心にスッと優しく響く、いちやなぎの歌。心地よい表現はちょうど良い距離感から

early Reflection

文: 江藤勇也  編:Mao Ohya 

ポニーキャニオンとDIGLE MAGAZINEが新世代アーティストを発掘・サポートするプロジェクト『early Reflection』。14組目のアーティスト「いちやなぎ」が登場。

弾き語りを中心にバンド編成でも活動を行う京都在住のシンガーソングライター・いちやなぎ。生活に密着しすぎず、いつの間にかとりとめのない夢想へといなざう彼の歌は、日常のふとした瞬間にそっと寄り添うような独特の言葉と音色を放っている。

“表現の裾のが広がった”と本人が語る、2月23日にリリースされた「夜間飛行」はサン=テグジュペリの『人間の土地』から構想を得て、ドリーミーでロマンチックな上質な絵本のような1曲に仕上がった。

今回のインタビューでは、ルーツとなるThe Beatlesの話から楽曲制作の裏側まで、いちやなぎの音楽への向き合い方を聞いてみた。彼が目指す音楽は表現作品で一番心地よい位置。映画のワンシーンを観ているような、想像力を掻き立てる歌である。

物心つく頃からThe Beatlesがかかっていた

ー今回のインタビューで、いちやなぎさんを初めて知る方もいらっしゃると思います。まず、いちやなぎさんが音楽に興味を持ったきっかけを教えてもらえますか?

旅行やドライブに行く時に親が昔聴いていた曲をカーステレオでかけていて、The Beatlesが物心つく頃からかかっていました。その影響で僕の最初の趣味と言えるものがThe Beatlesだったので、それが原点ですね。

ーThe Beatlesの中で一番好きな曲は?

すごく難しい質問です。おそらくThe Beatlesが好きな人は悩むと思うんですけど、The Beatlesが最後にお客さんの前でやった<ルーフトップ・コンサート>っていう屋根の上でのライブが映画化されて、ちょうど最近それを観たので、今のところは「Get Back」ですかね。

ーいちやなぎさんが影響を受けたアーティストもThe Beatlesなんですかね。

一番影響を受けてるのはThe Beatlesなんですけど、かといって自分が歌っている歌や作曲にめちゃくちゃ色濃く影響しているかっていうのと微妙なところで。色々なアーティストから少しずつ影響を受けている感じですかね。

ーThe Beatlesがきっかけで音楽が好きになって、さらに楽器を弾くプレイヤー側になろうと思ったのはなぜですか?

兄の影響ですね。四つ上の兄が先にギターを弾いていて、一時はプロを目指すぐらい熱心にやっていたんです。僕が中学生で兄が高校生の時かな。隣の部屋からギターの音が漏れ聞こえていて、僕も弾いてみたいなって思うようになり、兄に内緒でこっそりギターを買いました。兄に影響を受けたって思われたくなかったので、クローゼットにギターを隠しながら練習してて、それがきっかけですね。

ー当時、お兄さんの音楽性と自分の音楽性は近かったですか?

兄の部屋に勝手に忍び込んで、本棚に置いてあるCDを勝手に聴くっていうのを続けていたので、中学から高校ぐらいの頃までは兄を追いかけるようにして聴いていました。

ー人前に立って歌い始めたのはいつ頃ですか?そこに至った経緯を教えてください。

高校の時はギターを少し弾くぐらいで、高校生限定イベントにコピーバンドで出ているだけでした。歌うことは好きで、自分の部屋だったりお風呂の中ではよく歌ってたんですけど、恥ずかしがり屋というか内気だったので、人前で歌うなんてことはとてもじゃないけどできなくて。けど、歌は好きで家の中でよく歌っていたので、自分の中で悶々とした気持ちはずっと持っていました。何人かの友達には「お前、声はいいんじゃない?歌えばいいのにね」っていうのは、ちょこちょこ言ってもらえてはいたんです。

そういう気持ちをひきずったまま高校も卒業して。大学に進学した時に軽音楽部に入ったんですけど、この時しかないなって思ってギターボーカル志望で入部して、それでやっと人前で歌うようになりました。だから、大学の軽音部に入ったのがきっかけですね。

歌や表現はリアルからの逃げ場

ーオリジナルの曲を作り始めたのはいつからですか?

これが難しくて。ギターを持って、しっかり曲にして世の中に発信するっていうのでいえば、18、19歳ぐらいの時が初めてです。これを作曲って言っていいのかわからないんですけど、自分でオリジナルの曲を作るのが好きだったので、一番最初にギターに触れた時もコードを3つ覚えて、鼻歌だったり適当に歌詞をつけたりして遊んでいたんですよね。それとしてもいいのであれば、中学の時にギターのコードを3つ覚えた時ですかね。

ーカウントしていいと思います(笑)音楽を作る上で、いちやなぎさんが大事にしていることはなんですか?

自分が歌うとき、まあ表現するときはなんでも程よく浮世から離れるっていうのは心がけていて。生活に近いんだけど少し遠い、その距離感みたいなのは大事にしています。生活に密着しすぎない、かといってファンタジーほど遠くないっていう距離感を大事にします。

ーその理由は?

