種を蒔き、枯れ木が華やぐ。謎の2人組The Burning Deadwoodsの“応答と解釈”による制作手法

Interview

文: 高木 望  編:riko ito 

名前や顔などの個人が特定できるような情報を伏せ、ミステリアスな存在として活動を行う2人組・The Burning Deadwoodsが、2025年3月19日に2ndアルバム『Life for Others』をリリースした。今作の制作を経て1stアルバム『T.B.D.』から感じた変化や、豪華なフィーチャリングメンバーとの制作を経て気づいたことなどについて話を聞いた。

前作『T.B.D.』(2021年)では、kiki vivi lilyMATTON & inui(ex. PEARL CENTER)、AKINAFAKY)といった実力派アーティストとのコラボレーションを果たし、その匿名性も相まって各音楽メディアからも注目の的となった2人組音楽バンド・The Burning Deadwoods。ダンスミュージックを基軸としながらあらゆるジャンルを横断する彼らが、2ndアルバム『Life for Others』を3月19日にリリースした。

アルバムには柴田聡子Furui Rihomaco maretsKenta Dedachi & Sincereをはじめとした錚々たるアーティストが参加。アルバム全体を彩る音色の豊かさも相まって、朽ちた木の周縁に新たな息吹が生まれるような、柔らかい華やぎを感じさせる1枚だ。《Deadwood is often regarded as a symbol of nothing but uselessness. However, in reality, it serves as fuel, enriching the soil with nutrients.(枯れ木は役に立たないものの象徴としてみなされるが、燃料にもなり、土壌を豊かにする)》。そんなフレーズから始まる本作の1曲目「Statement」のナレーションからは、2人の音楽に対する価値観と、ユニットの定義が窺える。

では、なぜ彼らは「誰かの役に立つもの」をユニットとして生み出すに至ったのか。また、どのようにして「役に立つもの」を紡いでいるのだろうか。今回は彼らのユニット結成経緯、そして新譜『Life for Others』制作の裏側を中心に話を伺った。

「どこの誰が作ったか」というバックグラウンド抜きに聴いてもらいたい

ーはじめにThe Burning Deadwoods (以下TBD)が結成に至るまでの経緯についてお聞きできればと思います。

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Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

最初にDeadwood Fとお会いしたのは、僕が主催するクラブイベントでした。Fの音源は出会う前から聴いていたし、メディアのインタビュー記事なども読んでいて。僕よりも先に音楽業界へ入っていたからこそ、Fは憧れる先輩の1人でした。
インタビュイー画像

Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

僕もKも当時からプロデューサーやDJとして活動していたので、お互いのことは作品を通じて認知していたんですよね。クラブで邂逅して以降は、徐々に僕がK名義の作品をリミックスしたり、同じクラブイベントに出演したりするようになりました。

加えて僕がKの在籍する所属事務所に移籍してから、より一緒に仕事をする機会が多くなって。「この2人でユニットを組んで、オリジナル作品をリリースしたら面白いのでは」と感じ、TBDの結成に至りました。

ー当時から共作の機会はありながらも、改めてユニットでの活動を提案した背景は?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

まず「音楽を作っている」という共通点がありながら、出自や音楽への向き合い方が異なっているところに可能性を感じたんです。Kはアカデミックな素養をもとに音楽を生み出しています。一方で僕はいわゆる「音楽教育」を受けておらず、バンドやDJなど現場での活動経験を制作に活かしています。

制作の手法においても違いがあって、Kの曲作りはなんというか……アカデミックでありながらも僕よりピュアなんですよね。「こういう聴かせ方をしたいからこの音を足そう」という戦略的な考え方ではなく、「このハーモニーがとにかく必要だから、この音を足す!」という直感で曲作りをしている印象を受けました。

それによって、Kは僕が思いつかないようなハーモニーやメロディを考えることができる。異なるアプローチが重なって生まれるオリジナルの活動に興味を持ったのが、すべてのきっかけでしたね。お互いの足りない部分を補えるからこそ、ユニットとして楽曲を継続的にリリースすることで、制作の幅がより広がると思ったんです。

ー新アルバム『Life for Others』の1曲目「Statement」でも、ユニット名の由来とも言える考え方をナレーションしていますよね。ユニット名はお2人で決めたんですか?

