今、生きている意味をアウトプットしたいーーgatoがライブハウスとクラブをシームレスに行き来する理由

Interview

文: TAISHI IWAMI  編:Mao Ohya 

ポニーキャニオンとDIGLE MAGAZINEが新世代アーティストを発掘・サポートするプロジェクト『early Reflection』。15組目のアーティスト「gato」が登場。

gatoが2021年10月にリリースしたセカンドアルバム『U+H』は、近年の激しくダンサブルなライブのイメージとは異なり、時代を愛でるようなサウンドスケープや優しい曲調が印象的な作品だった。しかし、そのわずか2か月後の12月に盟友Xamdを迎えてリリースしたシングル「ACID」と2022年3月にリリースしたシングル「ZOMBIEEZ」で、再び一転以上のハードなダンスミュージックを立て続けに披露する。そして最新シングル「不逞」もまた、前2曲の流れを汲むトランス感のあるトラックに。そこに乗る福岡発のラッパー・KS ZERRYをフィーチャーした、タイトルそのままのまさにストリートのならず者が大暴れするリリックとマイクパフォーマンスも併せて、gato史上もっともエッジーな曲と言っていいだろう。今回はgatoのルーツや「不逞」を作り上げるに至った真意に迫るべく、ボーカルのageとドラムのhirokiにインタビューを行った。

壮大で気持ちを煽られるようなものが共通項

―まずはageさんが演奏や曲作りを始めたきっかけを教えてください。

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age:

親が持っていたナイロンギターを引っ張り出してきて弾いたのが最初ですね。高校生になってバンドを組もうと思ったんですけど、メンバーが見つからなかったので、ベースを買って一人で練習して、地元のジャズバーでも演奏するようになりました。

―gatoではギターでもベースでもなくボーカルを担当されていますが。

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age:

大学に入学してからしばらくしてhirokiと出会いました。その頃、hirokiは幼馴染と組んだバンドでドラムを叩いていて、ちょうどベースが抜けたタイミングだったのでサポートメンバーとして入りつつ、僕は僕で自分のプロジェクトを立ち上げたいから「手伝ってくれない?」とお願いしたんです。それがgatoの前身バンドって、言っていいのかな?
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hiroki:

そうだね。
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age:

ドラムはhiroki、「ギターも欲しいね」となってtakahirokaiを誘いました。あともう一人、鍵盤とボーカルのメンバーがいたんですけど仕事が忙しくなって辞めちゃったので、僕が一人でボーカルをやることになって、gatoとして本格的に動き出しました。それが2017年から2018年の話。そこから2019年にVJのsadakataが加入して、今の編成になって、という流れですね。

―その当時やそれ以前はどんな音楽を聴いていましたか?

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age:

家の近所にエレクトロやハウスが好きな友達がいて、Daft Punkとか大きくその手のジャンルの大御所と言われるアーティストの作品はだいたい聴いていたと思います。なかでもOrbitalAphex Twinがすごく好きでした。あとはそういったエレクトロと並行して、景色や空気を音で描いたような、ポストロックやアンビエント的な要素のあるバンドの音楽も好きになっていったんです。日本だとmol-74とか雨のパレードとかですね。

―hirokiさんはいかがですか?

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hiroki:

友達がBUMP OF CHICKENの曲のギターをコピーしているのを見て、「かっこいいな」と思ったので僕もやってみたんですけど、Fが押さえられなくて諦めました。それでドラムをやってみたら、すっかりはまっちゃって。

―最初の関門としてギターでFを弾くことと、ドラムで両手足の連動に逆らった動きをすることだと、前者の方が簡単な気もするのですが。

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hiroki:

言われてみればそうかもしれませんね(笑)。でも当時の僕は人差し指ですべての弦を押さえたうえで、薬指と小指も使って音を出すことがどうしてもできなかったんです。それに比べてドラムは叩けばとりあえず音は出るって、そういう感覚でした。

―人によっての向き不向きっておもしろいですね(笑)。

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hiroki:

確かに(笑)。その頃からポストロック、日本だと残響レコード周辺のバンドを好きになって、gatoが始まってからはエレクトロも聴くようになりました。

―2018年12月にリリースしたファーストEP『luvsick』は、バンドサウンドとプログラミングを融合して、エレクトロニカやダウンテンポ、ポストロックなどの要素を盛り込んだ、ageさんの言葉を借りるなら、景色や空気を音で描いたようなサウンドスケープが印象的な作品でした。

