春猿火が語るバーチャル・アーティストとしてのスタンス。「聴く人それぞれに寄り添う音楽でありたい」|BIG UP! Stars #59

BIG UP! Stars

文: 保坂隆純 

DIGLE MAGAZINEが音楽配信代行サービスをはじめ様々な形でアーティストをサポートしている『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第59回目は春猿火が登場。

〈KAMITSUBAKI STUDIO〉所属のバーチャル・ラップシンガー、春猿火が3rd配信シングル「覚醒 feat. さなり」を6月23日にリリースした。

デビュー以来、力強い歌声やラップと歌を行き来する変幻自在のスタイルが高く評価されてきた春猿火。今作は、同じく〈KAMITSUBAKI STUDIO〉所属のアーティスト、大沼パセリがトラックを手がけ、これまで春猿火のほとんどのオリジナル楽曲を手掛けてきた、たかやんが作詞作曲したメロウなヒップホップ・ナンバー。18歳のラッパー・さなりをフィーチャーしていることでも大きな注目を集めている。

今回はそんな春猿火にインタビューを敢行。デビューからここまでの道のりを振り返りつつ、新作の制作背景、そしてバーチャル・アーティストとしての今後の歩みについても語ってもらった。

「背中を押してあげるような曲を歌いたい」

―2019年12月のデビュー以来、活動期間の大部分がコロナ禍となっていますが、改めてこの1年半ほどを振り返ってみていかがでしょうか。

私はオリジナルの楽曲を発表する前から「歌ってみた」系の動画などで活動はしていたのですが、いざ春猿火として本格的に活動していくことになって、これから……! というタイミングでコロナ禍になってしまって。3月には花譜ちゃんのライブ<不可解(再)>に参加させてもらったんですけど、それも当初計画していた有観客ライブではなく、無観客配信ライブになってしまい。コロナがなかったら、もっともっと色々なことができたんじゃないかなって考えて、落ち込んでしまうこともありました。

でも、こればかりは考えても仕方がないので、この状況下でできることをやろうと切り替えて、自分にできることを必死に模索しながら、ここまで少しずつ歩みを進めてきたという印象です。

―デビュー以前と以降で、何か心境の変化はありましたか?

正直な話、当初はラップもやったことがなかったので、私に務まるのかなっていう不安もあったんです。でも、スタッフさんが「一緒に成長していこうよ」って言ってくださったり、たかやんさんやディレクションしてくださるラッパーさんも親切に色々と教えてくれて。私ひとりでというより、「チームで大きくなっていこう」という気持ちや結束力が強くなってきて、デビュー当時の不安はだいぶ落ち着いてきました。

そもそも、こんなにも多くの方に自分の歌声やトークを聴いて、観てもらえるということが、私のこれまでの人生にはなかったことで。再生数やコメントを見る度に毎回とても嬉しく思っていますし、活動していく自信に繋がっています。

―これまでの楽曲や動画に対するリスナーの反応やリアクションで、印象深いもの、特に記憶に残っているものなどはありますか?

私と同世代の方が多いみたいで、コメントを見ていると、みなさんとても純粋だなって思うし、「あ、私と似てる」「私と同じ気持ちだ」ってなることがよくあるんです。それはちょっと意外なことでした。

―これまでの作品は大部分をたかやんさんが手がけていますが、いつも楽曲制作はどのように行っているのでしょうか?

基本的にはスタッフさんと話してテーマやキーワードを決めて、それをたかやんさんにお伝えして、作ってもらいます。テーマには私の感情や実体験が盛り込まれていて、たかやんさんはいつもそれを上手に汲んでくださるというか、こちらから投げたテーマを大きく広げて、より多くの人が共感できるような作品に仕上げてくれます。

―春猿火さんはいつもどのような姿勢で制作に臨まれているのでしょうか。

私は昔から自分の思いを人に伝えるのが苦手で。「嫌われたらどうしよう」とか考えてしまって、結局自分を殺して周りに合わせてしまうことも多くて。でも、きっとこういう人って、今の時代少なくないんじゃないかなって思うんです。私がそういった人たちを代表するというわけではないですけど、私の曲を通してみんなでその壁を乗り越えよう、という気持ちはあります。

私自身もたかやんさんが作ってくれた曲、歌詞に救われていて。私も含め、聴く人それぞれに寄り添う音楽でありたい。誰かが変わろうとしてるとき、何か新しい一歩を踏み出すとき、その背中を押してあげるような曲を歌いたいなって思います。

―なるほど。

あと、去年からYouTubeへの楽曲投稿とは別に、Twitter限定で『春猿火自由律』という企画も行っていて。これは私自身が作詞とラップのリリック制作に挑戦するための企画でして、短いオリジナル曲を不定期に発表しています。まだ自分が書いた歌詞だけで曲を作りあげることは難しいので、たかやんさんにまとめて頂いているのですが、いつかは1人で作詞した曲も発表できればいいなと思っています。

“共感”にバーチャルもリアルも関係ない

―春猿火さんは昨年の12月より配信シングルのリリースを行うようになりました。その第1弾作「台風の眼」はどのように生まれた楽曲なのか、教えてもらえますか?

