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文: 保坂隆純 編:Mao Oya
ego apartmentが8月4日に3rdシングル「NEXT 2 U」をリリースした。サイパン島出身でリーダーのDyna(Ba. / Laptop)、SSWとしての活動でも仕立てる大阪市堺市出身のPeggy Doll(Gt. Vo.)、そしてシドニー出身のZen(Gt. Vo.)という変幻自在な2ボーカル・スタイルで注目を集めるego apartment。そのサウンドは一聴すると落ち着き払った印象を受けるが、その奥には高い熱量と大胆不敵な野心が顔を覗かせる。
トレンドに迎合するわけでもなく、奇を衒うわけでもないが、すでに独自の世界観を構築する3人のサウンドを紐解くべく、今回はオンラインにてインタビューを敢行。それぞれのルーツや出会い、そしてバンドの今後について語ってもらった。
―3人の出会いについて教えて下さい。
Dyna:
出会いはInstagramのDMですね。僕がカッコいいなと思った2人に声を掛けました。Zenはたまたま歌っている投稿を見つけて、すげーカッコいいなって思ったのと、プロフィールに張ってあったSoundCloudもチェックして、声がめちゃくちゃいいなって。Peggyは誰かのストーリーで曲を聴いて、同じく速攻でDMしました。「一緒に音楽やってください」って。―Zenさんはそのときどのような曲を歌っていたのでしょうか。
Dyna:
卒業式の前の日にMisfitsの「Last Caress」を歌った動画を投稿していたり、あとオリジナルも良かったですね。一番最初のやつ、何ていう曲だったけ?Zen:
「Burger King」かな。Dyna:
そうだ。その曲が特にカッコよくて声掛けようって思いました。―DynaさんからDMがきたとき、Peggy DollさんとZenさんはどのように思いましたか?
Peggy Doll:
最初は軽く音楽の話をしただけなんですけど、ちょっと経ってから再度DynaのInstagramの投稿を見てみたら、シンセや機材を並べて演奏したり制作している姿に興味が湧いて。それからDynaの家に遊びに行くことになって、色々な話をしているうちに、いつの間にかにバンドを組む流れになっていました(笑)。Dyna:
とりあえず2人とも家に呼びましたね。Zen:
そうそう。僕もDynaの家に遊びに行って、その段階で気が合うなって感じました。最初に遊びに行ったとき、すぐに曲ができて。あと、機材がいっぱいあってビックリしました。―3人でバンドを結成しようというヴィジョンが見えてきたのはいつ頃なのでしょうか?
Dyna:
アニメやゲーム、映画などの音楽に惹かれることが多かったです。それは今の作詞のスタイルにも活きていると思い実際に会って、すぐに浮かんできましたね。Zenはパンチの効いた歌声を持っているし、Peggy Dollはメロディ・ラインを作るのが上手いし、Zenとはまた違ったタイプの声質を持っていて。ただ、2人に打ち明けたのはちょっと時間経ってから、去年の冬くらいですね。―それぞれの音楽的ルーツについてもお聞きしたいです。まずはDynaさんから。
Dyna:
父親がBOØWYやZIGGY、RCサクセションなどの日本のロックが大好きで。車の中でいつも流れていたことを覚えています。中学の時にそういった音楽をコピーするバンドを組んで、自分はベースを担当していました。それから色々な音楽を掘っていくうちに洋楽も聴くようになって、Red Hot Chili Peppersに出会ってからはより深く音楽にのめり込むようになりました。―資料によると、高校、大学在籍中はEDMにハマり、DTMを始めたと。
Dyna:
好きなバンドや尊敬しているアーティストはたくさんいるんですけど、特定の方から強く影響を受けたという自覚はなくて。誰とも同じ人生を歩みたくないという気持ちもあるので、誰かをお手本にしたいと思ったこともないんですよね。―映画はどのような作品が好きだったのでしょうか?
Dyna:
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『グーニーズ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『ジョーズ』、『ショーシャンクの空に』などなど……挙げたらキリがないですね。最近はよくホラー映画を観ています。―では、お次はPeggy Dollさんの音楽を始めたきっかけやルーツを教えてもらえますか?
