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文: kyotaro yamakawa 編:Mao Ohya
大阪を拠点に活動しているSATTU CREW。メンバーは全員20代の5人組だ。「B-BOY JAZZ」を掲げる彼らの音楽は、フロントマンであるラッパー・VER$E(バース)の言葉が、変則的だが確かなグルーヴ感のあるフロウと90年代のヒップホップを想起せずにいられないバンドサウンドに乗せて、リスナーの懐にスッと飛び込んでくる。
今年に入ってから配信で3曲のシングルをリリース、9月7日には、VER$Eがスタッフも務めるアパレルブランド・COCOLO BLANDとともに 『VINYL BITCH』を配信と7インチシングルでリリースした。そして彼ら独自の企画である<B-BOY JAZZ MOVEMENT>が始動したことも注目だ。SATTU CREWの過去音源からオリジナルのインスト曲、パラデータを公開して、ラッパー、ミュージシャン、ダンサーとのコラボレーションなど様々なカルチャーを巻き込み、彼ら発の音楽文化、コミュニティを形成するべく始動した独自の企画だ。こうした現行シーンとは一線を画す活動も彼らの魅力の一つだろう。
本インタビューでは、VER$Eにバンドのヒストリーと基本的なスタンス、そこから始まる<B-BOY JAZZ MOVEMENT>について尋ねた。「音楽」の本質的な価値の追求、狼煙を上げた先に描く未来像とは。
ーまずは、SATTU CREWの結成を教えてください。
メンバーは元々ジャズ出身で、セッション系のミュージシャンやったんですよね。僕はバンドに混ざってフリースタイルのラップをするショーばっかりやってたんですけど。そういうミュージシャン繋がりで、ベースのKOSK(コースケ)とドラムのHIROAKI(ヒロアキ)と知り合った事がきっかけです。2017、18年辺りにそれぞれがメインで活動してたバンドが休止したことも重なって、3人とも若い世代でヒップホップバンドをやりたいなって考えてたんですよね。
ーなるほど。始動までの期間に何回かセッションなどはあったんでしょうか?
ありましたね。神戸の春日野道にあるカフェに呼ばれて、フリースタイルセッションをやりました。ただ、ヒップホップバンドって難しいイメージがあって。ミクスチャーじゃない形でヒップホップらしい音を鳴らすことには高度な技術が要るって思ってたんですけど、その日のセッションで若い世代だけでもできるなって僕は思いました。3人で結成を決めて、もう一つ楽器を入れたいってなった時にサックスのSHIRAS(シラス)が入って来たんですよ。レゲエの方面で面白いやつがおるなって思って呼びました。
ーうんうん。
当時の僕らは、「ヒップホップバンド」と言いながらヒップホップというカルチャーやジャンル自体には所属できてなくて。ヒップホップバンドになりたい,ヒップホップのカルチャー自体を体現したいっていうバイブスだけが強くありました。今はそんなこともなく、色々と変わっていったんですけど。
SHIRASの加入と同時期の頃に、今のメンバーであるIW(アイダボ)とは違う鍵盤のメンバーも居たんですけど、その当時のシビアな雰囲気にビビってしまったのか、飛んで辞めてしまったんですよ(笑)。しかもライブも決まってる中だったので、急遽の代打で来てくれた鍵盤がIWやって。ただ、その時点でライブは1週間後で、サウンドのベースもバンド名すらも決まってない状況でした。しかも代打で来た岩ちゃん(IWの愛称)はジャズ出身で、ヒップホップバンドやのにいけんのか?ってなって(笑)。その期間に作った曲とセットリストがそのまま、1stEPの『C-LIVES』に収録されています。
ーあの作品の実質的な制作期間は1週間だったんですね(笑)。そこから初ライブを迎えると。
その制作も行き詰まりました。年齢もバラバラで、まだコミュニケーションも取れてなかったので。ただその時に、一番ヒップホップとは無縁の男である岩ちゃんがコード進行とか構成を作ってくれて何とかなりました(笑)。
初ライブは前日に北部地震があって。最終リハもできひんまま、メンバーに車で迎えに来てもらったことを覚えてます。ただ、その夜にやったライブは手応えがありました。SATTU CREWっていう名前もそこで決めて、結成に至ります。
ードラマチックな結成のエピソードですね。短い期間の中で集まってるバンドですが、コンセプトやルーツが明確にあるし、1stから高いクオリティを出してるバンドだなとも思いました。VER$Eさんが思う、今のバンドの強みはどこにありますか?
