BURNABLE/UNBURNABLEが1stアルバムで示した作詞観。re:cacoが負の感情の言語化に見出すもの|early Reflection

Interview

文: 高木 望  写:山﨑 優祐  編:Miku Jimbo 

ポニーキャニオンとDIGLE MAGAZINEが新世代アーティストを発掘・サポートするプロジェクト『early Reflection』。2024年2月度ピックアップアーティストとして、BURNABLE/UNBURNABLEが登場。

「負の感情を肯定する」ダークポップアーティスト・BURNABLE/UNBURNABLEre:caco(リカコ)をボーカルに、XIIXなどで活躍する須藤優をプロデューサーに迎え2021年より始動したBURNABLE/UNBURNABLEが、2024年2月21日に1stフルアルバム『空恐ろしい』をリリースした。

心の中で泥沼のように渦巻く葛藤や不安、自分自身に対する否定と肯定。足を取られそうになりながらも、どこかで体を委ねられるような安心感もある、不思議な作品が生まれた。まさにアルバムタイトルの通り“空恐ろしい”のだ。その空恐ろしさは、re:cacoの巧みな作詞能力に裏付けられているように思う。

re:cacoはなぜ“負の感情”を言語化し続けるのだろうか。また、なぜ言語化した言葉たちを歌にのせ、発表し続けるのだろうか。『空恐ろしい』制作の裏側と共に、彼女の作詞観を紐解くインタビューを行った。

当たり前のように紙に言葉を連ねた――re:cacoの言葉が向かう先

ー歌うことが好きになったのはいつ頃からでしたか?

小さい頃、「ピアノなんかより声楽がやりたい」って親に頼んだことは覚えてます。歌はずっと好きです。

ー声楽に興味を持ったきっかけは?

『ドリームハイ』(2011年/韓国KBS)っていうドラマがすごく好きで。その影響がすごく大きかった気がします。いまだにドラマで使われた音楽は聴いています。

ーでは、自分の考えや気持ちを言葉で表現するようになったのはいつからでしたか?

いつだろう。やっぱり一人の時間が増えたとき…高3あたりからか。自分の中身を表現しないと、自分がどこにもいないような気がしてしまって。ただ「やらなきゃ」という義務感はなかったです。当たり前のように、紙へ言葉を書き連ねていました。言葉を音楽に乗せて発信したいと思うようになったのも、そのときは手段がそれだけだったから。歌うことが私の道だと思ったし、それで自分が救われると思ったんです。

だから、本当は分けたほうが良いのかもしれないけど、BURNABLE/UNBURNABLEの私は“素”の私と何も変わらないです。というより、何をするにもこんな感じですね。

ーその上でBURNABLE/UNBURNABLEが「負の感情を肯定する」というコンセプトに至った背景は?

私の性格がすごく後ろ向きでネガティブだからです。そういう人が多い世の中だし、自分自身でネガティブな感情を肯定したかった。そうすれば、共感してくれる人の姿が見えてくるのかなって思って。

ーじゃあ、作詞をする時は誰かに向けて歌うというよりも…。

あんまり良くないのかなって思ったりもしますが、私は全部自分に向けて歌ってます。

ー自分を「もう一人の自分」として客観視した状態で歌を届けるのでしょうか?

特に誰かにどうにかしてほしいわけじゃなく、ただ「こういう気持ちだ」ということを書くときもあります。「逃げるユーフォリア」はまさにそれです。「なんで私ばかり」と思うことをやめられない、自分の感情について表現しました。「beg」も、ただただ誰かに「大丈夫だ」って言ってほしかったから生まれた曲です。

でも高校のときに“自分がいない”気がするようになって以降、いまだに自分はどこにもいないんです(笑)。何をしてても、本当に楽しいのかとか、悲しいのかとかがわからなくて。それでも自分の感覚がわかるときがあるんです。すごく一瞬だけ。前に出る感じがするんですよ。自分の気持ち、感覚が。本当に集中しないと出ないけど。

それ以外のときはずっと後ろにいる自分に支配されているような、そんな気分です。だから感覚でいうと、自分の後ろにいて、時々一瞬だけ前に出る自分に向けて歌っている気がします。

ー自分が前に出てくる瞬間って、どんなときですか?

うまく言い表せないのですが、実はつい昨日も前に出てきました。そのときは頑張って本を読もうとしていたんです。「ふっ」って力を入れてみたら、一瞬だけ自分の感覚が出てきた気がしました。

歌詞を変えることへの葛藤

ー「自分に向けて言葉で何かを表現したい」と思う瞬間は、どういうときが多いですか?

何か違和感があったり、怒りの感情が生まれる瞬間。気分が落ちたときに言葉を書き連ねることが多い気がします。何かが起きたときに自分が考えたことを、言葉で整理するんです。

ーそうやって生みだされてきた過去の言葉や歌詞を、改めて見返すことは?