Peggy Doll:
初めてライブをやったのは高校2年のとき。当時はアコギで弾き語りをやっていました。バンドもいくつか組んでみたんですけど、どれもあまり上手く行かなかったので、SNSにカバー動画などをUPしたりしていました。―別のインタビューではブラック・ミュージックとの出会いが大きな契機になったとのことでした。そのときのことについても教えてもらえますか?
Peggy Doll:
中学2年生くらいのとき、それまではGReeeeNや清水翔太さんなどのJ-POPや、母が好きなサザンオールスターズ、兄が聴いていたSpinna B-ILLなどを耳にすることはあっても、そこまで夢中にはなれなかったんです。そんなあるとき、『ハモネプ』(フジテレビ系列『力の限りゴーゴゴー!!』内の人気コーナー)に出演していたjokerというユニットのパフォーマンスに強く惹かれて。彼らのキャッチ・コピーが「米国流ハーモニー」だったので、アメリカのポップスの名曲をディグってみようって思ったんです。―なるほど。
Peggy Doll:
Dynaと違って僕はロックはあまり通っていなくて、リズムの取り方やメロディの乗せ方も、そういったブラック・ミュージックからの影響が強いと思います。―では、最後にZenさんも。
Zen:
小さい頃、父親からはクラシックばかり聴かされていて。でも、そんな中でもお母さんからこっそり聴かせてもらったWham!も強く記憶に残っています。ノイズなどのアヴァンギャルドな音楽も好きな一方で、甘いポップスも好きなのはその体験が残ってるからかもしれません。―Wham!を「こっそり聴かせてもらった」とのことですが、お父さんは厳しい方だったのでしょうか?
Zen:
いえ、全然そんなことはなくて。教育上の観点から小さい頃はクラシックを聴かせた方がいいって考えてたみたいで、実際にはボサノバやニューウェーヴ/ノーウェーヴなどもよく聴いていて。一緒にArto Lindsayのライブにも行ったことがあります。―とてもいいお父さんですね(笑)。ちなみに、AC/DCはどういったところに惹かれましたか?
Zen:
Angus Youngの動き回りながらギターを弾きまくる姿に魅了されて。一時期は「Back In Black」を毎日練習していました。―では、3人それぞれが残りの2人のメンバーをどのように見ているのか、捉えているのかを教えてもらえますか?
Dyna:
Zenは物事に対する考え方が普通じゃなくて、何か質問すると想定外の返答がきたり、まだ掴みきれてないところも含めておもしろいですね。音楽的なことを言うと、何よりも声が魅力。あとはいきなり「BPMを倍にしよう」とか、わけわからんことを言い出すのも彼のおもしろいところだと思います。Peggyはまさにメロディ・メイカーという感じ。どんなに乗せにくいトラックでもメロディを作ってくれます。人間的に言うと自由人だと思うんですけど、それは3人とも共通してるかもしれない(笑)。
Zen:
Dynaは何事にも挑戦的で、エネルギーの塊にステロイド注射したみたいな人間です。Peggyは細部に気がつくというか、僕が細かい歌い方やブレスの位置まで気にするようになったのは彼の影響で。どちらからも刺激をもらっています。Peggy Doll:
Dynaは理性30%、本能70%で生きてるやつだと思います。Dyna:
的確やな(笑)。Peggy Doll:
「それはやめとけ!」って言うときもあるんですけど、持ってるセンスはピカイチですし、リーダーとしてみんなを引っ張っていってくれる頼もしさがあります。Zenは……理性的なふりをしています(笑)。Dynaも言ってましたけど、ちょっとわけわからんところがあって、曲もめっちゃいいものを作ってくるときもあれば、理解できんようなやつを持ってくるときもあって。でも、どちらにも彼の魅力は出ているんですよね。―実際に3人でバンドを結成するにあたって、どういったサウンドやスタイルを思い描いていましたか?
Dyna:
誰の真似でもない、今までにない新しい音楽が作れるはずだって思ってたし、実際に今、それが実現できているなと思っています。例えば、パンク・ロックなサウンドからサビではいきなりドラムンベースになったり、そういう突拍子もないアイディアをよく3人では話し合っています。―ちなみに、3人で一番最初に作った曲はどのような作品でしたか?
