歌いたいことを純度100パーセントの言葉と声で表現する。かりんちょ落書きの1stフルアルバム

Review
ポニーキャニオンとDIGLE MAGAZINEが新世代アーティストを発掘・サポートするプロジェクト『early Reflection』より、今おすすめのアーティストをピックアップ!第17回目は、かりんちょ落書きをご紹介。

ものすごい純度の独白でもあり、同時に爽快な気持ちにもなるロックンロール。寂しさや不安に心が押しつぶされないように言葉を綴り、ギターをかき鳴らす、そんな瑞々しい音楽を久々に聴いた。かりんちょ落書きという、アーティストネームの由来が想像できないこのシンガーソングライターは、プロフィールによると2019年まで活動していたバンドAGUのボーカル&ギターだったらしい。2020年から弾き語りでの活動を開始し、2021年にはバンド形態で音源制作やライブをスタート。今回のアルバムと同名の自主企画ライブ<レストラン>を2021年の6月に開催。彼にとって音楽活動のあり方の喩えが、様々なメニューが供され、他人同士が同じ空間に存在する“レストラン”のようなものなのかもしれない。ライブは下北沢BASEMENTBARやmona recordsなどを中心に行い、サーキットフェス<TOKYO CALLING><KNOCKOUT FES>などにも出演している。

90年代ロックの血脈を秘めた初のアルバム

初のアルバムはこれまでリリースしてきた「少年」「海が満ちる」「溶け合うくらい」「スペード」「dari」「昼中電車」、そして直近の「又、風呂に入れない夜」に未発表曲を加えた全11曲というフルボリューム。誤解を恐れず言えば、奥田民生くるりエレファントカシマシサニーデイ・サービスといった、90年代から活躍する日本の輝けるオリジンであるロックバンドのDNAを感じずにいられない楽曲が並ぶ。と、同時にそうしたバンドのルーツである国内外のロックバンドの血脈も秘められている。

いい意味で練習スタジオで一発録りしたものをブラッシュアップしたのか?と思うほどシンプルで生々しい3リズムのアンサンブル。先に挙げたバンド以上に音像そのものはラフだ。テーマになっているのは主に恋、発明前夜の悶々とした状態。その描写の繊細さと大胆さに青春がフラッシュバックし、言葉のオリジナリティに彼個人の才能を見る。知らない言葉の連なりだというのに。例えば「海が満ちる」の《それはそれは前触れもなく 枯れた二つの海が満ちる》や、「スペード」の《爪噛みに春先の 風が吹きこむ》なんて、どんな閃きなんだろう? ただ、この人は言葉を生み出すことの苦しさも喜びも知っているのだろうと想像する。歌いたいことがもうすぐ生まれる、その瞬間を劣化させずに届けられる才能にただただ感銘を受ける。創造することがイコール生きることを示唆するような「少年」の《退屈を創造で 埋め尽くせ 埋め尽くせ》というフレーズも素直に刺さる。

歌いたいことがあって、その思いが背中を押すように彼に発声させているような声のトーンもいい。高音で真っ直ぐ伸びる声の成分には少し宮本浩次に似た清冽なニュアンスを感じる。1曲目の「溶け合うくらい」のサビで早くもそれを感知し、歌うことの必然を纏ったボーカリストであることを実感する。

中には妄想から作ったという歌詞もあり、それがまたリアリティを持ったストーリーラインを持っているのも聴きどころ。「ピンク」は酔っ払った彼のポケットにたまたま入っていたピンクの錠剤からイメージを広げて書いた歌詞らしい。おそらくその錠剤は抗不安薬的なものなのだろう。薬より自分を頼ってほしいけれど、違う位相にいるような彼女との埋めがたい距離。ノイズギターがうっすらずっと鳴っているアレンジも不安げだ。そんな胸苦しい曲もあれば、午後の電車の揺れで寝落ちする、あの感覚を割とそのまま描くフォーキーな「昼中電車」という柔らかな音像の曲もある。ラストの「又、風呂に入れない夜」は彼女からのLINEの返事を待ちすぎて風呂に入れない状態なのだろう。他の用事があるとか、仕事で忙殺されるとか、そういう状態に彼はないのだ。時間だけはたっぷりあって、心は削られていく。そんな年齢をとっくに過ぎても、このヒリヒリした感覚は人間、忘れないものだと思う。

人がこんな音楽をやっているからとか、時代がこうだからとか、トレンドがどうだとかよりも、きっと自分が歌いたい言葉と声と音が頭の中で鳴り続けている人なのだろう。無防備な状態で聴くと全身に回ってしまう純度100パーセントの作品である。

INFORMATION

1st FULL ALBUM『レストラン』

2023年4月5日(水)配信リリース
かりんちょ落書き

▼配信リンク
https://lnk.to/restaurant

LIVE<かりんちょ落書き企画〜はしりがきvol.2〜>

2023年4月7日(金)東京・下北沢BASEMENTBAR
開場19:00/開演19:30
出演:かりんちょ落書き、アロワナレコード、マイティマウンテンズ、井上杜和君(バンドセット)、水平線

▼チケット購入
https://karincho-rakugaki.com/contact/

early Reflection

early Reflectionは、ポニーキャニオンが提供するPR型配信サービス。全世界に楽曲を配信するとともに、ストリーミングサービスのプレイリストへのサブミットや、ラジオ局への音源送付、WEBメディアへのニュースリリースなどのプロモーションもサポート。また、希望するアーティストには著作権の登録や管理も行います。
マンスリーピックアップに選出されたアーティストには、DIGLE MAGAZINEでの動画インタビューなど独自のプロモーションも実施しています。

▼Official site
https://earlyreflection.com

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かりんちょ落書き

都内を中心に活動するシンガーソングライター。前身の4人組ロックバンド・AGUの無期限活動休止を受け、2020年にソロ活動をスタートさせる。当初は弾き語りで活動していたが、2021年よりバンド形態で活動。2021年6月には初のシングル「少年」をリリースした。

2023年2月に年間ライブ企画<かりんちょ落書きpre“はしりがきvol.1 ”>開催。4月7日(金)に同企画の第二弾を下北沢BASEMENTBARにて開催する。
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