もちろんあります。残るものに対する恐怖心が結構あって、あんまり書き留めるのも本当は得意じゃないので、高3の頃に書いたものは流石に残してはいないけど…ただ、BURNABLE/UNBURNABLEとしてリリースした歌詞の言葉は時々振り返ります。

ー過去の歌詞を読み返したとき「懐かしい」と感じるか「変わらない」と感じるかでいうと、どちらが多いでしょう?

今と感覚や価値観が一緒の曲もあるし、恥ずかしい曲もあります。中には「間違えたな」「書き直したいな」というのもあるけど、まあそれはそれでしょうがないです。

ー「間違えたな」もあるのは意外です。

むしろ「今の自分と考え方が変わらない」と思える曲は少ないかもしれません。今のところ、私の中で一番大切で、揺るぎないことを歌っているのは1曲だけです。

ーどの曲ですか?

「灰になって空に舞う」です。いまだに、曲の背景にあった母の死は消化できなくて。でも、一番私を形作っている曲なんです。完成して良かった。

ーというと、完成までに紆余曲折があったとか?

逆にすぐ完成しました。「灰になって空に舞う」も然り、テーマが自分の中できちんと噛み砕けていたら、すんなり書き上げられることが多いです。でも、最初の頃は作詞をしたことがなくて大変でした。恥ずかしいです(笑)。

ー歌詞を構成する言葉を紡ぐとき、単語や言い回しは何度も書き直しますか? それとも自ずと出てきた言葉をそのまま使うことが多い?

そもそも本当に自分が「これだ!」って思った言葉しか書き残さないんです。何度も書いては消したり、推敲したりするタイプではなくて。でもアルバムの中の曲でいうと、「血のカルテ」は当初「血のカルマ」でした。全てのサビにも「カルマ」という言葉を使っていました。

ーそうだったんですか! この曲、ラストのサビだけ「カルマ」ですよね。

実はチームからの意見で「カルマ」という言葉を使わないようにしよう、ということになったんです。ラスサビだけ「カルマ」にしたのは、私がやっぱり曲げられなくて(笑)。

ーどうしても「カルマ」という言葉を使いたかった理由は?

この曲は“回避性依存”について書いたのですが、私の中で「カルマ」という言葉がすごくテーマにハマったんです。だから言葉を言い換えることで、人の運命のようなものを否定するのは違うんじゃないかな、と最後まで葛藤していました。

「やっぱり全部のサビをカルマにしたいな」とモヤモヤしてたんですけど、作詞の先生に「いいじゃん、カルテっていう一枚の狭い世界から、ラスサビに向かってカルマっていう大きい世界に移るから」って言ってもらえて。最終的に今の形に落ち着きました。

ー「この言葉が良いな」と思うフレーズを選ぶとき、参考にするものはありますか?

どうでしょう。言葉を選ぶとき、自分でも驚くほどナチュラルに選んでいるんです。響きも意味も、自分の中で「こういうものが良い」というイメージにぴったりなのがいつも出てくる。

ただ、タイトルに関しては歌詞の中から引っ張り、テーマに沿って決めるようにしています。

ーなぜアルバムタイトルに『空恐ろしい』という言葉を選んだのかも気になりました。

先にジャケットの写真が用意されていたんです。写真に合う音や頭文字、そして「これから始まりそうな予感」のある言葉を考えていて。その上で自分にぴったりな言葉が「空恐ろしい」でした。

デモを起点にテーマを考え歌詞を紡ぐ

ー話を伺っていると、純粋に音楽とは離れたところで言葉を紡ぐときと“作詞”では、手法を変えているのではと思いました。作詞をするときは、歌詞と音楽、どちらが先に生まれるのでしょうか。

基本的には最初にデモ曲が、作曲を手がける須藤優さんやARAKIさんから上がってきます。その曲を聴いて「この曲はこれについて歌おう」「この曲はこういう感じだからあのことについて歌おう」とテーマが決まるんです。それこそ「灰になって空に舞う」は、故郷のような懐かしさを感じたので、懐かしい家族の記憶をテーマに書きました。

ー楽曲ありきでテーマが決まり、歌詞が作られるんですね。一枚のアルバムの中にたくさんのテイストの曲が集約されていますが、改めて完成形を聴き返すとどういう印象を受けますか?