Dyna:
最新シングル「NEXT 2 U」が一番最初にできた曲です。あの曲はZenと初めて会った日に生まれた曲で。その次にできたのが2ndシングルの「SUN DOWN」。―2人で作ったデモに、後からPeggy Dollさんが加わったと。
Dyna:
そうです。特に「NEXT 2 U」は2番でガラッとメロディを変えてくれたりして。2人だけじゃなくて、3人のコラボレーションででき上がった曲になります。―「NEXT 2 U」は最初にどういったところから膨らませていったのでしょうか。
Dyna:
Zenがコードを弾いていて。「それいいやん、録ろうや」ってなって、音を乗せてった感じですね。―妖艶な色気を醸し出しているギター・リフも印象的ですが、そういったパーツも自然と生まれてきたと。
Dyna:
はい。僕らの場合、頭で考えるというよりかなり感覚に頼っている部分が多くて。「これ、カッコよくね?」を突き詰めていった結果が作品になるというか。Zen:
Dynaの部屋には集まると曲が自然と生まれてくるような、そんなエネルギーがあるような気がしています。―では、後から参加したというPeggy Dollさんは、この曲をどのようにアレンジしていったのでしょうか。
Peggy Doll:
Zenのボーカルもシンプルなメロディもめちゃめちゃカッコいいなと思いました。ただ、僕とZenは声色が全然違うので、似たようなアプローチではなく、思いっきり変えてやろうという気持ちでアレンジしていきました。Dyna:
Peggyが新しい展開を作ってくれたことによって、ループ・ミュージックでなく、1番、2番という構成ができて、よりグルーヴィーな曲になったと思います。Zen:
Peggyが歌うことによって、同じメロディでも違うように聴こえるんですよね。彼が加わることで、初めて完成するというか、そんな印象を受けました。―リリックはどのように書いているのでしょうか。
Zen:
「NEXT 2 U」に関してはサビから思い付いて、そこから映画のようなイメージ、物語りが浮かんできたので、それをリリックに落とし込みました。Peggy Doll:
僕が歌っているパートは自分で書いたのですが、大まかなテーマを共有してもらって、リリックでも自分らしい表現を突き詰めました。―では、「NEXT 2 U」に続いてできた曲であり、バンドとしては2ndシングルに当たる「SUN DOWN」の制作プロセスについても教えてもらえますか?
Zen:
あの曲もコード進行から思いついて、組んでいった感じですね。シンセ・ベース入れて「めっちゃいいやん!」ってなったのを覚えていますね。Dyna:
あの曲に関しては、メロディよりもトラック先行でしたね。曲ができてから、歌メロを考えていきました。―「SUN DOWN」はレイドバックしたミディアム・スローなナンバーですよね。1stシングルとなる「1998」とこの2曲は裏打ちのギターやダビーなベースラインなどから、どことなくレゲエてきなも感じました。
Dyna:
それはおもしろいですね。僕らは誰もレゲエは通ってないし、制作中も意識してはいないですね。個人的には「SUN DOWN」はロックで、「1998」はロックとR&Bの間のようなイメージで作っていました。Zen:
でも、確かに「SUN DOWN」のギターのディレイの感じとかはレゲエっぽく聴こえるかもしれないですね。Peggy Doll:
色々な音楽に影響を受けてきた3人が合わさることで、自分たちでも予期せぬサウンドが生まれていて。だからこそ、聴く人によって色々なイメージを持ってもらえるのかもしれません。―お三方の生まれ年をタイトルとする「1998」はどのようにしてできた曲ですか?
