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文: 山田邦子 編:Miku Jimbo
中国、アメリカ、そして日本と、多国籍なアイデンティティを持つシンガーソングライターのJU!iE。モデルとしての活躍も目覚ましいその姿を、Instagramなどで目にしたことがある方もいるだろう。彼女が日本で活動する理由、そしてその原点は“音楽”にある。
JU!iEは20代とは思えないほど濃い人生を歩んでいる。故郷の中国では、日本で言うところの普通科の高校から本格的に音楽を学べる高校へ編入。その後、音楽学校としての最高峰であるバークリー音楽院に留学した。「一番すごい音楽学校だから」という真っ直ぐな理由で単身アメリカへ渡ってしまうところに、彼女の行動力と音楽に懸ける想いの強さが表れている。2018年に拠点を日本に移したのも、日本への想いが強かったからこそ。17歳の頃、旅行で来日した際に日本のジャズシーンに衝撃を受け中国やアメリカとは異なる世界を目にした彼女は、日本で活動したいという想いを募らせていた。
来日後も日本語の勉強や大学院の授業などと並行して地道な活動を続けていた彼女が、ついに本格的に音楽活動を開始。2022年12月7日に〈H2Records〉より配信リリースしたデビューシングル「What is love???」は、日本語詞の作詞におかもとえみ、アレンジにAyatake Ezaki(江﨑文武/WONK)、エンジニアにKan Inoue(井上 幹/WONK)が参加。ジャズをはじめとする彼女のルーツが滲み出たサウンドと艷やな歌声は、JU!iEの高いポテンシャルが表れている。
今回DIGLE MAGAZINEは、シンガーソングライターJU!iEの初インタビューを敢行。プロになりたいという意志のもと驚きの行動力で各国を巡ってきたJU!iEの活動の原点やデビュー作について深堀りするとともに、アーティストとしての目標を伺った。
ーJU!iEさんが音楽に目覚めたきっかけを聞かせてください。
3〜4歳の頃、テレビでピアノ演奏している人を見て自分もやりたいと思い、ピアノを買ってもらって習いに行くようになりました。最初は趣味として弾いていたんですが、11歳の頃にプロになりたいと思ったんです。
ー11歳でプロって、かなり早い決断でしたね。
どうやったらプロになれるのかなと思って、インターネットで「一番すごい音楽の学校」って検索したらバークリー(音楽院)っていうのが出てきて、じゃあそこに行こうと(笑)。それで、そこを目指して本格的に学び始めたんです。
ー高校ではまず、オペラを学んだそうですね。
実は一度普通の高校に入ったんですが、やっぱり音楽がやりたいと思って、音楽の高校に入るための準備を始めたんです。本当は作曲を専攻したかったんですが時間的なことも考えて、自分の今までの経験を活かして短期間で集中できるオペラを選びました。オペラはストーリーになっているから演技力も必要だし、イタリア語やフランス語、ロシア語、ドイツ語などで歌うから勉強にもなりましたね。
ーその後入学したバークリーではジャズを専攻されていますが、何かきっかけがあったんですか?
高2の夏に、バークリーのサマースクールに行ったんです。クラシックばかりでちょっと飽きてたし、他に何かカッコいいものはないかなって自分でも探していた頃だったので、サマースクールでジャズを知った時は本当に感動しました。オペラのシンガーから見るとジャズはすごく自由だし、譜面がなくても即興で演奏できるから衝撃的だったんですよね。
ー影響を受けたのは?
最初はBill Evans(ビル・エヴァンス)の「ブルー・イン・グリーン(テイク3)」でした。いわゆるクールジャズっていうジャンルで、すごくクールだし余裕のある感じで大好きになりましたね。あとは「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」もよく聴いてました。
ーその頃は、日本の音楽にも触れていましたか?
椎名林檎さん、東京事変、宇多田ヒカルさんなど、2000年代のJ-POPは聴いていました。でも海外で流行っているものとは全然違うし、歌い方や音色もすごく独特で深いなって。これは日本に行かないとなぜこういう音楽が流行るのかわからなさそうって思ったので、サマースクールから帰国するタイミングで2週間ほど旅行に行きました。
ー初めての日本で、何かいい思い出はできましたか?
その頃よく聴いていたakikoさんというジャズシンガーのライブに行きました。招待制だったみたいで本当は入れないんだけど、当時は英語しか喋れなかったから英語でいろいろ言ってたらなぜか入れてもらえて(笑)。日本でジャズをやってる人はこんなにカッコいいんだって思いましたね。夢みたいな場所だったんですよ。
ーカルチャーショックを受けたんでしょうか?
