黒衣が語る、原点と現在が交差した「THE SIGHT」

Interview
pekoとKENTによるHIPHOPユニット・黒衣が、アルバム『RISE OF』から約1年半ぶりの新作EP『THE SIGHT』をリリース。インタビューでは、今作の制作背景や活動初期から現在に至るまで経年変化、16年のキャリアで初のワンマンライブを成功させた心境、今後の展望についてなど、多岐に渡る内容を伺った。

《堆く積まれど 怠惰の誘いに乗らず 目の前にFocus この瞬間を歌う》ポリシーとスタンスを太く唸るベースの上でpekoKENTが虎視眈々と語る。そんな一曲で幕を開ける黒衣の新作EP『THE SIGHT』。2020年にリリースしたアルバム『RISE OF』から約1年半の歳月を経た今作は、ルーツや初期衝動を意識して生まれた音像の上に今の黒衣の等身大のリリックが載ることで、黒衣の原点と現在のモードが交差した作品と言えるだろう。

pekoとKENTの両者がラッパーとビートメイカーを担う黒衣だが、今作では盟友のLion’s ROCKからラッパーのatiusが「mo’better blues」、atiusの別名義でもあるビートメイカー・吹田2000が「グッド・ミュージック」で参加した。

自分達のベストを尽くしたと語られた今作の制作背景や、活動初期から現在に至るまでのラッパーとしての経年変化、そして16年のキャリアで初のワンマンライブ<THE SHOW vol.1>を成功させた心境、今後の展望についてなど、多岐に渡る内容をpekoとKENTに尋ねた。『THE SIGHT』を通過点とする黒衣の最高傑作は常に最新作で更新されるだろう。

原点と現在が交差する「THE SIGHT」

ーー「THE SIGHT」のリリース、おめでとうございます。2MCになって初めて本格的に制作されたアルバムである前作『RISE OF』とはまた一味違った作風ですが、お2人の原点回帰的な要素も含まれる作品になったのではないかと思います。改めて、今作を振り返って感想を教えてください。

インタビュイー画像

KENT:

今までの作品は何らかの目標があってリリースすることもあったんですけど、今作は良い意味でそれがなかったんだと思います。自分達の出来ることでベストを尽くしていく中で、エンジニアのCosaquくんにもpekoにも自分にも注文をつけながら制作できました。それがしっくりきすぎて、逆に手応えが無かったかもしれませんね(笑)。
インタビュイー画像

peko:

活動初期の2006年ごろは家に集まって笑いながら作ってたんですが、その初期衝動みたいなものについてKENTと話したことも影響して、黒衣の結成当初のバイブスで制作できましたね。今回はヒップホップのシーンへのアプローチとか商業的な目線を度外視した部分があるので、今までとは違う感覚もあります

ーー実験的ではなく黒衣の本筋であり王道の部分を更に研いで磨いた作品ですよね。ビートのテイストやアートワークも影響して、コンセプチュアルに仕上がった印象もありますが、一枚を通して意識されたことはありますか?

インタビュイー画像

peko:

コンセプトと言えるまで深く考えはしなかったですね。ただ、自分達の結成当初の制作で影響を受けてきたジャジーヒップホップみたいな系譜の中に生まれる音像は多少なりとも意識したので、ビートの中に多く含まれてると思います。話し合ってはないんですけど、自然と初期の黒衣の音像に近づいていきました。
インタビュイー画像

KENT:

過去や未来のことより、今を充実させないと楽しくないっていうのを説教っぽくしないように書くことが、今作での自分のテーマだったかもしれないです。

ーーあえて今のモードのまま原点に立ち返ること自体に、ノスタルジーとの決別のようなことも含まれているのではないかと今作を聴いて感じました。

インタビュイー画像

peko:

それは結構ありますね。昔話をする時の楽しさも理解できるけど、今の自分達は振り返って良い気分になって終わりってことをやりたいわけじゃないんですよね。今ある当たり前の生活をキープしながら、もっと良くしていきたいと思ってます。過去の黒衣にあった一種の呪いのようなものにも今回の作品で一旦の区切りをつけれたというか。
インタビュイー画像

