100曲以上の小さな旋律が種に。宅録音楽家ハナカタマサキが3rdアルバムで紡いだ“自分だけの音”

Interview

文: 神保未来  写:安岡佑晃 

高知県で活動する宅録音楽家のハナカタマサキ。作詞作曲、楽器演奏や録音、アートワーク制作、自主レーベル〈PENTACOAST〉の運営に至るまで自身で行うアーティストだ。2022年10月には、トイポップを軸に壮大な音世界を描き出した3rdアルバム『Small Melodies』を発表。本作についてメールインタビューで話を聞いた。

2012年に本格始動し、宅録で多彩なサウンドを紡ぎ出す音楽家のハナカタマサキが、2022年10月12日に3rdアルバム『Small Melodies』をリリースした。おもちゃ箱をひっくり返したような無邪気さが感じられる本作は、生楽器の温もりを緻密に構築したであろうアンサンブルで表現している。さらに、シンセサイザーやオーケストラアレンジを取り入れることで、これまで以上にスケールの大きな音の情景を描き出している点も特徴だ。

そんな彼の音楽的原体験は、X(現・X JAPAN)をはじめとするテクニカルなギタリストだという。現在の彼の音楽性から考えると意外ではあるが、確かに『Small Melodies』の随所で見える繊細な演奏は、技術の高さによって為せる技だ。ハナカタの音楽を聴いていると、あらゆる音楽はジャンルという枠組みで区切れるものではなく、すべて繋がっているのだと強く感じる。

NHKの人気番組『ブラタモリ』内で楽曲が起用されたり、ロンドンのインディーレーベル〈Ample Play Records〉から声がかかり作品をリリースしたりと、彼の生み出すポップミュージックは国内外のアンテナの高い音楽リスナーに聴かれている。また、JR四国やテレビ番組、CM、舞台などへ楽曲提供も行うハナカタだが、そういった幅広い音楽制作を可能とする引き出しの多さは、彼自身の作品でも感じることができる。ハナカタの音楽に見え隠れする多様なジャンルの息吹もまた、リスナーが彼の作品に引き込まれる所以だろう。

今回は、ハナカタマサキの音楽的バックボーンや曲作りに対する考え方、最新作のこだわり、そして今後についてメールインタビューで話を聞いた。

トッド・ラングレンから影響を受けた“実験的かつポップな姿勢”

ー音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。

音楽に触れた最初のきっかけがXで。当時中学1年だったんですけど、学校でXが流行ってて休み時間に友だち同士でXの話をしてたんです。そこでXっていうバンドを知って、親にお願いしてCDを買ってもらいました。それが『BLUE BLOOD』っていうアルバムで。初めて聴いた時はびっくりしましたね。身体に電気が走るような衝撃を受けました。

これが大きなきっかけになって、自分でもエレキギターで音楽をやってみたいと思って、中学2年生の時に母親にお願いしてエレキギターを買ってもらいました。そこからのめり込むのは早かったです。

そのあとは次第にハードロック・ヘヴィメタルに傾倒していって、Yngwie Malmsteen(イングヴェイ・マルムスティーン)やPaul Gilbert(ポール・ギルバート/MR. BIGRacer X)などのテクニカル系に目覚めていって毎日速弾きの練習をしていました。今でも曲によってはそういうプレイもしたりするので、あの時にたくさん練習しておいてよかったのかなと思っています。

ー現在の音楽スタイルからは意外な原体験です。他にはどういった音楽がルーツとなりますか?

アルバムのライナーノーツやインタビュー記事でThe Beatles(ザ・ビートルズ)やUtopia(ユートピア)、The Beach Boys(ビーチ・ボーイズ)の名前が出てきて、時代を遡って彼らのルーツを辿りながら70年代、80年代の音楽にも触れていきました。特にTodd Rundgren(トッド・ラングレン/Utopia)の“実験的でありながらポップでいる姿勢”からは大きな影響を受けています。

ー楽曲制作はお一人で行っているそうですが、どのように曲を作っていくのでしょうか?

ギターを弾きながら、鼻歌でメロディを探しながらつくっていくことが多いです。鍵盤で組み立てていくこともありますが、ほとんどギターと鼻歌からつくっていく感じですね。

あとはまったく何も曲ができていないけど、DAWを立ち上げてその場で即興的に録音して、他の楽器も思いつくままに重ねていってアレンジまで固めて、最後にメロディをつける、というやり方もよくしています。たぶん珍しい手法だと思います。DTMならではの曲作りっていう感じですね。

そういえばこの間、木崎賢治さん(音楽プロデューサー)の『プロデュースの基本』という本を読んでたんですが、その中に「アーティストにタイトルと歌詞を先に書いてもらう」みたいな話があって、そのエピソードがすごく面白くて。最近は先に歌詞から書くことにもチャレンジしています。

ーアートワークもご自身で手掛けるようになった理由を教えてください。また、アートワーク制作において、絵のイメージはどの段階で生まれているのでしょうか?