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Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

話し合いの場で、Fの出したアイディアが最終的に採用されました。TBDでどんなことをするか、というコンセプトの考案やチームとしてのディレクションは、基本的にFが担っています。それこそ「各々の実名は出さず、変名で活動するユニットにしよう」というアイディアもFの発案です。

ー「不特定多数が属するユニット」という見せ方を選ぶ可能性もあったのでは、と思います。それぞれ“Deadwood F” “Deadwood K”という新名義をあえて用いた経緯は?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

まずは音楽自体を「どこの誰が作ったか」というバックグラウンド抜きに聴いてもらいたい、という意図があり「匿名性の高いユニット」という枠組みをはじめに作りました。ストリーミングが新しい音楽を知るメジャーな手段となった現在、その曲の作者や演奏家が誰であるか、というのはそこまで重要な情報ではなくなってきていますから。

とはいえユニットに属するメンバーが完全に見えない状態だと、製造責任の所在がわからない。何より単発ではなく継続的に活動をしたいからこそ、同一アーティストの活動であることはわかったほうが良いと思ったんです。だから2人組であることや役割分担があることなど、登場人物の輪郭はおおよそ見えるようにしました。

ーまさに1stアルバム『T.B.D.』の1曲目「Introduction」のナレーションでも「TBDとは何か」を解説されていましたよね。

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

コンセプト自体は結成時に決まっていたものの、アルバムを作る中で「普通に説明してもわかりにくいから、いっそのこと曲にしちゃおうか」と僕から提案したんです。それで「Introduction」をアルバム制作の終盤に追加しました。Kが作っていたトラックをベースに、スキットのようなものをお互いに作るうちに「ラジオっぽいナレーションを載せてみよう」とイメージが膨らんできて。僕がリリックを書き、ナレーションをSincereにお願いしました。

音作りのラリーをする過程で余白を相手に委ねる“たねシステム

ー今まさに制作のエピソードが挙がりましたが、普段はどのように楽曲を作っているのでしょうか?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

僕らは通称「たねシステム」と呼んでいるのですが(笑)、はじめに2人のうちのどちらかが、音楽の「たね」となるシンプルなコード進行やグルーヴを作るんです。そこへ交互にハーモニーやアレンジを加えていき、2往復程度で曲を完成させます。

ー1人で楽曲を制作するときとの違いは?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

2人で作るからこそ、ある程度の「余白」を用意しつつ相手に渡すんです。お互いに1人で曲を完成させられるスキルがあるからこそ「これ以上やりすぎると曲が完成してしまう」という加減もわかっている。だからこそ成せる制作手法かもしれません。結果的に想定外の方向へ曲が育つこともあれば、想像通りの形で着地することもある。先の見えない過程を楽しみながら制作に臨んでいます。

ー「余白」というのは未完成の状態で相手に渡す、ということでしょうか?

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Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

必ずしもそうではないんですよね。少なくとも僕は音数やハーモニーをしっかり詰めこまないと不安になるタイプなので(笑)、「たね」を受け取った後は音を埋めきってからFに渡しています。もちろん「音を余計に増やす」なんてことはしていません。ただ、渡すときに音の引き算をFに委ねている節はあるんです。「不要な音はFがカットしてくれるだろう」と安心してバトンをパスしているというか。僕はそれをある種の「余白」と捉えています。
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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

確かに僕が楽曲のミキシング(音色や音量バランスの調整作業)を担当するので、作業中に要らないと判断した音は、ズバッと切ることもあります。Kは「何で勝手に減らしたんだ!」と激昂するタイプではないからありがたいですね(笑)。

つまり我々の言う「余白」というのは、音楽をどう受け止めるかという「解釈の余地」に近いかもしれません。解釈が複数用意できるような状態になったところで一度相手に委ね、レスポンスを待ちます。さらにTBDの制作で面白いのは、ラリーの過程でシンガーによる解釈も加わること。フィーチャリングするアーティストが解釈するための余白を用意することもあります。

ーコラボするアーティストに対し、TBDからはどういったオーダーをしますか?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

基本的に歌い方のディレクションはしません。歌ってもらいたい曲を送り、まずはアーティストに解釈を委ねるんです。そしてレコーディングの成果物によっては、元々用意していたトラックへさらに手を加えたりすることもあります。

