アップデートを続けるTARO SOULが放つ「Got A Brand New Bag」とは

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4枚目のソロアルバム「Got A Brand New Bag」をリリースしたラッパー・TARO SOULにインタビュー。アルバム内で言及されているトピックやメッセージの解説を中心に、現在のTARO SOULの音楽と心境を覗いた。

ラッパー・TARO SOULが10月20日、4枚目のソロアルバムである「Got A Brand New Bag」をリリースした。

今作はビートも自身で制作した、初のトータルプロデュースアルバムだ。客演にKEN THE 390、SKI-HI、DABO、Chozen Lee、句潤、RHYME BOYAを招いて、バラエティに富んだ10曲が揃った。

熟練が増した歌とラップを自在に行き来するソウルフルなラップスタイルに加えて、3人姉妹の父親としての一面や自らの社会観とコロナ禍での経験から生まれた痛烈なメッセージなどリアルな人間味も深みを増した。常にアップデートをし続けるTARO SOULを味わえるだろう。

本インタビューでは、アルバム内で言及されているトピックやメッセージの解説を中心に、現在のTARO SOULの音楽と心境を覗いた。

ー「Got A Brand New Bag」、リリースおめでとうございます。20年のキャリアがあるTARO SOULさんの初のトータルプロデュース作品となった今作ですが、振り返ってどんな作品になりましたか?

ありがとうございます。今回は初めてトラックも含めて自分でプロデュースしたので、自分のセンスとか好みに寄った作品になりました。その分、本当にこれが受け入れてもらえんのかなっていう不安のようなものはありましたね。アレンジメントでSHIMI from BUZZER BEATSに入ってもらってますけど、それでも作品が占めるTARO SOULの割合は今までの作品より高いので、かなり自分が出てると思います。

ビートメイクを始めたきっかけはありますか?

2018年に前作の「A Bomber’s Diary」が出た時に、ライブの為にAbleton Liveという機材を導入したんですよ。それはKEN THE 390のバックDJやエンジニアをやってるDJ HIRORONが勧めてくれたんですけど。せっかくビートメイクもできる機材だからって思って、やり始めた事がきっかけですね。

ービートメイクを通してボーカルやラップなどに変化や気付きはありましたか?

ビートメイクをしてる時って自分が歌う前提でのビートがまだ作れてなかったんですよ。これかっこいいじゃんっていうノリで作ってた部分もあって。なので、いざ歌ってみると思ってたよりキー低いなとか感じることはありましたね。でも、ビートメイカーの自分としてはこの低いキーが良いと思って作ってたし、半音上げずにこのキーで歌ってみようとか新しい試行錯誤はありましたね。例えば「Tiny Box Anthem」のフックは歌い上げて気持ち良いキーではないけど成立してたり、ビートメイクが未熟だからこそ、生まれたボーカルの塩梅の良さはあるかもしれませんね。

2019年に1年通して全国ツアーを行うなどライブに精力的なイメージですが、コロナ禍での活動はいかがですか?

ライブできない事は凄いしんどいですね。2000年前後ぐらいからやってる僕らぐらいの世代の人達は、特にライブこそが主体だと思ってる人が多いと思います。ライブの為に曲を作ってるっていうか。昔は今ほど簡単に音源を作って発表できたわけでもないので、音源がなくてもライブしてる人は沢山居ましたしね。そういう部分がスタートラインにあるので、まずはライブでゴールもライブって感覚があります。なので、アルバム出しても簡単にライブも出来ないもんなっていうことは思ってましたね。

ただ、今作はコロナが無いと生まれてないバイブスがパッケージされてるアルバムでもありますよね。TAROさん自身、個人の発露がより深く現れてる作品だと思います。

そうかもしれませんね。やっぱり生活にしても音楽にしても色々と向き合うわけじゃないですか。時間も増えましたし。ただ、そうやって向き合ったものを作品に落とし込むこともスキルが必要なんですよね。思ったことをそのまま曲に書いて作るのも出来るんだろうけど、それを人に聴かせられるレベルにする作業も工夫や経験があるので。

ーここからは楽曲にも触れていきたいんですが、まずはタイトルトラックでもある「Got A Brand New Bag」。3人姉妹の父親としての顔も持つTAROさんのリアルな日常がリリックで描かれている曲ですが、その部分をアイデンティティとして歌おうと決めた理由などはありますか?

