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文: 久野麻衣 写:遥南 碧
ライフスタイルとしての音楽。ウクレレシンガーであるKAIKIは正にそれを体現している。
これまでのKAIKIの楽曲に関わり、7月10日にリリースとなった2nd アルバム『Journey of life』にもプロデューサーとして参加しているCarlos K.とイベントなどで交流のあるDJ TAROと共に、彼の音楽のルーツやミュージシャンとしての生い立ちから、今作の制作について話を聞いた今回のインタビュー。
その最中も彼は自然と音を奏で始め、心地よい空気を作り出してくれた。彼にとって生活と音楽は常に一緒にある。それはウクレレという手に収まりやすい楽器がいつも側にいてくれたからなのかもしれない。この日話を聞いた彼の人生にも、ニューアルバムにも、生活と音楽の近さは絶対に必要な要素だということが現れている。だからこそ彼の歌は多くの人の生活にすっと溶け込むことができるのだろう。
ーKAIKI さんはウクレレを3歳から始めたということで、弾き始めたきっかけはなんだったんでしょうか。
KAIKI:
両親がハワイ好きで、僕が3歳の時に半年間ウクレレ教室に通っていて、その教室をやめたあとに使わなくなったウクレレをおもちゃ代わりにして遊んでいたんです。テレビから流れているキャッチーなCMソングをコピーしていたら親が褒めてくれたのが嬉しくて、それがきっかけで色々な曲をコピーし始めました。ーご両親は音楽好きだったんですか?
KAIKI:
そうですね、両親はEric Clapton、Stevie Wonder、Mariah Careyとかが好きで家でも常に音楽は流れていました。僕が1、2歳の頃、泣いている時にMariah Careyの「Hero」をかけると泣きやんだらしく、いつもCDプレイヤーに入れていたそうです(笑)。ー趣味からプレイヤーになったきっかけはなんだったんでしょうか。
KAIKI:
6歳の時に、両親が通っていた教室に教えに来ていたウクレレ奏者の山口岩男さんが僕のウクレレを聴いて発表会に呼んでくれたんです。今は小中学生のプレイヤーはたくさんいますけど、当時は全然いなかったので物珍しさもあって、そこから少しずつ繋がりができて、小学生の時にはハワイ系のイベントに呼んでもらうようになりました。Carlos K.:
6歳でステージって最年少なんじゃない?DJ TARO:
ピアノならそういうフィールドがあるけど、ウクレレだったら大人がいるところに子供が行って演奏する場面の方が多そうだね。KAIKI:
父はノリのいい人なので「やりたいって言っちゃえ、出ちゃえ出ちゃえ!」って言ってたけど、僕は恥ずかしくて嫌だったんです。だけどステージで拍手をもらえることの楽しさは潜在的に感じてましたね。ー歌もウクレレと同じタイミングで始めたんですか?
KAIKI:
歌は全く興味なくて、ウクレレだけやっていました。ー歌はいつからですか?
KAIKI:
17歳の時に医者を目指してフィリピンの大学の医学部に進学したんです。その地域はどこのバーでも生演奏をしていて、唯一息抜きできる日曜日にR&Bを歌うお気に入りのアーティストを毎週観に行ってました。それがきっかけでR&Bにはまって、Brian McKnightを聴くようになって、自分もこういう風に歌えればいいなと思って歌を真似しはじめたのがきっかけですね。Carlos K.:
ウクレレとは逆に歌は遅いんだね。KAIKI:
その頃は人前で歌いたいというよりは自己満足でカラオケで歌ったり、遊びでコピーしていたくらいでした。DJ TARO:
Brian McKnightの一番歌いたかった曲ってどの曲?「Back At One」?KAIKI:
「Back At One」「One Last Cry」みたいな有名などころですね。あとはBoyz II Men、Stevie Wonder、Eric Claptonも歌ってました。KAIKI:
それでフィリピンから実家に帰った時、両親に「最近何聴いてるの」って聞かれてこの話をしたら「うちに全部CDあるよ」って言われて驚きましたよ。さっき話したように小さい頃に家で流れていた曲ばかりで、ルーツに帰ってきたんだなって思いましたね。Carlos K.:
体の中にあったんだろうね。KAIKI:
心地よかったのかもしれないですね。中学の頃は友達とカラオケに行ってEXILEばっかり歌ってたし、普通の中学生が聴くようなJ-POPを聴いていたんですが、結果的にはR&Bに落ち着きました。Carlos K.:
カラオケで友達に歌うまいって言われなかったの?KAIKI:
人前で歌うのが恥ずかしかったから、元々カラオケすら好きじゃなかったんです。十八番のORANGE RANGEを1曲だけ歌って他の人に回してました。でもEXILE好きな友達が「一緒に歌おう」って誘ってくれて、EXILEを歌うようになって、結果EXILEのオーディションを受けて1次だけ通ったりしたこともありました(笑)。DJ TARO:
その話初めて聞いた(笑)!KAIKI:
今ももちろんリスペクトしているけど、中学生の頃はEXILEのATSUSHIさんが神だと思っていたんです。そのオーディションもEXILEメンバーが実際に歌を聴いてくれるっていうコンセプトだったから、EXILEに会いに行く感覚で受けたもので。でも、そこで1次選考を合格して嬉しい気持ちとちょっと自信に繋がったりしたんです。Carlos K.:
今の歌のスタイルがとても素敵だと思っているんだけど、元々そういうスタイルだったの?それともフィリピンでR&Bを聴いてからそのスタイルになったの?KAIKI:
フィリピンに行ってR&Bを知って歌声は変わりましたね。その頃のスタイルが今に繋がっていると思います。そもそも英語だと発音も発声も全然違うんですよ。ちゃんとした発音で歌おうとすると腹式呼吸じゃないと歌えないので。僕はボイストレーニングに行ったことはないですが、そこで基本的な部分は身についていったんだと思います。ー自分で研究を重ねてたんですね。
KAIKI:
いや、単純に楽しかったんですよね。家でもずっとYouTubeを見ながら真似したりして。ー歌とウクレレを一緒にやろうと思ったのはいつごろですか。
KAIKI:
フィリピンにいる間に、なんとなく始めたんです。なんで今までやってなかったんだろうって思って。それも始めた頃は家でテレビを見ながら好きな曲を歌うくらいでした。ー先ほど医者を目指していたという話がありましたが、それは小さいころからの夢だったんでしょうか。
KAIKI:
医療関係者が多い家系で父も医者だったんです。僕は長男だったので両親から強制はされなかったけど、医者になってほしいんだろうなっていうのは気づいていて。中学を卒業して高卒資格をとった17歳の時、特にやりたいことはなかったし、医者という職業は凄くリスペクトしている仕事だったので目指しました。ー日本の高校へは行かなかったんですか?
KAIKI:
英語をしゃべれるようになった方がいいという父の勧めで、中学1年生の1年間だけインターナショナルスクールに通っていたんです。小中高一貫校でみんな仲が良くて、すごく楽しい学校だったんです。そこから地元の公立中学に行ったら、窓ガラスが週に2回くらい割れたり、消火器持って走ってる奴がいるような荒れている学校だったので衝撃を受けて(笑)。上下関係もすごく厳しくて、全然ピースじゃなかったんですよ。ー医者ではなくて音楽の道を選んだ際にはご両親に反対はされませんでしたか?
KAIKI:
大学を卒業して日本に戻って、両親に医者にならないってことを伝えたら、もちろん「なんで?」って詰められました。でも4年制の大学を1年半で頑張って卒業して、予定だったらプラス2年半向こうにいたはずだから、その2年半で好きなことをやりたいって伝えたら「じゃあやってみれば」って納得してくれたんです。ーそこからミュージシャンとしての活動が始まったんですか?
KAIKI:
今は良い事務所に出会って活動させてもらっていますけど、当時は入りたい事務所もなくて、音楽をやってる友達も「やりたいことをやれるわけではない」って話をしていたので、それならそういうことができる事務所を自分で作ろうと思って、20歳から22歳まで自分で登記して会社を作っていたんです。ーそれはすごい行動力ですね。どんな会社だったんですか?
KAIKI:
同じ思いを持ってる友達のシンガーを集めて、動画作成できる人やPA、レコーディングエンジニアと繋げて、お金はないけどみんながやりたいことをできるようにプロモーションする会社として動いていました。その中で今お世話になっている事務所の方々と出会えたので、会社は今は閉じましたけどね。Carlos K.:
そんな若いときに、全部自分でやろうっていうのが凄いと思う。KAIKI:
僕の「YOLO」っていう曲の中でも言ってるように、人生一度きりだなっていうのは実感があって。友達から親友が亡くなった話を聞いて、マジでいつ死ぬか分からないなと思ったんです。それならやりたいと思ったことは全部やっておこうと思って。Carlos K.:
その時のミュージシャン仲間で、僕と繋がってる人もいるんです。最終的に僕とKAIKI君が一緒になっているけど、当時ライブ会場ですれ違ったりしていたかもしれないんですよね。ー自分で歌いたいとは思わなかったんですか?