普段から音楽はなんでも聴くし、あんまり一つに縛られたくないタイプなんですよね。「良いと思ったらやる」ということが多いので、さまざまなカラーの楽曲が揃うこと自体には違和感を感じません。

それでも、アルバムに収録されている曲の中には私自身が「あ、こういう曲もやるの!?」と意外さを感じるテイストの楽曲も入ってて。「メーデー」もまさに意外な曲の一つです。「メーデー」はデモよりも先に「こういうテーマの曲が書きたい」という意思があって、それを元にして生まれた曲。アルバムの中でも特に気に入っています。よく自分が落ち込んだときにも聴いてますね。

ー先ほど「残るものに対する恐怖心がある」とおっしゃっていましたが、楽曲たちがこうやって一つのアルバムにまとまり、残り続けることに対する恐怖はありますか?

自分とはまた違う誰かが聴いたとき、それが心に残るものだったり、その人にとっての道や正解だったりになるなら、それはそれでいいと思うんです。私も全ての曲を肯定できるわけではありません。その時々の私の中で「この曲とこの曲が好き」があります。だからこそ、それでいいのかなって思います。

否定を跳ね飛ばすほど暴れられる瞬間に出会いたい

ー2022年3月に開催された初の有観客ライブ<FUNERAL ver0.0.0 by BURNABLE/UNBURNABLE>を皮切りに、今後も目の前にリスナーがいるなか、歌を届ける機会は増えると思います。ライブパフォーマンスを行うことは歌を歌う行為や歌詞を紡ぐ行為に対し、どう作用していますか?

どうですかね。うーん…ライブを経験したことで、好きだった歌うという行為にあんまり自信がなくなったように思います。今の精神状況的にそう感じるだけかもしれないですけど。身近な人からの否定っていうのも一番根強い気がしていて。それを跳ね飛ばすぐらいの気持ちが今は必要だなと感じています。跳ね飛ばすくらいの力、それは今まで何回か挑戦してきたけど、いまだに出ていない気がして。それじゃダメだなって思って。

その一方、私の歌を聴いてくれている人の顔は、絶対に一人一人見たいんです。ライブのとき、目を合わせようとしても逸らされるんですけどね(笑)。はじめはめっちゃ緊張しましたが、どんな人が自分の音楽を聴き、ライブに来てくれるのかがわかったのは嬉しかったし、面白かったです。すごくいっぱいお客さんがいたことは、鮮明に覚えています。

そういう意味では、音楽の作り方はこれからも変わらないけれど、曲を作ったときに「あの子はきっと気に入ってくれるだろう」と、顔を思い出すことが増えるかもしれません。

ーこれからの活動で“跳ね飛ばすくらいの気持ち”は、楽曲制作とライブのどちらで発揮されると思いますか?

ライブで出すことを、きっと自分が一番求めてると思います。ステージに限らず、すごくはっちゃけたいんです。頭がおかしくなるくらい、暴れられる瞬間に出会えたら嬉しいです。

INFORMATION

1st ALBUM『空恐ろしい』

2024年2月21日(水)リリース
〈early Reflection〉 
BNBL-002
3,300円(税込)

収録曲
1.メーデー
2.HUSH-HUSH
3.リセット症候群
4.S.O.S.
5.一日一日夜
6.神漏美
7.泣いてもいいから
8.黒い犬
9.水魚の交わり
10.血のカルテ
11.レモネード
12.灰になって空に舞う
13.朝露
14.逃げるユーフォリア
15.beg
16.ATS

【配信リンク】https://lnk.to/skyscared

early Reflection

early Reflectionは、ポニーキャニオンが提供するPR型配信サービス。全世界に楽曲を配信するとともに、ストリーミングサービスのプレイリストへのサブミットや、ラジオ局への音源送付、WEBメディアへのニュースリリースなどのプロモーションもサポート。また、希望するアーティストには著作権の登録や管理も行います。
マンスリーピックアップに選出されたアーティストには、DIGLE MAGAZINEでの動画インタビューなど独自のプロモーションも実施しています。

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BURNABLE/UNBURNABLE(バーナブル・アンバーナブル)

re:caco(リカコ)をボーカルに、日本の第一線で活躍するベーシスト須藤優(XIIX)をプロデューサーに迎えたダークサイドチルユニット。「あなたの捨てたい感情をも肯定する音楽を。」を掲げ、重くダークなサウンドに切なく感情のこもった声や落ち着くメロディを乗せて歌を届ける。

2021年にリリースした1stソング「このままどこか」がSpotifyやApple Musicにて様々なプレイリストに選出され、デビューより1ヶ月経たずしてバイラルチャートにも選ばれる。また、2022年3月に行った初ライブは発売3日でソールドアウトし話題を呼んだ。

2023年末までに10ヶ月連続配信リリースを経て着実にファン層を拡げ、<MINAMI WHEEL>などイベントにも出演。そして2024年2月、初のフルアルバム『空恐ろしい』を発表した。CDの発売は、2021年のEP『BURNABLE TRASH』以降、2年ぶりとなる。
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