲトン、さらにヒップホップを融合させた音楽を得意としている。トレンドの音楽というフィールドのなかで勝負するのではなく、自身のルーツにある音楽を取り入れながら独自のスタイルを確立したことで、ポップスのファンのみならず、フラメンコやレゲトンのファンへのアプローチにも成功し、幅広いオーディエンスを獲得している。
他のアーティストとの積極的なコラボレーションも両者の共通点だ。ROSALÍAは、Billie Eilish(ビリー・アイリッシュ)を筆頭に、Arca(アルカ)やJames Blake(ジェイムス・ブレイク)、Travis Scott(トラヴィス・スコット)たちとこれまで楽曲を共作。Bad Bunnyは、Drake(ドレイク)やCardi B(カーディ・ビー)などの現行のヒップホップシーンを語る上で欠かせないアーティストや同じくラテン系のアーティストJ Balvin(ジェー・バルヴィン)、さらにROSALÍAともコラボレーションをしている。
ファン層が広いこれらのアーティストとのコラボレーションもまた、彼らのファンを増やす上で重要なアプローチだったと言えるだろう。さらに、Bad BunnyやROSALÍAは、そういったアーティスト性に加えて、SNSでの積極的なファンとの交流やツアーなど自身の活動に関する情報提供もコンスタントに続けている。その結果、世界中にファンを獲得することに成功し、今年の<コーチェラ>に登場するに至ったのだろう。
最後に、近年のSNSのトレンドのひとつでもあるオーセンティシティ(確からしさ)という観点からも両者を考えたい。世界的なアーティストになる以前からROSALÍAは、スペインの最も古い芸術学校のひとつとされる場所で10年以上フラメンコのトレーニングを積んできた。
彼女にとってフラメンコは売れるための手段ではなく、ルーツなのだ。伝統文化を取り入れた嘘のないスタイルによって、スペインの文化を体現するアーティストとしての存在を確立した。一方でBad Bunnyも、メンタルヘルスや薬物依存などの社会問題や自身の経験に触れた歌詞が、多くのオーディエンスの共感を呼び、音楽シーンのなかで稀有な存在として知られるようになった。
あらゆる場面で海外から見た“日本像”が先行しやすい状況のなかで、「日本で最も売れたアルバム」というタイトルを未だに保持し、テレビドラマやゲームとのタイアップを通して日本のシーンに深く根差した宇多田ヒカルという存在が、アメリカの最も大きいステージに立った影響力もROSALÍAやBad Bunnyが世界の音楽シーンにもたらした影響力の大きさと等しいと言ってもよいのではないだろうか。
日本のアーティストが世界的な影響を与えた例として思い出されるのは他にもある。Harry Styles(ハリー・スタイルズ)は、アルバム『Harry’s House』(2022年)で2023年のグラミー賞・年間最優秀アルバム賞を受賞したが、同作は細野晴臣が1973年に発表したアルバム『Hosono House』からの影響を公言しており、今年3月の来日公演の際には細野晴臣の自宅を訪れている。
Harry Stylesの例からもわかるように、日本の音楽はニッチなジャンルではなく、世界のメインストリームで受け入れられる素質を十分に持ち合わせているということだ。事実、ジャンルは違えど、YOASOBIや藤井風といったアーティストが海外進出の先行事例を示している。他の日本のアーティスト達が続いて世界規模で活躍するのは時間の問題だろう。
たとえば、日本のエクスペリメンタル・ヒップホップ・トリオ、Dos Monosも海外での活動を精力的に展開している。昨年にイギリスのバンド・black midi(ブラック・ミディ)とのヨーロッパツアーを終えたばかりのDos Monosは再び、単独でのヨーロッパツアーを今年の夏に成功させている。
black midiのドラマー・Morgan Simpson(モーガン・シンプソン)は以前のインタビュー(※2)で、初めてDos Monosを見たときの印象を「現代のWu-Tang Clan(ウータン・クラン)を見ているかのよう」と語っている。「言葉」が重要なヒップホップというジャンルで、日本語で歌うアーティストがヒップホップアーティストとしてこれ以上ない賛辞を受けていることからも、言語の壁は問題ではないと言えるだろう。
先日の<ソニマニ>でも同じことを感じた。Camiloのステージは、英語も交えたMCでオーディエンスとコミュニケーションをしたり、ステージに招き入れた妻でありアーティストのEvaluna Montaner(エヴァルナ・モンタネール)とハグやキスを交わす姿から、スペイン語がわからなくとも、「他人を思いやる慈愛」という彼が伝えるメッセージや熱意が十分に伝わるものだった。
Bad BunnyやROSALÍA、Camilo。彼らのように自らのルーツを表現する音楽活動を続けることで、日本のアーティストも世界を舞台にした活躍の道が開かれるだろう。非英語圏のアーティストの有名フェスティバルへの出演はトレンドになっているうえに、ストリーミングサービスやSNSの影響でいつどこでアーティストの話題がバズとなってもおかしくない。海外を意識した背伸びしたスタイルではなく、等身大で偽りのないスタイルが今後より一層重要になるだろう。
(※1)It’s Here: The Top Songs, Artists, Podcasts, and Listening Trends of 2022
(※2)https://metropolisjapan.com/black-midi-interview/
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