気鋭コレクティブ〈w.a.u〉の実態とは?知的共感で集ったプロデューサー陣が語るレーベルの在り方

Interview

文: riko ito  写:後藤倫人  編:riko ito 

テーマを設けてインタビューやコラム、プレイリストを隔月で掲載していく特集企画。2024年4月/5月の特集テーマは“What Is〈w.a.u〉?? ―才能溢れるコレクティブの実相―”。音楽シーンで注目を集めているクリエイティブコレクティブ/レーベルである〈w.a.u〉のメンバーを特集のカバーアーティストに。今回のインタビューでは、プロデューサーの4名に集ってもらい、〈w.a.u〉結成の経緯や、コレクティブが目指すものについて語ってもらった。

2020年に始動し、早耳リスナーや音楽関係者たちの熱い視線を浴びる気鋭のクリエイティブレーベル/コレクティブ〈w.a.u〉。所属するメンバーたちの楽曲はもちろん、VivaOlaWez Atlasをはじめ、シーンで注目を集めるアーティストたちとも積極的に交流をし、クオリティの高い作品を生み出し続けている。

今回は〈w.a.u〉のファウンダーでもあるプロデューサーのKota Matsukawavoquote)とRyuju TanoueFried Banana Shop)のふたりに加え、Kazuho Otsuka01Sail)、Reo AnzaiSakepnk)にも集まってもらった。

それぞれがアーティストとしても活動している4人は、音楽だけに留まらず、あらゆる地域や時代のカルチャーから影響を受けてきたそうだ。そういった作品の歴史的側面や社会への影響を理解し、実体験としてその豊かさを感じてきたという彼ら。カルチャーを単なるエンターテイメントとして表面的に消費するのではなく、リスナーや社会に及ぼす影響を身をもって認識していることが、〈w.a.u〉という集団としての在り方や軸を形作っているのであろう。

今回はそんな4人の〈w.a.u〉というコレクティブに対する考え方を探るインタビューを実施。それぞれが〈w.a.u〉に合流していった経緯はもちろん、影響を受けてきたカルチャーや、2023年に活動を本格化してから現在に至るまでのモード、今後の展望について、たっぷりと語ってもらった。

既存の音楽コミュニティへの違和感から生まれたコレクティブ

ーまず〈w.a.u〉のファウンダーであるMatsukawaさんとRyujuさんの出会いのきっかけをお聞きしたいです。

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Ryuju Tanoue:

僕は通っていた大学のビッグバンドサークルを引退した後、他の大学の軽音サークルに遊びに行ってたんです。で、ジャパニーズ・フュージョンサークルに行ったときに最初に1年生だけ集められたんですけど、ふたりとも新入生の年齢じゃないのにニヤニヤしながら参加して(笑)。他の新入生がやりたいフュージョンのアーティスト名を挙げている中、「Robert Glasper(ロバート・グラスパー)!」って聞こえてきて。「え、じゃあ俺もやるよ」と思ってたら、そこにMatsukawaがいました。
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Kota Matsukawa:

フュージョンサークルなのに「フュージョンはやりたくない」って駄々こねながら「Robert Glasperはフュージョンですか?」って聞いたりしてましたね(笑)。Ryujuが23歳で俺はハタチだったのに、新入生としてバンドを組んで仲良くなったのがスタートです。
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Ryuju Tanoue:

しばらくはサークル内でバンドが一緒になったぐらいだったんですけど、あるときその大学内でMatsukawaが別のサークルを作ってて。そこのライブに出演していたのがさらさだったんです。僕はドラムをやってたんですよ。Matsukawaとはそこで再集合したというか。
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Kota Matsukawa:

その頃、ラッパーのKingoとかTok10もたまたま集まってて、「このメンバーでやれんじゃん」みたいな空気があったんです。その流れで「レーベルやりたいんだよね」みたいなことを言ったら、Ryujuが「俺も俺も」っていう感じで。お互いライブハウスに入り浸ってたけど、コミュニティ自体はあんまり好きじゃないよなっていう話になったんです。ただ、クラブミュージックとかブラックミュージックの系譜が好きだったから、そういうのがやりたくて2020年のコロナ禍から〈w.a.u〉がスタートしました。
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Ryuju Tanoue:

さらさが、曲は作ってたけどパッケージまで持っていけない状態で、トラックを作れる人やマネジメントをやってくれる人を探してて。それで3人で集まって「リリースまで持っていこうか」って話して「じゃあレーベルにしちゃえ」っていうのが始まりですね。

ーライブハウスのコミュニティに違和感があったのはどういう部分だったのでしょうか?

