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文: 黒田隆太朗 写:fukumaru 編:久野麻衣
ぜったくんによるクリスマスソング、「Gaming Party Xmas」がリリースされた。RPG風のイントロから、聖夜を彩る華やかな歌とメロへと展開していくポップソングである。が、リリックには実に彼らしいユーモアが綴られている。招待されたパーティに向かうも、案の定馴染めず自宅へ帰りオンラインの世界へ。そこで真のパーティへと乗り出すというものである。そう、これはリアルよりバーチャルのほうが居心地の良い人間へのプレゼントであり、ぜったくんによる偽らざる本音である。
初めて作った曲が、明治大学の学園祭テーマソングに選ばれ、2018年にはラストラム・ミュージックエンタテインメントが主催する新人オーディショングランプリを獲得。今年リリースされた『Bed Trip ep』や「Midnight Call feat.kojikoji」でファンになった者も多いだろう。聴き手を選ばないキャッチーなメロディとチャーミングな音色、そしてさらりと時代の気分を綴る言語感覚を持つぜったくんの魅力に迫ってみた。
ー今年ベストの作品を挙げるとしたら、どんな音楽になりますか。
Jacob Collier(ジェイコブ・コリアー)さん(『Djesse Vol. 3』)を3月くらいからめちゃくちゃ聴いていました。彼は全部ひとりで出来る人なので、多分(演奏は)全員ジェイコブ・コリアーなんですけど、全員が一緒の空間でやってるような音になっていて。これ人間じゃないなって思いました。彼の家で録った作品みたいなんですけど、『Djesse Vol. 3』はひとりで全部やる音楽の最高峰だなと。曲もカッコいいし、めちゃくちゃ聴いてました。
ー同じひとりでも、ぜったくんとは対極ですね。
僕は技がそんなにないんですよね。(楽器を)ずっとやってきた人間じゃないので、フレーズとかの引き出しが少ないです。なので曲作りの発想の方向も全然違うと思うんですけど、ただ、あれになりたい自分はいますね(笑)。
ー何か影響を受けたところはありますか。
コーラス感には影響を受けました。コードに凄く興味があって、ジェイコブ・コリアーがやっているコードって、俺が全く思いつかないようなコードだし、それを声だけでやっているのがめちゃくちゃ凄いと思います。
ー何か盗めたものはありました?
パラデータと言う音楽制作ソフトの画面を見せながらそこで何が起きているかを解説する配信があったんですけど、彼がやっている声を沈ませるやり方は参考にしました。それは今回の「Gaming Party Xmas」でやっていて、<楽しんでいるフリ状態>の下がるところは、ジェイコブ・コリアの影響ですね。
ーああ、なるほど。そもそもクリスマスの曲を出そうと思ったのには何か理由があったんですか?
単にクリスマスの曲はやったことなかったなっていうだけです。テーマ性で曲を決めたりするんですけど、作り始めたのが9月頃だったので。今から作ったらクリスマスにちょうどいいんじゃないかなって。まだ暑さが残っていた時期なので、全然クリスマスをフィールできないまま回想の中で作りました。
ー(笑)。今年に限っては12月の状況も見えなかったと思いますし、クリスマスらしいことができないであろうことは想像がついていたと思いますが、この楽曲はとびきりポップでパーティ感ある楽曲になっていますね。
そもそも三密がダメって言われる前からそんなにパーティに参加しない人だったし、パーティに参加するとしたらオンラインゲームのパーティなんですよね。それでみんながやっているようなパーティに参加しているテンションの曲を、オンラインゲームについて書いた歌詞に落とし込んで作ろうかなと。その結果がこれですね。
ーなるほど。ぜったくんにとって、クリスマスと聞いて思い浮かべる曲はありますか?
そうだなあ、クリスマスと言えば「すてきなホリデイ」ですかね。やっぱりケンタッキーじゃないですか(笑)。ただ、あの感じは僕がやろうとしてもできないと思ったので、音色で寄せれればなと思ったんですけど、とにかく明るいものにしたかったんです。その上で引きこもっているような歌詞にしようと思って書きました。
ー「明るく」というのは?
クリスマスの曲って、歌詞や音の感じに「切なさ」みたいのが入ってくるじゃないですか。でも、そういうことをやってない人もいるよ?と。
ー(笑)。
やっているとしてもバーチャルでやってるぞって。そういう曲を出している人っていないし、自分はそういう人生だったので。そのまま書ければいいなと。
ーある意味、リアリティを追及した結果のキラキラ?