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age:

『luvsick』はまさにそういう作品ですね。当時リファレンスにしていたのが、MúmRadiohead。バンドなんだけど打ち込みっぽい曲もあるし、必ず竿(ギター/ベース)を使うわけでもない。形態においてもジャンルにおいても縛りのない自由度の高い音楽がやりたかったんです。
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hiroki:

演奏陣3人はポストロックやエモやオルタナがルーツにあって、なかでも壮大で気持ちを煽られるようなものを好んでいるという共通項が自然とサウンドに表れたような気がします。

今を生きている意味をアップデートして、アウトプットを続けたい

そこから2020年にリリースしたファーストアルバム『BAECUL』では、初期のアンビエンスに対するアイデアを膨らませながら、より肉体的な高揚感を感じることができるダンスミュージックやモダンなポップミュージックにアプローチした作品に変化しました。

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age:

ライブの話になるんですけど、曲単位で魅せながらMCで場を繋いでいくというよりは、空間芸術としての時間をどれだけ表現できるかが、僕らにとっては重要なんです。なぜそういう考え方になったのかというと、僕はライブハウスと同時にクラブも好きだから。クラブって、ラッパーやトラックメイカーのアクトとDJの間がシームレスに繋がったり、DJがグラデーションで流れを作っていったりする感じが面白いんですよね。バンドのパフォーマンスやライブハウスのイベントにまったくそれがないわけではないんですけど。

―はい。

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age:

その感覚を一つのバンドのライブのなかで体現したいんです。そのためにBPMを揃えたり、4つ打ちっぽい曲を増やしたりしたほうがいいんじゃないかと考えつつ、その時々でサウンドの色なのか、肉体のパフォーマンスなのか、映像なのか、誰かのプレイヤーとしてのスキルなのか、何を前に出すのかを話し合って、曲を作るようになりました。それで完成したアルバムが『BAECUL』ですね。

―VJのsadakataさんが加入して以降、曲の強度、ダンス、映像やファッションなどといった、ビジュアル面がよりオリジナルに進化した印象が強いです。そして仲間のバンドとのイベントや自主の企画を打てば、数百人キャパの会場も埋まるようになりましたが、その頃の手応えはいかがでしたか?

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age:

満足はしていませんがクラブを中心にライブをしていたので、バンド同士の繋がりというより、DJやお客さんも含め対等に話せる仲間が増えたという手応えはありました。でもそこでコロナのパンデミックが起こって外に出ての活動が難しくなり、ライブを想定した曲の多いアルバム『BAECUL』をコロナ禍の真っただ中にリリースすることになってしまい……。

―そして2021年10月にリリースしたセカンドアルバム『U+H』は『BAECUL』と比べると落ち着いたトーンの作品に。また「teenage club」のような、『luvsick』の頃よりも前の原点を思わせるインディーロックやエモ然とした曲もありますが、なぜそのようなスタイルを選択したのでしょうか?

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age:

僕は常にインプットを止めずに今を生きている意味をアップデートして、アウトプットを続けたいんです。そんななか、せっかくライブありきで作った『BAECUL』をまさかのコロナ禍にリリースしたこともあってか、曲を作ることに少し疲れたような感覚になったので、一度肩の力を抜いた曲を作っていこうと思いました。

―そうだったんですね。

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age:

今までのようにはいかない日々が続いているなかで、そこに対してパワーをぶつけたり、エッジを立てたりするのではなく、時代に馴染む曲やその時の状況をスムースに包むことのできる作品。それが僕らにとって“今を生きる”ということだったんです。その結果、『BAECUL』よりも前、gatoの初期のマインドと僕らの今をくっつけたような作品になりました。あとは、いつか刺のある曲を出すための緩急も付けたかったので。

自分たちの心のバネを解放した「ACID」

―なるほど。そうなると『BAECUL』から約2カ月後の2021年12月にリリースしたシングル「ACID」と2022年3月の「ZOMBIEEZ」、そして今回の「不逞」でハードエッジなダンスミュージックに舵を切ったことも納得できます。ただ、その話を踏まえても驚きが拭えないほどの振れ幅ですけど(笑)。

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age:

ですよね(笑)。いろいろ抑圧されていることに対して「もういいかな」って。例えば政治的なことで言うと、お金がないから緊急事態宣言を出さないのは、それはそれで一つの事情だと理解はできる反面、そうなると何が正しいのかわからなくなる部分もあります。