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Kota Matsukawa:

簡単に言うと、音楽をやるというよりかは内輪ノリ全開だったところですかね。
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Kazuho Otsuka:

それぞれ既存のカルチャーがあって、馴染めないんですよね。ある種のコミュニティスペースみたいな。
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Ryuju Tanoue:

音楽が好きで集まってない感じがすごく嫌だったんです。ファンベースのカルチャーがあるのはわかるけど、どうしても「ファンからいかにお金を作るか」とか「ハコがどう経営するか」みたいなところに意識がいっちゃってて。アーティストがどう活動するかとか、どうやってかっこよくなるかということ自体があんまり楽しめない状況だなと。
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Kota Matsukawa:

そういう雰囲気に関係なく音楽活動をやりたいよねっていう話になって、クラブ的なところで生演奏していたのが始まりです。
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Ryuju Tanoue:

“クラブだからDJじゃないといけない”という縛りもないと思っていたから、クラブでバンドでライブしても面白いんじゃないかとか、そういうところから〈w.a.u〉の活動はきてますね。

ーAnzaiさんが合流した経緯も教えていただけますか?

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Kota Matsukawa:

Anzaiは大学のゼミの先輩なんです。〈w.a.u〉のローンチパーティでDJとして呼んで。そのときのメンバーは俺、Ryuju、さらさで、陰の控え選手としてreinaがいたっていう状態でした。
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Reo Anzai:

僕は元々音楽をやってたんですけど、大学時代は「音楽じゃない道でいこうかな」って気持ちもあって。それこそ自分がかっこいいと思ってるものじゃない音楽が持ち上げられてて、疲れちゃってたんです。「音楽好きって名乗るのやめようかな」って変に斜に構えてて(笑)。それまでDJはやったことなかったのに、パーティのときにMatsukawaから「DJやってよ」って言われて、みんなと会い始めたのはそこからですね。

ーMatsukawaさんがAnzaiさんに声を掛けたのは、何かシンパシーを感じる部分があったからなんですか?

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Kota Matsukawa:

(Anzaiは)曲を作れるっていう噂を聞いたのに、「あんま音楽好きじゃないですよ」みたいな雰囲気を出してたから、こっちは「お前、本当は好きなんだろう!」って気持ちで行って(笑)。僕はこの中で一番年下のくせにあんまり敬語を使わずにフランクに接するタイプなんですけど、聴かせてもらったらかっこよくて「一緒にやろう」って言った流れでしたね。
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Ryuju Tanoue:

Matsukawaは先輩・後輩の垣根をなくせるよね。

ーAnzaiさんは誘われたときは何の迷いもなく?

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Reo Anzai:

「やり続けたら、音楽で飯食えるよ」って言われて(笑)。俺はめちゃくちゃ流されやすいんで「いけるんだ〜」ってそんなに深くは考えず。休学して一人でめちゃくちゃクラブに行ってた時期があったんですけど、生楽器で演奏するような形でもクラブと親和性がある人たちだなと思ったし、一緒にやったら面白そうだなと。

ーOtsukaさんが合流したのは?