KAIKI:
アーティストをやりたい気持ちもあったけど、それよりもそれが出来る形を作ることが大事だと感じてたんです。それに大学卒業したらお金を稼がないといけないとも思っていたので、一旦自分が前に出て歌うというよりはサポートに回ろうと思って。その為にフィリピンにいる時からオンラインでR&Bの授業を受けられるよう、ボイストレーナーを探したりして動き始めていました。DJ TARO:
親御さんや周りの環境を見て、大学卒業したらまず働かないと認めてもらえないって考えたのかな。僕も似たような環境で育ったんだけど、地に足ついてやれる環境を自分で作らないといけないっていう思いが、やりたいのと同じくらいあったのかなって共感してます。Carlos K.:
KAIKIは自分が表に出る側になってからも全体感が見えているから、その経験が活きてそう。KAIKI:
客観的に見てるところはある気がしていて、それはその時に得た感覚なのかなって思います。Carlos K.:
6歳でステージデビューしてからフィリピンまで行って、回り道してるね(笑)。KAIKI:
両親は医者にするためにフィリピンに送ったのに、フィリピンに行ったから音楽の道を選んだという(笑)。でもウクレレを与えたのは両親だから「もしかしたらそうなるかもしれないと思ってた」という話は後々飲みながら聞きました。ー今回リリースされるアルバムはオーストラリアのモートン島で合宿のように作られたそうですね。期間は何日間だったんですか。
KAIKI:
2週間です。最初の1週間、僕はオーストラリアの別の場所でライブをさせてもらっていたのでモートン島にはいなくて、後半1週間で合流しました。Carlos K.:
制作チームは2週間です。最初の1週間は他のアーティストの曲も作ったりしながら過ごして、KAIKI君が合流すると同時に本格的に曲作りを始めて。プロデューサーの3人がそれぞれ別の部屋で同時に制作して、1日1人1曲のペースで作ったので、1日3曲ずつ。4日で12曲作ってそれからレコーディングに移りました。KAIKI:
僕はそれぞれの部屋を回ってメロディを歌って、歌詞を書いてっていうサイクルで動き続けていました。Carlos K.:
プロデューサーがいる3部屋を、KAIKI君がウクレレを持って回るんですよ。歌を録って編集したりアレンジしてる間に、別の部屋に行って違うチームと歌のイメージを話したり。DJ TARO:
会話しながらその場で制作してる感じはセッションに近いね。KAIKI:
みんな朝起きてきたらまず冷蔵庫に入ってるビールを開けて、とりあえず楽器を持ちながらベランダに来るんですよ。飲みながら誰かが弾き始めると良いフレーズが生まれたりして、そのまま制作に入っていったり。あとは誰かが制作に行き詰ったら他の部屋から呼んでセッションしたりして。Carlos K.:
お昼もオーストラリアの風を感じながらみんなでご飯を食べて、また作業再開して。KAIKI:
夕方ごろにはみんなで夕日を見に30分弱かけて海の方に降りて、戻ってきたら作業再開して、晩御飯を食べてから一日の最後には試聴会を開いて、その日作ったものをみんなで聴きながら意見を出し合うんです。そんな生活を毎日続けてました。ーいつもこの方法なんですか?
