沖縄の風土から生まれるエレポップ。TOSHがSF映画、’90sオルタナ、グランジの影響から生み出す多彩な音|BIG UP! Stars #131

Interview

文: 田中亮太  写:松永樹/星原喜一郎  編:riko ito 

さまざまな形でアーティストをサポートする音楽配信代行サービス『BIG UP!』。DIGLE MAGAZINEが、『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップしてご紹介します。第131回目はTOSH(トッシュ)にインタビュー。

地元・沖縄を拠点に活動するシンガーソングライター・TOSH。固有の地理的/文化的な文脈を持つ沖縄では独特なカルチャーが生まれており、昨今の音楽シーンでもHOMEOZworldをはじめ沖縄発のアーティストが話題になることも多い。そして彼もまた、自身のルーツであるロックや’90sオルタナミュージック、グランジの要素を取り入れながら、憂いと陰りのある個性的な楽曲を生み出し注目を集めつつあるアーティストだ。

自身もSF映画好きであることから、2024年11月6日にリリースされる3rd EP『Somewhere』の収録曲「don’t you dare」では、映画『マトリックス』のワンシーンからインスパイアを受け、歌詞を制作したという。時代や国を問わずさまざまなカルチャーの影響を柔軟に取り入れ、サウンドに昇華させているのも彼の楽曲を多彩にしている要因なのだろう。

そんなTOSHが、最新EPからの新曲「Always」を2024年10月9日に先行配信した。既発曲「LET IT GO」に引き続き、共同プロデュース/エンジニアにSatoshi Anan(ex. never young beachPAELLAS)を迎えた同曲。レトロフューチャー感のあるサウンドと、どこか怪しげな雰囲気が聴き手を虜にし、来る最新EPへの期待を高めてくれる1曲に仕上がっている。

今回は、沖縄と東京をリモートで繋ぎインタビューを敢行。彼が拠点を置いている沖縄の風土と音楽シーンや、新曲「Always」について、そして最新EP『Somewhere』に込めた思いを伺った。

BIG UP!

『BIG UP!』はエイベックスが運営する音楽配信代行サービス。 配信申請手数料『0円』で誰でも世界中に音楽を配信することが可能で、様々なサービスでアーティストの音楽活動をサポート。また、企業やイベントとタッグを組んだオーディションの開催やイベントチケットの販売や楽曲の版権管理、CDパッケージ制作などアーティスト活動に役立つサービスも充実している。

さらに、音楽メディアも運営しており、BIG UP!スタッフによるプレイリスト配信、インタビュー、レビューなどアーティストの魅力を広く紹介している。

▼official site
https://big-up.style/

沖縄の時間の流れとカルチャーから生まれる音楽シーンの胎動

ーTOSHさんは沖縄出身で現在も沖縄を拠点にしていますが、以前は東京に住んでいたこともあったそうですね。

そうなんです。東京でバンドをやっていたんですけど、上手くいかず解散しちゃって。それで沖縄に戻ってきたんです。沖縄でまた音楽をやるとかは考えていなかったんですけど、周りから「また音楽やらないの?」と声をかけてもらうことも多くて、ソロで曲を作りはじめました。やってみたら案外ひとりでもできて、今に至るという感じですね。

ーTOSHさんから見て、沖縄と東京のいちばんの違いは?

ムードから全然違いますよね。沖縄はアメリカ(領)だった時期もあるので、日本のなかでも地理的/文化的な文脈が特殊ですけど、ここで暮らす一週間と東京で暮らす一週間は時間の流れ自体が違う気がします。東京はやっぱりみんな時間に追われて生きている印象なんですけど、沖縄の人はのんびりしている。それが表れていることのひとつに、沖縄には終電の概念がないというのもあるのかなと思っています。沖縄県民にとっては夜の12時や1時からが本番という感じなんですよ。

ーなるほど。東京だと終電までの時間に一度ピークを作る感じですもんね。それから朝までコースという流れもありつつ。

沖縄の人は時間に縛られないというか、良くも悪くも時間を守らないところがあります(笑)。

ー最近の沖縄の音楽シーンについてはどんな印象を持たれていますか?