Dyna:
「1998」はPeggy Dollが16小節くらいのデモを送ってきてくれて、そこから展開を組んでいったという感じです。Peggy Doll:
最初にギターを弾いていて、ギターとベースラインが思いついて。作ったときはレゲエをイメージしていたわけではないのですが、僕はいつも変な曲を作りたいなと考えていて。Childish Gambinoが大好きなのですが、彼の作品もすごく変な曲が多いなって思うんですけど、そういった違和感が記憶に残る要素に繋がるのかなと。「1998」もそういったことを意識しながら作っていました。―その違和感を意識するというのは、ソロ・プロジェクトの作曲にも通ずることなのでしょうか。
Peggy Doll:
一緒ですね。ただ、今はあまりソロのことは考えていなくて、最近ではより“バンドであること”を意識しするようになりました。デモ段階から自分だけが歌うのではなく、ZenやDynaが後から加わることも想定して作るようになったというか。Dyna:
それが今のego apartmentの課題でもありますね。もっとバンド感を出したいなと思っています。―リリックの方はいかがですか? まるで映画のセリフのようなキザな言葉が印象的です。
Dyna:
この曲はセクシーなリリックを目指しました。僕は英語ができないので、「こういう内容にしたい」っていうのを2人に伝えて書いてもらって。Peggy Doll:
リリックは僕とZenが書いていますけど、「1998」に関してはかなりDynaのカラーが強く出てますね。Dyna:
2人が歌っているからといって、必ずしも彼らの人間性が出ているわけではないですね。3人とも作曲脳を持っているので、誰かひとりのカラーや人間性を前面に出すバンドではない。そういった点もおもしろがってもらえたら嬉しいですね。―これまで発表されてきた3曲はどこか哀愁漂う空気感が共通しているなと思いました。きっとそういった要素も自然と出てくるものなのかなと思うのですが。
Peggy Doll:
Dynaはそうでもないと思うけど、僕とZenは陰キャなので。Dyna:
そこは関係ないやろ(笑)。Peggy Doll:
Dynaもそんなに明るいやつではないけど、悲しさというか、この世界に対する「もうええわ」っていう気持ち、感覚は3人とも共通して持っている気がして。それが自然と曲に出てるのかなって思います。Dyna:
確かに。3人とも社会に対する不満とかネガティブな気持ちは持ってると思いますね。それが自然と音楽にも出ているのかもしれないです。―バンドの今後についてもお聞きしたいです。先ほどおっしゃっていた「ego apartmentの課題」という部分について、もう少し詳しく教えてもらえますか?
Dyna:
初期の頃に作っていた曲はわりと歌い切る感じの曲が多かったのですが、ライブの回数を重ねていくうちに、ライブでウケる曲はまた別だなって感じたり。やっぱりライブ感の出る曲も必要だなと思うようになりました。明確な課題を挙げるとするとそこですね。すでにアップテンポなデモ曲などもできているので、今後のego apartmentを楽しみにしてもらえたらなと。―制作プロセスの方はいかがでしょうか。共同作業を繰り返すうちに、それぞれの役割などが最適化されてきた感覚はありますか?
Dyna:
はい。作曲、トラックメイクの面は主に僕が、メロディや歌詞は2人が中心になって考えてもらう。そういった形がハマってきたような気がしていて、制作もよりスムーズに進むようになりました。曲によってはPeggyが作ってくれたデモを、僕がちょっと音色を整えて仕上げたものもあったり、色々なパターンはあるのですが。―バンドであることの強みやおもしろさについてはどのように考えていますか? 特にDynaさんは様々なスタイルでの音楽活動を経ていますし、ひとりで音楽制作を完結させることが簡単になったこの時代に、敢えてバンドで音楽を作る意味とは?
Dyna:
僕としてはカッコいい音楽を作ることを追求していったら、たまたまバンドという形式になったというだけで、とくにこだわりがあるわけではないんです。ただ、ひとりだったら生まれなかったアイディアが出てきたり、単純にソングライターが3人いるっていうのは大きな利点だと思いますね。―ソングライターが3人いるからこその苦労もあるのでは? それぞれの意見やアイディアをまとめるのも大変そうだなと思います。
Dyna:
そうですね。確かに難しい点でもあるんですけど、そういう話し合いはカッコいい作品を作るためには必要な過程だと思っていて。個人的にはマイナス面だとは感じていません。―なるほど。では、ego apartmentとしての夢や目標を挙げるとすると?
Dyna:
グラミー賞に入るくらいのアーティストになりたいですね。Zen:
短期的な目標としてはツアーをしたいです。日本だけでなく、アジア圏なども回れたらいいなと。Peggy Doll:
僕らは海外の音楽に大きな影響を受けてきたので、そういった海外の方々に、自分たちの音楽を自然に聴いてもらえるようになったら嬉しいですね。日本のアーティストが海外に進出するときって、ことさらに“日本から海外へ”っていうこと意識したり、敢えて打ち出したりするじゃないですか。そういう感じではなく、日本発のバンドといった前情報は抜きにして当たり前に聴いてもらえたら嬉しいですね。LIVE INFOMATION
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