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Kazuho Otsuka:

俺は大学でR&Bとかファンクのセッションをするサークルにいたんですけど、めちゃくちゃうまい先輩がRyujuがいたビッグバンドにも所属していて、Ryujuとは兄弟弟子みたいな感じなんですよ。そのときはまだ知り合いじゃなかったんですけど、〈w.a.u〉がライブ活動していく上でギタリストを探してたんだよね?
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Ryuju Tanoue:

そう。もう一人Raylowgh Annoってギタリストが〈w.a.u〉にいるんですけど、彼はもっとアーティストっぽくて。いわゆるスタジオミュージシャン的な人やプロデューサー的な視点を持ってる人も必要だったので、そういうプレイができるギタリストを探していたんです。
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Kazuho Otsuka:

自分的にはタイミングもすごくよくて。2020年に大学院に進学するんですけど、そこでちょうどコロナ禍になったんですよね。何もすることがなかったから、とりあえずDAWを買ったんです。当時D’Mile(D・エミール)っていうプロデューサーが、Lucky Daye(ラッキー・デイ)とかJoyce Wrice(ジョイス・ライス)のアルバムとか、ヒット作をバンバン出し始めた時期で。その質感が大好きでDAWでリメイクしてインスタにあげてたんです。それをMatsukawaたちが見てくれたみたいで。
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Kota Matsukawa:

ギタリストを探す中で、ズホ(Otsuka)のインスタを見て「うわ、これやん!」ってなって。

他のアーティストも含めリハを何個もやる日が初対面で、僕とズホがreinaのリハ終わりの休憩中にスタジオの控え室で「〈w.a.u〉っていうのは〜」みたいに説いていったんです。「入る?」とかじゃなくて「決定です!」みたいな感じだったよね(笑)。
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Kazuho Otsuka:

大学院に1年半通って、このまま大学にいて何かするのも、かといって就職するのもイメージが掴めなくて。とりあえず一回休学して、時間を置いて音楽でできることやってみようかなと思っていたタイミングだったんです。たしか休学の申請を出した直後くらいにRyujuたちから「ギター弾いてください」って連絡が来て、「まあ、いいですよ」って返事をしました。

コーエン兄弟、ジム・ジャームッシュ、ガイ・リッチーなど。〈w.a.u〉に影響を与えるカルチャー

ー人間性的にお互いにシンパシーを感じる部分はありますか?

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Kota Matsukawa:

人間性的な共感は俺らあんましてないよね(笑)。
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Ryuju Tanoue:

音楽をディグる精神だったり、文脈を読み解こうとする姿勢だったりは似ていて。好きなアーティストが違ったとしても、そういう部分が一致していると知らない音楽でも紹介しあえるというか。
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Kazuho Otsuka:

みんなナード気質だよね。あと、映画とか小説とか音楽以外のカルチャーもちゃんと好きで。音楽も背景を理解して聴くのが好きなんですよ。
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Kota Matsukawa:

社会史だったり、下手すると地理とかもね(笑)。音楽って音だけじゃなくて、その背景にいろんなものがくっついてるけど、そこをちゃんと解釈し得るというか。全部を理解するわけじゃないんですけど、それぞれ得意分野があるから、それぞれの視点で一個の曲を解剖できるニュアンスはみんなあるかなっていう。
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Kazuho Otsuka:

感情的共感じゃなくて、知的共感で一緒にいる気はしますね。
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Reo Anzai:

〈w.a.u〉が始まってから、遊びで会うこともなかったかも(笑)。
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Kota Matsukawa:

この前Yussef Dayes(ユセフ・デイズ)のブルーノート公演を観に行ったとき、なぜかみんなちょっと照れくさくなるっていう(笑)。
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Ryuju Tanoue:

PCも楽器も持ってないのに集まるのが珍しくて。

ーみなさん映画や本もお好きということで、おすすめの作品を教えていただきたいです。

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Kota Matsukawa:

この話は長くなりそうだね(笑)。
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Ryuju Tanoue:

映画に関して言うと、俺は2時間も集中力が持たない人間なので、3人が話してるのを聞いて後から観る感じですね。『ファイト・クラブ』とかは好きですけど…あとはみなさんどうぞ喋ってください(笑)。
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Kazuho Otsuka:

