Z世代のセルフラブは美徳だけでは続かないーー不安定な時代に必要な国外セルフラブ・アンセム

Column
2023年10月より、毎月テーマを設けてインタビューやコラム、プレイリストを掲載していく特集企画がDIGLE MAGAZINEでスタート。記念すべき初回の特集テーマは“SELF LOVE”。「カルチャー × アイデンティティ × 社会」をテーマにリアルな視点で執筆を行うライター・竹田ダニエルが、アメリカのZ世代がセルフラブを重要視している要因やセルフラブを体現している国外アーティストが活躍する背景を紐解いていく。

セルフラブは戦い続けるためのものーーアメリカのZ世代が抱える不安と疑問

アメリカのZ世代は、不確実性に満ちた世界に生まれた。ポスト9.11の社会不安、学校での銃乱射事件、そしてインフレと学生ローンの肥大化。親世代が抱えた不安を受け継いだZ世代にとって、幼い頃から見てきた社会とは、無責任な大人たちによって作られてしまった不平等な世の中であり、その先に見えるのは不確かな未来だけだった。他にも、気候変動が紛れもない事実であることが科学的に証明され、地球温暖化や森林破壊が異常気象という形でまさに目の前で起き続けている。さらには人種差別やジェンダー差別、そしてLGBTQ+差別も、無視できない問題として蔓延し続けている。極め付けには高校生や大学生の頃にコロナパンデミックを経験しなくてはならなかったZ世代にとって、ロックダウンは将来いつまた起きるかわからないし、大人や政府は助けてくれないということも実感している。

加えて、Z世代の成長と共に、テクノロジーも成長を続けた。インターネットにアクセスできるようになったことで、若者たちは特定の価値観に縛られがちな地域社会の思考の枠から抜け出せるようになった。もはや親や先生の言うことだけを信じ、頼る必要はなく、自分自身のデジタルデバイスの画面を通して情報を求め、子供の頃から世界の現実を自力で見ることができる、初めての世代となった。このように、SNSを通して社会問題や世界が抱える不平等などの情報に常にさらされ、常に意識し、常に自覚的であることは、当然ながら不安や、場合によっては鬱といったメンタルヘルスの問題を引き起こすが、それは我々が直面しているこの現代社会の課題に対する、正常な反応なのかもしれない。

この資本主義社会において我々は、車、化粧品、家といった特定の商品を購入したり特定の社会規範に従ったりしなければ、“自分には価値がない”と信じ込ませようとするメッセージに常日頃からさらされている。同時に、労働力が搾取され、人間としての価値が軽視される時代でもある。だからこそストライキがアメリカ中で起きるなど、若者世代はかつてのアメリカ社会の基盤だった資本主義に対して非常に懐疑的だ。人々は自分の“本当の価値”に気付き、システムを変える必要があると自覚的になっているのだ。

Z世代にとってのセルフラブは、抵抗することと同義だ。たとえ社会的マイノリティである人たちが「生きる価値などない」と社会から言われたとしても、それでもなお自分自身を愛しても良いし、愛するべきなのだ、と認識することから始まっている。我々がまずは自分自身を愛し、大切にするべきであるということを学ばない限り、どのような形の抵抗や社会運動も持続可能ではない。歴史的な観点から見ても、女性やクィアな人々、その他のマイノリティや抑圧されてる人々に対して「謙虚であるべき」「存在を恥じるべき」と刷り込んできた社会において、“セルフラブ”という概念自体は、革命的な宣言でもあるのだ。

Lady Gaga、Olivia Rodrigoなど。各世代の“セルフラブ・アンセム”

2011〜2016年頃、セルフラブ賛歌やエンパワーメント・ソングと呼ばれるものの人気が顕著に急上昇した。これらの曲には、Sara Bareilles(サラ・バレリス)の 「Brave」、そしてその曲からインスピレーションを得たKaty Perry(ケイティ・ペリー)の「Roar」のような曲が含まれる。さらに、Kelly Clarkson(ケリー・クラークソン)「Stronger (What Doesn’t Kill You) 」やRachel Platten(レイチェル・プラッテン)の「Fight Song」は、いわゆる女性エンパワーメント・ソングとして今でもアイコニックな存在であり、Lady Gaga(レディー・ガガ)の「Born This Way」は、特にクィア・コミュニティのためのエンパワーメント・アンセムとして機能した。Hailee Steinfeld(ヘイリー・スタインフェルド)の 「Love Myself」もこのジャンルに含まれるが、テーマとしては一貫してリスナーに対してアーティスト側が「自分を愛そう」と呼びかけるようなメッセージを直接的に伝えている。特にまだインターセクショナルなフェミニズムなどが未発達であったその時期においては、女性が自信を持ち、セルフラブを宣言することさえ憚れれた社会背景もあり、このような“アンセム”は勇気を出して自分自身を愛することを奨励する、行動の呼びかけとして機能したのだ。

