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文: 梶野有希
私たちは誰かに想いを伝える時、つい背伸びをしてしまい格好のいい言葉を選んでしまいます。しかし本作に登場する言葉は少し不恰好なのに心に届くものばかり。自然体で無垢な言葉がどれだけ相手への救いになるのか、私は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のおかげで知りました。
物語の始まりは主人公ヴァイオレット・エヴァーガーデンが肌身離さずつけているエメラルド色のブローチを上官であるギルベルト・ブーゲンビリア少佐と2人で見つけるところから。それを初めて見た時ヴァイオレットは立ち止まり、「綺麗」でも「美しい」でもなく、「少佐の瞳があります。少佐の瞳と同じ色です。」とだけ彼に告げます。
この時のヴァイオレットは感情を持たず、少佐のもとで「戦闘道具」として戦場を生きる少女なのですが、この「少佐の瞳があります。」というヴァイオレットの一言は美しく透き通った言葉に思え、私は第1話にして彼女の潜在的な魅力に惹かれました。謂わば主人公の核心に迫った瞬間に思えたのです。
冒頭の1シーンについて長く話してしまいましたが、本編は終戦を迎えたヴァイオレットが少佐の最後の言葉「愛している」の意味を知るため、依頼主の気持ちを手紙に綴る「自動手記人形」として生きながら感情を知っていく物語。
手紙の代筆を通し、自身の尊い心の存在に自ら気付いていく様子が絵のタッチや人物の話し方、音楽など多方面の繊細な技術で丁寧に描かれており、アニメにあまり親しみがない人にとっても見やすい作品になっています。
中でも『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の可憐で透明感のある作画にはずっと心を動かされていました。人々を照らす陽光から髪の柔らかな動きまで『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界はどこまでも美しい。登場人物の感情が動いた瞬間の深く澄んだ瞳がとても好きなのです。
さて本作では少佐がヴァイオレットに渡したものが冒頭のブローチの他にもう1つ描かれているのですが、それは彼女の「ヴァイオレット」という名でした。これは裏設定のような話ですが、本作の登場人物の名の多くは花に由来しています。ヴァイオレットという名は和名でスミレを差し、花言葉は「愛」。「その名が似合う人になってほしい」という想いを込め、少佐が親愛なる彼女へ送ったもう1つの贈り物なのです。
自分の名前の由来でもある「”愛”について知りたい」と言うヴァイオレットに周囲の人々がその言葉の意味を直接教えないのは愛とは自然に生まれるもの、また自ら出会うべきものだからでしょう。
なお『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は劇場版が近日中に公開予定です。本作のフィナーレを飾るストーリーとなっているそうなので続報を心待ちにしています。
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