KENT:

別に過去に対して業を感じて生きてるわけではないんですけど、過去に言い切れなかったこととか、恥ずかしい話とかは前作の『RISE OF』でしたかなと思っていて。今作は黒衣の1つの章の終わりのような位置付けになるんちゃうかなと思いつつ、今の自分達のやりたいことができたかなと思ってます。

ーー黒衣の1stアルバムである『TIME IS COLOR』に収録されている「空想フリーウェイ feat.atius」にも客演で参加されていたLion’s ROCKのatiusさんと「mo’better blues」で久々の共演となりましたよね。pekoさんは高槻POSSEとして同じグループのメンバーでもあり、黒衣とは盟友の仲だと思います。

インタビュイー画像

peko:

実はこの曲は昔に制作してライブでもやったことのある曲なんです。ただ、フックを自分達じゃなく誰かに歌ってもらうことがベストやと思ってたんですよね。その中でatiusに頼みたいって思ってたんですけど、その時は関西にいなかったから難しくて。ただ、去年のある時期にatiusから急に何曲か送られてきたんですよ。何でこんな良い曲を隠してるんだろうって思いました(笑)。送られてきた曲の中に「グッド・ミュージック」のビートもあって、それは使わせてもらいましたね。そういうatiusとの接点が改めて生まれた経緯もあったので、「mo’better blues」のフックも依頼してみようとなったことを覚えてます。

ーー偶然が重なって完成した曲だったんですね。atiusさんの声をまた聴けることは1人のリスナーとしても凄く嬉しかったです。他にも一枚を通して、2MCとしての立ち回りに自然なバランスの良さを感じました。選ぶトピックにも30代のラッパーとしてナチュラルでリアルな部分が表現されてますよね。例えば「線」のリリックで垣間見れる一期一会や人生観のような部分であったり、「mo’better blues」では現在の自分達と音楽との距離についても改めて言及していたり。

インタビュイー画像

KENT:

ラップの立ち回り自体は今までで一番話し合ってないかもしれませんね。気づいた時に自然と自分がフックを歌ってたり、曲によってpekoに任せたり、その辺りはスムーズに作っていけましたね。
インタビュイー画像

peko:

自分自身の話をすると、ヒップホップの1つの手段でもあるボースティングみたいなリリックは特にグループで書かなくなりました。若い頃にMCバトルに出てて、今は出なくなった反動もあると思うんですけど。その表現が自分達に合ってるか、KENTとも擦り合わせをすることはありますね。
インタビュイー画像

KENT:

悪口とかじゃなくて、教習所のビデオみたいなイメージで擦り合わせてますね。こういう事故を見てどう思いますか、みたいな感じ(笑)。
インタビュイー画像

peko:

そうすることで2人が違う視点で書いても、黒衣として目指す方向が最終的には一緒になっていきましたね。20代の走り出しの時に俺がラップしてたら、こうなってなかったんやなと思います。2MCになったタイミングも良かったんです。

ーーKENTさんは黒衣のMCとしてずっとマイクを握ってきた中で、ラップにおける経年変化をどう感じてますか?

インタビュイー画像

KENT:

黒衣の前身グループの4人組で活動してたKRCを勢いで解散させて、当時はDJだったpekoと2人で黒衣の活動を始めて、途中で5〜6年ぐらい活動休止を挟みながら、また2MCとして活動を再開することが出来て今に至るわけなんですけど。

背伸びしてたような黒衣の初期のラップは良くも悪くも異質で浮いてると改めて思います。今の自分のラップはソロとしての自分っぽさもありながら、更に言うとKRCの頃の自分も今に近い態度やったかもしれないです。かっこつけなくなったことが大きな変化ですね。あと、今は本来の目的である伝えることを意識して制作しています。それはBPMやビートも含めてムードを伝えることなんですけど、その内の1つの手段としてラップの言葉選びを考えるようになっていきました。

