文: 小谷実由 編:riko ito
料理をすることは私にとって脳の休息になるから好き。常にあれこれタスクが頭の中で並行して動く私でも、包丁を握ってしまえば1つのことしか向き合うことができない。ただまな板の上にあるものを刻んで刻んで刻むのみだ。そんなときに大切なのはリズム。だから私は電気グルーヴを聴きながら料理をする。だらだらやっていては鍋が吹きこぼれるし、フライパンも焦げる。タスクに追われて要領良くないなぁと日々この性格に辟易としているのに、1つのことしか進行していない状況でも効率良くできないなんてこんなときまで自分にがっかりしたくない。リズムに任せて無心になって料理をする。台所はDJブースで、コンロはターンテーブルだ。
しかし、そんなノリノリのDJタイムで出来上がった料理に私はいつも落ち込む。まず品数。アルバム3枚分くらい聴いた気がするんだけど、出来上がったのこれだけ⁉︎と思う少なさ。味噌汁に、サラダに、炒め物と焼魚。巷では一汁三菜がよろしいとされているけど、私はまだまだ食べ盛りだし飽き性。おしゃれで美味しいお弁当みたいにいろんなものをたくさん食べたいのに「誰だ!」を聴いて調子良く水菜を一袋丸ごと豪快に切りすぎた。5日分くらい食べれそうなバカでかボウルのサラダが食卓のど真ん中に鎮座している。飽き性だって言ってるのにどうするんだよ、マヨネーズとレモンだけで乗り切れる量ではない。おまけに水菜のグリーン以外の他の皿たちはオール茶色。でも緑は簡単だけど、黄色とか赤いものって取り入れるの難しいよね? カニカマとミニトマトと黄色のパプリカ? バカでかボウルサラダのボリュームだけがどんどん増えていく。
出来上がった料理を見た瞬間は落ち込むけれど、それでも私が台所に立つのはお料理DJタイムが脳の休息時間&大盛り上がりストレス発散時間になっているから。そして、生きるためには食べなくては…みたいな当たり前な理由。一人の料理は楽しさと仕上がりのギャップを埋めることができなくて落ち込むけど、次の瞬間には口に入れてしまえば全て同じだからあまり気にしない前向きな性格。幸い、味はまぁまぁ美味しい。そうなると、食事をする際のセッティングがとても重要になってくる。目、鼻、口は食べることに夢中だけど、耳はちょっと退屈では? 食事のときにだって音楽が大切だ。ビリヤニを食べるときはインドポップスだし、サムギョプサルを食べるときはK-POPなのだ。ステーキを食べるときは映画『花様年華』を気取ってNat King Cole(ナット・キング・コール)を聴けば、たちまち私はマギー・チャンだし、隣にいる夫はトニー・レオンだ。ステーキのお皿にマスタードを盛ることを忘れずに。
そんなふうに、食事に音楽を掛け合わせたことで心が助かったことがある。誰しもが身動きができずに気持ちが停滞していたコロナ禍のおうち時間。旅行にはもちろん行けず、私も大好きなアジアの国々に思いを馳せていた。最初は思いを馳せる行為としてその国たちの映画を眺めていたのだが、目に入る情景があまりにも直接的すぎて、次第にただ悲しさを煽ってしまうだけで見れなくなってしまった。そんな私を見かねて、夫は前年に行ったシンガポール旅行で購入した調味料を使って、人に会わないことを良いことに、にんにくを豪快に使ったシンガポールのスープ料理バクテーを作ってくれた。それを同じく前年の旅行で買ったシンガポール歌謡曲のカセットを聴きながら食べた。一口食べた途端、心はシンガポールの屋台ホーカーセンターにワープ。部屋に存在しないじんわりとした湿気まで感じて体が汗ばんだ。あれは汗だったか、嬉しくて思わずほろりと流した涙だったか。以後、この方法で私はコロナ禍にシンガポール、韓国、タイ、台湾に心だけの旅をたくさんした。昨今は渡航制限は解除されたものの、円安なので再びこの方法を駆使している。次に行きたい心の渡航先はメキシコ。タコスの準備はできているから、メキシコ音楽のリサーチをしなくては。
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