自分の変化の中で1番大きかったからですかね。前作を出すまでに9年ぐらい間が空いてるんですよ。自分の人生=音楽っていう生活をずっとしてきたので、思うように活動が出来なかった期間は人生がダウンしてると感じていました。ただ、子供に恵まれた時とか家庭を持つようになってから、音楽は上手くいってないのにめっちゃ幸せなんだけどっていう感覚もあって(笑)。その感覚は自分にとっては違和感があったし悔しいなって思ってたので、自分の生活の充実と音楽面での充実を両立させたいモチベーションもありましたね。

あと、ラップで子供に飯を食わすぞっていう部分とは少し違う要素もあって。お金を稼ぐことは家族の為に何が何でもしないといけないわけですけど、果たしてそれだけで良いんだろうか、子供の為にどういう父親でありたいのかってことは凄く考えましたね。自分が一番輝ける、夢中になれる物に自分が向き合ってないと、子供達も向き合い方が分からないんじゃないのかなって。

再出発、新しく漕ぎ始めるモチベーションになったことは間違いないですよね。更に、この曲で1番注目のポイントはアウトロで入ってくる娘さん達の歌声。あの構成はどこで思いつきましたか?

デモとかプリプロとか録る為のマイクや録音環境が家の自分の部屋にあるんですけど、僕が何をやってるのかは知ってるし興味を持ってくれてたので、そこに娘達もたまに来るんですよ。お歌を歌いたいって言ったらレコーディングもやってあげてたんですよね。箸休め的にも自分の声が入ってないインタールードは入れようと思ってたので、これ使おうと思って入れました。彼女達の自作の歌なんですけど(笑)。ボーカルのアカペラに合わせて、僕がビートを組んでエディットした感じですね。

ーあのフレッシュで可愛いワードは作詞されたことが頷ける内容ですね(笑)。他にも、「I See You」や「Designer」ではTAROさんの社会観が具体的なワードや経験から見えてきます。SNSでも政治を中心に社会に対してアクションを起こしてらっしゃいますが、今の社会を率直にどう感じてらっしゃいますか?

もう少し優しい社会であってほしいですね。子育てするようになってからそれを感じています。分かりやすく言うと、自己責任を求めるような風潮が強いことってどうなんだろうって。みんな自分で責任取れない所からスタートしてるのに、そんなに厳しくある必要があるのかなって思います。

自助じゃなく公助でっていう部分は「Tiny Box Anthem」にも通ずる部分ですよね。社会を少しでも変えたい気持ちがアルバムの中にも現れてます。

そうですね。1人の生活者としてもそうですし、表現できる場が僕にはあるので。大学生の時なんかは平和研究もやってたり、昔からこういうことは考えてたし勉強を続けてきたので、曲にしてメッセージを伝えることもトライしてきたんですが、説教臭くない良いバランスを作る作業が中々上手くいきませんでした。それがようやく今回で少し出来た感じですね。。こういうメッセージソングは、今後も取り組んでいきたいなって思います。

しかも、何よりもそれがパーティーやライブでも機能する曲になってほしいですよね。パーティーは人生そのものの肯定だってことは「Designer」のリリックでも書いてるんですけど。現実逃避としてのパーティーではなく、今ある人生に向き合って肯定できるような、活力のある音楽をしたいですね。政治的なものは真面目、パーティーははっちゃける、これを同時に出来きる所を目指しています。

「I See You」と「Designer」はアフターコロナの未来じゃなく、今現在を歌っている2曲ですよね。コンシャスなトピックとグッドミュージックのバランス、両立の難しさ、この部分でTAROさんのメッセージとラップスタイルはスムーズに噛み合いましたか?