ジャズがベースにあるヒップホップバンドって日本ではまず居ないでしょうし、世界的に見ても少ないんちゃうかなとも思いますね。僕はラッパーやけど、DJがかけるトラックでラップをしたことがないですし(笑)。
ただ、サウンドにはルーツがあるわけじゃないですか。過去にも今にも世の中には音楽がありふれてきたし、そういう面で1から創作するってことは僕らにはできないんですよ。ルーツの中から自分達の音を作ってるって捉えると、SATTU CREWの音楽的な良さは僕らの運の良さでしか無いのかもしれない。良い音楽をキャッチしてきた運の良さっていうか。渋いサンプリングとかフレーズの引用とかは誰でも簡単にできますしね。なので、僕らのスタイルや音楽は芸術的な音楽のフィールドでは勝負してないです。それよりも社会的なフィールドに所属してるっていうか。
ー芸術的な音楽っていうのは、例えばプログレだったり前衛的な創作という意味ですね。
商業音楽を生業にしてる方々は、社会的な枠組みの中に入ってると思うんですよね。人が求める物を提示してお金を稼ぐという部分には社会的な価値が発生してると思ってて。僕らの本当の強みは、社会的なフィールドにいる中で商業的なレースでは勝負していないって所にあると思います。
ーそれは現行の音楽シーンに対するカウンターのような思いから作られた意識?
本当に作りたい物を作ってるだけなんやと思います。自分達から生まれるエネルギーを100%使ってるって感じですね。ライブで盛り上げたい、良く聴かれたいっていうキャッチーな意識より、僕らは自分達の伝えたいことの方が強いです。
ーその「伝えたい事」をメンバー間ではどう共有してますか?
僕らの制作って、僕が好き勝手にリリック書いてきて曲を作る所から始まるんですけど。そこでは拍数とか音楽理論的なところはあんまり無くて、自分のスタイルで書き切ってから、メンバーの前でアカペラでラップするんです。ただ、普通のバンドやとこのやり方はまず不可能なはずです。例えば、ある曲をスウィングでやりたいって言っても、スウィングをバックミュージックにしてラップを乗せるだけっていう形にになると思うので。SATTU CREWのメンバーは、全部を数字化して僕の頭の中で鳴ってるオケを再現してくれます。自分の我を出したいっていうバイブスはメンバーのそれぞれにもあるんですけど、ジャズの出方と引き際も理解していて、そういう面もジャズマンの凄いところやと思いますね。
ージャズやヒップホップの音楽的な要素の面白さがSATTU CREWにはありますよね。
細かく言うと、僕らのスタイルはヒップホップ的な要素があるバンドってだけで「ヒップホップ」ではないのかもしれない。ヒップホップのカルチャー自体に対する気持ちって色んな人が色んな事を思ってますけど、僕はヒップホップの音楽的な要素を凄く尊重してます。今までのカルチャーや歴史も大事やし大好きなんですけど、僕らが何を一番大切にしてるかって言ったら音楽なんですよ。
ーアフリカン・アメリカンの方々が培ってきた帰属意識や反抗の象徴としての文化であったり、パブリックイメージとしても分かりやすいようなヒップホップの根源的な個性との距離感は確かにありますよね。その距離感がある中でも音楽的な要素や形式自体をキャッチしてきた、という。
所謂「レベルミュージック」っていう物に対して、各々の解釈があると思うんですよ。例えば、政治的な主張を持ってないといけないとか、アジア人としてのポジションであったり、どれがヒップホップなのかっていうラインってあるじゃないですか。そういう所ではないんですよ。
じゃあ、沢山の人がヒップホップバンドとは何かって聞いてくると思うんですけど。例えば、The Rootsは僕らも彼らにめっちゃ影響を受けてますし、同じ事をやってるかもしれない。でも、対面した時には全然違う事をやってると見せつけたいっていう気持ちがありますね。コピー&ペーストだとしても魂があるか無いかっていう部分に僕らは本気で賭けてます。SATTU CREWはヒップホップじゃなくて、B-BOY JAZZなんです。B-BOY精神を持つジャズミュージシャンです。