カルチャーショックというより、すごく美しくて面白そうな世界だなって。来てる人もみんなオシャレだし、ステージのライトがピンクとかブルーとか見たことない華やかさで。
ーアメリカのクラブシーンとはまた違う、日本らしさもあったでしょうしね。
私がいた頃のバークリー(の建物)はすごくカッコよかったんですけど古くて、地下の練習室はネズミが普通に走り回ってたんです。みんながジャムセッションをやってた学校の隣のジャズバーもネズミだらけで、暗くて汚かった。ジャズをやってる人はみんなそういうところにいるんだというイメージしかなかったから、akikoさんのライブで見た日本とのギャップがすごくて(笑)。
ーその思い出を持って中国に戻ったんですね。
そうですね。日本経由で中国に帰り、またアカデミックな勉強に戻ったんですが、アメリカや日本での経験もあって、いつかは絶対に海外で活動したいって気持ちが強くなりました。
ーバークリー入学後の勉強は楽しかったですか?
すごく楽しかったです。寝る時間やご飯を食べる時間もいらないくらい。それまでとは全然違う世界なので刺激的でした。
ー音楽を通して、仲間と呼べる人たちも増えたのでは?
最初は全然コミュニケーションが取れなかったんです。私、面接とかすごく頑張って奨学金をもらったんですよ。だから結構優秀な学生なんじゃない?と思って自信満々で学校に行ったら、私よりも上手い人がたくさんいて。周りはみんな子供の頃からジャズバンドでセッションしてて、ここに私の居場所はある?なんで私は奨学金をもらってるの?と思ってしまって、最初の1年は心が病んでしまったんです。誰とも喋れず、1人こもって練習したり曲を書いていましたね。
ーそれでも音楽をやっていこうと思えた原動力は?
4歳からずっと音楽をやってるので、逆に音楽以外何ができるんだろうって。たまにハーバードの学生とも遊んでたけど、やっぱり私には音楽しかない、他の道はなさそうだなって感じてました。
それともうひとつ、Jacob Collier(ジェイコブ・コリアー)のレクチャーを聞いたことも大きかったです。私が今まで勉強してきたものと全然違うハーモニーや理論についての考え方があると知って、世界が広がるきっかけになったんですよね。最初はあまり共感できなかった彼の明るすぎるサウンドも、自身のキャラクターから来ているとわかったことで、自分らしいサウンドについても考えるようになりました。
ーそこから自分でも歌うようになっていくんですか?
オペラの反動でいわゆるボーカルというものに一時期抵抗感があったんですが、ビッグバンドとボーカルという組み合わせで曲を書いて歌った時に、声ってすごいなと思ったんです。
ービッグバンドで歌ったんですか?
はい。ビッグバンドが好きで、ずっとそういう曲ばかり書いてたんですよね。卒業のためのコンサートでは1曲必ずボーカルを入れないといけなかったので、自分で曲を書いて、自分でコンダクト(指揮)しながら歌ったんです。
ーそれは忙しいですね(笑)。
その時に、声ってとても幅が広い楽器だなと思ったんですよね。人の声にはすごい力もある。オペラよりもいろんな歌い方があるし、いろんな使い方もできるから面白いなって思いました。
ーバークリー卒業後はニューヨークでスタジオのアシスタントなどをされていたそうですが、日本に移住して音楽活動をするようになったきっかけは?
アメリカの音楽もカッコよくて楽しかったけど、私はアメリカ人じゃないし、そこにルーツはないから、その中で上手く活動していくイメージができなくて。それで、自分のルーツであるアジア人ーー同じ髪の色、同じ肌の色をしている人たちはどんな音楽を作っているのか、もう一度ちゃんと聴くようになって、日本の音楽はすごいなと思ったんです。いろんなジャンルの音楽が吸収されているけど、自分の色もちゃんと出しているし、深みがある。
ーどんな音楽をお聴きになったんですか?
WONKとかSOIL&“PIMP”SESSIONS、m-floとかを聴いてましたね。ちなみに東京事変の「女の子は誰でも」っていうビッグバンドの曲は、全部譜面を起こしました。今まで勉強したものとは違って、すごくオシャレで現代っぽいからその仕組みを知りたくて。
ー2018年の来日後、今のレーベルにはどういった経緯で所属したんですか?
最初の1〜2年は言語の壁もあるし、大学院の勉強もあるし、アルバイトもしていたからキャパオーバーだったんですが、目標は見失わずに少しずつオリジナル曲も作っていたんです。日本語が喋れるレベルになったら事務所やレーベルを探そうと思っていたところ、今の事務所の方と出会いました。
ーいよいよ12月7日に1stデジタルシングル「What is love???」がリリースされましたね。この曲を作ったきっかけは?
