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文: kyotaro yamakawa 編:Mao Ohya
兵庫県・尼崎を中心に活動するレゲエアーティスト・Thunderがフルアルバム『LAST START』を4月25日にリリースした。常に更新し続ける自身のアーティスト活動と並行しながら主催フェスを毎年のように成功させ、今年はクラウドファンディングで地元の尼崎にライブハウスを作る企画も始動させている。昨年にデビュー10周年を迎えて勢いを増した彼の渾身の16曲を収録した今作。客演にはCHEHON、RUDEBWOY FACE、Persia、GADORO、T-STONEなどベテランから若手まで芯を持ったアーティスト達が顔を揃えた。
序盤に堂々と「初心」と掲げられている通り、純粋な初期衝動を忘れないというメッセージから今作は幕を開ける。その後に続く「Real Way」や「頂点」など今一度覚悟と誇りを持って放たれる言葉の数々には、驕りを感じさせない静かな情熱を感じる。Thunderらしさが目立つトピックである「Dutty Money」や「Justice」、「FREE UP」などの混沌とした世界に向けて放つ悲痛な叫び、「旅」や「ありがとう」といった自身や周りに向けて放つ感謝と愛のメッセージにも、現在のマインドや置かれている環境に対して今まで以上に素直に向き合ったことが感じれるだろう。今作は、1人の人間としても深みを更に増すThunderのキャリアの節目としての1つの集大成であり、この先に金字塔を打ち立てるべく上げた狼煙となっていく。
2023年になんばハッチでのワンマンライブも予定されており、Thunderがその先に見据える場所は武道館。本インタビューでは、キャリアにおける1つの節目ともなった今作の制作背景や初期衝動から紐解くThunderのパーソナルな面、そして拠点である尼崎にライブハウスを作るべく立ち上げたクラウドファンディングついて、新たなフェーズへと踏み出た現在から10年先の展望など多岐に渡る話を尋ねた。
ーー『LAST START』のリリースおめでとうございます。今作は、シングルや客演で参加された楽曲など近年のThunderさんの活動をパッケージされたものとなりましたが、このアルバムに対して『LAST START』と名付けた理由を教えてください。
1stアルバムの『雷音』を出してから去年までの10年間が第1章やったとして、今からが第2章の始まりというイメージですね。必死に活動できる最後の10年の始まりとして、「LAST START」と名付けました。
ーーここまでの10年間、振り返るとどんな印象ですか?順調だったのか、もしくは停滞も感じていたのか。
3枚目のアルバムまでかなり順調でしたけど、自分の中で浮かんでるものはやり切ってしまったかなと4枚目のアルバムを作る頃は思ってましたね。ワンマンで900人を集めた時もアンダーグラウンドのディージェイでやれる事の限界を少し考えました。レゲエシーンが停滞する中でヒップホップが流行ったこともあって、レゲエへの熱も自分の目標への熱も少しずつ冷めてきてたことを覚えてます。
ーーそこからどの様に今のモチベーションに繋がっていったんでしょうか?
色んなことがプラスに働いていきました。自宅にスタジオが出来て制作のスピードが上がっていったり、日本のラッパー達の曲や色んなジャンルの本から刺激を受けたり。あと、一昨年にジャマイカに行ったことでバイブスが上がったり、何とか耐えてたものが上手く回り出したんです。最近はシングルも沢山リリースしたんですけど、他のアーティストやったらアルバムの為にも温存することがあると思うんですよね。ただ、今はウケへんくても良いから一歩ずつ進んでいこうと思ってリリースしていきました。俺は今33歳なんですけど、何かしたいと思ったら今動き出さないと出来ない時期でもあると思ってるので、今からがラストスタートなんです。この言葉には“ラストスパート”っていう意味も込もってます。
ーー今作の2曲目の「初心」は、そのラストスパートの一歩目にぴったりのテーマソングですよね。
そうですね。「初心」は自分達や周りの人達が段々と初心を忘れていってるよなって、Digital Ninjaの774くんと話したことがきっかけで出来た曲です。どの世界でも一緒やと思うんですけど、成功を掴むと勝手に慢心が出てくるんですよね。より大きな利益も欲しくなるし、その為に音楽を利用することもあるかもしれません。それに逆らってきた自分にとっての初心は純粋に良い曲を作ることで、それを忘れないようにしようとこの曲を作りました。
ーー音楽と初めて出会った時はいつでしたか?
一番最初に覚えてるのは、おかんが美空ひばりを好きやったってことですね。あと、姉ちゃんがヒップホップとかバンドとか色々聴いてたからCDを借りて聴いてました。レゲエで最初に聴いた曲は、Sean Paulの「Gimmi The Light」です。ヒップホップばかり聴いてた当時の自分にとっては、何これ!ばりかっこいいやん!って衝撃的でしたね。その時は日本でもRED SPIDERとかMIGHTY CROWNの人気が上がっていってたこともあって、シーンの勢いも見ながらレゲエに深くハマっていきました。
ーーそのピュアに音楽が好きな気持ちは、子供の頃や10年前と変わらなかったりしますよね。
確かに。音楽はずっと好きですよ。毎日、何かしら探して聴いてますね。J-POPもヒップホップも聴きますし。
ーーキャリアの中で音楽を辞めようと思ったことはありますか?
