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文: 梶野有希
コンパスや分度器、算盤。大人になってからは見かけないものはたくさんあります。絵具も例外ではなく、機会がなければ時間と共に忘れられていく道具の1つではないでしょうか。
私が初めて絵具を使ったのは中学生、美術の授業中でした。ただ当時は終了を告げるチャイムや成績表なんてものに意識が引っ張られていて、とにかく限られた時間の中で上手に見せようと背伸びしながら描いていたと思うんです。
大人になり、制限時間も評価もない今に改めて絵具に触れてみると中学生の頃よりもずっと純粋な気持ちで絵を描けるようになっていました。
これはYouTubeに描き方を載せているChloe Artさんの動画を参考にしながら描いた1枚。アクリル絵具は評価の高い「Ohuhu」の24色入りを使っています。このセットは6種類の筆が一緒に入っているので、捨て色もなく初心者にもオススメです。
絵といっても何を描くかは人それぞれだと思います。仕事でもない限り、対象に好きな気持ちがないと時間をかけて描く気にはなれません。何枚か彩っていると、自分はあまり馴染みがなかった淡い暖色をよく使うことや、空の中でも夕焼けや夜空がとりわけ好きなことに気がつきました。絵具をチューブからパレットへ移し、個性ある色をそっと混ぜ合わせ、ようやく出来上がった自分だけの色で真っ白なキャンバスを染めていく。この一連の動作は、まだ気がついていない自分の趣味趣向や、知らない自己を紐解くキッカケになるんじゃないでしょうか。
そもそも私が絵を練習してみようと思ったのは目の前の綺麗な景色を写真に上手に残すことができず、知らない間に忘れてしまうことがとても悲しかったから。写真よりも再現度は低いですが、時間をかけて絵に残したら景色のこと、そこにあった感情のことはずっと覚えていられるなと思ったんです。
実際に絵を描くようになってからは流れる雲や人々を照らす月、分単位で変わる空模様を以前よりも眺めるようになり、身の回りの風景を愛しく思える時間も増えました。そして描く側に立ってみると、世界は自分の想像よりもずっと多くの色で構築されていることにも気がつきます。
何を見て、どんなことを思ったのか。そこにしかなかった風景と感情を1枚のキャンバスに時間をかけて収めると風景は情景に変わります。絵を描くという行為は、ただ記憶を模写することではなく、そこにあった感情も一緒に残してくれる。遠い存在だと思っていたキャンバスは自分にとって写真フィルムのような存在になりました。
また描いた絵を壁にかけたり机の上に置いたりすると、家具を動かさなくても模様替えをした気分になれます。
絵具と筆、キャンバスの3点で童心を思い出しながら日常を彩る体験を是非。
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