おもしろいと思います。那覇に桜坂劇場という映画館があり、そこが街のカルチャースポットになっているんですけど、桜坂劇場で音楽のライブを担当しているグループが、(ミュージックタウン)音市場という1000人くらいの大きなキャパの会場を使って<MusicLaneOkinawa>というフェスを数年前から開催しているんです。その主催の方が海外のフェスやイべンターとも密な関係を築いていて、香港の<Clockenflap>とか台湾の<LUCfest>とかに出ている人たちを沖縄に呼んだりしている。ショーケースイベントとして存在感を持っていて、<MusicLane>に出演したHOMEが国内外で注目されたりと良い動きになっている印象です。

ーHOMEは東京での注目度も高まっていると感じます。

OZworldさんとかを中心にラップシーンは相変わらず活況を見せているんですけど、それに加えてオルタナティブなシーンからもおもしろいバンドやアーティストがどんどん出てきているという感覚がありますね。

ー那覇だけでなくコザにも、沖縄民謡とダブを混ぜた音楽性を持つHARIKUYAMAKUさんがいたりとおもしろいシーンがある印象なんですが、TOSHさんも交流はあるのでしょうか?

TOSHとしては、HARIKUYAMAKUさんのシーンと現時点では直接的に繋がっていないんですけど、僕からすると大リスペクトを感じている存在です。三線の稲嶺幸乃さんと一緒にパフォーマンスもしたり、沖縄カルチャーの伝統をふまえつつ、いちばん新しいことをやっている方だという印象ですね。

ーTOSHさん自身も昨年からモンゴルや韓国、台湾と他のアジア圏でのライブが増えていますが、向こうでの気づきや発見はありますか?

去年の7月に開催されたモンゴルの<PLAYTIME FESTIVAL>が、TOSHにとって初の海外公演だったんですけど、ちょうど僕の出る日が大雨で中止になっちゃったんです。でもその翌日に「せっかくだしどこかでライブができないかな?」となり、505 el clubというかっこいい感じのテクノ系のクラブで演奏できることになったんです。そこが外でもライブをできる会場で、せっかくだし外のほうに出させてもらったんですけど、自分のことを何も知らない、たまたまそこにいた人たちからめちゃくちゃ良い反応をもらえて。それが自信にもなったし、聴いたことのない曲でも、良いと感じたらノッてくれるバイブスが最高だった。もっと海外でやっていきたいとより強く思った瞬間でしたね。

『マトリックス』やレッチリ、カリ・ウチスの影響を昇華したEP収録曲

ーこのたびリリースされた新曲「Always」と同曲を収録する11月のEP『Somewhere』について教えてください。EPには、先行配信された「LET IT GO」と「don’t you dare」を含む5曲を収録していますが、全体を貫くテーマはあったんでしょうか?

テーマとしてはエレポップ路線というか、エレクトロニック〜ダンスミュージックの要素と自分のルーツにあたるロックを混ぜたものという大枠で、収録する楽曲を絞っていった感じですね。

ー「Always」と「LET IT GO」はnever young beachやPAELLASなどで活動してきたSatoshi Ananさんを共同プロデュースに招いていますよね。彼との作業はいかがでしたか?

Ananさんとは初対面だったんですけど、お会いしたとき、不思議な空気感を纏っている優しい人だなと思いました。「LET IT GO」についてはわりと自分のデモの通りに完成したんですが、「Always」ではシンセの音色だったり、Aメロの後ろで鳴っているエレピだったり、Ananさんが細かなアレンジを加えてくれた。その結果、音楽的な深みがめちゃくちゃ増したなと思います。

ーAnanさんとの制作はリモートで進めたんですか?

ボーカルだけAnanさんのスタジオに行って録ったんですけど、基本はデータのやりとりでした。ミックスの細かな作業もネット上で進めて。自分としては初めての作り方だったんですけど、ぜんぜん問題なかったです。むしろ、だらだらしないでいいなと(笑)。だらだらしながらの制作も好きなんですけどね。

ー「Always」は’80年代序盤のスロウファンクを思わせる楽曲で、各パートの音とグルーヴがすごく気持ち良いなと感じました。

この曲はサビのリフレインをまず思い付いたんです。Kali Uchis(カリ・ウチス)とかのムーディでエロくて妖艶な感じを出しつつ、そこにブルースというか哀愁を入れたいと思っていました。