ありますね。最初は18歳の時です。一緒に始めた友達が半分くらい辞めていった時期でした。レゲエ自体も流行りすぎて少しずつダサくなっていった時期だったので、目標がなくなっていったんですよね。ただ、高校も行かずに音楽をやってた3年間を無駄にしたくなかったので、その時にお世話になってた先輩からの勧めもあって、ジャマイカに行きました。ジャマイカのレゲエを体験してもレゲエは面白くないって思うんやったら辞めたらいいと思って行ったんですけど、初日の段階でめちゃくちゃレゲエおもろいやんって感じたんです(笑)。Bugleの「What I’m gonna do」っていう曲があるんですけど、それを野外イベントでみんなが大合唱してたんですよ。壁とか叩きまくって地鳴りみたいな感じやったし、泣いてる人とかもいたりして、ほんまに衝撃でしたね。あれは今でも忘れられません。
ーー本物のレゲエと出会った原体験だったんですね。
その時に意識が大きく変わりました。何も気にせずにリアルなこと言ったらええやんって。
ーーリアルなことといえば、今作ではコロナや現代社会への言及などのトピックが1つの大きな特徴となってますよね。Thunderさんらしい部分でもあります。
俺も嫌なんですけどね。聴き返した時にコロナコロナ言うてるなって思いました(笑)。でも仕方ないですよね、そこはボブマーリーの意志を継いでるつもりなんで。
ーー過去の作品でいうと「風営法」や「SYSTEM」などで社会に対する疑念や変革を歌われてきたと思いますが、今はどのようなスタンスでレベルミュージックと向き合われていますか?
マジで自分の音楽で変わっていってほしいと思ってますよ。ほんまに1人1人に届いて意識が変わっていったら良いなって思います。
ーー「Justice」の《俺は知らない何も みんな知らない何も》というフレーズは、改めていわれると本当にその通りだと思いましたね。
俺なりに勉強した結果ですけど、今は本当の情報が本でしか入ってこないんちゃうかなと思いますね。この状況やと、流石に俺の歌だけやとどうにもならんのかもなって少し思ってしまう部分もあります。
ーーただただ無垢に変革を歌うというより、諦念のような思いも踏まえて歌われてるようにも感じます。
諦めとかはないんですけど、変革に対して必死になるほどではないって、大人になってから思い始めました。そんなことにだけ時間を使ってたら人生が勿体無いんです。反逆的なことは自分で思ったから言うけど、それをずっと考えてるわけではないですしね。例えば、今作の「Free up」って曲のメッセージは自由に生きてたいってことなんです。その素直な意見が今の僕の答えで、世の中全部のシステムを変えようぜって純粋に思ってた時期もあるんですけど、今は1人1人の意識が変わっていってほしいなと思いますね。
ーー祈りに近い部分も今作で自分は感じました。今までのThunderさんにはないような落ち着きというか。この時代にこういうマインドで過ごしていた人がいた事実を残しておくという意味でも、曲や本などで発表することは重要ですよね。
俺の曲を良いと思ってくれた人が、誰かに紹介してくれると嬉しいなって思いますね。そうやって広がっていくことさえ起きないように操作されてそうで怖いですけど(笑)。残したいって気持ちでも作ってますし、みんなが心のどっかで気づいてることでもあるんちゃうかなって思ってますよ。
ーーコンシャスなテーマの曲でリリックを書く際に、伝え方や落とし込み方など気を付けていることはありますか?
今作でいうと例えば、物事を決め付けないようにしようと注意しながら書きました。あと、昔から嘘だけは書かんとこうって思ってます。情報の中には言い過ぎやろって思うものもあるわけじゃないですか。うさんくさい都市伝説的なものだったり。そういうものは省いて、これはどういう意味ですかって聞かれた時に自分でちゃんと説明できるものを選んでます。
ーー他にも今作では、CHEHONさんやRUDEBWOY FACEさんなどレゲエシーンを支える2人以外にも、T-STONEさんやGADOROさんなど若手のラッパーの方が客演で参加されています。これはどういう繋がりなんですか?
T-STONEは俺のマネージャーが車で流してた曲で知ったんですよ。かっこいいなって思って年齢を聞いたら20代前半と知ってびっくりしました。そのマネージャー経由で繋がったんですけど、向こうもこっちに興味を持ってくれたみたいで、徳島から尼崎のスタジオに遊びに来たこともあって、彼のアルバムに収録する曲を一緒に作りました。こだわりも強いし熱かったですね。バイブス男です(笑)。彼のフロウにレゲエっぽさもあるから俺らも馴染みやすかったし、このアーティストは一緒に一曲作ってみたいって心から思いました。
GADOROは、HACNAMATADAのSTくんが紹介してくれたことがきっかけでした。その時は名前しか知らなかったので試しに音源を聴いてみたら、めっちゃやばいやんって思って。初対面は伊丹空港に俺が迎えに行った時やったんですよ。最初はイメージ通りにクールな子やったんですけど、喋ってみたらめっちゃ良いやつですぐ仲良くなりましたね。完成した曲も良いバイブスの曲に仕上がったと思います。
ーーThunderさんを含めた今作に参加されている5人は10年先もブレずに音楽を続けてそうですよね。
わかります。そういう芯を持ってる人がやっぱり好きなんですよね。
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