ー予想外の解釈が戻ってくることもあるのでは、と思いました。

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Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

たとえばFurui Rihoさんの「Aliens」は、我々の解釈から大きな飛躍がありましたね。この曲も事前にメロディやトラックを用意したうえで、Furuiさんに解釈をお願いしたんです。戻ってきた音源を聴くと、歌い方はもちろん、メロディにもアレンジが加わっていて面白かった。Furuiさんのアウトプットに合わせてトラックにも大きく手を加えました。逆に、我々がガチっとオーダーをしたのは、ドラマの主題歌にもなった「No Other Way」でしょうか。ドラマの原作を読み込んでから歌詞やトラックを制作したので、「こういう歌い方を」と具体的な指示を出させてもらいました。

柴田聡子、maco maretsらが参加。フィーチャリングアーティストに抱く化学反応への期待

ー「誰と一緒に音楽を作るか」もTBDの制作における大事なトピックだと感じました。コラボするアーティストの人選は、どの段階で決めるんですか?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

曲の制作を進めながら「この曲はこういう歌い方の人とマッチするのでは」と話し合って決めることが多いです。僕らだけではなく、TBDの制作チーム全体で提案し合って決めます。特に制作チームは客観的な考え方のできるメンバーに恵まれているので、彼らの意見がキャスティングにも良い影響を与えていますね。

一方でユニットとして継続的に活動する以上、自由なようでいて、できることは限られています。特に今作は、前作『T.B.D.』という試金石がすでにある状態。だからこそ1st、2ndという点同士を繋いだ、我々の線にスッと入ってこれるアーティストか否かを意識しました。

ー「スッと入ってこれる」か否かを判断するポイントは?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

シンプルに楽曲を聴いたときの第一印象が大きいです。歌い方の印象をもとに「もしこの曲を歌ってもらったら、こんな解釈をしてくれそう」とイメージが膨らむ人にお願いしています。

たとえばmaco maretsさんは、我々とは異なる領域・ヒップホップで活動されているアーティスト。でも彼自身のラップはポエトリーリーディング的な要素が強く、かつ内向性が高くて、世間一般が捉える現行のヒップホップとはまた違う魅力があります。根底にあるグルーヴからも「TBDの音楽と良い化学反応を示してもらえそう」と思い、お声がけしました。

また「Tenderness」のAzumiさんも、Kがすでに楽曲をある程度完成させたタイミングで「Azumiさんが歌ったら面白そう」と言ったんです。普段のイメージと乖離があるかもしれないけれど、こんなテイストの曲も歌えるのでは……という好奇心が、オファーにつながることもあります。

ーでは、歌詞はどのタイミングで制作するんですか?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

キャスティングが決まってからが多いです。シンガー本人に書いてもらう場合と、僕らが書く場合があって。今作ではアーティストに委ねるケースが多かったのですが、後者の場合は、たとえばドラマで主演俳優が決まってから「この人にこんなセリフを言ってほしい」と考えるみたいな感覚で歌詞を書きます。作った楽曲を解釈し、自分の考えをメロディに乗せつつ、その人に歌ってほしい言葉を組み立てていく感じです。
インタビュイー画像

Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

今までの制作だと前作『T.B.D.』のkiki vivi lilyさんに参加してもらった「Turn Me On」だけは歌詞の作り方が特殊でしたね。僕とFでワンコーラスずつ歌詞を書いてお渡ししたんです。そこから2人の書いた歌詞を良い感じに混ぜ合わせた歌詞を作ってもらって。「こんな作り方もできるのか!」と感激しました。
インタビュイー画像

Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

あ、今の話で思い出したのですが、今回のアルバムで起きた新たな変化の一つは「歌詞づくり」かもしれません。

ーおお、どんな変化が?

