Maho Korogi。心臓を鷲掴みにする画| Behind the Camera 02

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文: 黒田隆太朗  写:Kazma Kobayashi 

フォトグラファーのキャリアを辿り、その表現に秘められたバックグラウンドに迫る企画「Behind the Camera」。第2回はMaho Korogi。

Maho Korogiの写真は鮮烈だ。その人物が内に抱える、言葉にならない感情を炙り出すようにシャッターを切る、そんなフォトグラファーなんだと思う。「私の写真は見る人を選ぶ」と彼女は言っていたが、時として強烈な作品が生まれてくるのも、真っ直ぐにその人物の内面と向き合っているからだろう。まだMaho Korogiの作品に触れたことがない人は、是非彼女が撮った清水舞手の写真を見てほしい。きっと、そこから何かを感じるはずである。

今回のインタビューでは、生い立ちから写真を始めた動機、そして自身の写真に対する矜持を語ってもらった。余談であるが、取材終わりに今後撮りたいアーティストは?と尋ねたところ、彼女はSUPER BEAVERと語っていた。すると、先日その撮影が見事に実現。「何も言い訳にしないで」、「夢を諦めないで欲しい」と語っていた彼女は、誰よりも有言実行なのかもしれない。

共鳴する存在との出会い

ー写真始めたきっかけから聞かせてただけますか。

小学生の時にガラケーを持っていたんですけど、5年生くらいの時に携帯で撮った写真をお母さんに褒められて、それで私はカメラマンになりたいと思いました。お母さんには反対されていたんですけど、「カメラマンになる」ってずっと言ってましたね。

ーどうして反対されていたんですか?

家族全員美容師なんです。それで「カメラは食っていけない」みたいに言われていて。でも、ぶっちゃけ美容師も分からないじゃないですか。で、お父さんは渋谷にお店を持っているんですけど、私は潔癖なので美容師はなあ…と思っていて。本当に褒められたのが写真くらいしかなかったから、やっぱり私は写真がいいなあと思ってました。

ーそれから実際に始めたのは?

18歳の誕生日におもちゃみたいな3〜4万円くらいのNikonを買ってもらって。その頃はほぼ遊びみたいな感じでやっていたんですけど、お母さんが病気だったんですよね、躁鬱病の。それから21歳の時にお母さんが自殺しちゃって、そこでこれはちゃんとやるしかないなって思って本格的に始めました。

ーその時には撮りたい写真のイメージなどはありましたか。

今でもずっと撮っている、清水舞手っていう表現者と出会ったのがその頃なんですけど、出会った時にこの人凄いなと思って。その子も結構家庭環境が複雑なので、そういう人同士が揃えば、言葉を交わさずともちょっとダークなものに寄るというか。自然とそういう作風に寄ったところはあります。

ーアーティストとして波長が合う存在に出会えたということですね。

そうですね。連絡は基本取らないので、写真撮る時だけ連絡するみたいな感じで。お互い「今撮りたい」、「今撮られたい」みたいなタイミングが合うので、今だ!っていうその瞬間が重なるんですよね。私が初めてスタジオで撮った写真も舞手で、まだお互いに何者でもない時から撮ってます。

ーインスタにも清水舞手さんを撮られた写真がいくつも上がっていますが、凄くインパクトがありますよね。

圧倒的に見る人が増えたきっかけもその頃の写真ですね。そういう写真を撮るのは凄くパワーが必要で、空間作りも大切だし、もちろん向き合わないといけないから。私達の撮影って凄く短くて、マックスでも1、2時間なんです。体力が持たないんですよね。彼は絶対に涙が出るし、それは泣こうとして泣いているのではなくて、過去と向き合った瞬間に涙が出てくるんだろうし、私も彼に自分を投影しているというか…自分の過去を彼に映し出して、舞手がそれを表現している、その様を撮っているというのが一番しっくりくる。彼には彼の人生があって、私には私の人生がある、それぞれが経験したことがどこかでマッチしていて、それがあるからこそ撮れる写真だと思います。なので私の写真展って、大号泣して部屋から出てくる子もいるんですよね。

ーお客さんもそれだけのもを写真から感じ取っていると。息を飲むような強烈なエネルギーがありますよね。

お母さんが病気になってからめっちゃ貧乏だったんです。小学3年生の時に離婚して、小学5、6年生くらいの時にお母さんが病気になっちゃったので、入退院を繰り返していた時に子供だけで住む時期もあって。もう想像できないレベルのゴミ屋敷になって、子供だけの力じゃお金もないしどうしようもないんですよね。

ーその時の経験が今に繋がっている?

兄がふたりいて、一番上はサッカーが上手かったので、朝の5時起きで千葉の学校に通っていたんですけど。私はまだ中学生だったので、真ん中(の兄)しか働けなかったんですよ。それで電気・ガス止められるの普通みたいな、地獄みたいな生活をしていて。でも、ふたりは今じゃ幸せにやっていると思うし、私も今は幸せだし。私は撮りたい人がいて、その人を実際に撮れるって本当に凄いことだと思っているんです。だからお金がないからとか、家がどんな環境にあるとか、そういうのを言い訳にしないでほしい。もちろん人それぞれ色んな事情を抱えていると思うし、みんながみんな出来るわけじゃないとは思うんですけど。

ーそれでも、Korogiさんの写真を見る人には、前向きな力を与えたい?

そうですね。貧乏生活でゴミ屋敷に住んでいた人が、今では自分で働いたお金で生活して、好きな人と仕事ができるって凄いことだなって思うし、それは何かを言い訳にしていたら絶対にできないことだと思うから。中高生が自分の写真展に来てくれるんですけど、中には虐められている人もいるし、学校行きたくない人もいたりして。でも、だからと言って夢を諦めないで欲しい。言い訳を作らないで欲しいです。今写真を見てくれている子達が「Mahoさんが撮りたい人を撮れたなら、私もカメラ初めてみよう」って思ってくれたら嬉しいし、それはもちろん写真じゃなくて、どんな職業でもいいんですけど、私が撮る写真が1歩進む何かになればいいなと思います。

次ページ:心を握りつぶされるような写真

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