音楽と絡めた映画で影響を受けたのは、コーエン兄弟が監督の『オー・ブラザー!』っていう2000年代初期の映画で、Bob Dylan(ボブ・ディラン)のバンドでギターを弾いていたT Bone Burnett(T・ボーン・バーネット)が音楽監督を務めてるんです。

ジャズとかブルース、カントリーって、今ではそれぞれ違う人種が生み出した別のジャンルだと思われてるけど、1920年代にレコードが市場に出てくるときに、各人種に対して売るためのマーケティングとして区分付けされたんですよ。実際は一括りに“フォーク”と呼ばれるものだったかもしれないし。『オー・ブラザー!』は、2000年代の頭のアメリカ史を踏まえた上で(ジャンルの位置付けを)もう一回再解釈しようみたいな側面もあるんです。

ーその時代のアメリカ音楽のどういった部分に惹きつけられたのでしょうか?

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Kazuho Otsuka:

自分は比較的このメンバーの中ではUSの音楽を掘ってきた人間なんですけど、白人音楽とか黒人音楽の境界線なく、移民国家の中で生まれる音楽の豊穣さや土臭さみたいなものに惹きつけられて。自分の音楽のテイストに対して影響を与えてくれた作品ですね。
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Reo Anzai:

俺は、音楽的にはガイ・リッチーが監督した『スナッチ』にすごく影響を受けてて。UK GarageのDJみたいにパンパンパンってシーンが切り替わっていって、最後加速して一気に終わるっていう構成は、視覚的なんだけど音楽的に捉えても面白いし。
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Kota Matsukawa:

エディットでかっこよくなってる作品で言うと、ガイ・リッチーの初期作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』もスピード感がすごいある。
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Reo Anzai:

あと『デッドマン』とかね。
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Kazuho Otsuka:

Neil Young(ニール・ヤング)とか、1970年代のオーガニックなフォークロックもすごく好きです。監督のジム・ジャームッシュはアメリカの中でもスモーキーで渋いミュージシャンたちを使っていて、〈w.a.u〉がUSの音楽を捉えるときの視点と似てるんだよね。Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)、Neil Young、Tom Waits(トム・ウェイツ)とか。ウィスキーの香りがする感じが良いよね。
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Kota Matsukawa:

〈w.a.u〉のプロデューサー陣に関してはかなりジム・ジャームッシュから影響を受けてると思う。
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Reo Anzai:

海外のミュージシャンが映画監督とコラボするのはよくあるじゃないですか。デイヴィッド・リンチとFlying Lotus(フライング・ロータス)が一緒にやってるのとか。クリエイティブなものであれば、どんな表現方法を使うのかはあんまり関係ないと思ってて。僕は今、大学院で美術作品を作ってるんですけど、その延長でMatsukawaとも「音楽(活動)が落ち着いたら映画を撮りたいよね」って言ってて。

ー〈w.a.u〉が音楽監修した映画はかなり観たいです。

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Kota Matsukawa:

やりたいし、Anzaiは映画音楽も作ってるよね。
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Reo Anzai:

元々映画監督が集まる家に住んでたんですよ。Ryujuも一瞬住んでたよね。そこで映画監督の人たちと「じゃあ作ってみよう」みたいな感じでインディ映画の音楽を作り始めたのが2年ぐらい前からで。僕は最近「音楽こう入れるんだ〜」って思いながら映画を観ることが多いですね。

音楽をアーカイブするためにもレーベルを長く続けたい

ー〈w.a.u〉として今後活動する上で、大切にしていきたいことはありますか?

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Kota Matsukawa:

ダサいことはせずに、自分たちがかっこいいと思うことをする。ポップなものも好きだし、大きいものに抗おうという反骨心はないんですけど、自分たちがダサいと思ってるのにそれをやる必要はないだろう、っていう気持ちはあるから。とりあえずピンとこなければやらないっていうのがポリシーではあるかな。

ーダサいというのは、たとえば“商業的なもの”みたいな感じではなく、自分たちが感覚的にそう思うものはやらないというニュアンスに近い?

