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DJ/プロデューサーとしてヒップホップ、クラブミュージック・シーンで活躍するほか、向井太一やiri、eillなどポップ・シーンで活躍するアーティストのプロデュース、リミックスなども手がけるgrooveman Spotが夏の終りに滑り込むようにして発表した最新アルバム『LUV 4 ME』。どことなく西海岸を想起させるレイドバック感や、開放感溢れるサウンド・プロダクションは、これまでのソロ作品というよりは、どちらかというと近年の外部ワークスとのリンクを感じさせる。
今回は宮城は仙台を拠点とするgrooveman Spotにオンライン上でインタビューを実施。およそ7年ぶり、通算7作目のフルアルバムとなった『LUV 4 ME』について。また、直近の制作環境、心境の変化など、話題は多岐にわたった。
―コロナ禍以降の活動はいかがですか?
去年の3月まではイベント出演もしてたんですけど、4月からは一気になくなって。それ以降は野外イベントなどに少し出させてもらったくらい。基本的に僕は現場で色々な人のDJやライブからインスピレーションを受けることが多いのですが、それもなくなってしまって。自分でストリーミング・サービスなどで新たなインスピレーション源を探したりもしたのですが、限界を感じてしまって。そういう意味では結構苦しかったですね。
―現場数が減った一方で、昨年からは縁のあるボーカリストとのコラボ企画が始動したり、ビート・アルバムの第4作目『Resynthesis -Yellow-』やアフリカン・サウンドにフィーチャーしたEP『FO-LI-KUCHEZA』を発表したりと、自身名義での作品発表は増えたように思います。ご自身でも制作ペースは変わったと思いますか?
制作が早くなったというよりは、以前だったらもっと考えてリリースの計画を立てていくと思うんですけど、こういう状況になったことで、出し惜しむ必要があるのかって思うようになったんです。
7年ぶりのアルバムを出す前に、ビートテープとかアフリカンなEP、歌モノのシングルとか色々発表して、わけわかんなくなっちゃうだろうなとは思いつつも、すでに僕はこういう風に色々なスタイルの音楽を作る人だということが定着してるだろうし、いいかなって思うようになりました。
―なるほど。
元々配信に関しては委託していたんですけど、コロナ禍以降は自分でやるようになって。それも大きいですね。SpotifyやApple Musicだけでなく、Bandcampでもスピーディーに発表できるようになりました。あと、現場がなくなった分、作品を積極的に発表していかなきゃっていう思いももちろんありました。
―コロナ禍以降、DJの配信も増えましたが、そういったことへの挑戦は?
DJ配信に関しては肯定的に捉えていますし、僕自身も出させてもらったこともあるんですけど、個人的にはまた現場が戻ってきたときに、DJできることの嬉しさ、デカい音で好きな曲をみんなと一緒に聴ける楽しさを取っておきたいという気持ちがあって。意識的に溜めている部分もあります(笑)。
―コロナ禍で音楽的なインプットも変化したとのことでしたが、『LUV 4 ME』を含む直近の作品における制作手法も変わりましたか?
そもそも、自分名義の作品ではこれまでインスト中心で勝負してきていて、ボーカル入りの作品を作るのもかなり久しぶりだったんです。自分の作品だといつ以来になるんだろう……。
―2012年発表の『Paradox』以来でしょうか。
そうですね。あの作品を制作したときの気持ちは忘れられません。30歳を迎えて、そろそろ人生の方向性を決めなくちゃっていうときに震災(東日本大震災)を機に地元の仙台に帰って。そこで色々なしがらみから開放されて、自由になった。東京に住んでいたときは、高い家賃や生活にかかるコストがプレッシャーになっていて。仕事として、稼ぐために音楽を作るというスタイルは僕にはあまりフィットしていなかったみたいで。地元に帰ったときに、まっさらな気持ちで音楽を作れるようになったことに自分でも驚きました。
その後、「この曲、とても素晴らしいのでリミックスさせてもらえませんか?」って自分から連絡を取ったのが七尾旅人くんで、そこから「サーカスナイト」のリミックスがリリースされることになったり。とにかく自分の「やりたい」という純粋な気持ちだけで動くことができた。『Paradox』はそんな心境で作った作品だったんです。
……話が逸れてしまいましたが、そこから10年ほど経った今、変わったことといえば徐々に歌に寄ってきた気がしています。ヒップホップやディープなダンス・ミュージックを作ってはいるのですが、普段家で聴く音楽はR&Bやソウルなどの歌モノが多くて。コロナ禍以降は家から出なくなったので、さらにその傾向が深まりました。でも、自分は歌うことができないので、サンプリングしてトラックに組み込めないか、とか試行錯誤していました。
―歌に寄ってきたというのは、ここ数年増えた外部ワークの影響もあるのではないでしょうか。
それはあると思いますね。音楽を作り始めた20歳くらいのときはサンプリングでしか作れなかったのに、よくここまで鍵盤を弾けるようになったなと自分でも思います。元々R&Bやニュー・ジャック・スウィングも好きだったので、5年前から販売目的ではなく、趣味というか自分用でブートのリミックスを作ってたんです。そういった音源をSoundCloudにUPしてたら、某レーベルのA&Rの方の耳に止まったみたいで。そこから向井太一くんの作品に関わらせてもらえたり。徐々にポップ・フィールドでの依頼を頂けるようになって。
―ビートやインストを作っているときと、歌モノの作品を制作しているときでは、意識を切り替えているという自覚はありますか?
