文: 石角友香 編:Miku Jimbo
たとえばスピッツが80〜90年代のインディペンデントなロックに影響を受けていたように、日本のベテランバンドにもオルタナティブな要素がわかる人にはわかるように忍ばされているように、すでに注目度上昇中のこのSubway Daydreamにも“日本語で表現するギターバンド”というリアリティの奥に前出の80〜90sインディから現代のそれまでが見え隠れする。多少、海外のバンドサウンドへの憧憬や追求心が強いけれど、それでも2020年代を生きる日本の若者のメンタリティや日常が軸にあることが楽曲に人懐こさを纏わせているのだ。すでに知られているところだと思うが、結成は2020年。双子の藤島雅斗(Gt,Vo)と藤島裕斗(Gt)兄弟と幼馴染のたまみ(Vo)、Kana(Dr)で大阪にて。同年6月にリリースした「Twilight」が自主盤にもかかわらずタワーレコードのJ-POPウィークリーチャートのTOP30にランクイン。2021年4月には初のEP「BORN」をリリース。オルタナ、ネオアコ、パワーポップからシューゲイズまでギターバンドの旨味たっぷりのサウンドを持ちつつ、普遍的な青春を感じさせる歌詞、たまみを軸に雅斗とツインボーカルになる曲もあり、それらを融合させることでいわゆるオルタナティブロックという意識を持たずともリスナーに浸透するパワーが内在することを証明した。
前出の「BORN」リード曲の「Freeway」がASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文のSpotifyプレイリスト『2021 Favorite Songs』にリストインしたほか、ストレイテナーのホリエアツシがラジオで紹介するなど、90sオルタナティブ直撃世代にも評価されてきたSubway Daydream。さらに大阪出身でギターポップ偏愛バンドといえばナードマグネット。ナードマグネットの場合、どちらかといえばパワーポップ永遠の輝きを自身の楽曲以外にもっと聴いてほしいという情熱に裏打ちされている印象もあるが、そんな彼らとスプリット7インチ「Re:ACTION」をリリースしたことも大いに納得だ。2022年の今夏はイベントやフェスにも数多く出演しているが、秋の学園祭シーズンにはネクライトーキーを含む対バンライブなども予定されており、大学生らの世代に認知が広がっていることも実感できる。単に淡く儚くも凛とした女性ボーカルとオルタナティブなギターバンドという部分では共通点もあるが、Subway Daydreamのいい意味での捻りのなさはアレンジの面白さや技巧を面白がるリスナー層に、真っ直ぐなアンサンブルの爽快な魅力を体感させているように感じられる。もし彼らの両サイドに現行の日本のバンドを配置するならネクライトーキーとLuby Sparksがいるような印象なのだ。
精力的なライブ活動の最中にある彼らから届いた新曲は「The Wagon」と題され、イントロからドライブするコードストロークが印象的。たまみのボーカルが力強さを増し、これから起こる未知の出来事への期待感と、自分の内なる好奇心に「離れないでくれ」と歌うようなアンビバレントな思いがリアルだ。それがまさにワゴン車を運転しながら遠くの街へ向かう移動感を伴う、流れのある曲調とサウンドが一体となってリスナーをも未知の世界へ運ぶ。これまで以上にコーラスワークも重層的で、どこかくるりを想起させる部分も。淡くも潔癖なバンドイメージに、この曲ではその意思を裏打ちする力強さが加わった。作詞作曲はメインソングライターの藤島裕斗で、彼の曲作りにおけるエバーグリーンな魅力の最新形とも言えそうだ。現在、イベントや対バンで競演しているバンドはもちろん、メンタリティや存在感の強さでいえばHomecomingsや羊文学にも通じる代替不可能な曲がSubway Daydreamから生まれ始めたと感じる。あらゆる時代の音楽を並行して吸収できるサブスク世代ならではのバンドとはいえ、やはりその中でも清冽で媚びない音楽の純度を嗅ぎ分ける力は誰にでもあるわけじゃない。その嗅覚の鋭さに逞しさが加わってきたのだ。
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