昨年比およそ2倍の動員を記録した<FUJI ROCK FESTIVAL'23>で感じた2つの変化

Column
日本国内の音楽エンターテインメント業界の海外プロモーションに特化したPRエージェンシー・Vegas PR Groupが、日本の音楽業界の現状や将来の在り方を解説するコラム。第1回目は、先日行われた<フジロック>について振り返る。

2023年7月28日(金)から3日間にわたり、新潟県湯沢町苗場スキー場で<FUJI ROCK FESTIVAL’23>(以下、フジロック)が開催された。

新型コロナウイルスの影響を受けた過去数年の<フジロック>を振り返ると、中止を余儀なくされた2020年や邦楽アーティストのみでの開催となった2021年、そして2022年は海外アーティストが参加したもののマスク着用が必要だった。その数年間を経て26回目の開催を迎えた今回は、コロナ禍以前の光景が戻ってきたことを実感できる3日間となった。

昨年からの大きな変更として挙げられるのは、ヘッドライナー以降の深夜の時間帯を朝まで盛り上げる「THE PALACE OF WONDER」や「GAN-BAN SQUARE」といった<フジロック>の名物ステージの復活。「THE PALACE OF WONDER」の横の「Vegas in Milk」にはMonyHorseゆるふわギャングらがサプライズ登場した。日付が変わっても人の気配が消えることはなく、それぞれが思い思いの過ごし方で夜を明かしていた。

公式の発表によると、27日(木)の前夜祭から4日間の来場者は延べ11万4,000人(※1)。昨年は4日間での動員が6万9,000人であったため、およそ倍近くの参加者が訪れたことになり、数字的にもコロナ禍が明けたことを実感できる。入場ゲートすぐの飲食スペース・オアシスエリアでの食事やステージ間の移動も昨年より大幅に時間がかかり、現地で受けた印象も公式のレポートと相違はない。

アジアで開催された同規模のフェスの動員数と比較してみると、今年3月に香港で開催された<Clockenflap>は3日間で延べ8万人(※2)。<フジロック>の翌週に韓国・仁川で開催され、ELLEGARDENThe Strokes(ザ・ストロークス)など<フジロック>に登場したアーティストも多く出演した<仁川ペンタポート・ロックフェスティバル>の動員は、3日間で延べ15万人(※3)だった。アジア各国でフェスが増加する中、<フジロック>が27年続くフェスの老舗というだけでなく、動員数という観点からも依然として引けを取らないアジア最大規模のフェスであることに変わりないだろう。

今年の特徴として多く指摘されているように、海外からのオーディエンスの参加が目立ったことも、動員が復調した一因として考えられる。会場内を歩いていて聞こえたのは、英語以外にも中国語や韓国語などアジアからの参加と思われるオーディエンスの声。フードエリアやヘッドライナーのステージだけでなく、日本のアーティストが出演するステージでも海外からの来場者を数多く見かけた。

例年にも増してグローバルなカラーが目立ったそんなオーディエンスに呼応するように、出演するアーティストたちの<フジロック>への意気込みが伝わるパフォーマンスが多く見られた。国内のアーティストはもちろん、イギリスのポストロックバンド・IDLES(アイドルズ)がインタビューでも語っていたように、イギリスのアーティストにとって<フジロック>のステージに立つことは1つのベンチマークになっているそう。海外アーティストのパフォーマンスにも、<フジロック>のオーディエンスとの繋がりを感じられたシーンがたくさんあった。

特に印象的だったのは、2日目の29日(土)に「WHITE  STAGE」に登場したCaroline Polachek(キャロライン・ポラチェック)。1曲目を披露し終えた彼女が「このステージに立てて嬉しい」と感極まって涙ぐむ姿が見られた。幼少期を日本で過ごしたり、前身のバンド・Chairlift(チェアリフト)で日本語詞の曲を発表したりと日本にゆかりのあるアーティストではあるが、世界で活躍するアーティストが<フジロック>への特別な思いを口にした印象的なステージだった。

国内のアーティストに目を向けてみると、eastern youthは代表曲「夜明けの歌」から始まるセットを披露。開始からエンジン全開で、「男子畢生危機一髪」、「青すぎる空」、「夏の日の午後」へと続くベストアルバムかのような演奏で初日の「RED MARQUEE」を沸かせた。eastern youthのバンドTシャツを着たファンのみならず、トリに控えていたYeah Yeah Yeahs(ヤー・ヤー・ヤーズ)のファンと思しきオーディエンスも両手をあげて賛辞を送り、<フジロック>ならではの光景を目にすることができた。

黒で統一された新しい衣装と共に、2日目の「GREEN STAGE」に登場した羊文学は、初期の楽曲を中心としたセットを披露。インタビューで語っていたように、<フジロック>に初めて出演したときにも披露した1st EP『トンネルを抜けたら』の収録曲「Blue.2」をはじめ、「人間だった」や「天気予報」から、TVアニメ『源氏物語』の主題歌「OOPARTS」まで、新旧・国内外のファンを問わない楽曲群でオーディエンスを魅了。翌週の<仁川ペンタポート・ロックフェスティバル>でのセットリストとの違いからも、バンドにとって<フジロック>への出演が特別なものであったことは疑いの余地がないだろう。

矢沢永吉BAD HOPなど、<フジロック>らしからぬアーティストの出演も話題になった2023年の<フジロック>。白スーツで「GREEN STAGE」の前方エリアに舞い降りた矢沢永吉のファンや、最終日の深夜きゃりーぱみゅぱみゅのパフォーマンスで個性的な盛り上がりを見せるファンがSNS上でも話題になったように、普段のライブでは決して交わらないであろうオーディエンス同士が苗場で出会い、互いを尊重しながら共存している光景もハイライトの1つになったはずだ。

個人的に感動したのは、Vaundyを観に来たであろう高校生くらいの2人組の男の子。近所の公園に行くようなスニーカーとTシャツの軽装に、首には買ったばかりのVaundyのタオル。スポーツドリンクがいっぱい詰まった重そうなスーパーのビニール袋片手に、Weyes Blood(ワイズ・ブラッド)を観ていた。たとえVaundyまでの時間潰しだったとしても、鳴っている音楽をその瞬間に理解できなくても、いつかこの日の経験が彼らの後の生活でなにか意味をもってくれたらと思う。

完全復活を実感できた今年の<フジロック>は、新たな可能性も感じられる3日間でもあった。国内外のオーディエンスの交流やアジアのフェスとして増した存在感。<SONIC MANIA>や<SUMMER SONIC>など、まだまだ主要な音楽イベントも控えている。普段のライブハウスでもこのような光景が続くことを期待したい。

(※1)FUJI ROCK FESTIVAL’23 終了のご報告
(※2)Hong Kong’s Clockenflap 2023 returns with Wu-Tang Clan, The Cardigans, Ben&Ben, and more
(※3)Korea’s representative music festival ‘2023 Incheon Pentaport Rock Festival’ heats up the midsummer even more

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