絵を描くことがもともと好きで、楽曲やアルバムの世界観をそのまま伝えられると思ったので、自分で描くようになりました。だいたいいつもアルバムの全体像が見え始めたくらいにアートワークに取り掛かります。歌詞のストーリーを絵で描くこともありますが、サウンドから色やタッチをイメージして描くことの方が多いですね。

ー舞台『小さな星の王子さま』やJR四国「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」の音楽、テレビ高知のニュース番組『イブニングKOCHI』テーマ曲など、ご自身の活動と並行して、TV番組/CM/舞台などの音楽も制作しています。提供曲とご自身の楽曲で、制作方法や曲作りに対する考え方などに違いはありますか?

基本的には、自分の作品と依頼されてつくった作品の曲作りに対する考え方は同じで、より自分の作家性が色濃く出るように意識しています。絶対出てしまうところではあるんですけど。

テーマやモチーフがあらかじめ決まっているケースがあるので、そういう時はお題を与えられてそれに対してこちらが反応するという形になるんですけど、これがすごく面白くて。自分では思いつかないようなテーマでオファーをいただくこともあるので「こんなサウンドアプローチがあったんだな」とか「こんな風にメロディを展開することもできるのか」ということを発見できたりしてとても面白いです。

2ヶ月で約100曲制作。断片的なメロディーが種となった『Small Melodies』

ー3rdアルバム『Small Melodies』は、前作『MARVEL』から約3年半ぶりのアルバムとなります。制作に至るまでの経緯を教えてください。

前作の『MARVEL』をリリースしてツアーをやって、しばらくしたらコロナが流行ってきて…。その後あっという間に世の中の状況が目まぐるしく変わりました。もともと自分は自宅のスタジオにこもって音楽をつくるっていう活動スタンスだったので、自分のことだけ考えれば影響はないのかなと思っていたけど、でも実際は全然そんなことなくて。日々痛みは蓄積してきました。

ツイッターの荒れたタイムラインを見て、また疲弊して。そんな状況で音楽をつくっていたわけですが、会いたい人にも会えないような状況なので当然人恋しさが出てきて、そこの気持ちは必然的に音楽にも反映せざるを得ないというか。なのでリスナーさんとの繋がりも、音楽でこれまで以上に強固に保っていきたいと思って。

そうすると使いたい楽器も自分の中で変わってきたんです。もちろんトレンドも意識しましたが。歌詞もこれまで使ってこなかったような言葉を選んだりして、音楽を通して人との繋がりを実感したかった制作期間でした。

ー色とりどりの楽曲が並びつつも全編にわたって多幸感に溢れていて、それがアルバムの統一感を生んでいるように思いました。制作前から構想を練っていたのでしょうか? 作品のコンセプトがあれば教えてください。

アルバムはなんとなくつくり始めていたので、明確なコンセプトはないんです。ただ、以前までは“音楽”をつくる感覚でアルバム制作をしてきましたが、今回の『Small Melodies』は“ソング”、いわゆる歌をつくろうと思って取り掛かった感覚はあります。

曲をつくる時は大体、自宅の録音スタジオでつくっているんですけど、窓から見える景色が大好きで。すごく晴れたり綺麗な夕方の景色が見れたりすると気持ちがブワッと高まってきて、そういう時に曲が生まれた思い出があるので、多幸感に繋がっているのはそういうところかもしれません。

ー『Small Melodies』というタイトルには、どのような想いを込めましたか?

