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1. reina『You Were Wrong』
2. yahyel『Loves&Cults』
3. Tokyo Gal & DJ FRIP a.k.a Beatlab『Flash Back』
4. voquote『BREAK POINT』
5. 林和希『I』
6. showmore, Gimgigam『Wonderland』
7. Lil Summer『Rojo』
8. 加藤ミリヤ『BLONDE16』
9. RiE MORRiS『In My Dreams』
10. iri『PRIVATE』
1. 三浦大知「Sheep」
2. Sincere「no pride」
3. 林和希「Wow」
4. voquote, reina, さらさ「WISE」
5. Hanah Spring「AppleTree」
6. XG「WINTER WITHOUT YOU」
7. ミイナ・オカベ「Flashback feat. Daichi Yamamoto」
8. VivaOla「ROLLS ROYCE」
9. MEZZ, Michaela「Smooth Operator」
10. SIRUP, The Crane, whoosh「UMAMI」
11. aimi, EMI MARIA, Modesty Beats「How’s The Weather?」
12. Ai Ninomiya「Seven Days a Week」
13. ASOBOiSM「hug me」
14. RUNG HYANG, illmore「Floater」
15. Kuro「Coco」
※1アーティストにつき1曲で選曲
国内においても、少しずつR&Bが存在感を増しているのではないか――そのような思いを強くした一年だった。昨今グローバルではユニークな立ち位置を築いているジャンルだが、それとはまた異なる形で国内の音楽をアンダーグラウンドから変えていくような、熱気に満ちた2023年だったように思う。
状況を整理しよう。そもそもこの10年間、いわゆるFrank Ocean(フランク・オーシャン)以降のR&Bはアンビエンスな音響やトラップミュージックのサウンド構造、インディロックの折衷感覚といった様々な音楽性を吸収し、オルタナティブ要素を強めてきた。結果、R&Bの定義は曖昧なものになり、多くの実験を誘発した。2010年代後半に発表されたAnderson .Paak(アンダーソン・パーク)『Malibu』やBlood Orange(ブラッド・オレンジ)『Freetown Sound』、kelela(ケレラ)『Take Me Apart』といった作品群は、まさしくそういった系譜に連なるオルタナティブR&Bの傑作であると言えよう。そしてもちろん、その間に正統派のR&Bなるものが途絶えてしまったわけではない。むしろ、広がり続けるR&Bの輪郭と相反するような形でジャンルとしてのコアを実証すべく、Ella Mai(エラ・メイ)やH.E.R.(ハー)、Lucky Daye(ラッキー・デイ)といったシンガーたちがその中心を問い直し続けてきた。両者の引っ張り合いの中でこのジャンルは生き延び、それらを前提にしながら、R&Bは2020年代に入りさらなる解釈のバリエーションを進めてきたとも言える。
Beyoncé(ビヨンセ)の『Renaissance』は盛り上がるツアーとともにダンスフロアの熱狂をR&Bに呼び込み、同様にクラブミュージックの狂騒を巧みに取り入れるShygirl(シャイガール)のようなアーティストも増えている。Joyce Wrice(ジョイス・ライス)やFLO(フロー)に代表される通り、Y2KのR&Bを下敷きにするケースも見られるようになった。他方で、Amaarae(アマレイ)やSampha(サンファ)のようにアフリカ音楽とR&Bが同居するような作品もますます目につく。2023年のいま、R&Bが何たる音楽なのかは全く一括りにできようもなく、混沌としているがゆえの面白さがますます強まっている。もはや、器用に形を変え多種多様な音楽の隙間に溶け込み、あらゆるところに“R&B的なフィーリング”をしのばせていくというのがこのジャンルの定義ではないかと思うほどだ。「R&Bは死んでいない、進化しただけだ(R&B is not dead: it simply evolved)」というフレーズの真意は、つまりそういった文脈で捉えるとより一層納得がいく。
あまりに拡張と折衷が続いたことで、誰も気づかないままR&Bの黄金時代に突入しつつあるように見える現在。それらと完全にリンクしているとは言えないまでも、国内においても新たな胎動が生まれ勢力を拡大している。引き続きその中心にいるのはaimiであり、一方で急成長を果たしているのが新興クリエイティブ・コレクティブ/レーベルの〈w.a.u〉。興味深いのは、両者ともにその動きが現場を介して可視化されることで、さらなる熱量を生んでいる点だ。