ー歌唱の面ではヒリヒリとした感覚があってグランジっぽさも出ている印象でした。

それは、めっちゃ嬉しいです。Nirvana(ニルヴァーナ)やThe Smashing Pumpkins(スマッシング・パンプキンズ)とか’90年代のオルタナを聴いてバンドを始めた人間なので。「Always」はRed Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)リのアルバム『Californication』(1999年)からの影響もあるかもしれないです。めちゃくちゃ似ているわけではないですけど、空気感は近い気がする。

ーカラッとしていながらチルな感じというか。「Always」の歌詞についてはいかがですか? 一聴すると、別れた恋人への未練を歌ったラブソングととらえられますが。

“ひとりぼっちの部屋でただ君のことを想っている”というのが表向きの設定ではありつつ、楽曲にサイケな色も足したいなと思って。そこからドラッグとかアルコールとかの中毒患者が依存から抜け出せないでいるという状況を、裏のシチュエーションとして入れたイメージですね。なのでシンプルな失恋ソングではないという。

ー「don’t you dare」の歌詞でも「それに手を出したら後戻りできないぞ」みたいな呼びかけをしていますよね。

僕はSFが大好きなんですけど、これは映画『マトリックス』をモチーフにしています。モーフィアスがネオに青と赤の錠剤を渡して、赤を飲むと本当の世界を見ることができて、青は今までと同じ安全だけど嘘の世界で過ごすことになると伝えるシーンがあるじゃないですか。あそこが大好きで、そのシーンを着想元にして「don’t you dare」で“それをするな”と言っているキャラクターは実は悪い奴で…という設定にしたんです。それを少しダサめのダンス・ビートに乗せて歌いました。

人生をかけた夢は、自分が信じるポップネスを持つヒットソングを作ること

ーSF好きとのことですが、以前別の動画インタビューでもサイバーパンクが好きだとおっしゃられていましたよね。「don’t you dare」はロックっぽいエレクトロで、9月に配信された80KIDZとのコラボ曲「Tonight」の方向性にも近い印象でした。

たしかに2000年代のニューエレクトロっぽさがありますよね。「Tonight」については、80KIDZの2人も彼らが出てきた頃のサウンドをイメージしているとおっしゃっていました。2000年代以降のエレクトロやエレクトロポップは、EP制作時にわりと研究していたラインです。

ーAnanさんと制作した「LET IT GO」については、彼とどういうイメージを共有していたのでしょうか?

「LET IT GO」はEPのなかでいちばんレトロフューチャー感の強い楽曲になりました。これは、今めちゃくちゃバズりまくってますけど、Chappell Roan(チャペル・ローン)を少し意識していましたね。彼女の昨年のアルバム『The Rise And Fall Of A Midwest Princess』が’80sポップを詰め込んだ感じの、すごくセンスのある作品で、かなり愛聴していたんです。その後、現在も大ヒット中の「Good Luck, Babe!」という曲を出したとき、本当に良い曲だと感じたし、ああいうソフトシンセのサウンドを自分も表現したいなと思った。あとJack Antonoff(ジャック・アントノフ)のバンド、Bleachers(ブリーチャーズ)も参考にしたかな。

ーEP収録の2曲「WONDER」と「Somewhere」もエレクトロポップ的なサウンドですね。

「WONDER」に関しては自分なりにDua Lipa(デュア・リパ)をめざしつつ、Lady Gaga(レディ・ガガ)が出てきた当初の感じも意識しました。「Somewhere」は結構’80年代ロックかな。Sky Ferreira(スカイ・フェレイラ)の2013年のアルバム『Night Time, My Time』が大好きなんですけど、あれも’80年代っぽいサウンドをあの時期に蘇らせた感じだったじゃないですか。あのアルバムはずっと目標ではあるんです。

ー今回のEPを『Somewhere』というタイトルにした理由は?

自分はアーティストとして、まだどこかに辿り着けてるわけではないという認識なんです。(タイトル曲の)「Somewhere」の歌詞も、ここではないどこかに行きたい人を主人公にしたんですけど、僕自身もさまよっている状態だと感じていて。その現時点の状態をストレートに出したいなと、このタイトルにしました。加えて、この言葉自体に’80年代っぽさもあるなと感じて。

ーフワフワしていて、ちょっと夢を見ているような感覚もありますよね。そんなTOSHさんがアーティストとして向かいたい場所、今回のEP『Somewhere』を経て次にやりたいことは?

