深夜、家の近くにあるローソンの喫煙所でS.A.R.を聴いている。D'Angelo(ディアンジェロ)へのリスペクトを感じずにはいられない「CAP」(2022年リリース)が僅かに腰を揺らす。「3AMBLACKCAT」(2023年リリース)も良作だ。繰り返される《I’m in the purplerain》というコーラス(言うまでもなく思い出すのはプリンスである)と、《Gotta live on my life》(俺は自分の人生を生きたい)というリリック……抑制された演奏の中に、静かに燃えるソウルを感じさせる楽曲である。あるいはそう、アフロ風のパーカッションに牽引されながら、ギターがうねりを上げる「Cannonball(feat. 寺久保伶矢)」からはどこかCurtis Mayfield(カーティス・メイフィールド)の「Superfly」や「Move On Up」の匂いを感じるが、実際のところはどうなんだろう。彼らのMVを観ていると、Imu Sam(Gt. / MC)はいつも美味しそうにタバコを吸っている。
心憎い音楽である。S.A.R.のサウンドには香気と棘がある。あるいは安らぎと興奮。平静と情熱。自分たちが生まれる前の音楽と、今の音をラフにブレンドしながら楽しむ様子が浮かんでくるはずだ。
“オルタナティブ・クルー”を自称するS.A.R.。メンバーはsanta(Vo.)、Attie(Gt.)、Imu Sam、Eno(Ba.)、may_chang(Dr.)、Taro(Key.)の6人である。2018年に3人体制で始まった彼らは、その後音楽大学のジャズ科に通う面々を加え、初期メンバーの脱退も経験しながら今の布陣に固まっている。音楽性に囚われない活動を志向しているように思うが、ジャズやソウル、ヒップホップやR&Bが主軸にあるのは間違いない。2024年の春には初のアルバム『Verse of the Kool』をリリースし(もちろんタイトルはマイルス・デイヴィス『Birth of the Cool』をもじったものでしょう)、初のワンマンライブ <Kool Theory>をTOKIO TOKYOにて開催。年明けにはWWW Xで二度目のワンマンライブ<Return of Kool Theory>を成功させるなど、昨年はインディシーンでの知名度を着実に伸ばした1年だった。と、思っていたところでメジャー移籍である。
余談だがImu Samはa子を中心としたクリエイティブ・チーム「londog」に所属していた経歴があり(「齊藤真純」名義で活動していたが、「マスミ」の綴りをアルファベットに変えて逆から読んだらImu Samになる)、この作品をもって晴れてレーベルメイトになっている。音楽的にはまったくの別物だが、音源のみならず映像やアートワークまで自身らで手がける活動スタイルには通ずるものがあるように思う。
さて、〈IRORI Records〉に加わっての最初の作品だ。S.A.R.『202』ーーバンド名と共に匿名的で、タイトルだけでは実態が見えない。お前の舌で確かめろ、ということでしょうか。本作でもSoulquarians(ソウルクエリアンズ)周辺からの影響は感じるが、アルバムよりも陶酔感があり、腰を撫でるような粘り気のあるグルーヴがある。トピックとしては「Juice」のリリース時に宅録環境を整えたと告知していたことで、本作もその体制下で作られたと見るべきだろう。加えてほとんど英語詞だったリリックにも日本語が差し込まれるなど、新風を感じる作品になっている。ただ、「新機軸」といった大袈裟なニュアンスではなく、「過渡期」という感触もない。方向性を定めることもなく、『Verse of the Kool』以降の1年で浮かんできたアイデアを赴くままに楽しんでいるような印象だ。
「Side by Side」は気品を感じる鍵盤の音色とsantaのボーカルにうっとりする。が、不意に差し込まれるImu Samのラップがざらついた感触を運んでくる。マイクが変わることで夜更けから夜明けへと時間軸が変わっていくイメージというか、ふたりの声があることでS.A.R.の魅力が底上げされているように思う。「Juice」はどことなくPale Jay(ペイル・ジェイ)を思わせる夢見心地のソウルであり(そう言えばS.A.R.のMVには覆面姿のメンバーがチラホラ出てくる)、「Back to Wild」はトークボックスを使用したギターリフと、催眠的なボーカルが不思議な余韻をもたらす楽曲である。前者がこのクルーの甘味だとすれば、後者はまろやかながらも毒を含んだ楽曲と言ったところか。ジャズの成分をグンと強めた「Karma」はレイドバックするドラムが癖になる、ライブで聴くと一層気持ち良さそうな佳曲である。
そしてもちろん、最後はShing02をゲストに招いたサプライズ「New Wheels (feat. Shing02)」だ。しっとりとした鍵盤の音色は麗しく、淡々としたトラックの上でsanta、Imu Sam、Shing02のマイクリレーが続いていく。間違いなく、S.A.R.の中でも一際ノスタルジックな楽曲である。思えば昨年のアルバムではLil Summerや寺久保伶矢をフィーチャーし、本作の「Back to Wild」のMVでは御厨響一(鋭児/鯱/Concept/Skid)が登場。そうした横の繋がりを感じさせる楽曲はあったが、やはりShing02とのコラボは新鮮だ。先日公開されたMVでも、レッドブル主催のダンス世界大会での優勝経験を持つTHE D SoraKiが登場するなど、S.A.R.はジャンルや世代を身軽に超えていくような表現を志しているように思う。冨田ラボのアルバムにsantaが参加するニュースも記憶に新しく、2025年はより横断的にこの音楽が拡散されていくことを期待したい。
そう、本当に見たいのはそれだ。“オルタナティブ”を標榜するこのクルーが垣根を超えてシーンを引っ掻き回す、その瞬間である。
RELEASE INFORMATION
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Major 1st EP『202』
2025年4月23日配信リリース
Label: 〈IRORI Records / PONY CANYON〉Track List:
1. Side by Side
2. Back to Wild
3. Karma
4. juice
5. New Wheels (feat. Shing02)▼各種ストリーミングURL
https://lnk.to/SAR_202
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