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Kota Matsukawa:

売れてるものもすごいですし、そういった歪んだ考えはあんまりないですね。単純にいろいろな音楽が好きなんですけど、〈w.a.u〉のフィルターを通してどうアウトプットしていくかだと思うんです。そのときにダサいって思うものを通さないみたいなことに近いのかな。
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Reo Anzai:

さっき人間的なシンパシーはないっていう話がありましたけど、「なんか違くね?」と思うものは近いんだと思います。

ープロデューサーとして、“〈w.a.u〉のあるべき姿”みたいなことは普段から話されますか?

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Kota Matsukawa:

いやまったく…勘ですね。
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Ryuju Tanoue:

それぞれの〈w.a.u〉像があって、お互い配慮しながらそこに近づけてる感じもあるよね。
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Kazuho Otsuka:

そうだね。それぞれ微妙にズレはあるんですけど、ダサいと思っているものが近いから大きく外れたことはしないし、そのズレによって豊かさが生まれてる部分は絶対にある。

ーコレクティブとして動く際、役割分担はあるのでしょうか?

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Kota Matsukawa:

俺が外務大臣、Ryujuが内務大臣みたいな感じ? 俺が外部の大人とやりとりをして、Ryujuは世代が近い人たちとか〈w.a.u〉内部のケアとか。僕はプロデュースするときに大人と接するのは得意だけど、「みんなで仲良くやろうよ」っていうムードはあまり出せないんです。だからそこはRyujuにやってもらってて。大きく言うとそこしか役割分担はないかな?
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Reo Anzai:

Matsukawaは戦う場所を提供してくれるんです。僕とズホは戦える場所を求めてて(笑)。「戦っていいよ」って言ったところに行くっていう。
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Kota Matsukawa:

で、Ryujuはそのふたりが戦ってるときのケアって感じです。

ー2020年に〈w.a.u〉としての活動を開始されてますが、2023年の1月に改めて本格始動と銘打ったのは何かきっかけがあったのでしょうか?

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Kota Matsukawa:

大きな変化というよりは、気持ちの問題ではありますね(笑)。
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Ryuju Tanoue:

そのときぐらいにやっと、ちゃんとやっていけるんじゃないかっていうメンツが揃ったんですよね。かつ、今はお互いが作っていきたい曲のジャンルが少しずつ違うのもなんとなくわかってるけど、2020年の結成当時はまだ「何ができるかな?」ということを探っている段階で。リリースのスケジュールとか「個人名義でこれを出す」っていうのも徐々に固めていってた感じがあります。
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Kota Matsukawa:

ゲームでいうチュートリアルを終えた感じ。最初の村で話して情報を揃える段階までが2023年の始めまでで、それが揃って外に出ても戦える状態になったから、線引きとして1月に「Introduction」っていう曲を出したんです。あれも〈w.a.u〉の音楽性をギュッとすることがテーマのコラージュ的なビートで、それも「やってみない?」みたいな軽い話からリリースしただけなんです。

ー2023年はすごくいろんな場所で〈w.a.u〉の名前を聞くようになりましたよね。

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Kota Matsukawa:

外の人は「〈w.a.u〉の話、聞くようになったよ」って言うけど、面白いことに俺らはマジで聞かなくて。謙遜とかじゃなくて、気遣って言ってくれてんのかな?って(笑)。だから不思議な気持ちなんですよね。「そんなに〈w.a.u〉って人の人生に入ってんの?」っていう。
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Kazuho Otsuka:

俺らは外側から見る〈w.a.u〉に対して他人事感があるんだよね。ずっと作り続けたいから作ってるだけっていう。
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Ryuju Tanoue:

バンドだったら聴いている人と会う機会があるかもしれないけど、〈w.a.u〉主催でやるイベントっていうのは結構限られてるし。
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Kota Matsukawa:

お客さんも知らない人が多いしね。コミュニティがないというか。いろんな界隈の人がいるから僕らはあまり認識してなくて。〈w.a.u〉ってファンに向けての動きはほとんどやってないし、そういうことをしたいわけじゃないから。勝手に聴いてもらって勝手に楽しんでくれれば俺らは嬉しいっていう。
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Kazuho Otsuka:

あくまで生産者だね。野菜を作る人たち。
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Kota Matsukawa:

誰が食ってるかは知らないよっていう。

ー活動を本格化してから、新たな気づきや課題は何か見つかりましたか?