―そうですね。

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age:

そして、そのあとに出てくる要請やガイドラインに対する違和感もどんどん膨らんでくる。とにかく言われたことに従っているような状況がもう2年も続いているから、溜まっているうっぷんも限界にくるわけですよ。とはいえ、何をやってもいいということではない。でも言いたいことは言うべきフェーズなんじゃないかと思って、曲で自分たちの心のバネを解放したのが「ACID」ですね。

―「ACID」にはageさんの兼ねてからの仲間であるXamdさんとageさんのDJ名義であるAIIAもクレジットされていて、続く「ZOMBIEEZ」ではJUBEEさん、今回の「不逞」はKS ZERRYさんをフィーチャー。ハードなミクスチャーダンスミュージックという共通項を持ちながら、それぞれの色があります。それらをまとめて“コラボ3部作”という位置付けでいいのでしょうか?

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age:

2020年の年末から渋谷contactで始めた企画<guf>にも最初から関わってくれているXamdくんと作った曲で、『U+H』をリリースする頃にはあったんです。でも、ここまでに話してきたように『U+H』と「ACID」はある意味真逆だから、実際にいつ出すかタイミングが見出せなかった。そんな折にパーティの現場で出会って、<guf>にも出演してくれたJUBEEくんと「ZOMBIEEZ」を作っていたんですけど、この曲の前に「ACID」をリリースしたらブリッジとして最高なんじゃないかと思いました。

―パーティを通じた盟友と言っていいXamdさんと作った「ACID」から、同じく現場で意気投合したJUBEEさんとの「ZOMBIEEZ」へ。ストーリーとしてもいいですよね。サウンド的には、「ACID」はテクノやガバ、サイケトランスを混ぜ合わせたような印象です。

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age:

いろんな音楽性にアプローチしたのは、例えばハイパーポップの流れでガバがリバイバルしていたとか、変拍子がトランス感のあるダンスミュージックの醍醐味だとか、いろいろありますけど、根底にあるのは僕らが昔からやっていや“リズム遊び”。何か特定の音楽性を目指したというよりは、オルタナティブなものを作りたいという共通感覚のもとで、今回はそのジャンルがダンスミュージックだったというイメージですね。

―「ZOMBIEEZ」はどうですか?

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age:

JUBEEくんはラッパーであり、Rave Racersのまとめ役としてダンスミュージックにも通じています。そしてAge Factoryとのシングル「AXL feat. JUBEE」にも象徴されるようにバンドカルチャーにも理解がある。そういう意味ではもともと僕らと親和性があって、その部分がしっかり出せた曲になったと思います。

火を大きくしてみんなを巻き込んでいきたい

―そして今回の「不逞」ではKS ZERRYさんを迎えられました。

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age:

gatoのミックスとマスタリングを担当してくれているKUROMAKUと、「不逞」のトラックができあがった段階で誰とコラボするか考えてKS ZERRYくんにオファーしました。渋谷のclubasiaで観たライブがすごく印象に残っていて曲もよく聴いていたので、はまるんじゃないかと思ったんです。

―どんなところがはまると思ったのですか?

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age:

gatoとJUBEEくんとの親和性とはまた違って、KS ZERRYくんは思いっきりヒップホップ畑の人だけど、そこにダンスミュージックをパスしたらどうなるのか、という興味が湧きました。彼の性格は真っすぐなヤンキー(笑)。音楽的にはトラップもやるし、軽快なビートに重い歌詞を乗せて重心を取っているところがかっこいい。そして実はトランスが好きだという側面もある。だからBPMの速いトランス感のあるトラックも、きっと見事に乗りこなしてくれるんじゃないかと。

―世の中や風潮に対して、てらうことなくストレートな反骨精神を示したリリックに痺れました。

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age:

お互いに思っていることは似ていながらも、言葉にするとぜんぜん違うんですよね。僕は考えていることを抽象的な言葉に置き換えるタイプで、彼の言葉はとにかく真っすぐで聞き取りやすい。「こんなにはっきり言っていいんだ」ってハッとするんです。そんな彼の力を借りて僕もリリックを書いてただ繋げただけ。あとからテコ入れすることもなくそのまま出しました。

―hirokiさんはこの曲について、どう思いましたか?