象徴的な場として、aimiが企画し2023年9月に2回目を迎えたR&Bパーティ<STAY READY>と、2023年10月に1回目のローンチを迎えた〈w.a.u〉主催のイベント<n.e.m>が挙げられる。aimiは2022年に傑作アルバム『Chosen One』をリリースし年末に<STAY READY>を立ち上げたが、その流れのまま開催した2回目では、盟友EMI MARIAから新世代のホープ・Sincereといった面々を迎えさらなる盛り上がりを作った。〈w.a.u〉はステージ上での様々なコラボレーションに加え、アートエキシビジョン等も取り入れたコレクティブ独自の価値観を包括的に提示した。<STAY READY>にしろ<n.e.m>にしろ、外側からムーブメントが作られるわけではなく、ミュージシャン自身がイベントをキュレーションすることで内側からインディペンデントな熱量が生まれているのが特長だ。R&Bに対する意識を、“場”を作ることで表現するという姿勢が、多くのリスナーを動かしているように思う。
先日〈w.a.u〉の中心メンバーに話を聞く機会があり、少しずつこのコレクティブの実体が明らかになってきた。〈w.a.u〉の面々は首都圏の大学院で修士や博士課程に籍を置き、それぞれの専門性を元に対話を繰り返す中で作品を作り上げているという。元はと言えば各大学の音楽サークルからはぐれた者たちが集まったコミュニティらしいが、まるでゼミのような議論の場をベースにしながら、各自が試行錯誤のうえで表現活動に勤しんでいるようだ。そんなメンバーから生み出されるクリエイションは、時代もジャンルも無効化された中でR&Bのエレガンスがほのかに香り立つような、2020年代ならではの洗練を感じさせる。今年〈w.a.u〉からは多くのリリースがあったが、中でもY2Kのフィールを漂わせるreina『You Were Wrong』とクラブ・ライクなvoquote『BREAK POINT』の2作を推したい。どちらもKota Matsukawaがプロデュースに入り、コレクティブの代表作と言って間違いないクオリティを誇る。国内の新世代R&Bアーティストの代表格であるVivaOlaも近作でKota Matsukawaと制作をともにしており、2024年もますます〈w.a.u〉周辺の動向は見逃せないだろう。
他には、中堅~ベテラン勢の新機軸が目立った年でもあった。先述のaimiはEMI MARIAとの共作に注力しているが、他にもGimgigamと佳作『Wonderland』を作り上げたshowmoreも、これまでにないタイプのビートによって新境地を開拓。長い沈黙を破りついに復活したyahyelも、大きな存在感を放った。加藤ミリヤとSIRUPは、KMやChaki Zuluといったプロデューサーを作品に招き、キャリア史上最もヒップホップへと接近することになった。これまでもKMはLil’ Leise But Gold作品で、Chaki ZuluはGrace Aimi作品で、ともにオルタナティブR&Bも十分に料理できるプロデュースセンスを披露していただけに、加藤ミリヤとSIRUPが発表した作品もシンガーとしての新たな一面が引き出された見事なワークスとなっている。このような形でR&B畑とヒップホップ畑の協働がさかんになってきているのを見ると、双方が頻繁にクロスオーバーしていた1990~2000年代の華やかな空気を思い出さずにはいられない。その点、これまでヒップホップ畑での活躍が目立っていたTokyo Galとのプロデューサー・DJ FRIP a.k.a. BeatlabによるコラボEP『Flash Back』は、ジャンルの壁をシームレスに行き来する中で歌とラップを織り交ぜた本格的なR&Bを聴かせる傑作に仕上がっている。
新たな才能の誕生についても祝いたい。LDH所属のヒップホップグループ・DOBERMAN INFINITYのメンバー・林和希のソロデビュー作『I』は、2023年にどうやって生まれ得たのか分からないほどの端正な正統派R&Bであり、大きな驚きを感じた。クラシカルな響きの中から確かに感じられるのはジャンルへの愛であり、その濃密さにうっとりしてしまう。同様に、DJとして活動しつつネオソウルからの影響をストレートに打ち出したLil Summerも、『Rojo』の静謐なグルーヴが評判を呼んだ。シーンにおいてオルタナティブの波が継続して活気づいている中で、両者ともに古典への回帰を感じさせる作風が新鮮だった。
最後に、新人で最も感銘を受けたアーティストとして再びreinaに触れておきたい。制作に対しどこか緻密かつインテリジェンスに作り込む印象のある〈w.a.u〉だが、『You Were Wrong』はボーカル含めてラフな感触が異彩を放っている。作品同様にライブでもreinaの声は細く、〈w.a.u〉はバンドセットを組むことが多いため楽器の音に押されてしまうこともあるが、しかしその細さは決してかき消されず、ある一定の芯を保ったまま届けられる。コレクティブ内での信頼関係が築かれているからこそなのかもしれないが、不思議な魅力である。謎めいた才能に惹かれながら、2024年に向けて、国内におけるR&Bの豊かな未来に想いを馳せつつ胸を躍らせている最中だ。
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