今回のEPもポップな曲が揃ってはいるんですけど、一応インディロックとかオルタナと言われるものではあると思うんです。その魅力を大切にはしつつ、来年以降はより開けたことをやりたい。『Somewhere』は全編英語詞になりましたが、日本語詞も書きたいですし、言語面でもいろいろなアプローチをしたいと思っています。全方位的にもっとポップなものをめざしていきたいと現時点では考えています。まだ、具体的に定まってはいないんですけど。

ーアーティストがひとつ大きなフィールドに行くタイミングでの楽曲って聴き手も高揚できますしね。楽しみにしています。

やっぱり昔からヒットソングを出したいとは思っているんです。どんな手を使ってもとか、売れ線を狙ってとかではなく、ちゃんと自分が信じているポップネスを持つヒットソングを作りたい。 10年後や20年後に、多くの人が「TOSHってアーティストがこんな曲を出してたね」みたいに思える曲をひとつだけでも届けたい。それは人生をかけての夢ですね。

RELEASE INFORMATION

TOSH New Single「Always」

2024年10月9日(水)リリース
Label:SKID ZERO

▼各種URL
https://big-up.style/kpV8C7SnSQ

TOSH New EP『Somewhere』

2024年11月6日(水)リリース
Label:SKID ZERO

1. Somewhere
2. LET IT GO
3. Always
4. don’t you dare
5. WONDER

LIVE INFORMATION

The Edge of Night – vol.1

■東京公演(BAND SET)
2024年12月13(金)at 東京・代官山SPACE ODD
OPEN 18:30 / START 19:00
TICKET:¥4,500(+1D)
U-23 TICKET:¥3,500(+1D)
Guest : Acidclank(Band set)and more…

▼チケット購入URL
https://eplus.jp/tosh/

■沖縄編(DJ SET)
2025年1月12日(日)沖縄Output
OPEN 18:30 / START 19:00
TICKET:¥4,500(+1D)
U-23 TICKET:¥3,500(+1D)
Guest : ワンチャイコネクションand more…

▼チケット購入URL
https://eplus.jp/sf/detail/4187160001-P0030001

BIG UP!

『BIG UP!』はエイベックスが運営する音楽配信代行サービス。 配信申請手数料『0円』で誰でも世界中に音楽を配信することが可能で、様々なサービスでアーティストの音楽活動をサポート。また、企業やイベントとタッグを組んだオーディションの開催やイベントチケットの販売や楽曲の版権管理、CDパッケージ制作などアーティスト活動に役立つサービスも充実している。

さらに、音楽メディアも運営しており、BIG UP!スタッフによるプレイリスト配信、インタビュー、レビューなどアーティストの魅力を広く紹介している。

▼official site
https://big-up.style/

BIG UP!のアーティストをセレクトしたプレイリスト『DIG UP! – J-Indie -』

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TOSH(トッシュ)

2020年に那覇にて活動を開始。ロックを基盤にオルタナティブ、R&B、ポップ、インディロックなど、さまざまなジャンルを横断する沖縄出身・在住のシンガーソングライター。

iPad、ギター、ベースと、マイクの代わりにiPhoneの純正イヤフォンを使用し、GarageBandで制作した1st EP『INMYROOM.』がSpotifyのプレイリストに多数選曲。LogicProへ移行し制作した2nd EP『Something'sWrong』(2022年)は、海外メディアやSpotify公式プレイリスト「Edge!」に選曲されるなど、感度の高いリスナーから注目を集めた。
また、都市型音楽フェス<SYNCHRONICITY>や沖縄で開催されるショーケースフェス<MusicLaneOkinawa>など国内のフェスはもちろん、2023年にはモンゴル・韓国・台湾など海外アジアのフェスにも出演。国内のみならずアジア各国にも活動の幅を広げている。

さらに、2024年11月6日(水)にはEP『Somewhere』をリリース。同年12月には、東京と沖縄にてリリース記念ライブ<The Edge of Night - vol.1>の開催を予定している。
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