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hiroki:

僕も自分の思っていることを遠回しに言っちゃうタイプなので、KS ZERRYくんの姿勢や言葉には「ここまでできるのは凄いな」って、共感もしますしかっこいいと思いますし、リスペクトもしています。

―「今を生きている意味をアウトプットしたい」というageさんですから、KS ZERRYさんに触発されて、ここまで真っすぐなリリックを書いたことには並々ならぬ熱意があるのではないかと。

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age:

火は消してはいけないと思っています。ここでもう1回薪をくべていかないと火は消えてしまうかもしれないし、その火を大きくしてみんなを巻き込んでいきたいですね。

―具体的にはどんなことを考えていますか?

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age:

そうですね、今はバンドとしてスタートしたあとクラブを中心に培ってきたことを、バンドのシーンに持って帰りたいという気持ちが強いです。

―クラブとライブハウスは重なるところもあれば、そうでないところもあると思うのですが、そこをageさんはどう捉えているのですか?

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age:

ライブハウスはある程度共通したジャンルやイメージで固まって、それぞれの音楽性やパフォーマンス力をソリッドにしていくみたいな傾向が強いと思うんです。クラブにもそういうところはありますけど、やっぱり比べてみるとライブハウスはそれが如実に表れている現場が多い。だから僕の肌感覚だと、もちろんいい面もたくさんあって音楽的な刺激が多い反面、他のものを拒絶してしまう人も少なくないと感じています。「ヒップホップなんてチャラい」みたいな。

―私もどちらも好きで遊びに行くので、おっしゃっていることはわかります。

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age:

僕らは新しいエッセンスとして、もう一度ライブハウスのシーンに戻って輪を広げていきたい。そのために、自分たちがあらためて受け入れてもらえるよう曲やアプローチの方法をもって、ちゃんと目線を合わせて対話できるような活動をしていこうと思っています。

―今はもともとgatoがやっていたように、クラブ的な感覚でパンクとテクノのアクトを融合したパーティがあったり、バンドがバンドを呼ぶ対バンイベントをクラブで開催したり、演出したい空間によってさまざまなベニューをチョイスする流れも増えてきましたよね?

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age:

面白いですよね。バンドって機材も多いしできる場所は限られてくるから、難しい部分もあると思うんです。それでも僕らはリュック一つでどこにでも出入りできるDJやMCを羨ましいと思いながらクラブを中心に活動することで、「バンドっていいね」と言ってもらえる瞬間は確実に増えました。そういう感じでクラブにもバンドを好きな人がいるのと同様、バンドカルチャーのなかにもエレクトロやヒップホップが好きな人はたくさんいるわけで。それらを目的によって遊び分けるのではなくて、もっとシームレスに楽しめる空間をライブハウスでもいいし、野外レイブでもいいし、いろんなベニューに目を向けて作っていきたいです。

―音楽的には今後どんなことをやりたいですか?

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age:

サイケデリックロックがやりたいですね。15分くらい同じフレーズを弾いているみたいな。サブスクで即効性のある曲を作ることも楽しいけど、もっと芸術的にアウトプットしていくというか、バンドらしく推敲を重ねたものを作りたいという気持ちは強いです。
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hiroki:

バンドをすることが大好きなので、みんなで楽しくやるためにインプットとアウトプットを続けて、「それいいじゃん」とか言い合いながら、ずっとやっていけたらいいなって思います。

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2018年、突如インディーシーンに現れたエレクトロバンド。

ダンスミュージックを軸に、昨今の海外インディーとの同時代性を強く感じさせるサウンドと、日本固有のオリエンタルな空気感をミックスした楽曲は、現行シーンにおいて唯一無二の存在。シームレスに曲を繋いで展開していくDJライクなパフォーマンス、VJによる映像と楽曲がシンクロするライブに定評があり、クラブやギャラリーなどライブハウスの垣根を超え、じわじわとコアファンを増やしている。また、音源制作のみならず、アートワークやMusic Videoの監修をもメンバー内で担い、随所にクリエイティヴな才能を光らせている。

2020年10月に1st AL『BAECUL』をリリース。収録曲「miss u」がJ-WAVE『SONAR TRAX』に選出される。

2021年5月、リミキサー陣に80KIDZ・AmPm・ケンモチヒデフミらを迎えたRemix AL『BAECUL REMIXIES』をリリース。同年10月には2nd AL『U+H』をリリースし、渋谷WWWXにて初のワンマンライブを敢行した。

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