ーー 話を変えて、3月15日に大阪・梅田の中崎町にあるクラブのNOONで黒衣はキャリア初のワンマンライブ<THE SHOW vol.1>を開催しましたよね。黒衣のヒストリーを振り返るドキュメンタリー映像など演出や構成も含めてショーアップされていて、ワンマンライブに来たことを感じさせられました。自分がNOONに行った記憶の中でも、あの場所が特にかっこよく見えた時間だったかもしれません。

インタビュイー画像

peko:

来た人の記憶に永遠に刻まれるようなライブは1回目でしか出来ひんのかなって思いながら作っていきました。過去の映像を奇跡的に持ってたこともあって、映像の制作は俺らと近い関係でもあるCrazy Color Worksに依頼したんですけど、実現は難しいのかなって思ってたら、意外とトントン拍子で進んで。映像の構成はKENT、ライブの構成は俺が進めていきました。
インタビュイー画像

KENT:

pekoとCrazy Color Worksの3人とディスカッションしながら、僕がCrazy Color Worksのスタジオに行って制作していきました。ライブセットとしての映像を作れたかなって思ってます。

ーーフロアの後方のスクリーンで映像を見終えて振り返ると、ステージに黒衣が立っていて、ライブが始まる演出は本当にかっこよかった事を覚えてます。

インタビュイー画像

peko:

あれはかっこつけようとしたわけじゃなくて、偶然の産物なんです(笑)。フロアの天井にスクリーンは映せないし、横やとお客さんの立ち位置的に見づらかったんです。じゃあ後ろに映してみようとやってみた結果、おいしくなりましたね。

ーーその他にも1stアルバム『TIME IS COLOR』に収録されている「風向き」と「時は色なり」を、当時の衣装であるスーツを着て披露されていましたよね。黒衣にとって当時の活動や音源は、活動休止に繋がる苦い記憶も含まれてると思うんですが、ワンマンライブでセットリストに入れた理由はありますか?

インタビュイー画像

peko:

ワンマンをやるとなったら、昔から応援してくれてた人達や仲間も来てくれると思ってたので、映像を想定してない時からセットリストには入れようと考えてました。そういう人達を置いてけぼりにしたくないからやろうとKENTに伝えたら、最初は微妙な反応が返ってきたんですよね(笑)。でも、その後にやるなら曲を絞ってやろうとKENTがあの2曲を選んでくれたんです。過去の映像を見てもらってからライブをやる構成にしたこともあって、より意味を持たせることができたと思います。
インタビュイー画像

KENT:

「風向き」は2人でグループをやろうとpekoを誘った時に聴かせた最初の曲で、「時は色なり」は『TIME IS COLOR』の中で客演を入れた曲を除いて最後に完成した曲。つまり、初期の黒衣の最初と最後ですね。あと、この2曲は他の曲でも歌詞を引用していたり、ワンマンでやる理由が後付けしやすかったことも選んだ理由の1つです。

ーー過去の黒衣を今の2人が振り返るドキュメンタリーや当時のライブ映像が、1stの曲を披露する前に流れる構成でしたよね。このおかげで、黒衣の初期を知らなかったオーディエンスにも当時の曲が届いていたと思います。

インタビュイー画像

KENT:

昔の人達を置いてけぼりにしないようにすると、最近知ってくれた人たちを置いてけぼりにすることになるんですよね。さっきまでカジュアルやったおっさん2人が急にフォーマルで出てきたら、どないしてんってなっちゃうかもしれへんし(笑)。そういう意味でも映像をやれたことは本当に良かったです。
次ページ:黒衣の16年 経年変化とアップデート

SNSで記事をシェア

この記事を作った人

WRITER

DIGLE編集部

編集部がオススメするニュース/イベント情報などを紹介、またイベント取材記事/コラムなどを不定期で配信。

SNSフォローで
最新カルチャー情報をゲット!

閉じる