ar syuraが最新シングル「lil prayer」を6月2日にリリースした。
ar syuraはベース・ボーカルを務めるAki Kawanoとコンポーザー・yohkyuによる音楽ユニット。今年1月よりシングルを連続でリリースし、各メディアやプレイリストにピックアップされるなど、着実に認知を拡大させている。
サウンドの骨格からはネオソウルやオルタナティブR&B、ジャズなど、いくつもの参照点を見つけることができるが、そのどれとも絶妙な距離感を感じさせるトラック。そしてどこか日本的なメロディ、ボーカルが乗ることによって、独自性の高い音楽性を展開。アートワークや映像(オフィシャル・オーディオ)で構築する蠱惑的な世界観も、支持を拡大させる要因のひとつだろう。
今回は未だ情報があまり出ていないar syuraの2人にインタビューを敢行。その出会いからこれまでの歩みについて訊いた。
―2人の出会い、そしてar syura結成の経緯を教えて下さい。
Aki:
出会いは元々お互いが別のバンドで出演していたライブハウスです。そのとき私はボーカルではなく、ベースとコーラス担当だったのですが、彼の方から声を掛けてくれて。話してみたら音楽の趣味も合って、何か一緒にやりたいねという話になり。yohkyu:
プレイを観て、僕は話す前から「音楽の趣味が合うだろうな」って思いました。すごくいいプレイヤーだなって思ったのと同時に、何ていうか……自分のやりたいことができてないんじゃないかな、とも感じたんです。彼女が在籍していたバンドは広い意味でロックに括られると思うんですけど、ロックだけでは収まらない感じというか、彼女の演奏からそういうものが感じられて。―yohkyuさんはその当時どのようなバンドに在籍していたのでしょうか。
yohkyu:
ざっくり言ってしまえばギター・ロックですね。ただ、当時から自分がやりたくてやっていたかというとそうでもなくて。もちろんギター・ロックが嫌いというわけではないんですけど、100%自分のやりたい音楽ではなかったんです。自分に対する自信のなさから半ば流されて活動していたというか。―お互いに何か違うことを始めたいタイミングだったと。
yohkyu:
そうですね。あと、2人で音楽の話などで盛り上がったときに、僕らは長所や短所がそれぞれ凸凹なんだっていうことに気付いて。Akiちゃんはベースも上手くて歌も歌えるし、何よりも華がある。僕は逆で、作曲とかトラックメイクなどが得意な、どちらかというと裏方タイプなんです。この2人だったら上手くいくんじゃないかなって思いました。―最初に2人で話した時に、共通項として盛り上がったのはどのような音楽なのでしょうか。
Aki:
私は最初、「AJICOが好き」っていう話をした気がする。yohkyu:
あと、Jamila Woods(ジャミーラ・ウッズ)の話でも盛り上がったよね。Jamila Woodsの『Tiny Desk Concert』がめちゃくちゃいいっていう話をして。yohkyu:
でも、こういった音楽をそのまんまやることはできないよねっていう話から、2人とも好きなAJICOに辿り着いて。3月に再始動が発表されたときはめちゃくちゃ興奮しましたね。Aki:
ちょっと信じられないくらい驚きました(笑)。yohkyu:
でも、これでひとつ夢ができたというか。いつか音楽を通して繋がりたい。欲を言えば、オープニング・アクトとかやらせてくれないかなって(笑)。―なるほど。
yohkyu:
他に音楽的に参考になったのはThe Internet(ジ・インターネット)やJorja Smith(ジョルジャ・スミス)、Nao、Thundercat(サンダーキャット)、Tom Misch(トム・ミッシュ)……。Aki:
あとはAnderson .Paak(アンダーソン・パーク)とか。2人で『Tiny Desk Concert』の映像をひたすら観て、色々な話をしたのが大きかったよね。yohkyu:
最初は2人だけのユニットという発想がなくて、バンドを組もうと思ってたんです。だから色々なアーティストの『Tiny Desk Concert』でのバンド編成などを勉強していました。―AJICOは少し意外でしたが、よく考えればar syuraの音楽性を分析するのにとても重要な要素なんじゃないかなと思えてきました。
yohkyu:
実は僕が作曲を始めたきっかけもベンジー(浅井健一)なんですよ。BLANKEY JET CITYを聴いて、言い方はちょっと失礼かもしれないですけど、「これなら僕でもできるかも」って思ったんです。でも、実際はやってみても全然BLANKEYにはなれないんですよね。あれはBLANKEYだから、ベンジーだから成立するんだっていうことに気付いて。それって、言ってしまえば“華がある”っていうことだと思うんです。僕にはそれが圧倒的に欠けていた。なので、そこで一旦折れて、自分で曲を作ることは諦めていたんです。―でも、そこを補える存在である、Akiさんと出会えた。
yohkyu:
そうです。あと、僕は先ほど挙げたようなR&Bやネオ・ソウルなどのブラック・ミュージックもずっと好きで聴いていて。それこそD'Angelo(ディアンジェロ)みたいな音楽をやってみたいって思ったこともあるんです。でも、それがどうしても上手くいかなかった。その理由がベースやドラムのリズム・セクションだったんです。それが自分の作ったトラックに彼女のベースを乗せてみたらすごくしっくりきて。しかも、海外のブラック・ミュージックをまんまコピーした感じでもなく、それこそAJICOなどの邦楽を聴いてきた彼女独特のカラーもあって。「これだ!」って思いましたね。―そこからar syuraのサウンドの確立に至ると。では、おふたりのルーツをもう少し具体的にお聞きしたいと思います。yohkyuさんはBLANKEY JET CITYをきっかけに作曲を始めたとのことでしたが、それ以前はどうでしょう?