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Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

従来は「メロディを作った人が歌詞も作る」パターンが多かったんです。でも今回は柴田聡子さんの「Another Day」のメロディをKが制作しているときに、ふと「柴田さんがこの曲を歌うならこうしたい」というアイディアを自分が思いついて。前作のように役割の線引きを明確にせず、アイディアがあるほうが手を挙げる、という新たなスタイルには手応えを感じました。
インタビュイー画像

Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

柴田さんに参加いただいた「Another Day」は、事前に用意した楽曲からのビフォー・アフターも大きく、良い方向に膨らんだ楽曲だなと思います。レコーディングの歌声を聴いて「もっと全体をまろやかにさせてみよう」「リズムを跳ねさせてみよう」といったアイディアが新たに生まれてきたのは印象的でした。

誰かの役に立つために、自分たちが良さを感じる音楽を発信する

ー前作と比較し、2作目のアルバム制作はTBDの活動にどんな影響をもたらしましたか?

インタビュイー画像

Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

先ほども言った通り、今作の『Life for Others』は『T.B.D.』という試金石がすでに存在している状況下での制作でした。ただ「慣れ」や「経験値」は抜きにして「こんなにも綺麗にまとまるのか」という驚きはありましたね(笑)。

ー「まとまった作品」になった背景に、どんな要因があると思いますか?

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Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

前作よりも「こうじゃなきゃいけない」という制約を感じなくなりました。「それ良いね」とお互いの実験的なアクションに呼応しながら、完成に辿り着けたのが大きいと思います。
インタビュイー画像

Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

同時に、自分のみの名義で音楽制作に臨むときとの違いも再確認できたんです。TBDとして音楽を作るときは、意識的に半歩下がります。僕が議長的な役割を担当しつつも、いろんな人の手を介し、全員で作品を俯瞰的に捉えながら制作を進めていく。だからこそ筋の通ったアルバムになったのかな、と思いました。

ーユニットとして曲を制作することの面白さをどう捉えていますか?

インタビュイー画像

Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.):

Fの言ったことと重なりますが、僕自身もTBDを通して「自分が持っていないチャンネル」を開拓している実感が間違いなくあります。僕とFで思考が重なる部分はあれど、完全に同じ考え方ではないから。今回収録されたいずれの曲も「自分1人で作ったらこうはならない」から楽しいんです。

そのゴールの違いを面白いと思えているうちは、このユニットを続ける意味を感じられます。制作環境に恵まれていることを実感しながら、これからも音楽でのコミュニケーションを繰り返していきたいです。

ー最後に、アルバムタイトルにもある通り“Life for Others”に込めた考えについて聞かせてください。

インタビュイー画像

Deadwood F(Ba. / Gt. / Pro.):

ひとえに「この音楽が皆さんの役に立ちますように」という思いです。「役に立つ」ことをするには「自分たちが良いものだと思っている」という前提があります。そしてより多くの人の役に立つためには、やはり継続しかない。自分たちが良いと感じる音楽を作り続け、もっと多くの人の耳に届けられるような存在になっていければと思います。

RELEASE INFORMATION

インフォメーション画像

2nd Album『Life for Others』

2025年3月19日配信リリース
Label:PONY CANYON INC. / monogram records

Tracklist:
1.Statement
2. Nowhere (feat.弱酸性)
3. Another day (feat.柴田聡子)
4. More Bitter, Mocha Better (feat.白神真志朗)
5. Aliens (feat. Furui Riho)
6. Jellyfishes (feat. maco marets)
7. The Rain – English Ver. (feat. Kenta Dedachi)
8.Tenderness (feat. Azumi)
9.No Other Way (feat. Kenta Dedachi & Sincere)

▼各種ストリーミングURL
https://lnk.to/tbdw_life_for_others

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The Burning Deadwoods(ザ・バーニング・デッドウッズ)

2020年末結成、東京を拠点に活動するトラックメイカーによる2人組バンド。メンバーはDeadwood F(Ba. / Gt. / Pro.)と、Deadwood K(Key. / Pf. / Pro.)。特定のボーカリストは持たず、ゲストシンガーを招くかたちで2021年より楽曲を発表。ダンスミュージックを軸にオルタナティブR&B、Jazz、Lo-fi、シティポップなどジャンルを横断したサウンドで注目を集めている。

2021年には、1stアルバム『T.B.D.』をリリース。2022年にはドラマ『恋と友情のあいだで』の主題歌となった「No Other Way feat. DedachiKenta & Sincere」をリリースし話題に。リリカルなトップラインに現代性とポップネスを掛け合わせたスタイルの楽曲を制作し続けている。
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