単純に「Small」っていう言葉と「Melodeis」っていう言葉を使いたいと思ってて、他にも候補のワードがあっていろんな組み合わせで試してみました。「Small Melodies(スモール・メロディーズ)」って語呂も字面もいいし、リリースして少し経ったけど、改めてすごくいい名前になったなと思っています。

もうひとつ理由があって、曲を作っている時は鼻歌でワンフレーズの小さなメロディが生まれて、そこから展開していってアレンジして完成に近づけていく工程だったので、始まりはどの曲も小さな旋律からスタートしました。そういう意味でも今回のアルバムのタイトルにぴったりだと思って、このタイトルにしました。

ー歌詞では天気に関する描写や景色の美しさを多く描いていますね。「明日」や「未来」といった言葉も多用していて、将来への眼差しが感じられます。歌詞は、どういった点を意識したのでしょうか。

今自分が住んでいる場所は、高知の中でも田舎で景色がのどかで、壮大な感じもするところなんです。改めてすごく素敵な景色だと感じたのと、この景色も時間も有限で、自分が生活している時間が長くなればなるほど、残された時間は短くなってしまう。

歌詞をつくっている時は「時間」というキーワードは特に意識してなかったけど、時間を大事にしたい気持ちは年を取るにつれて大きくなっていって。自分の時間もそうだし、誰かの時間も。そういったところが無意識に出たのかもしれません。

ーさまざまな楽器を使用していながら、アンサンブルに絶妙な余白がある点も印象深いです。アレンジや音作りの面でこだわった点を教えてください。

今回もすべての音を自宅スタジオで録った宅録作品ですが、音は宅録っぽくしたくなかったというか。ローファイなサウンドでなくて、もっとプロダクションされた音を目指しました。特にマイキングはいろいろ試しました。あとはエディットの手法とかは、結構いろんな参考書を読みあさったり人に訊いたりして勉強しましたね。

アンサンブル面でいうと、仰っていただいたように余白はかなり意識していて、マスタリングの際になるべく楽器が全部聴こえるように、整頓されて気持ちいい音圧が出るように設計しましたね。最終のイメージを常に描きながらアンサンブルを重ねていきました。

それと、今回大半の曲はギターからつくっていきましたが、最終的にギターを抜いてしまっても成立しちゃうケースが多くて。その方がいい曲もあったので、最終的にまったくギターを省いたものもあります。

ー制作で新しく挑戦したことはありますか?

これまではアナログの楽器というか、アコースティック楽器だけを使って作品をつくってきましたが、『Small Melodies』からはシンセサイザーやオーケストラアレンジも導入したというのが一番大きな変化でした。

シンセはわからないままなんとなく使ってみたんですけど、触れば触るほど楽しくて世界が広がっていく感じがしたので、もっと勉強して今まで出したことがないような音を出してみたいですね。

あとは意識の変化ですが、これまでは箱庭的な作品だったんです。密室感があるというか。今作はもっと風通しを良くしたくて、いろんな場所に扉があるような音楽にしたかったという思いはあります。

ー展開としては、ファンファーレのように始まる「Sky」からラストの「光のなか」に向けて少しずつ熱を帯びていきます。曲順やアルバムの構成で意識した点は何でしょうか?

スタートは「Sky」、エンドは「光のなか」っていうのは決めてて、その間を何度も順番を入れ替えてその都度カーステレオとかで聴いてチェックしてたんです。

中盤はもっと聴かせる曲が欲しいなとか、また並べ替えて試行錯誤して。「予報」あたりからじっくり聴いてほしい曲を並べて、またエンドに向かっていくのが一番しっくりきてこの流れになりました。最終的にはこれしかないっていう曲順にたどり着いたので、これがベストかなと思っています。

ー制作で苦労した点や、印象深いエピソードを教えてください。

2020年の終わりくらいに創作意欲が特に爆発した時期がありまして。その時期は朝いつも早く起きてたんです。3時とか4時くらいに起きて、起きたらとりあえずPCを立ち上げて鍵盤に向かい、15秒とか20秒くらいの尺のメロディーをつくって、アレンジも結構がっちり固めるっていうのを繰り返して。それを100曲くらいつくったんです。今作はその中のストックからいくつか使いました。「すずめ交響曲」もその中の1曲です。

2ヶ月くらいの間で100曲くらいの断片的なメロディーをブワーっとつくったんですが、何がきっかけでそんなにたくさんつくったのかわからない。けど、今までにない自分の動きだったので、振り返ってみると面白いなあと思って。あの断片的なメロディーがなかったら『Small Melodies』ができてなかったかもしれないので、すごく重要な時期だったと思います。

ーいつも一人で楽曲制作や演奏、録音を行っているハナカタさんですが、本作ではOnion Skyさんという方が制作に協力しています。今回“人の手を借りる”という方法を選ばれたのは、何か心境の変化があったのでしょうか?

