「ケ」に足をつけ「ハレ」を祝う。日常系集団ザ・おめでたズの集大成『COLLECT10N』

Review

文: 高木 望  編:Miku Jimbo 

365日を勝手に祝う5MC1DJのラップグループ、ザ・おめでたズ。結成から10年、マイペースながらも歩みを止めず日常を祝い続けてきた6人が、2024年11月に最新アルバム『COLLECT10N』を発表した。彼らの10年の活動が詰まった本作についてレビューする。

大学在学中、友達の誕生日をラップで祝うために結成されて以降、実在する祝日や記念日を祝い続けている5MC1DJのラップグループ、ザ・おめでたズ。2014年から、「ハレ(非日常)」を祝い続けて10年。同じコンセプトで走り続けるには、どこかで枯れてしまわないかと不安を感じさせるほどの年数である。

しかし、11月に発表された10周年記念アルバム『COLLECT10N』収録曲のリリックを読み返し、彼らが今日までコンセプトを変えることなく続けられた理由がわかった気がする。「ケ(日常)」に足をつけたまま、「ハレ」を祝っているのだ。

たとえば、おめでたズ結成記念日を祝して生まれた「SOMETHINGOOD」で《砂漠の中から見つけるダイヤ/そら中々見つからないわ》というフレーズがある。彼らは「ハレ(=ダイヤ)」を「ケ(=砂漠)」の対極にあるものではなく、「ケ」のタイムライン上で発生するものと捉えている。

だから楽曲に登場するのは茶割のロング缶(「茶柱」)、いつもの8号線(「michi」)、ラップの芯で作るテレスコープ(「望遠鏡 feat. 池田智子」)等々。歌詞に限らず、トラックにも某TVCMや調理音を彷彿とさせるサンプリングを忍ばせるなど、「ケ」を象徴する装置が張り巡らされている。そのなかで「ハレ」を表現する。無理に「ハレ」であり続けようとしないことは、継続の鍵だったんじゃないかと思う。

加えて、過去のインタビューでは「祝うことを口実に自分たちが楽しんでいるところがある」と太郎が発言していた。もはや「ザ・おめでたズ」という活動自体が、彼らにとって「ケ」のなかにある「ハレ」と化しているように感じる。

ただ「楽しみながら」とはいえ、継続は力なり。10年間活動するなかで「ハレ」の拾い上げ方や角度、トリミング技術はじわじわと磨かれ続けていた。

本作で、彼らは「駄々」や「ponkots」のように調子の悪い「ケ」さえも、「ハレ」の舞台として巧みに活かした。ダテに10年祝い続けていない。『COLLECT10N』は、まさに「ケ」から「ハレ」を拾い続けた彼らによる、10年間の集大成だ。

話は変わるが、世の中のアニメやマンガ、演劇作品には「日常系」というジャンルがある。

人の日常生活を淡々と描き、過度に不安や緊張感を煽る展開もなければ壮大なオチもなく、そっと幕を閉じる作品。1話完結の短編を重ね、同じテンポのまま1クールを完走するアニメ。不思議な体験やゾンビの襲来もなく、文化祭や卒業式の一幕でクライマックスを迎える学園モノ。

面白い「日常系」の作品は、受け手側の生活や記憶と地続きにある地点で着地し、劇場を出た後やテレビを消した後でもなお、作品世界の脈動をじんわりと感じさせる。何の教訓もメッセージもない。むしろないほうが、観る側としてはありがたいときすらある。

実は『COLLECT10N』を通しで聴いたとき、まさに「日常系」作品を鑑賞したときに近い後味があった。そのせいか、彼らの「365日分をすべて祝う」という目標については「頑張って歌いきろう」と気張ってほしくない自分がいる。367日目あたりを作り始めたところで「もしかして、歌いきってない?」と気づいてほしい。

そのほうが《今日は何の日? 何の何の日?/何もなくても始まる/特に意味もなくても歌うバーディヤ》(「TODAY IS THA DAY」)が、20周年、30周年と続く気がする。

ちなみに日本記念日協会に登録されている記念日は、2023年10月時点で2,600件を超えている。まだまだ枯渇することもない。日常も続く。まずは、10年祝い続けた彼らのことを盛大に祝おう。

RELEASE INFORMATION

New Album『COLLECT10N』

2024年11月6日(水)リリース
〈ザ・おめでたズ〉
4,000円(税込)/NCS-10306

収録曲
1. SOMETHINGOOD
2. Summer Wave
3. 茶柱
4. 駄々
5. 能天気
6. ポスト feat. Koichiro Toyoda
7. Home Video feat. Sagiri Sól
8. michi
9. TODAY IS THA DAY
10. ロープウエイ(YAZZY BEATS)
11. ponkots
12. 寶船 feat. フレンズ
13. ニク☆ヤク☆ニク☆クウ
14. マイパワー
15. 涙線 feat. Each Eyes Country, カルロスまーちゃん, Seigi
16. 望遠鏡 feat. 池田智子

LIVE INFORMATION

<ザ・おめでたズ 10th Anniversary Tour “拾ツアー 〜東阪富編〜”>

2025年4月26日(土)大阪・Music Club JANUS
OPEN 17:30/START 18:00

2025年5月17日(土)東京キネマ倶楽部
OPEN 17:00/START 18:00

2025年6月14日(土)富山・高岡クローバーホール
OPEN 17:30/START 18:00

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ザ・おめでたズ

365日を勝手に祝う5MC1DJのラップグループ。メンバーは、太郎、ヒヒ、セキハラグチ、TOMORO、シタバ、やじまたくま。

(基本的には)日本記念日協会に登録されている実在する記念日や、国民の祝日にまつわる楽曲を作り歌い届け、富山を拠点に活動する。これまで「かき氷の日」「ダレデモダンスの日」といった誰も聞いたことのない記念日や、「元日」「勤労感謝の日」などの誰でも知っている祝日をお祝いしてきた経歴を持つ。楽曲制作やライブの他にも、アートワークやグッズ、MV制作までなんでも自分たちでやりがち。

2014年11月8日に友達の誕生日をラップで祝うために結成。2018年にリリースした幽霊の日の楽曲「三途のリバーサイド」がSpotifyの「バイラルトップ50(日本)にて1位を獲得した。2023年にはTikTokにて「PLAYGROUND」の動画が2日間で10万回再生され、注目を集める。結成10周年となる今年2024年は、初ワンマンライブを東京・下北沢ADRIFTにて開催。12月の東京・渋谷WWWワンマンもすでにチケットが完売している。

目標は365日分をすべて祝うことだが、まだまだ道半ば。
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