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文: 保坂隆純 写:木村篤史 編:久野麻衣
山口出身のシンガー・ソングライター、上野大樹がニュー・シングル『東京』を9月2日にリリースした。
心象風景をセンチメンタルに描き出すリリック、そして繊細な歌声で若者を中心に支持を獲得する上野は、学生時代から数々のオーディションにて入賞を重ねるほか、自主企画を開催するなど東京を中心に注目を集めている新鋭だ。
どこか懐かしさを湛えつつ、時には息を呑むようなリアリティを突きつける言葉の数々には、非凡なる才能を強く感じさせる。
今回のインタビューでは、そんな1996年生まれの若きシンガー・ソングライターの本音に迫る。
―音楽を始めたきっかけは、怪我と病気でサッカーができなくなってからだそうですね。最初にギターを手にした時、どういった曲を練習しましたか?
それまでは全然音楽を聴いていなかったので、当時流行っていた曲をカバーしていましたね。それこそいきものがかりやコブクロなど。当時、ツイキャス(TwitCasting)が流行っていて、そこで弾き語りしている方の配信を観て、そこで聴いた曲を練習していました。
―ツイキャスは身近な存在だったのでしょうか?
実家が結構田舎の方なので、娯楽があまりないんですよね。それこそ怪我してからは家に引きこもるようになったので、YouTubeやツイキャスをよく利用するようになりました。
―ご自身でも配信をしていたとか。
はい。最初はいちリスナーとして人の配信を聴いてるだけだったんですけど、同じくツイキャスを聴いてる人から、「上野くんも配信してみたら?」と言われて始めたんです。
でも最初の頃は恥ずかしかったので、ギターをやったり配信していることは学校の友だちには内緒でひっそりとやっていました。真剣に音楽をやっていたというよりは趣味という感じで、部活もやっていなかったし、なんとなく自分の居場所作れたというか。そんな感覚でしたね。
―初ライブも、配信の視聴者からの声がきっかけだったそうですね。
そうですね。サッカーを辞めて、いきなりギター弾き語りやり始めたら周りから何を思われるんだろうって、少し怖い部分もあって。ライブもやってみたいけど、バレたくないし(笑)。オーディションなら受けてみてもいいかなって思って応募して、結果的にそれが初ライブになりました。
―その初ライブとなったYAMAHAのオーディション『Music Revolution』でグランプリを獲得したわけですが。その辺りから、音楽活動に対する気持ちなども変わりましたか?
いや、ちゃんとやろうって思ったのは去年くらいからですね。
―去年?
もちろん大学生になってからも音楽は続けていて、事務所にお世話になったりもしていたのですが、それでも学校とは違うもうひとつの居場所っていう感じだったんです。ただ、卒業が近づいてきて、就職するかどうするか考え始めて。留学とかも経験して、帰国してから「本気で音楽やってみよう」って思ったんです。今の制作チームと出会えたことも大きいですね。
―色々な経験を経て、ようやく音楽一本に絞る決意をしたと。
はい。今振り返ってみると、それまでの自分の音楽活動はどこか中途半端だったなと思える部分も多くて。ようやくどういう風に音楽を作っていこうとか、自分の身の振り方とかを真剣に考えられるようになったと思います。
―YAMAHAのオーディションのほかにも、『未確認フェスティバル 関東ファイナル』進出や『RO69JACK 2015 for COUNTDOWN JAPAN』入賞など、数々の実績がありましたが、それでも本気でなかったと。
もちろんすごく嬉しかったです。でも、子供が運動会で1等取ったみたいな感覚というか(笑)。その時はまだ、自分が音楽を生業にして生きていくっていう姿は想像できていなかったですね。
―ギターを手に取るまではあまり音楽を聴いていなかったとのことですが、今のスタイルに至るまで、影響を受けたアーティストや作品はありますか?
その時々で聴く音楽は結構変わる方なので、あまり特定のアーティストさんの名前を挙げるのは難しいかもしれません。ただ、僕は個人でやっているので、やっぱりバンドよりもソロ・アーティストさんの作品を聴くことの方が多いですね。
―高田渡さんにハマっていた時期もあったそうですね。
その時はすごいフォークに惹かれていて。当時の空気を内包しつつ、日常のリアルを歌っている。そういう歌詞にとても影響を受けました。年代は違いますけど七尾旅人さんとか、世の中のことを自分の曲に反映させているようなアーティストさんが好きですね。
―作曲においてどのような物事からインスピレーションを受けていますか?
前までは普段あったこと、思ったことを出てきたままに綴っていました。メロディも歌詞も同時に出てくるっていう感じでしたね。ただ、音楽に本気で向き合うようになってからはより作詞にかける時間が増えました。最近はメロディを先に作って、そこから歌録りのギリギリまで練り直したりします。「これは本当にいい歌詞なのか」ってじっくり悩んだり、色々な場所へ言って書いてみたり。とにかく時間をかけていますね。
―それぞれの作品において、最初からテーマや物語ありきで作るのでしょうか。それとも、作曲している途中で浮かんでくるのか。
どちらのケースもあります。最初から主題が強く思い浮かんでいる時は、そのまま曲が完成するまでテーマがブレることはないですね。ただ、最初の主題やストーリーが抽象的だったりすると、途中で方向転換したりします。
去年リリースした「青」っていう曲は、実際に知人の赤ちゃんが死んでしまったという重たい話が核になっているので、最初から最後までブレなかったです。でも、他の曲だと最初の作曲の入り口と完成形で結構変化しているものもありますね。
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