楽曲提供をする中で、自分らしい曲も書こうと思ったんです。なのでJU!iEっぽい音楽ってなんだろうって考えながら書きました。
ーJU!iEっぽい音楽というと?
寂しさと切なさがある音楽、だと思います。私、15歳の頃からずっとひとり暮らしなんですね。普段「寂しいです」なんて言わないけど、そういう雰囲気がなんとなく出てるねって言われることがあって。それが音楽にも出てるんだって、最近気づきました。
ー確かに《そばにいて》って歌ってますね。
はい(笑)。子供の頃にすごくバラードを聴いてたので、その影響も大きいのかもしれません。あまり意識はしていないんですけど。
ーこの曲は愛がテーマになっていますが、JU!iEさんが今思う愛とは?
「What is love???」、つまり正直わかんないよって。「?」が3つもあって、本当にわかんないって感じ。昔みたいに「愛してる!」「あなたがいないと生きていけない!」みたいな気持ちに共感できる人って、どんどん少なくなってると思うんですね。文章も音楽もどんどん短くなってるし、みんな時間もないしっていうジェネレーション。インスタントラブを繰り返すんだけど、実はそういう人たちも本当の愛が欲しいんだと思うんです。でも、それが何かわからない。深くて重ければ本当の愛なの?逆に、軽い感じのものは愛じゃないの?っていう疑問もある。だけど1人でいたくはないし、寂しさを感じてるし、一緒にいたいって気持ちは変わらない。この曲ではそういうことについて書きました。
ー今回はWONKのAyatake Ezakiさんがアレンジャーとして、井上 幹さんがエンジニアとして参加。大好きなバンドの方と一緒に作れるって幸せなことですね。
学生時代から憧れていたバンドなので、とても嬉しかったです。大先輩だから断られるかも…と思ったけど、一緒にやりましょうって言っていただいて。打ち合わせの時に一番好きなジャズ系の人を聞かれたのでビル・エヴァンスと答えたんですが、Ayatakeさんも同じだったらしくて、その後がすごくやりやすかったんですよね。コミュニケーションはそこまでいらないんじゃないっていうくらい、何も言わなくてもわかる感じでした。音楽ってやっぱり相性なんだなって思いました。
ーそして日本語詞には、おかもとえみさんが参加されています。
サビはもともと日本語でしたが、全体的に英語のほうが多かったので、えみさんと相談しながら書いていきました。完全にお任せするのではなく私のニュアンスも伝えたいなと思ったので、行ってほしくない気持ちと、でもあなたは絶対行くよねっていう複雑な気持ちをどう表現したらいいのか、2人で相談しながら書いていきました。じゃがりこを食べながら(笑)。
ー歌詞は日本語を中心に英語と中国語も使われていますが、今後もこういうスタイルで?
日本でリリースする曲は、日本語中心でやりたいなと思っています。日本にいる人とコミュニケーションが取りたいから。今回の「What is love???」のように、自分が言いたいことを一番伝えやすい言葉で表現していきたいんです。どこの出身だとか国で定義されたくないし、中国人だからこうだよねって決めつけられたくないなというのもあるから、今後も自分が喋れる言葉は全部使っていきたいと思っています。
ーもちろんいろんな方の耳に届くのがベストだと思いますが、こういう方にはぜひ聴いてほしいというのはありますか?
寂しい世界、苦しい世界で生きている人たち。苦しいな、寂しいなと思っている人が少しリラックスできたり、共感できたりする音楽を作れたらいいなと思っているんです。もちろん楽観的な人にも聴いてもらいたいけど、どちらかというと、この世界の苦しさをわかってる人たちが共感してくれたらいいなと思います。この曲だけじゃなく、将来の自分の曲全部ですけど。
ー今後、日本でライブをやってみたいのはどういう場所ですか?
30代になるまでに、ビルボードとブルーノート。その次の段階として、日本武道館かな。私、日本で初めて行ったコンサート会場は武道館だったんです。米津玄師さんのチケットが抽選で取れたから、上海から見に行ったんですよ。
ーそういうフットワークの軽さも、JU!iEさんが作る音楽のムードに表れている気がします。では最後になりますが、今後の抱負などを聞かせてください。
やっぱり、深みのある音楽を作っていきたいです。ただハッピーになりましょう!っていうだけじゃなくて、ちょっと複雑だったり深みがあるような気持ちを伝えたいんですよね。切なさ寂しさ、この世の中に生きてることの苦しさなどを音楽で表現して、リスナーのみなさんにも共感してもらえたら嬉しいなと思っています。
RELEASE INFORMATION
1st Digital Single
「What is love???」
2022年12月7日リリース
H2Records外部リンク
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DIGLE編集部
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石角友香
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