yohkyu:
高校の文化祭で、ギターを弾くやつがいないからという理由でバンドに誘われて、それからロックを聴き始めました。ブラック・ミュージックにはバンド界隈の人に教えてもらったOtis Redding(オーティス・レディング)から入って、最初はソウルなどをディグっていました。でも、コテコテなソウルというよりかは、Otisみたいにバックは白人が演奏している、みたいな混ざり合った感じの音楽が大好きで。そこで辿り着いたのがA Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)であり、J Dilla(ジェイ・ディラ)、Questlove(クエストラブ)、The Roots(ザ・ルーツ)、Erykah Badu(エリカ・バドゥ)などなど。―そういった音楽を聴きながらも、ギター・ロック・バンドで活動していたと。
yohkyu:
はい。Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)も大好きなので、そういった要素をなんとかギター・ロックに取り入れられないかと模索していた時期もあったのですが、僕自身が力不足だったのと、メンバーの理解もあまり得られず、結局頓挫してしまいました。―では、Akiさんのルーツは?
Aki:
音楽は小さい頃から好きで、物心ついた頃から色々な楽器に触れていました。ピアノを習っていたり、小中学校では吹奏楽部に入ってトランペットを吹いていました。そんな中、突然THE BACK HORNにハマって(笑)。―かなり突然ですね(笑)。
Aki:
たぶんアニメの主題歌などで耳にしたんだと思います。「何これ! カッコいい!」ってなって、すぐにTSUTAYAに走ってアルバムを全部借りました。それからバンドに興味を持って、最初はギターを始めたんです。でも、本当に「こんなに自分に合わない楽器あるんだ」って思うくらい好きになれなくて……。それと同時に、THE BACK HORNのベースの音に耳が引かれるようになって。そしたらちょうど高校の軽音楽部にベースがいなかったので、それをきっかけにベースを始めました。―軽音ではどのようなバンドを組んでいたのでしょうか。
Aki:
女子校に通っていたので、必然的にチャットモンチーやSCANDALなど、女性ボーカルの曲をカバーすることが多かったですね。でも、当時はとにかくTHE BACK HORNが神だと思っていたので、少し鬱々としていました(笑)。―先ほどyohkyuさんとの共通項として名前が挙がった海外の音楽はどのようにして触れていたのでしょうか。
Aki:
ファンク、ソウル系のセッションに出入りするようになったことがキッカケだと思います。当時は音楽の知識はなかったのですが、プレイヤーとしてのスキルを磨きたくて。とにかく自分を甘やかしたくないというか、ヒーヒー言うような環境に身を置きたかったんです。yohkyu:
ライブハウス界隈だと、Akiちゃんは明らかにスキルがずば抜けていて目立っていましたね。でも、セッションに行くとよく落ち込んだりもしていて(笑)。Aki:
下北沢のmusic bar rpmという場所によく行っているのですが、プロのミュージシャンの方たちもたくさん参加するような場所で。自分のスキルのなさに落ち込むことも多々あるんですけど、そういう上の世界を見てみたかったんですよね。あと、そういった凄腕の方々から的確なアドバイスを頂けたりもするので、とても勉強になります。―ar syuraは今年1月より作品のリリースを始めますが、その前段階。準備や構想をどのように練っていたのかを教えて下さい。
yohkyu:
先ほどもちらっと話したとおり、最初はバンドを組もうと思っていたのですが、なかなかメンバーも決まらず。去年の9月くらいから、2人でやろうかっていう話になりました。最初はとにかく初めてのことだらけで、ベースは宅録でいいのかスタジオで録った方がいいのか、など試行錯誤を繰り返しました。―ベースも宅録なんですね。
yohkyu:
そうなんです。ただ、ベースをラインで録ると固くて冷たい音になるんです。曲によってはそれでもいいと思うんですけど、彼女のベースは良くも悪くも人間味溢れるプレイが魅力なので、それを引き出すために真空管アンプを購入したり。色々と機材の拡充はしています。―作曲はどういったところからスタートすることが多いですか?