それはないです。自分でも不思議なくらい、作っているときは同じ感覚で。というのも、僕はR&Bはこうでなくちゃとか、これはテクノじゃないとか、そういう決まりやセオリーに縛られるのはあまり好きではなくて。どちらかというと、ポップなR&Bに一瞬テクノみたいな変な音が入っていたり。そういった違和感を感じさせる作品の方が惹かれるし、自分でもそういったことを意識して制作しているからこそ、両軸が成り立っているんじゃないかなと。
―では『LUV 4 ME』について教えて下さい。そもそもアルバムの構想はいつ頃、どのようにして生まれてきたのでしょうか。
昨年の夏前くらいだったと思います。きっかけはaimiちゃんとの出会いで。aimiちゃんと仲のいい(※)DJのDaBookくんが「よかったら聴いてください」って彼女の音源を送ってきてくれて。そのフォルダにアカペラも入ってたんですよ。僕にこれを送ってくるということは、挑戦状だなと思って(笑)。
音源も素晴らしかったし、すぐにアイディアも湧いてきたのでその日のうちにリミックスを作って送り返したら、「最高です」と(笑)。結果、7インチ・リリースにも至りました。
※DaBookはDJのAKITO(Chilly Source)とaimiと共にblock.fmのラジオ番組『Vibe-In Radio』のパーソナリティを務めている。
―grooveman Spotさんから見た、aimiさんの魅力というのは?
歌声が魅力的だし、すごく安定している。いい意味でジャパナイズされていないというか、英語も流麗だし、US寄りの歌い方も様になっていて。リミックスした段階で、自分のビートとの相性のよさを感じたので、一緒にオリジナル曲を作りたいというところから、アルバムへと繋がっていきました。
それ以前にもぼんやりと「こういう曲を作りたい」と考えていたリストのようなものが頭の中にあって。最初は5〜6曲のEPになるかなと思ってたんですけど、作り始めたらアルバムのボリュームになってしまって。
―『LUV 4 ME』というタイトルはどこから出てきたのでしょうか?
コロナ禍になって色々な情報も飛び交い、何を信じていいかもわからなくなったりして。そんな状況下でも音楽を作っていくためには、まずは自分のやっている音楽を信じないとダメだなと。自分自身に対する愛情を持たないと、いい作品は作れないだろうというところから、『LUV 4 ME』というタイトルが出てきて。“愛”をテーマにアルバムを作ることにしました。
―aimiさん以外のゲストの方についてもお聞きしたいです。Daichi Yamamotoさんはレーベル・メイトですし、Daichi Yamamotoさんの作品ではすでに複数共作が行われています。
彼は僕からのラブコールで2019年の「Escape」から、これまでに4曲ほど一緒に作らせてもらっています。今作への参加もすごく自然流れでしたね。
―aimiさんやDaichi Yamamotoさん参加曲のような、歌モノを制作するときはどこまでディレクションというか、舵を取っているのでしょう?