ーそういう音楽に対する自然な態度やオーセンティックな価値を追求する中で、生まれたのが<B-BOY JAZZ MOVEMENT>という企画だったんでしょうか。SATTU CREWのスタイルやマインドをベースに、新たなコミュニティ、シーンを生み出すような貴重な一歩だと思います。
かなり言い辛いムードではあるんですけど、ジャンルで別物として区切られてる現状があって。例えばヒップホップの人はヒップホップだけやし、ダンサーの人はダンサーだけ。1つの事を追求する事が素晴らしい、極めたら本物になれるって感じがあるじゃないですか。そういうプライドはあっても良いんですけど、音楽で繋がってるのに何で別物として扱われるんやろう?って思ったんです。僕らが作りたい音楽を作ってるように、ダンサーの中でも現行の流行り物じゃない本当に格好良い音楽で踊りたい人達も沢山居ると思いますし。
僕らがB-BOY JAZZっていうジャンルを確立させて、本当の意味でのショーを完成させる時って、そういうシーン自体を作ってからの事やと思うんですよね。それも大阪から生まれるものやと思うんです。
ー本当に新たなジャンル、シーンの確立が必要なんだと。
例えばロックバンドだったら、あの音楽のエネルギーに対して観客がモッシュとかで表現するわけじゃないですか。ロックにはその礼儀があるっていうか。じゃあ、ヒップホップバンドの礼儀って何って思いませんか?ポップスでもジャズでも無いし、手拍子するわけでも無い。単純に音楽を聴いて渋いって思ってくれるだけでも勿論良いんですけど、首だけ振ってたら渋いんかな?ってのも思いますし。
その時に、モッシュみたいにステージの一番前にダンサーが来てたらどうなんねやろって思ったんですよ。しかも、B-BOYがやるブレイクダンスとか以外にも各ジャンルのダンサーが集まって、それぞれが踊り合ってるライブ。その景色は、僕はめっちゃドラマチックやと思うんですよね。
ー実現したら、かなり面白い事になると思います。
その凄い景色の中に、スケーターとかグラフィティとか色んなカルチャーが参入してきてほしいとも思ってて。このプランを言ったら、それを実現させてしまう人がいるかもしれないですけど、その人は実現させてSATTU CREWを呼んでくれって思いますね(笑)。誰かにパクられても良いから実現したい景色なんです(笑)。
ただ、こういうカルチャーの集結ってほんまに難しくて。大阪のヒップホップの中だけでも、ラッパーとバンドは別物って事を今めっちゃ感じてます。でも、ブロンクスで一番最初に起きたようなこととそのカルチャーの再現を僕らなら出来るんちゃうかなって思ってますね。僕らには過去のルーツとエネルギーがあるので。
ー<B-BOY JAZZ MOVEMENT>のスケールの広さと面白さを改めて感じますね。
僕らはこのムーブメントに対して本気で向き合ってるんですけど、やっぱりまだ説得力とパワーがない現状があって。SNSでの発信もビジネス臭い書き方にはなってるんですけど、それでも本当に伝えたいから硬く書きました。しかも今のムーブメントを見てると、上手いやつしか出れへん感じになってしまった。変に敷居が高くなって、やるって言ってくれたラッパーもほとんどやらんかったり。そのラッパー達を引き込めなかった責任は僕らにあるので、責めたりは決してしないですけど。本来は、SNSで書くような内容とかをただラップにして表現してもらったりしてほしかったので、上手さはあんまり求めてなかったんですよね。
ー一見すると、ただのRemix企画やスキルの発表会と捉えられてしまうけど、本来はそうでは無かったと。
コロナ禍やったんですけど、梅田の中崎町にあるクラブのnoonで一回イベントを開催したんですよね。ダンサーも呼んだんですけど、改めてこの人達は凄いことが出来るんやなって思いました。ダンサーの表現力ってまず僕らには持ち合わせてないものですし、何でもトライしようとする気持ちもかなりあるんですよね。