yohkyu:
作曲に関しては未だにベンジーが抜けてないというか(笑)、ギターを弾きながら作ることが多いですね。メロディとコード進行がほぼ同時に浮かんできて、そこから歌詞を考えて、それができたらトラック制作に移ります。―ar syuraとしての方向性などが見えてきたのはいつ頃なのでしょうか。
yohkyu:
方向性は今でも見えていなくて、常に迷っています。Aki:
暗くてダークな世界観だけど、希望は捨てていない。そんな雰囲気はAJICOやTHE BACK HORNなど、自分たちの好きなアーティストからの影響が自然と出てしまうんだと思います。yohkyu:
褒められても「お世辞でしょ」とか思ってしまうくらい、僕はいつも鬱屈としていて。ただ、そんな中でも自分が指向する音楽に対する一握りの自信だけはあって、そのおかげで音楽を続けられている。そういった気持ちや姿勢は曲や歌詞にも表れていると思います。―yohkyuさんから出てくる曲やリリックに関して、Akiさんはどのように受け止めていますか?
Aki:
自分でもびっくりするくらい、すごくしっくりくるというか、スーッと自分に入り込むような感覚があるんです。初めて「ruler」でボーカルをレコーディングしたとき、自分でも知らない一面が自然と出てきたことに驚いて。彼の曲に引き出されたというか。yohkyu:
Akiちゃんのボーカルは、僕が当初想定していたものよりも強い感情を感じたりするんですよ。Aki:
私は元々自分の思っていることなどを言葉にしたり、表に出すことが苦手だったんですけど、ar syuraの音楽ではそれができる。自分の感情を表現する方法をやっと見つけたというか。―今年1月から毎月連続で新曲をリリースしていますが、今後の活動についてはどのように考えていますか?
yohkyu:
宣言しちゃうと自分たちの首を絞めることになるので、あまりはっきりと言ってはいないのですが(笑)、一応今年いっぱいは毎月リリースを続けていきたいなと思っています。―映像に関してだと、ar syuraは全曲オフィシャル・オーディオをUPしていますが、MVはまだ1本も公開されていないですよね。
yohkyu:
僕らの頭が音楽でいっぱいいっぱいで。MVを撮ろうとしたことはあるんですけど、映像に関してのアイディアが全く出てこなくて。こればっかりは僕らの世界観に共鳴してくれる方と出会えないと難しいかなと。アートワークに関しても、たまたま佐久間(英之)さんという自分たちの世界観とバッチリハマる写真を撮ってくれるカメラマンと出会えたことが大きくて。Aki:
佐久間さんとの出会いは大きかったですね。私たちは勝手に半分メンバーだと思っているくらい、信頼しています。yohkyu:
A$AP ROCKY(エイサップ・ロッキー)率いるA$AP Mob(エイサップ・モブ)や常田大希さん主宰のPERIMETRONみたいなクルーやコレクティブってすごく理に適っているなと思いますね。信頼できる仲間が集まって、それぞれの得意分野で全力を出すっていう。そういった形に憧れますね。―音楽面ではどうでしょう。今後どのようなサウンドを指向していくのか、今の段階で見えていますか?
yohkyu:
僕は常にトレンドを追いかけながら曲を作っているつもりなんですけど、どうしてもトレンドと離れた作品ができてしまう。でも、次第にその距離感が僕の、ar syuraの個性になっているのかなと考えるようになりました。なので、影響を受けるサウンドは今後も変わり続けると思います。Aki:
ただ、何を参考にしても、どんなスタイルでも、2人で作っていればar syuraらしくなるんだなっていうのは、これまでの制作でわかってきたことで。yohkyu:
そうだね。2人のユニットだけど、2人だけで作るっていうこだわりもなくて。僕が曲を作って、彼女がボーカルとベースを担当する。その芯の部分さえブレなければ、僕らはar syuraでいられるんだと思います。編集部のおすすめ Recommend
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