自分のラップも乗った状態でアレンジをSHIMIに投げたら、めちゃめちゃBPM遅くしてこういう歌い方でお願いしますって返ってきたんですよね。最初はもっとBPM早いブーンバップで訴えかけるような口調の強いラップだったんですよ。でも、SHIMIの言う感じにしたら結構ハマって。メッセージが強いのでバイブスもより乗っちゃうんですけど、丁度良い温度感にしてくれましたね。

確かに。聴き流しやすい曲の中に、ちゃんとメッセージが落とし込まれてますよね。客演が入っている3曲にも触れていきます。まずは、KEN THE 390さんとSKY-HIさんが参加した「PONR」。この2人とのマイクリレーといえば、「Critical Point」という曲以来だと思いますが、TAROさんが初めて作ったビートの上で改めて2人を呼んだ理由はありますか?

ビートが完成した時に、これはマイクリレーだなって思ったんですよ。サビっぽいサビの部分をあんまり作ってない曲でもあるので、客演で1番最初に思いついた2人をそのまま呼びました。「Critical Point」の続編じゃないけど、そういうテーマでやりたくて。

ーKEN THE 390さんとは先日、TARO SOUL&KEN THE 390、通称タロケンのリユニオン的作品「Lap Record」のリリースもありましたよね。SKY-HIさんとの親交は最近もありましたか?

そうですね。SKY-HIとの話で言うと、2018年に僕が渋谷VUENOSでワンマンをやったんですよ。9年振りにアルバムを出して、久々のワンマンだったので友達も色々誘ったんですよね。ケン(KEN THE 390)も客演で出てくれたり。その中で、だっちゃん(SKY-HI)を呼ぶか迷ったんですよ。彼は最近も「八面六臂」ってアルバムを出しましたけど、その通りの活躍をずっとしてますし、VIP席の無い小箱に呼んで、ケアも出来ない環境で気を遣わせちゃうから当時は呼ばなかったんですよね。そしたら彼は普通に当日券を買って一般客として来てくれたんです。その時にSKY-HIは熱い男なんだって思い出したし、申し訳ないことしたなとも思って。だから、今回客演を呼ぶ時もSKY-HIのことはすぐに考えましたね。

凄く友情を感じるエピソードですね。改めて、このホットな1曲を聴き返すのが楽しみになりました。「アイマスクとヘッドフォン」では、DABOさん、Chozen Leeさんが客演です。ラップのかっこよさと面白さが詰まってる1曲ですし、特にこの2人なら本当にどこに連れて行かれてもライブで盛り上げれそうですよね。達人の雰囲気があります。

緊張というか、そもそもオファー受けてもらえるのかなって思ってましたね。<宮古島ミュージックコンベンション>っていうフェスに何回か呼ばれているんですけど、DABOさんとLeeさんとご一緒させていただく機会がありました。前夜祭や後夜祭では、宮古島のライブハウスやバーで同時多発ジャムセッションみたいなものをやるんですよ。そのフェスに来てる色んなバンドがグチャグチャに混ざってセッションするんですけど、僕ら3人はずっとフリースタイルをやってて。あの2人はどこに行ってもお客さんが何人だとしても関係なく、ヤバいパフォーマンスをしていたんです。おこがましいですけど、純粋なミュージックモンスターだなって思いましたね。例えば、アイマスクとヘッドフォンをつけさせられて急に知らない場所に連れて行かれたとしても、知名度も何も関係なく、自分の持ってるパッションとスキルだけでお客さんを楽しませることができるんじゃないかなって。自分もそうでありたいし、それが1番かっこいいなって思ったので曲のテーマにも決めました。

続いて、句潤さんとRHYME BOYAさんが客演の「Tiny Box Anthem」。文字通り、小箱への讃歌というテーマですが、TAROさんにとって小箱とはどういうものでしょうか?