ムーブメントを作り出した事によって、そういう他のカルチャーの人とも関われたことは大きいです。こういうインタビューも受けられましたし。例えば、GOOD TIMESっていう平野にあるお店とかFUCKY FUCKYっていうクルーとか、大阪のスケートシーンにはスケートのカルチャーをほんまに伝えたい人達もいるんです。その人達にも自分達の存在が届いたっていうのは嬉しかったですね。
ーそういうクロスカルチャーの先に文化の個性や層が生まれていくんだとも思います。今でこそヒップホップのメインストリームになったトラップだって元々は1つのエリアから生まれ出たものですし、近年でいうと例えばUKや韓国のシーンであったり、局地的に形成されるサウンドやカルチャーは世界でも珍しくないと思うので、日本、大阪のB-BOY JAZZの可能性はまだ無限に広がってますよね。
そうなんですよね。ヒップホップっていう枠組みは昔と違いますし、自分達の音楽も世界の中のアジア、その中の日本で鳴ってる音楽やと思うんですよね。
日本語を使ってる以上は何をしても言語を飛び越えれないので、海外のヒップホップのような広まり方は不可能やと思ってます。でも、自分達も向こうの音楽に衝撃をくらったことは事実なんで、同じ事を海外でも起こしたいとも思いますね。日本のヒップホップバンドはこんなに凄いんやぞって。
ただ、特に日本の音楽シーンに思う事として、ほんまに良い音楽だけをして良い音楽を聴ける世界を見たくないんかなって思いますね。例えばイリーガルなことを歌う人達もいますけど、何が悪かってことは時代や人によって違うし、表現方法を奪うことは誰にもできないので、アーティストはどの時代も悪くないと思います。ただ、今は分かりやすく悪いとか面白いっていうものだけが求められすぎてる。その次でも良いから、音楽的な良さがリスナーから求められてほしいと思いますね。
ー今までの時代にあった音楽シーンの構造に与しないような、そのスタンスは特に今の時代は貴重で重要になってくると思います。リスナーやマスに対して区別なく、ピュアなまま作った音楽で愚直にアプローチを図ってるという。
やから、アーティストの友達も全然いないですし、流行らん音楽をやってるんやろうなって思いますね(笑)。ただ、僕らもイキってはいますけど本気なんで。届く人に届いたら良いって拗ねてる訳でも無いですし。言語とか文脈とかメロディーとか音楽を囲む枠組みを取っ払ったら、最後に残るのはこういう精神性だけなんちゃうかなって思いますね。
SATTU CREWは死ぬ寸前まで音楽をやってる集団やと思うし、僕も自分の作った曲を聴いて最後を迎えたい。そういう純粋に音楽を好きな気持ちを、リスナーの人には伝えれたら良いなって思いますね。将来はどうなってるか分かりませんけど、今の僕の純粋な気持ちです。
ー今はインディーズでもスターダムに行ける可能性がある時代です。改めて聴きますが、その中でSATTU CREWはどんな未来像を描いてますか?
成功のラインは人によって違いますよね。これは辿り着いてない人が言うのはどうかと思いますけど、成功自体が虚しいものでもあると思いますし。ただ、インディーズやから拗ねてアンダーグラウンドと名乗ることは違うと僕は感じてます。特に僕らは今の時代のリスナーにはキャッチされない、動かせないようなものを作ってしまってます。そこは拗ねずに認めたいです。僕らのヴィジョンは、衝撃を与えるような何かを残すこと。しかもシンプルなかっこいいミュージシャンのままね。音楽の一番根本的な所にある精神力やエネルギーを残したいです。
ー最後に、SATTU CREWの直近での展望を教えてください。
9月30日に配信で1stアルバム『B-BOY JAZZ MOVEMENT』が出ました。40分ぐらいありますけど、長く感じさせないように作ったので、1枚通して聴いてほしいアルバムです。商業的な部分ではない、自分達が作りたいと思ったキャッチーさもあって。その中にヒップホップ要素もありますし、展開や繋がりの部分とか細部までこだわりました。今までやってきた事もこれからやろうとしてる事もこのアルバムも、まだ始まりに過ぎないので注目しておいてください。
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