パスピエの“ありのままの創作”。『ニュイ』から探る今のモード|BIG UP! Stars #69

BIG UP! Stars

文: 黒田隆太朗  写:遥南 碧  編:Mao Ohya 

DIGLE MAGAZINEが音楽配信代行サービスをはじめ様々な形でアーティストをサポートしている『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第69回目はパスピエが登場。

フランス語で「夜」を意味する「ニュイ」と名付けられた、7作目のアルバムをリリースしたパスピエ。バンド名もフランスの作曲家、クロード・ドビュッシーの組曲から取られていることもあり、語感からもどことなく親和性を感じる作品だ。《今こそあけぼの》と歌われる「深海前夜」は、成田ハネダ(key)が音楽的にも手応えを感じたという曲であると同時に、本作に込められたメッセージをうっすらと浮かび上がらせる曲でもあるのだろう。「ニュイ」というタイトルについて大胡田なつき(Vo)は、“世界が明るく夜明けを迎えていくといいな”、という願いを込めたと語っている。

爽やかな気分を感じるニューウェイブ「グッド・バイ」、開放的なメロディと歪んだサウンドを結びつけた「言わなきゃ」、EDMからの影響を落とし込んだという「はらりひらり」、そしてここ数年取り組んできたヒップホップを咀嚼していく方向性から生まれたであろう「ミュージック」など、相変わらず1曲ごとに強烈な個性を打ち出していく作風が印象的である。大胡田が書く陰影に富んだ歌詞も美しく、クリエイティブには益々磨きがかかっているように思う。“ありのままの創作”をしているという今のパスピエのモードについて、成田と大胡田のふたりに語ってもらった。

新たな表現法を見出した「グッド・バイ

『ニュイ』というタイトルは響きがいいですね。

インタビュイー画像

大胡田なつき:

そうなんです、字面と響きがおもしろ可愛いなと思ってつけました。

ーフランス語で“夜”を意味する言葉だそうですね。

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大胡田なつき:

ブルーニュイという色から取っているんですけど、並べて聴いた時にアルバムのイメージとして青系の色が浮かんだんですよね。青って青空のような爽快なイメージと、ちょっと憂鬱なイメージのふたつの側面を持っている色だと思うんですけど、そういう楽曲が多いと思ったのかな。タイトルにはこのアルバムをきっかけに、世界が明るく夜明けを迎えていくといいな、という意味も込めています。

ー昨年リリースしたアルバム(『synonym』)からちょうど1年ですが、制作はどんなところから始まっていきましたか?

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成田ハネダ:

作ることは日常の一部みたいな感じなので、作ろう…!って意気込むようなトピックはなかったんですけど、去年から今年にかけて(社会の)状況が様変わりしていく中で、自分たちの向いているベクトルが少しずつ変わってきている感覚はぼんやりとあって。前作のアルバムの時からグラデーションのように段々と変わってきて、そうした自分たち自身を作品に落とし込みたいなと思ったのが、最初にリリースした「グッド・バイ」です。そこが皮切りになった感じはあるかもしれないです。

ー社会の変化に影響を受けたところがあったと。

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成田ハネダ:

変わらず作っているつもりだったんですけど、やっぱ何かしら変わっていったんだろうなって思います。これまではライブが見えていたので、そこに向けて発散していく道筋があったけど、今は道筋を曲からも探り出さなくちゃいけないし、より内面的なものが音楽に投影されていったのかなって思います。

ー大胡田さんは歌詞の面で何か思うところはありますか?

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大胡田なつき:

ライブをはじめとして、何かを経験することが減ってしまったから、最初はファンタジー寄りの歌詞が増えるのかなって思っていたんですけど、逆に自分の内面について考える時間が増えたので、吐き出したくなった部分を歌詞にすることが多かったですね。

ーなるほど。

インタビュイー画像

大胡田なつき:

あと、今回は成田さんと一緒に書いた歌詞が結構あるんですよね。「言わなきゃ」もそうですし、「グッド・バイ」は成田さんが書いています。

ー「グッド・バイ」はまさに夜明けに向かうような曲ですね。

インタビュイー画像

成田ハネダ:

そういう質感が好きですね。大胡田のことをイメージしながら、大胡田じゃ書かないだろう言葉を意識しました。
インタビュイー画像

大胡田なつき:

でも、自分のメッセージも入っているでしょ? それも凄く感じる。
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成田ハネダ:

うん、多少なりとも入っているね。

ーサウンドはニューウェイヴ的なアプローチのポップな曲ですね。

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成田ハネダ:

2017年にドラムが脱退してから、年々トラックで曲作りすることが制作の一部になってきているんですけど。バンドでありながらトラックっぽいアプローチをしていく時、親和性が高いのってやっぱりニューウェイヴだったりするんですよね。

ーなるほど。

インタビュイー画像

成田ハネダ:

New Orderは自分の好きな音楽のひとつですし、日本でも90年代前半のプロデュースワークの女性歌手のポップソングも聴いていたので、制作にトラックが入ってくることで、バンドだけだったら表現できなかっただろう余白がどんどん出てきていて。「グッド・バイ」はそのひとつかなと思います。

ー「PLAYER」も80年代のシンセポップ風の曲かと思います。

インタビュイー画像

大胡田なつき:

パスピエってちょっと陰鬱な色があると思うので、Depeche Modeあたりのニュアンスが出せればいいなと思って音作りしてました。
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