バンドとして駆け出したevening cinema。受け手がいるからこそ成り立つ文化の担い手として

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文: 坂井彩花  写:Maho Korogi  編:久野麻衣

今年、2年ぶりとなる待望のミニアルバム『AESTHETICS』をリリースしたevening cinema。新体制でスタートを切った彼らに、バンドの成り立ちやルーツ、現在の思いについて話を聞いた。

2015年から活動を開始し、早耳なリスナーの話題をさらってきたevening cinema。長いこと、ボーカル原田夏樹のバンドプロジェクトというイメージが強かったが、このたびアーティスト写真を一新し、4人組バンドとして走り出した。そこで、今までサポートという形で謎に包まれてきた3人に迫るとともに、バンドの成り立ちやルーツを紐解くインタビューを実施。彼ら自身をより理解するために「いま聴いている音楽」をテーマに、プレイリストも作ってもらった。ときめき不足な令和の時代に、ロマンスを紡ぐ彼らが考えていることとは。

強力な演奏陣が揃った

―アーティスト写真も一新し、改めてバンド evening cinemaとして動き始めたわけですが、このメンバー体制になったのはいつ頃だったんですか。

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原田夏樹(vo.):

固まったのは、2019年の5月ですね。2018年の秋、中国ツアーへ行ったときにバイブスがあがったので、このメンバーで固定したいな…と。そこらへんの人では敵わない演奏陣が揃ったので、3人には期待しています。

―どのようなきっかけで集まったメンバーなのでしょう。

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原田夏樹(vo.):

初期メンバーの山ちゃん(山本)は、友達の友達。石澤は、山ちゃんに連れてきてもらいました。磯野さんは、サークルは別だけど大学が一緒で。
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isoken(gt.):

飲み友達みたいな感じだったよね。共通の友人がいて、気づいたら話すようになっていました。2017年、当時のギターが出られないってなったとき「isokenさん弾いてくれませんか」って声をかけてくれたことから、コミットするようになって。最初に誘われたときは、びっくりしたけど(笑)。

―以前から、原田さんと一緒にやってみたいという思いはあったんですか。

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isoken(gt.):

ありましたね。単純にすごくいい曲を書いている印象でしたし、ルーツの違う自分が原田の音楽に乗ったらどうなるんだろうっていう興味もあったし。

―山本さんは、原田さんの友達の友達ということですが…。

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山本和明(ba.):

evening cinemaの初期ドラマーが、大学で唯一の友達だったんですよ。そいつから急にベースがいなくなったときに「ちょっと頼むわ」って言われて。全く曲を聴いたことがない状態だったんですけど、こいつが言ってきたからやろうかなって感じで。ゲスの極み乙女。とかが流行っているときに、「こういう音楽を今やるんだ」って驚いた記憶はあります。

―石澤さんは、そんな山本さんに連れてこられたと。

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石澤衛(dr.):

俺と和明は、小中が一緒の幼馴染。中学では一緒に吹奏楽部へ所属していました。和明が地元から離れて東京にいるのは知っていたんですけど、全然会ってなくて。evening cinemaをやってるのも知らなかったんですよ(笑)。そしたら急に「空いてる? ドラムやってくれない?」って誘われました。

―かくして、evening cinemaのメンバーは集結したわけですね。そもそも原田さんは、なぜevening cinemaを始めたんですか。

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原田夏樹(vo.):

大学3年生のときかな。身内で発表会をするような音楽サークルに入っていたんですけど、そうじゃないこともやってみたいかもって思ったんです。

―サークルはコピーですか、オリジナルですか。

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原田夏樹(vo.):

コピーですね。そもそも僕は、キーボード枠でボーカルではなかったんです(笑)。人前で歌い始めたのは、学年があがって「男ボーカルいねえよ」ってなったから。ちょうどevening cinemaを始めるかくらいのタイミングでしたね。
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isoken(gt.):

めっちゃ歌ってるものだと思ってた。実は歌いたい欲ってあったの?
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原田夏樹(vo.):

ありました。でも、他にやりたい子がいたら「どうぞどうぞ」って感じ。練習もろくにしないで、コードをポンポン抑えるだけのキーボードでした(笑)。

―原田さんがボーカルとしてバンドを組んで、サークルの方は驚かれたんじゃないですか。

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原田夏樹(vo.):

最初は笑われていたと思いますよ。サークルのメンバーが嫌なやつらだったわけじゃなく、単純にそういう風土がなかったので。
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isoken(gt.):

なんかあるよね。「外でやります」っていうのに対する風当たりの強さみたいなの。「頑張っちゃってんじゃん(笑)」って。

―外バン(笑)。みたいな風潮って、ありがちですよね…。

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isoken(gt.):

今思えば「外バンってなんやねん」って感じですけどね。なに自分たちを中心にして、外とか言ってるんだよって。
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原田夏樹(vo.):

でも、そういうサークルだったからこそ、お酒を好きになったので。evening cinemaは、練習よりも飲みの場で結束を高めるほうが大事だからね。
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isoken(gt.):

まあ、よう飲んでる(笑)。練習量は他のバンドよりも圧倒的に少ないっすね。
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石澤衛(dr.):

たしかにやばい…。リハスタに入った回数、たぶん両手で収まります。
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isoken(gt.):

リアルに7回とかじゃない? でかいツアー行く前とか…。
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原田夏樹(vo.):

でも、レコーディング前も入ったから。
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石澤衛(dr.):

それでも2回とかですけどね(笑)。
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原田夏樹(vo.):

何も練習はしないけど、普通に飲むとかもあるもんな…。

―evening cinemaって、すごくスマートなイメージがあるので意外でした。

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原田夏樹(vo.):

虚構でしたね(笑)。
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isoken(gt.):

正直なところ、曲が構造的にしっかりしてるので、それ通りにやれば形になるんですよ。尺も中身も決まっていて、歌のメロディー感もあるので。
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原田夏樹(vo.):

それはあるかも。ある程度出来上がったカラオケを送ってるので、集まってやったらいい感じになってるみたいな。

―面白いですね。緻密に構成を詰めて、お酒の席で結束力を高めると…。

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原田夏樹(vo.):

この間、車で来ていた関係で衛君(石澤)だけ先に帰ったんですけど、そのときの「一緒に飲みに行けなくてごめんね」が、今までにしたことのない「ごめん」で。1番申しわけないと思うポイントが、そこっていう(笑)。それくらいの空気が、バンドをやっていて楽しいですよね。
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音楽TV番組で蔦谷好位置氏が絶賛したボーカル兼コンポーザー原田夏樹を中心に、大学在学中の2015年8月に結成。70~80年のニューミュージック・シティポップなどを、90年代J-Pop的なフィルターを通して再構築したサウンドが特徴。敬愛する岡村靖幸氏に対するオマージュもサウンドの随所に鏤められていて音楽関係者からの注目度も高い。2016年7月、タワーレコード x Ano(t)raksによる共同レーベルLUCK by Ano(t)raks (運営終了) より1stミニアルバム “Almost Blue” をリリース。2020年8月、日中共同レーベル Luuv Label / Ano(t)raks より2年ぶりとなるミニアルバムを発売する。

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