2010年代は、女性のエンパワーメントが社会的にも話題となった時期だった。Britney Spears(ブリトニー・スピアーズ)のような“ディーバ”と呼ばれる女性アーティストたちが自信を持って自分らしく生活をしているだけで、一部の人々から脅威であり批判に値するとみなされていた時代が2000年代だったとすると、この時期はさまざまなシフトが起きたときだった。Nicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)、Beyoncé(ビヨンセ)、ケイティ・ペリー、Miley Cyrus(マイリー・サイラス)といった型にはまらないアーティストたちが堂々とパフォーマンスをし、個性を発揮することで、女性は枠にはまらなくてもいい、そしてエンパワーメントをする存在になれるということを証明した。特段、当時の“ガールボス”ムーブメントと重なる点が多いことも指摘しておきたい。白人を中心とした女性たちが資本を獲得し、起業家になり、会社を所有することで自分たちをエンパワーするという、個人主義的かつ資本主義的なムーブメントであったが、自分たちも男性と同じように「“ボス”になり、富を得られる」という主張がポップカルチャーでも支持を集めた。

その時代とは対照的に、現在はBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)、Olivia Rodrigo(オリヴィア・ロドリゴ)などのいわゆる2020年代のZ世代を代表するトップスターたちは、非常に内省的で、シンプルに「頑張ろう」とか「前を向こう」とか、“応援”になるようなメッセージは決して歌わない。自身のメンタルヘルス体験について歌い、不安や鬱、自己嫌悪についてもオープンに語る。彼らの視点は、日々同じような困難に直面している人々の心に響くのだ。同時に、マイリー・サイラスやSelena Gomez(セレーナ・ゴメス)といったアーティストも継続的に活躍しているが、彼女たちも自分たちが経験したトラウマやメンタルヘルスについてリアルに歌うことが増え、スターであってもその”人間らしさ”が共感性を呼ぶとして音楽が聴かれ続けている。2010年的な直球のセルフラブ・アンセムをリリースし続けているアーティストといえばLizzo(リゾ)だが、彼女の場合もボディポジティビティや人種問題など、より社会的な要素が強い曲が多い。

共感性がTikTokのバズの要因ーー自己肯定を可能にする“ツール”としてのアンセム

現代において、Z世代たちは「セルフラブは大事」「自分を愛すべき」ということを嫌というほど聞かされている。セルフラブという概念など陳腐で不毛だ、と考える人も多いほど、ある種のスローガン化してしまっていることも事実だ。先述の通り、Z世代は社会問題に対して“hyper aware(極めて敏感で自覚的)”であるため、自己責任論に聞こえるようなセルフラブ論には嫌悪感を示す。常に影響を受けている社会問題を解決せずに、美徳だけで語られるセルフラブは持続可能ではないからだ。社会的要因によって引き起こされる悲しみや鬱、不安を和らげるには、直接的な自己肯定だけでは十分ではない。ただ同時に、「自分を愛せずして他の人を愛せない」というフレーズを聞いて育った彼らにとって、恋愛関係を歌うにしても、パワーバランスや有害な男性性、メンタルヘルスやミソジニーなど、さまざまな社会的な影響を加味して、より詳細に自分の感情の由来を描き出しがちだ。強さや表面的なエンパワーメントだけに焦点を当てたポップ・アンセムは、今日においては珍しくなっている。

“アンセム”と呼ばれる曲も、エンパワーメントというよりも、自己肯定を可能にするツールとして機能しがちだ。自分は”that bitch”で”amazing”であり、羨望に値する存在だと断言する楽曲がTikTokを中心にバズを起こしやすい。Megan Thee Stallion(ミーガン・ジー・スタリオン)の「Her」やBaby Tate(ベイビー・テイト)の「I Am」のような曲は、この「私は素晴らしい」というマントラを繰り返し、ユーザーはその歌詞を使って動画コンテンツを作ることで、間接的に自己肯定を取り入れることができる。一昔前なら、このような自己肯定感は傲慢と受け取られたかもしれないが、今ではそれ自体がエンパワーメントとなっている。自分自身と自分たちのコミュニティを肯定することで、自分たちの声と可能性を高揚させるのだ。

現代における“セルフラブ・アンセム”は、より多面的でニュアンスのある自己肯定と、共感性を重視する表現へと進化している。そしてポップスターたちは、自分自身のユニークなアイデンティティや経験を受け入れるようにリスナーを鼓舞し、力を与えるような、親近感の持てる人物として変化しているのだ。

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