みんなそれぞれの人生を生きていて、リアルは生活している範囲で十分だろうっていうのがあって。生きていて辛いことだったり、そういうのがたくさんある中で、歌や表現はそこからの逃げ場っていうか、ちょっとした駆け込み寺みたいな場所だと思っています。現実から逃避するためにあると思っているんですけど、離れすぎてファンタジーになると子供っぽすぎたりするので、そこまで行かないちょうどいいところが僕としては芸術作品だったり、あらゆる表現作品で一番心地よい位置なんじゃないかなと思っているからですかね。

ーそこに思いに至ったきっかけはありますか?長年の積み重ねでそこに至ったのか、それとも明確に経験があったからこそこうなった?

なんでだろう。気付いたらそう思いながら歌っていたので、何か出来事があった上で考えが変わったっていうわけではないのです。なぜそう思いながら歌っているのかっていうのは僕にもわからないです。

ーいちやなぎさんはどういった瞬間に楽曲ができますか?

ここ2、3ヶ月の話なんですけど、1日の始まりに曲ができそうな気がするっていう日がたまにあって。それは自分の機嫌が良いときって、置き換えてもいいかもしれないですね。ベッドから降りて、まだ何もしてないけど気分が良かったり、なんかワクワクするじゃないけど、生まれそうっていう時は大抵自分のお気に入りのワンフレーズだったり、歌の核となるフレーズが見つかる日が多いです。

その日がなんで訪れるのか正直理由はわからないんですけど、歌の核となるフレーズができて喜んでたら、次の日は何もできないことも全然あるので、曲ができるときはまちまちです。決まった時間に必ず机に向かって作曲する、絶対に一曲は書くっていうことをちゃんとしたことがなくて。気分で変わりますね。

ーハッピーなマインドの時に作られる感じなんですかね。落ち込んだ時とかではなく。

それでいうと落ち込んでる時もできる時はあって。でも言われてみたら、落ち込むけど上昇の兆しが自分の中で見通しが立った時にできるかもしれないです。本当に落ち込んでる時には作れたことがないかもしれないです。だから、ちょっとだけ上を向けた時、目線に少しだけ先が見えた時に曲ができることが多いですね。ハッピーなマインドの時は勢いで坂を転がるように、パッと作っちゃうようなイメージです。

一言で言えば“べっぴんさん”みたいな曲

ーなるほど。今年の第一弾のシングルとしてリリースされた「夜間飛行」は、どんな曲に仕上がりになりましたか?制作背景を教えてください。

一言で言えば“べっぴんさん”みたいな曲です。綺麗な感じにまとまったかなっていう印象で。僕の曲の中では割と珍しい方なのかなと思っています。それはサポートのバンドメンバーのおかげでもあるんですけど、ちょっと異質な曲ですね。

これ言うとそのままになっちゃうんですけど、サン=テグジュペリの本で『人間の土地』というのがあって、飛行士の話なんですけど、その本の1ページ目を読んだ時に自分の胸にくるものがあったんです。それですぐぱっとメロディと歌詞の核となる部分が出来上がりました。

ーこの曲を作ったことで“表現の裾野が広がった”とSNSで書かれていましたが、具体的にどう広がったのか教えていただけますか?

僕は音楽の知識があまりなくて、感覚的に曲を作っちゃうんです。「夜間飛行」に関しても感覚的に作ったのは変わりないんですけど、今までに使ったことないコードをたくさん使っていて、そのコード進行が持っているウワモノの広がりを作れたというか。ウワモノの豊かさの原点になったんじゃないかなと思っています。

これは僕の中では割と初めての体験でした。使っているコードの名前はわからないんですけど、適当に押さえてみて面白い響きの音を取り入れたりしています。ギターの講師をやってる人がサポートメンバーにいるんですけど、その人も「よくわからない進行だね」って言うような、ちょっと不思議な感じです。そういったところで、裾野が広がったなと思いますね。

音楽を作り続けるのは素晴らしい

ー自分自身で、ここだけは誰にも負けないって思うような強みはありますか?

歌とメロディは誰にも負けないと思ってやっています。ライブハウスとか、いろんなステージに何百回も立ってきましたけど、自分みたいに歌ってる人はそうそういないと思ってやり続けてきたので。

ーそれを踏まえて、自分が考えるミュージシャンの理想像は?

作り続けてる人はすごいなって、最近思うようになりました。僕はいま27歳で全然まだまだって思うんですけど、それでもてライブハウスの方から中堅どころだねって言われたりもするので、音楽を続けていくことは難しいのかなって漠然と思っていて。

でもその中で、身の回りの先輩やちょっと上の世代の方が変わらずに自分の表現を持ちながら進み続けているのを見ると、音楽を作り続けるのは素晴らしいことだなって思うんです。これは一種の理想ですね。

ー今年2022年にやりたいことや実現したいことはありますか。

まず音源集を1作品は出したいっていうのと、音楽から離れちゃうんですけど文章だったり別の表現も並行してやっていきたいと思ってます。できればレコードやカセットみたいに形に残せるものを作りたいですね。

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DIGLE編集部

編集部がオススメするニュース/イベント情報などを紹介、またイベント取材記事/コラムなどを不定期で配信。

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京都在住の歌うたい、いちやなぎ。
湯船に浸かりながら漏れ出る鼻歌のような日常感と、いつの間にか遠い世界に連れていかれるような夢想状態をあわせ持つ彼の歌は、得体の知れない響きを放っている。
シンプル故に際立つファルセットの美しさや、ブレスの緊張感、声色の豊かさなどの歌そのものが最大の魅力。
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