言われてみてそうかも。これリアルかもしれないです。僕の心の中のリアリティを追及した結果がこれですね。
ーアップリフティングな楽曲である分、ある種の倒錯を感じるんですよね。実世界では家にいるのが好きでも、ゲームの世界ではめちゃくちゃアクティブに動いているというか、楽曲では凄く冒険心を感じます。
人には言ってないけど、僕はすげー情熱があるタイプなんですよ。で、頑張んないで出来ちゃったらカッコいいと思っているところがあって。まだそういうのがカッケーと思ってるんですよね。そういう自分の性格を自覚し始めたのがここ数年で、「別に興味ないわ」って言いながらめっちゃ努力している感じがサウンドに出ています(笑)。
ーちなみにサンタの思い出はありますか?
この曲、<サササンタ/サササササンタ>ばっかり言ってますもんね。
ーそうですね(笑)。
サンタの思い出は小学校の頃しかないですね。あとは児童館などで、みんなが集まった時におじいちゃんがやってるイメージかな。何かくれる人っていうか、とにかく幸せをくれる人っていうイメージです。
ーじゃあちゃんとポジティブなイメージはあるんですね。
はい。サンタには全幅の信頼を置いているんですよ。だから早く来いよと。
ー(笑)。でも、そうした幸せをあげる感じって、「Gaming Party Xmas」にもありますね。
ちょっとした幸せを噛みしめることが好きなんです。たとえば、さっきもカップ麺を食べて美味くね?って思ったんですけど、そのくらいのことでいいんです。こんなに安くて美味いものがある日本に住めている段階で素晴らしいなって、そういう小さい幸せを噛みしめています。それを伝えようってことではないんですけど、僕はそう思ってるよ、くらいのことですね。
ーちなみに、ゲームのどこがそんなに好きですか。
日常の中で論理的な思考をすることはあんまりないんですけど、『レインボーシックス』っていう5対5で戦うシューティングゲームで。今やっているゲームが凄く論理的な思考を必要とするものなんですね。論理的思考が鍛えられるから好きなんです。
ーなるほど。
あと、これは運動部に近い発想だと思うんですけど、練習した分だけ上手くなるんですよ。音楽って練習したからって良い感じになるわけでもないから、やった分だけ上手くなるっていう、成果を確実に得れるのがゲームでした。そうやって小さい達成を積み重ねることが、今のところの幸せかなと。
ーでは、ぜったくんにとって音楽とはどういうものですか?
自分の中ではゲームと対極にある存在です。たまに何かを思いついた時、めちゃくちゃ良い曲ができたりする。そういう自分から勝手に湧いて出たものが、良いものだっていうことがが凄く嬉しいです。あとは存在証明みたいなものですね。
ー存在証明?
ありきたりな感じですけど、普通に生きているのが嫌になっちゃった時期があって。その反動で若干承認欲求が出てきた時期に、明治大学の学園祭のテーマソングの募集があって。そこに応募して優勝した成功体験が肥大化しました。それで今に至るんですけど、承認欲求って1回器がでかくなると戻らないっぽくて。
ーちゃんと満たし続けなきゃいけないと。
そうなんです。常に水を入れてあげなきゃいけないので。薬物的なところがありますね。
ー今はちゃんと満たせてます?
はい。それなりに満たさせてもらってます。
ーリリックにひねくれたセンスがあるのに対し、メロディは凄くポップですよね。このキャッチーさは何が表れているんですかね。
サビを絶対に入れたいっていうのが自分の中にありますね。なのでフックになる部分は絶対に作るっていうのを意識しています。それが何故培われたかっていうと、親がずっとSMAPとかゆずを聴いていて、そのライブに行ってた影響ですね。僕もサビが凄く好きだったんですよ。
ーなるほど。
だからサビだけの曲もありなんじゃないかとか思ったりして、ちょっと試してみたんですけど。それだとフックって言わないんですよね。とっかかりじゃなくなっちゃうっていう。なので抑揚が大事なんだなと思って、構成は凄くわかりやすくしています。
ーそうしたフックの魅力にリスナーがついてきていると思いますが、そこはどのくらい確信があったものですか?