Carlos K.:
去年が1回目で、今回が2回目でした。面白いのはAirbnbで一軒家を借りて自分たちで簡易的にスタジオを作ってやるんですよ。KAIKI:
マイクも簡易的なものを使ってるし、誰かの声が入ってたりドアを閉める音が入っていたりするんですけど、空間の音が日本のレコーディングスタジオで録ったときの音とは全然違うのでびっくりでしたね。Carlos K.:
このアルバムに3曲あるインストの曲も、敢えてフォークの音や水道が流れる音を残していて、オーストラリアの空気、風の音、生活音を感じれるものになってると思います。DJ TARO:
アルバムタイトルが一番最初に決まったの?Carlos K.:
いや、これは違うよね。KAIKI:
1曲ずつどういう曲を作りたいかみんなでイメージを固めてはいたので、そこに対して自分のいいたいこと、伝えたいメッセージを各曲ごとに展開して、チームと共有しながら作っていきました。曲調はノリノリからスローなものまでありますが、今まで言いたかったけど自分の力だけでは伝えきれなかったメッセージを皆さんに手伝ってもらいながら表現できたと思います。DJ TARO:
ある程度作ってきたものをどうするかって判断することはあるけど、クリエイターが同じところで肩を並べて方向性から一緒に作ることってあんまりないよね。作家陣のレベルが高くないとできないんじゃないかな。Carlos K.:
こういう制作方法は必ずしもうまくいくわけではないんです。ただ、今回はこの制作方法に慣れてる人が集まっていたし、言いたいことも言える人たちだったので、どんどん組み立てていくことができました。KAIKI:
ストレスもなかったですね。Carlos K.:
思っていた以上のものになってるよね。それは共同生活して、すぐ会話できる環境だったからだと思います。「他の曲がこういう方面になってるから、自分はこうしよう」って全体のバランスを整えられることはなかなか出来ないから。画期的なのでみんなやればいいのにって思います(笑)。KAIKI:
一人で曲を作ろうとしても出てこないアイデアだったり、自分のアイデアが本当にイケてるんだろうかって時に、みんなに提案すると「それは違うと思う」って言ってもらえるときもあれば、皆が「それいいと思う」って言ってもらえる時もあって、自信につながりましたね。Carlos K.:
24時間毎日一緒にいると人間性もよくみえるし、音楽テラスハウスみたいな感じですよ。番組にしたらすごく面白いと思う。KAIKI:
あと、今回はオーストラリアでライブをしてから制作に入ったので、向こうの人たちとセッションしたバイブスを保ったままだったんですよ。スイッチを切り替えられたのもすごくよかったですね。ー先行配信されていた「Journey of life」などは、すでにSpotifyでいくつかのプレイリストに入っていますし、多くの人に聴かれていますよね。
KAIKI:
色々なプレイリストに入れていただいている影響もあって、Spotfyでの再生回数が増えているのは嬉しいです。最近だからこそできる広まり方だなと思います。ーTAROさんは多くのフォロワーを抱えたプレイリストを展開されていますよね。
DJ TARO:
フォロワーは特に意識していなかったんですよ。僕のプレイリストはラジオとリンクしている部分はあるけど連動している訳ではなくて、純粋にピックアップした音楽を入れているので、これだけ多くの方にフォロー頂けてびっくりですし、嬉しいですね。ープレイリストの魅力はどんなところだと思いますか?
DJ TARO:
僕らの時は求めないと自分が欲しい音楽って手に入らなかったし、知る由もなかった。欲しいものを得るのにエネルギーがすごい必要だったんですよね。だから今の時代になって、何でも聴けるのは魅力的だけど、だからこそ出会いたい曲に出会えない人もいっぱいいるだろうなって。だからプレイリストが表現であったり、価値観の1つの指針になって聴きたい人に届いてくのは魅力だと思ってます。ーストリーミングサービスで世界中の曲が聴けるとなると膨大な量ですもんね。
DJ TARO:
それに有名、無名関係なしっていうのがいいですよね。全然違う国の曲を聴いてかっこいいと思ったりするわけです。だから住む場所もお国柄も関係なくて、プレイリストに入れた事がきっかけでみんな「入れてくれてありがとう」って連絡をくれるんですよ。ツイートしてくれる人もいるし、そういう人たちとの出会いは縁だなと思いますね。KAIKI:
自分の楽曲が入っているプレイリストを聴いたりすると、こんなにイケてるのと一緒にしてもらえてるんだって嬉しくなりますよ。僕は英詞も書いているので、日本だけじゃなくて海外の人に何かしらの方法で届けられればいいなって思います。DJ TARO:
いい意味で横一線ですよね。Spotifyは、楽曲を細かく仕分けするアルゴリズムがあるんです。自分が何気なく聴いている曲が色々と仕分けされているので、そのデータから自分のツボにはまるような全然知らないアーティストを知る機会になる。KAIKI:
出来るだけ多くの人に聴いてもらえるように今も活動はしていますが、国内だけじゃなくて色々なところで聴いてもらえたら嬉しいですね。3年間やってきて今少しづつファンの人も増えてきてくれていて。アルバムのタイトルにもなっている最後の曲「Journey of life」はそんなファンの人にむけて作った曲で、“この瞬間はもう来ないかもしれないけど、それを積み重ねて一緒に歩んでいこう”っていう思いを込めているんです。まだこれから続いていくよっていう僕の思いが伝わればいいなと思ってます。Journey of life
2019.7.10 Release
収録曲
01 Meant to be
02 LOVE
03 Amigos feat.BlueVintage,KENNYfromSPiCYSOL
04 Aozora
05 Beautiful day
06 Hold on feat.Kecori
07 Ameagari
08 Let it go feat.Celeina Ann
09 サラケダセ
10 One step
11 Darling
12 Yu-yake
13 Journey of life
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