やっぱり自分がキャリアを積んできた場所ですし、大事ですね。自分のリリックでも言ってる通り、ライブする環境としては良くない面もあるんですよ。ステージも無いし、モニター環境も悪かったり。ただ、あのステージとフロアの区別の無い空間からこそ生まれるグルーヴやノリって必ずあって。あと、コロナ禍では1番行ってはいけない場所でもありますよね(笑)。そこは仕方ない部分もあるんですけど、僕としては守りたいし文化の為にも必要な場所です。

今の若手の人達って僕らの時とは環境が全然違うと思うんですよ。キャリアの積み方として小箱で地道にライブをするって必要がそこまでないですよね。だからこそ、そこを経験してきたラッパーには違う何かがあると思いますし、小箱でしのぎを削ってくぐり抜けてきた句潤RHYME BOYAのラップが聴きたいなって思って誘いました。

なるほど。自分としてはアルバムの中で特にフェイバリットな曲ですし、全国の小箱で活動してるプレイヤーにRemixしてほしい1曲ですね。ラストトラックの「BETTER」で将来に向かって開けた形でアルバムは終わりますが、20年のキャリアを経たTARO SOULとしての今後、どのような展望を考えてますか?

自分の伝えたいメッセージもどんどん変わって、社会と同じで価値観もアップデートしていくわけじゃないですか。ラップが上手くなりたい欲求と共に、メッセージの出し方や伝え方も洗練させていきたいって思いますね。漠然と売れたいって思うより、多くの人に楽しんでもらえる曲を提供したいなって。それって突き詰めて考えていくと、自分の可能性を否定しないで突破していく細かな作業の連続で、妥協せずに薄い壁を1つずつ破っていくしかないと思います。今回のアルバムでも次に繋がる課題は発見できたので、良い方向へブレイクスルーしていけたらって思いますね。

それは人生の色んな場面に繋がるテーマかもしれませんね。既に次のアルバムが楽しみになってきました。最後に、直近での活動予定をお願いします。

12月にTARO SOUL&KEN THE 390で福岡にライブをしに行くのと、サイプレス上野が<建設的>というイベントを横浜でやってるんですけど、そこでTARO SOULのリリースパーティを開催してくれるみたいです。まだわかんないですけど、年が明けたらワンマンとかもやってみたいですね。目白押しにしていきます。

TARO SOUL『Got A Brand New Bag』

2021年10月20日(水)
SOUL SPIT RECORDS
¥3,300 (Tax Included)

Tracklist:
1. ナナメウエ
2. PONR (Feat. KEN THE 390, SKY-HI)
3. Got A Brand New Bag
4. Miss U
5. I See You.
6. Designer
7. Never Too Late
8. アイマスクとヘッドフォン (Feat. DABO, Chozen Lee)
9. Tiny Box Anthem (Feat. Rhyme Boya, 句潤)
10. BETTER

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DIGLE編集部

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1981年生まれ、神奈川県出身のヒップホップアーティスト。ブラックミュージックが家庭内で流れる環境で育ち、その後ヒップホップに出会いラップ/DJ/作詞/MCに没頭。2005年に盟友・KEN THE 390とともに太郎 & KEN THE 390名義でアルバム「JAAAM!!!」、2006年にソロアルバム「SOUL SPITS」をリリースした。その卓越したスキルとソウルフルなラップが評判となり、フィーチャリングゲストとしてさまざまな作品に参加。マボロシ、DABO、加藤ミリヤ、May Jなど、客演したアーティストは多数にわたる。「客演王」として名を馳せる中、2008年5月にミニアルバム「BIG SOUL」でメジャーデビューを果たしている。
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