シーンで異彩を放つ〈w.a.u〉の魅力――対話・討論を通して培われるコレクティヴのクリエイティブ精神とは

Column
テーマを設けてインタビューやコラム、プレイリストを隔月で掲載していく特集企画。2024年4月/5月の特集テーマは“What Is〈w.a.u〉?? ―才能溢れるコレクティブの実相―”。音楽シーンで注目を集めているクリエイティブコレクティブ/レーベルである〈w.a.u〉のメンバーを特集のカバーアーティストに。今回のコラムでは、これまでメンバーへのインタビューや関連記事を複数手掛けている文筆家・つやちゃんが〈w.a.u〉の魅力を分析する。

Julia Takada、さらさ、Sakepnk。w.a.u周辺から発する熱

東京のインディペンデント音楽シーンにおいて、この2、3年で最も面白い動きをしているコミュニティ——その一つに、間違いなくw.a.uは挙げられるだろう。

今振り返ってみると、筆者がw.a.uというコレクティヴの存在を認識しのめり込んでいったのは、2022年4月のことだったと思う。確かそれまでもJulia Takadaのデビュー曲「Don’t Know Who I Am」は耳にしていて、しかしその時点ではまだコレクティヴの存在は認知していなかった。はっきりと把握したのは2022年4月にリリースされたさらさのEP『ネイルの島』とSagiri Sólの「秘密」で、その音作りにハッとし、Kota Matsukawaの名前をクレジットに見つけたところからw.a.uの存在にたどり着いた、という経緯だったと記憶している。Sagiri Sólが所属する〈Solgasa〉も同じく東京を拠点にするユニークなコレクティヴで、両グループの交流も新鮮に映った。さらにSakepnkのEP『house electronics』のクオリティにも驚き、w.a.u周辺から発される熱に一気に引き込まれていったのだ。

決定的だったのは、2023年2月にリリースされたreinaの1st アルバム『You Were Wrong』。それまでw.a.uに対しては、洗練されたサウンドを作る人たちという感想を持っていた。ただ、洗練というのは同時に雑味があまり感じられないということでもあり、整理されたサウンドはどこか無国籍で正体不明な印象があった。けれども『You Were Wrong』ははっきりとreinaというアーティストの存在感が前面に出ており、’90s~’00sのストリート感を想起させる雑然としたテイストがちょうど良い塩梅で閉じ込められていて、一気にw.a.uというコレクティヴの持つフィジカリティが立ち上がってきたのだ。結果、当作は『APPLE VINEGAR -Music Award- 2024』にノミネートされるなど各方面で高い評価を得ることになるのだが、reinaという一つの“顔”を得たことでコレクティヴの輪郭はぐっと鮮明になったと思う。

reina『You Were Wrong』のあとにリリースされたvoquoteの『BREAK POINT』も素晴らしい作品だった。w.a.uのファウンダーでありブレーンであるKota Matsukawaのダンスミュージックプロジェクトだが、そこではハウスからUKガラージといったクラブミュージックのある種典型的なビートが使われている。だが、ウワモノのチョイスやサウンドのレイヤー感、ボーカルのディレクションにおいて際立った個性を発揮しており、誰でも使えるビートが誰にも表現できない記名性を醸し出していた。まさしく、そういった微妙な匙加減に宿るオリジナリティがKota Matsukawaの真骨頂であり、奇をてらったことをするわけではないが存在感があるという魅力は、同時にコレクティヴ全体にも通底している空気のように感じる。

インディシーンを牽引する台風の目となる

何がそれを可能にしているのか? 何度かKota Matsukawaやreinaといった面々と話していく中で、その理由が腑に落ちてきた。そもそも結成時、w.a.uのメンバーは首都圏の大学院で修士や博士課程に籍を置いていて、元は各大学の音楽サークルからはぐれた者たちが集まってできたコミュニティらしい。音楽制作はもちろんだが、音楽以外のテーマにおいても各々が学んでいる専門領域をバックグラウンドに議論を深めることが多く、そういった対話・討論を通して培われてきた思想や価値観がコレクティヴのカルチャーを作っている。たとえば黒人音楽の系譜についての論文を書いているメンバーや、オーケストラで海外留学の経験があるメンバーがおり、さらにはreinaのようにダンスや新体操、ゴスペル、キックボクシングなど豊富なジャンルの経験があるメンバーもいて……と、それぞれが四方八方に関心を向け知見・経験を深めているようだ。それらを元にした議論はw.a.uの血肉となっており、音楽史を作ってきたさまざまなビートやリズムを作品に落とし込む際に、ただ引用するだけではなく文脈を意識した創作へとつながっているように見える。音楽制作におけるデータベース引用~タイプビート化がますます前提となってきた“全てがクリシェ化するしかない”昨今において、w.a.uの持つ洞察力と文脈付与の巧みさは、歴史を理解したうえで今いかにリアリティのある音を出すかという点で非常に参考になるのではないだろうか。

そういった広い視野とクリエイティブ精神は、ライブにも活かされている。w.a.uはメンバー自らバンドセットを組み演奏することが多いが、そこでは音源のビートがより抽象的なアウトラインで雑然と鳴らされることで、前述した“クリシェ的なもの”の再解釈になっている。象徴的だったのは2023年10月に開催されたw.a.u主催の<n.e.m>で、w.a.u以外にもgrooveman SpotNEWLYstarRo、そしてVivaOlaKenya Fujitaといったゲストが参加し、Reo Anzaiのキュレーションのもとエキシビションも展開された非常に独創的なイベントだった。コレクティヴ第一章の一つの集大成とも言えるような試みを経て、今年はreinaの新EP『A Million More』が話題になったり、2024年2月にはラッパー・MÖSHIの加入が決まったりと、引き続きシーンに驚きを与えている最中。MÖSHIは、加入後早速Sakepnkとのコラボシングル「Lean On Me」を、その後5月に単独名義で「FILTERING」をリリース。7月にはリリースパーティも開催するようだ。形を変え続けるこのコレクティヴは、その手をゆるめることなく次々と新たな作品によって2020年代のインディペンデント音楽シーンを牽引する台風の目となっている。若きタレントがズラリ揃っているだけに、恐らくw.a.uの本領発揮はまだまだこれから。さて、あなたはどのアーティスト/作品から聴く?

SNSで記事をシェア

SNSフォローで
最新カルチャー情報をゲット!

閉じる