ひとつのことに集中するのは得意なんですけど、集中するあまり一箇所だけをズームして凝視してしまうみたいなところがあるんです。一歩引いた視点から物事を見るのが苦手で。

今回手伝ってくれたOnion Skyさんは、デモを聴いてもらうと的確にアドバイスしてくれて。かつてのルームメイトで自分のことをわかってくれているので、やりとりはスムーズに行きました。彼自身は楽器を演奏する人ではないのですが、めちゃくちゃ音楽に詳しくてヘビーリスナーなんです。だから僕よりもずっと広い視野でデモを聴いてくれてて。「ここの旋律はくどいからもっとスッキリさせた方がいいよ」とか「オーケストラアレンジを足した方がいいよ」みたいなアドバイスをもらっていました。

今後の作品でも好きな人に手伝ってもらって、自分がまだ想像していない音をつくりたいという気持ちはありますね。

どんな音楽も自分というフィルターを通せば自分の音になる

ー本作を作ったことでライブパフォーマンスに変化は生じましたか? また、今後のライブ展開についても教えてください。

アルバムを作っている時はライブのことまで頭が回らなくて、いざライブをするとなるといつも困るんです。ギター1本でもやろうと思えばできるんですけど。

この間(2022年10月29日)の高知のミニシアター蛸蔵でやったバンド編成でのリリースライブはサポートメンバー4人と僕の5人編成でやったんですけど、音がたくさんあるので人力の演奏だとどうしても手が足りなかったので、オケを使った同期での演奏になりました。

その時のライブの感触がすごくよくて、この編成とセットでいろんな場所に行きたいと思っているんですけど、どうしても予算の問題が出て来てしまって。編成はまだわかりませんが、近い将来にバンド編成で高知以外の場所も何箇所か回りたいと考えています。その時はぜひ観にいらしてください。

ー宅録を始めた2012年を活動のスタートととらえた場合、今年2022年は10周年となります。この10年でご自身の音楽性はどのように変化しているとお考えでしょうか?

もう10年かと知ってびっくりしました。1stアルバムを改めて聴くと歯がゆい感じはしますね。10年も音楽をつくって録音していると、こうすればやりたいサウンドにたどり着けるみたいな手段や引き出しは増えてきましたが、実は根本的なところって変わっていないんじゃないかと思ったりもします。

10年前は今とは違う意味で頑固だったというか、白黒がはっきりしていたんですけど、今はもっと曖昧というか。どんな音楽をやっても自分っていうフィルターを通すと、良くも悪くも結局は自分の音になってしまうことが10年やってわかりました。

ー次回作のイメージや、近い将来に挑戦してみたいことを教えてください。

一旦今作で全部出し切ってしまった感じがあって、次はどんな作品にしようかとぼんやり考えているところです。当たり前なんですけど、今回改めてメロディーの大事さをすごく再認識したというか。いい音楽をつくりたいという、漠然としてるけど強い思いはあるので、きっとまたそのうちゴソゴソとつくり始めるかと思います。

あと、絵本をつくってみたいと思っていまして。物語に寄り添う音楽が付いてる絵本で。音楽と絵とストーリーそれぞれのバランスが難しそうですが、音楽と絵ってすごく親和性があるので、音楽を聴きながら絵本を読み聞かせできたらすごく素敵だなと思ってて。予算が膨らみそうですが、実現させたいですね。手伝ってあげてもいいよという方がいらっしゃったらぜひお声がけください。

ー最新作には「予報」という楽曲が収録されていますが、音楽家としての展望など今後の活動の“予報”をお聞かせください。

新しいことに挑戦してみたいですね。映画の劇伴や教育番組の音楽にすごく興味があるので、機会があれば挑戦してみたいです。最終的なゴールってどこかわからないけど、毎回自信を持って世に送り出せる作品を作り続けていたいです。

INFORMATION

3rd ALBUM『Small Melodies』

2022年10月12日(水)
PENTCD-0002
¥3,300+tax
PENTACOAST

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この記事を作った人

WRITER

DIGLE編集部

編集部がオススメするニュース/イベント情報などを紹介、またイベント取材記事/コラムなどを不定期で配信。

PHOTOGRAPHER

安岡佑晃

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ハナカタマサキ

1979年1月23日生まれ、山梨県出身。高知県佐川町在住の宅録音楽家。

作詞作曲、ほぼすべての楽器演奏、プログラミング、録音を一人で行い、独自のポップミュージックをつくり出す。玩具などを使用したミニマルから、エレクトロニカ、フォーク、フルオーケストレーションまで多彩なサウンドを纏った楽曲を制作。アートワーク制作やレーベル〈PENTACOAST〉(ペンタコースト)の主宰も自身で行っている。
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