テーマやいくつかのワードをお投げしたりはします。ただ、今回は2人とも外さないだろうと確信していたので、アルバム・タイトルは『LUV 4 ME』なので、“愛”をテーマとした曲を作りたいっていうことしか伝えてないです。あとはaimiさんとFurui Rihoさんの「The Wave」がすごくよかったので、英語と日本語の比率を半々くらいにしたいという話はしました。
(Daichi YamamotoとKzyboostが参加している)「Til’ Of Summer」は彼がアルバム制作で大変だっていう話を聞いて、息抜きがてら仙台に遊びに来れば? って言ったら本当に来てくれて。しかもKzyboostも一緒に(笑)。
そしたら大きな地震が来て、帰る予定の新幹線が止まっちゃって、延泊することになったんです。《寿司でも食おう仙台駅前》というリリックは完全にそのときのことですね。彼って少しミステリアスというか、コンシャスというか、そういうイメージがあると思うんですけど、話してみると意外とおもしろくて、かわいい一面もあるんです。あの曲にはそういった部分もよく出ていて、自分でも気に入っています。
―トークボクサーのKzyboostさんは今作にも4曲で参加していますし、外部ワークスでもよくタッグを組んでますよね。
彼との付き合いはもう5年くらいになりますね。昔、大阪にDJしに行ったときに知人に紹介してもらって。あるとき、僕がSoundCloudにUPしていた某R&Bのリミックスをトークボックスでカバーさせてもらえないかって連絡がきて。インストを送ってあげて、それ以降ライブでよくカバーしてくれるようになって。それからよく連絡を取り合う仲になりました。お互い好きな音楽が近いし、「ここにシンセ/トークボックス入れてくれない?」っていう感じで、よく共作しています。頼むと毎回こちらの期待以上のものを返してくるので、「わかってるね〜」って唸らされます(笑)。
―今作にはもうひとり、Kashifさんもゲスト参加しています。
Pan Pacific Playa(※)やLUVRAW & BTBと仲良くなったときに知り合って。LUVRAW & BTBと一緒に「LBG – Groove With You」を作ったときにギターを入れてくれたんですけど……あの人、本当に天才なんです。
※Kashifも所属する横浜を拠点とするクルー
何も言わなくても伝わるんですよね。こちらがトラックをお投げしたら、メインのフレーズからオカズやギター・ソロなんかも曲に合わせて追加してくれたり。彼と知り合って以降、僕の曲に入っているギターは全てKashifくんにお願いしています。SHAKKAZOMBIEトリビュート企画でこの前リリースされた「BIG BLUE (MURO’s KG Remix)」にも、実は僕とKashifくんが参加していて。「KG Remix」というのはKashifくんと僕のことです(笑)。
―ただ、フィーチャリング表記はおそらく今回が初めてですよね。
そうなんです。ここ最近の流れとして、ボーカリストやラッパー以外の演奏者もフィーチャリング表記することが多くなりましたよね。皆等しくリスペクトしているという意味でも、そうやって表記するのはすごくいいことだなと思って、今回クレジットさせてもらいました。
―今作を経た上での、次なる制作への意欲やアイディアは湧いてきていますか?
実は今作の続編的な作品も作ってみたいなと思っていて。こういうメロウなニュアンスは引き継ぎながらも、もっともっと色々なタイプの曲が作れるんじゃないかなと考えています。あとは日本のR&Bシンガーの方とはもっと一緒に曲を作っていきたいですね。Ella Mai(エラ・メイ)とかJhené Aiko(ジェネイ・アイコ)みたいな直球のR&Bで、クラブでも盛り上がる作品って日本ではそんなに多くないと思っていて。そういった作品やシーンを生み出すことに携われたら嬉しいですね。
―近年の日本におけるR&Bについてはどう感じていますか? 何か変化を感じていますか?
変わってきていますよね。それこそiriさんやSIRUPさんなどがやっているポップなサウンドは、韓国のR&B系アーティストとの親和性も感じるし、僕も大好きです。それに加えて、ドギツいベースが効いたフロアユースなR&Bも出てきたらおもしろいんじゃないかなって思っています。
―過去のインタビューで、grooveman Spotが「音楽は科学」であり「常に進化している」とおっしゃっていたのが印象的でした。今はどこが最先端か、人によってバラバラな回答が返ってくるような状況だと思いますが、grooveman Spotの目線でみた、“最先端”の音楽とは?
自分のフィールドで考えると、やはりヒップホップで語ることになるのですが、ここ最近ではレコードとサンプラーを持っていた人だけじゃなくて、しっかりと楽器を学んできた凄腕のプレイヤーもヒップホップを作る時代になっていて。Robert Glasper(ロバート・グラスパー)もそうですし、この前リリースされたCommon(コモン)のアルバムも、クレジットを見たらほとんどの曲でKarriem Rigginsがドラムを叩いていたり。より音楽的に、よりクロスオーバーな状況になってきていますよね。ラップじゃないラップ・ミュージックもあるし、セオリーもルールも拡張されてきた。ただ、そういった状況下で、敢えてシンプルなワンループで勝負してみたいという、変化球狙いな気持ちも相変わらずあるのですが(笑)。
―では最後に、grooveman Spotの今後の展望について教えて下さい。
海外に行けるような状況になったら、各地にいる素晴らしいアーティストと交流して、日本に持ち帰ってきたいというか、広げていきたいなと。ストリーミング・サービスやSoundCloudでディグってると、素晴らしい才能を持っているのに、まだまだアンダーグラウンドな活動をしているアーティストがたくさん見つけられるんです。特に気になってるのはニュージーランドや韓国ですね。コロナで外に出れない分、今はそういう情報をたくさん溜めておきたいですね。自分の作品でもコラボできたら嬉しいです。
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