いや、思った以上っていう気持ちが大きいです。自分の中では良いサビとか良い曲が出来ている感覚はあったんですけど、それが世間の感覚と一致するかはわからなくて。結果的には残るメロやフレーズがあったり、誰でも感じてそうなことを言っているのがよかったのかなと思います。
ー「Gaming Party Xmas」で言えば、実際にパーティに行ったら馴染めないし、バーチャルのほうが自分の肌に合っているっていう部分が象徴的で、これってマイノリティじゃなくてサイレント・マジョリティかもしれないですよね。
その節はありますよね。最近そういう人はどんどん増えていると思いますし、外に出るより、若干そうしてるほうがカッコいいくらいの風潮が出てきている気がします。もはやファッションとして家に引きこもっている人もいる気がするんですよね。
ーずっとその庭にいた人間からすると、そこに居心地の良さを感じていますか。
古参としてはよくない気持ちですよね。何を言うとるみたいな(笑)。
ー(笑)。ただ、ファッショナブルなものになってきたからこそ、ぜったくんが聴かれているところもあるんですかね?
そうなんですよ。そこにはジレンマがあるというより、僕は時代にちょうどよく乗れていることに感謝を覚えています。
ー今年は『Bed Trip ep』や「Midnight Call feat.kojikoji」のリリースもありましたが、制作は速いほうなんですか?
いや、そんなに早くないと思います。ひとり作りの段階が凄く長いので、曲ができたとしてもどういうアレンジにするかずっと考えちゃいます。
ー逆に言うと、作っている段階からなんとなくご自身の頭の中で完成形が鳴っているということですか?
そのパターンが多いですね。今はそれを再現する技術をもっと身に着けないとなといけないなと思っています。コードに対してどの音がなっていて、どの音が足りてないのかっていうのが、感覚的にあまりわからなくて。イコライザーを見て高音を足したり、音色は何が良いとか、そういう判断が経験として足りてないんですよね。あと、僕はヒップホップが好きだったこともあって、ワンループの曲が凄く好きで。展開をつけるのがあんまり得意じゃないんですよ。その辺も勉強しないとなと思います。
ーでも、展開をつけるのが得意じゃない分、メロや言葉でストーリーをつけている印象があって。それはぜったくんの個性になっている気がします。
ああ、そうですね。メロとかノリ方とか、ラップの入れ方で構成を作るのは得意で、そこが噛み合ってきたのかなと思います。
ー今後書きたい曲はありますか?
夏の曲なんですけど、既にフックがある曲が1個あって。インスタにあげた「味噌漬けてキュウリ食べたい」っていう曲なんですけど。
ーまさに小さな幸せですね。
<味噌付けてキュウリ食べたい>っていうフレーズと《キンキンに冷えてるのをヘタかじってプッてしてパリポリパリ》っていうフレーズがあって、サウンドも夏っぽいん感じです。それがめちゃくちゃハマってて、あれは全部作りきりたいと思います。他はトラックが2、3個ある状態で、そこにどんなメロつけようかなって思っているくらいですね。
ー12月の19日には、ぜったくんとマリオカートで勝負するイベントを開催するそうですね。
スマホのマリオカートがあって、「Gaming Party Xmas~マリカ編~」という大会を開くことになりました。応募者を募って僕と試合をするという会なんですけど、ひとレース8人参加できて、毎回その内のひとりは僕です。その組み合わせで何回かやって、1位になった人が決勝にいきます。で、そこでまた僕がいて、最終的に優勝した人にはパーカーをあげるっていう。
ーぜったくんが複数回勝っちゃったらどうするんですか?
その時には2位の人が決勝に上がります。勝ってないけど勝ち上がるっていう、その屈辱を噛みしめながら決勝に進むことになりますね。
ー(笑)。マリオカートにしたのには理由があるんですか?
まずはスマホのゲームがいいってなって思って。中でもスマホのマリカーって、ガチで強い人があんまりいないし、運ゲーの要素が強いから。誰でも優勝する可能性があって参加しやすいかなと。そういうやりやすさも考えてマリカーがいいなと思いました。
ー状況が見えない時ではありますが、来年以降どんな活動をしたいか聞かせていただきますか。
ライブが今まではポンポンとちょっとずつあるくらいだったので、来年は自分のライブを1個やりたいと思います。そもそも自分のライブ自体凄く少ないし、EPを出してからはライブハウスっぽいところでは1回もやれてないので。ハコらしいハコで1回はやりたいですね。
ー企画をやりたい気持ちもあります?
やってみたいです。本当に聴いてくれている人がいるのかっていうのが実感としてあんまりないんですよね。数字でわかるところや、インスタのDMとかで感じるところもあるんですけど、実在している感じが感覚的にわからないので。まあ、ちやほやされたいだけですね。で、また器が広がっちゃいます。
ー即完しようものならまた大きくなりそうですね。
それは大変なことになりますね。その後一生満たされないかもしれない(笑)。
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