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文: アボかど 編:DIGLE MAGAZINE編集部
国内よりも海外で人気を集めるケースがしばしばある日本のビートメイカーたちだが、そんな中16FLIPは国内でも大きな存在感を放つアーティストだ。それはISSUGI名義でラッパーとしても活動し、ブーンバップの分野において日本トップクラスの人気を集めていることも大きいだろう。初期はISSUGIと16FLIPが同一人物であることは明かされていなかったが、16FLIPとしてもSEEDAの名盤「花と雨」を全曲リミックスした「Roots & Buds」が高い評価を集めるなど日本語ラップシーンでも活躍。5lackやMASS-HOLEといったラッパーの作品へのビート提供も多く、仮にISSUGIの変名だということが明かされていなかったとしても国内で人気を集めていたであろう人物だ。
先述した通りISSUGIはブーンバップを好むラッパーだが、16FLIPとしてのビートメイクも同様のスタイルを軸にしたものだ。基本的にはジャズやソウルなどのサンプリングを巧みに用いた作風で、近年は生演奏や打ち込みなども取り入れてビートをアップデートしている。今回はそんな16FLIPが5月末にリリースした最新ビートテープ『16FLIP (Atomosphere’22)』について掘り下げていく。
16FLIPの作風でベースとなっているのは、NYというよりJ DillaやMadlibなどデトロイトや西海岸のブーンバップだ。この二組といえばよれたグルーヴだが、その側面というよりも、レイドバックした心地良さやメロウネス、埃っぽい質感などで共通点が発見できる。そして16FLIPの場合はそこにRZAやDJ Premierのような東海岸ブーンバップ的なミニマリズム、レゲエの影響なども入ってくる。ストイックな90年代直系のブーンバップ職人のようなイメージがある方も多いかもしれないが、新しいものも柔軟に取り入れる一面もある。ディガーとしてのインプットがアウトプットにも繋がっているのか、ブーンバップを軸にしつつも一辺倒ではない多彩な引き出しの持ち主なのだ。
今作も基本はブーンバップながら、そのレンジの広さが表れている。例えば3曲目の「Urban Tactics」では、90年代というより80年代ヒップホップのような荒々しいドラムと現代のメロウネス漂うウワモノが合わさり、新しさと懐かしさが同時に聞こえてくる。5曲目の「The Sun」は細かく刻んだウワモノに重厚なシンセ、ラフなドラムが光る一曲。サンプラーのパッドを叩く姿が浮かぶようなビートだ。13曲目の「Nakano JFK」ではスペイシーなシンセをループし、現在流行中のUKドリルを思わせるような808を鳴らしている。15曲目の「OneLuv」はゴスペルの匂いが漂う歌声をサンプリングした美しいウワモノを使いつつも、ドラムやベースは紛れもない現行のトラップなどとも並べて聞けるようなパワフルな圧力を放っている。これらのビートからは西海岸やNY、UKなど多彩な地域からのインプットがはっきりと感じられる。いわゆる90年代のブーンバップとは異なるようなセンスが多く詰まっているのだ。
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