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Kota Matsukawa:

ピークを作らないっていうのが結構ポイントなんですけど、右肩上がりの状態ではあると思ってて。ピークを作ったら降りていくだけじゃないですか。だからバーンと跳ねるのはそこまで求めてないんですけど、緩やかでもいいから絶対に上がり続けたくて、意図的にコントロールしたいなというのは最近より感じてますね。
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Reo Anzai:

その考え方って、いわゆるアーティストの売り出し方っていうよりかはレーベルの在り方に近いかもね。
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Kota Matsukawa:

そうだね。はたから見てても、1曲すごいバズった曲があったとして、バズらなくなったら「あの人落ちたよね」って見えるじゃないですか。その人からしてみたらどの曲も同じ頑張りなのに。「バズりたくはない」っていう話でもないんですけど、そういう消費のされ方はされたくないから、徐々にペースを上げていければいいのかなって。張り切りすぎても擦り切れちゃうから。
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Ryuju Tanoue:

張り切りすぎないっていうのは結構キーワードとしてあるのかも。
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Kota Matsukawa:

永遠のテーマかな。サステナブルというか。始めてからそんなに時間も経ってないからまだまだな部分もあるし、これからも頑張っていきたいけど、やり方を考えなきゃなっていう。がむしゃらに擦り切れる寸前まで頑張ってた時期もあったけど、今は誰かが体を壊したりするといろんなところに迷惑がかかるくらいの規模感にはなってきてるから、それはないように気をつけようねっていうのはありますね。だから大事にしていることは体調管理(笑)?
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一同:

(笑)。

ーはたから見ていてもじわじわと着実に活動の幅を広げていっているイメージはあります。

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Kota Matsukawa:

みんなが少しずつ豊かになっていってる実感はありますね。
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Ryuju Tanoue:

再生数が安定してきてるのもそうだし。
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Reo Anzai:

ちゃんと3食食べられて、体重も増えてきてるし。
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Kazuho Otsuka:

あと部屋に機材。
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Kota Matsukawa:

体重と機材で地球がどんどん狭くなってきてます(笑)。

ー(笑)。今後、個人的に挑戦してみたいことはありますか?

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Kazuho Otsuka:

やり続けていきたいよね。やりたいことはもうすでに手元にあって、それを動かし続けてるだけだから。
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Kota Matsukawa:

その規模感と影響力が大きくなることを望んでるだけであって。デカいメッセージ性とか世界を変えるぞみたいなモチベーションは正直ないんです。

あ、でも一個ありますね。僕らはまだそんな立場でもないですけど、将来的に〈w.a.u〉で動かせるお金が大きくなったら、子供の教育のための奨学金を作りたいみたいな話をしてて。お金を稼ぐことも大事だけど、僕らが作った音楽を2歳とか3歳の子が聴いて「かっこいい」と感じてくれて、将来その子が音楽を作ったり、音楽が好きな人として生きてくれたりしたらいいなと。レーベルってそういう役割もあると思っているから、後続を育てるシステム作りにはいつか挑戦してみたいです。
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Kazuho Otsuka:

話がデカくなっちゃうけど、今の教育機関って全然サステナビリティがないやり方をしてるんですよ。それが故にどんどん日本の研究の質も下がってきていて。大学っていう制度の中で、生まれてくるものの豊かさもどんどんなくなってしまうから。音楽業界にもそういう一面があるから、ちゃんとみんながよく生きれるようなシステムを作っていきたいんだよね。
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Kota Matsukawa:

両親に感謝でもあるんですけど、教育とか文化に触れることで豊かになっている人たちが多いということを〈w.a.u〉の全体を見て感じるんです。それを押し付けはしないですけど、豊かさと文化的な生活を求めて音楽を聴くのもいいよみたいなスタンスですね。だから僕らより上の世代というより、生まれてない子たちの手助けができるシステムを残したいっていうのがあります。
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Reo Anzai:

レーベルが残らないと音楽って残らなくて。ダンスのシーンで言うと特にヨーロッパにインディレーベルがすごいあるんですけど、レーベルが作品を出すことで、売れなかったとしてもその時代にあったムーブメントがデータとして残るんです。この地域にこういう音楽があって…っていう地域性も生まれるし。日本はインディレーベルの数がそこまでないんですけど、アーカイブの役割のために長く続けるのも目標としてありますね。
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Kota Matsukawa:

その一環として今やりたいことをやってるから。今のところは挑戦したいことに対する行動は起こしているので、それをどうスケールアップしていくかをみんなで調整しながら頑張ろうっていう感じですね。

〈w.a.u〉RELEASE INFORMATION

MÖSHI New Single「IMPROVISE」

2024年6月12日リリース
Label:〈w.a.u〉

Compose : Reo Anzai, MÖSHI
Produce : Reo Anzai
Mix Engineer : Tuna Blue
Mastering Engineer : Kota Matsukawa
Artwork : KURI

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※写真左から順に記載

⚫︎Ryuju Tanoue(リュウジュ タノウエ)
〈w.a.u〉ファウンダーのひとり。千葉県印旛村出身。さらさ、Julia Takada、Tok10など、数多くのアーティストの楽曲にプロデューサーとして携わる。
さらに、3人組バンド・Fried Banana Shopのドラマーをはじめ、幅広く活動を展開。同バンドでは楽曲のプロデュースも担当し、メンバーそれぞれのルーツであるJazz、R&B、Funk、Rockなどの要素をミックスし、独自のインディーポップサウンドに昇華させている。

⚫︎Reo Anzai / Sakepnk(レオ アンザイ / サケピンク)
長野県伊那市出身のプロデューサー、アーティスト。<MUTEK JP>や、都内のクラブにLIVE SETで出演しており、若手電子音楽家として高く評価されている。映像作品へ楽曲提供も行うなど、若手映画監督とのコラボレーションを数多く行なっている。
​ソロプロジェクトSakepnkでは、Hip Hop、ハウス、UKガラージ、ポストダブの領域を横断。得意とするマイクロ・サンプリングを随所に駆使することで、カオスでありつつもシルキーな質感を携えた音楽を作り上げている。また、自身の音源をリリースする前にFKD、石若駿、Aaron Choulaiによるユニット・FICのリリースイベントにゲスト出演するなど、異例の経歴を持つ。

⚫︎Kota Matsukawa / voquote(コウタ マツカワ / ヴォコート)
神奈川県横浜市出身。東京を拠点とするプロデューサー、ビートメイカー、ベーシスト。〈w.a.u〉ファウンダーのひとり。所属アーティストのreinaをはじめ、さらさ、VivaOla、Wez Atlas、Sagiri Sólなど、数々のアーティストのプロデュースを手がけている。
さらに、ダンスミュージックプロジェクト・voquoteとしても活動。ドラマーの父親に厳しく鍛えられたグルーヴを存分に発揮しつつ、R&BやHip Hopの要素をハウスやエレクトロニックに落とし込んだ、踊らずにはいられない楽曲を生み出している。

⚫︎Kazuho Otsuka / 01Sail(カズホ オオツカ / オーワンセイル)
千葉県木更津市出身のプロデューサー/ギタリスト。10代半ばからブルースやカントリーをはじめとするアメリカン・ルーツミュージックに親しみ、上京後はR&Bやファンクのジャムセッションシーンでギタリストとして活動。近年は、他アーティストのプロデュースや映画音楽制作など、プロデューサーとして多岐にわたる活動を展開している。
ルーツミュージックはもちろん、R&B、Hip Hopをはじめとする現行ポピュラーミュージックなど幅広いジャンルへの深い造詣に基づいた音像の緻密さと、プレイヤーとしての経験に由来する重厚なグルーヴが持ち味。
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