たかやんさんはお忙しい方なので、なかなかお会いできてはいないのですが、「台風の眼」を作る前にがっつりとお話する機会を設けてもらったんです。そこで私がどのような人間なのか、今どんなことを考えて、どのように世の中を見てるかなど、本当に根掘り葉掘り訊いてくださって。そこでの会話を元に書いてくださったのが「台風の眼」です。

―この曲はバーチャル・アーティストとして活動していくスタート地点を切り取ったかのような楽曲ですよね。

今までの私、これからの私。色々な気持ち、感情が反映されたような楽曲になっています。自分で言うのも何ですが、私は暗い性格なのでこれまでの人生ではネガティブな記憶の方が多かったんです。そういう暗い要素も確かにあるけど、でも、同じような気持ちの人を応援するような、そんな前向きな感情も詰まった曲になりました。

―《怒りも悲しみも全て愛せるような世界へ》というラインには、今おっしゃったような気持ちが特に反映されているのかなと思いました。綺麗事を言うのではなく、ネガティブな感情も認めた上で、前に進んでいく姿勢が表現されているのかなと。

読み取ってくれて嬉しいです。この曲は私にフォーカスした曲ですけど、そうやって多くの人に共感してもらいたいなと考えていて。音楽に共感するという体験って、バーチャルもリアルも関係ないじゃないですか。世の中ではまだバーチャルとリアルの世界が上手く混じり合ってないなと感じることが多いのですが、バーチャル・アーティストである私の曲に、多くの方が共感してくれる。それってバーチャルとリアルの壁をなくすことに繋がるんじゃないかなって思っています。

―続いて、今年1月には第2弾配信シングル「居場所」を発表しました。この曲についても、どのようにして作られたのか、そしてどのような感情が込められているのか、教えてもらえますか?

この曲はバーチャルとリアルを繋ぐ架け橋のようなイメージで。歌詞にも《ずっと独りでさ 心細かったんだよ》とあるように、私自身、歌うことでしか自分の居場所を感じることができなかったんです。そういう自分の居場所がないと感じる人たちへ向けて、手を差し伸べるというか、言葉を投げかける。私の曲がみんなの居場所になればいいなっていう思いを込めた作品になっています。

―「台風の眼」も「居場所」も疾走感溢れるロック・ナンバーですよね。これまで動画などで発表されてきた曲のなかにはハードなトラップやメロウなヒップホップ調の曲もあります。こういった様々なタイプの楽曲に挑戦することに対してはどうお考えですか?

最初にもお話しした通り、私はこれまでラップをしたことがなかったので、例えば「Lift Up」みたいなトラップ調の曲なんかは、自分でも聴いたことのない自分の声、歌い方を引き出されたという感覚で。自分の知らなかった自分に出会えて、とても勉強になりました。

もちろん、実際にレコーディングするときは上手くいかないことも多くて、大変なこと、辛いこともあります。でも、今は難しいからこそ楽しいんだと思えるようになりました。

―この1年半の間、様々な楽曲にも挑戦していくなかで、ラップ・シンガーとしてのアイデンティティが固まってきたと思いますか?

最初は右も左もわからなかったのですが、最近では自分から歌やラップに関してもアイディアや意見を言えるようになってきて。それは自分でもアイデンティティが確立されてきたからなのかなって思います。

―そんななか、3rd配信シングルとなる「覚醒 feat. さなり」がリリースされました。これまでの2曲とは雰囲気もガラリと変わり、リアル・アーティストであるさなりさんがフィーチャーされています。

この曲は、私と同世代の10代~20代の若い人たちが抱えているであろう世の中への不安や葛藤を歌った作品です。リリックに出てくる《Stay woke》という言葉は、「世の中や社会で起きている物事に対して意識的であれ」という意味のスラングなのですが、この曲を聴いて、世間に対して、もしくは自分に対してでも何か意識が変わったら嬉しいです。

―そもそもさなりさんをフィーチャーしたキッカケというのは?

今お話したようなテーマを、若いアーティストが発信することに意味があると考えていて。それで今回、同世代のさなりさんにお声がけをさせてもらいました。

―さなりさんとはどのようなやり取りをしましたか?

一緒にレコーディングさせてもらったんですけど、私がコミュ障過ぎて全然お話できず……(笑)。

これまで誰かと一緒に歌う機会もあまりなかったですし、私なんかが肩を並べていいのかなとも思っていたのですが、いざレコーディングしてみたら曲に対しての思いや、歌やラップのフィーリングが合ってるって勝手ながら感じまして。「あ、きっと同じ気持ちで歌ってくれてるんだ」って思いました。あと、バーチャチャルとリアルという属性の異なる2人で歌うことによって、作品の説得力がより高まったようにも感じています。

―リリースと同時にMVも公開されました。春猿火さん本人からみた見どころなどは?

「オオゴト」のMVと同じくA4Aさんに作って頂いたのですが、私とさなりさんを上手く切り取ってくれて。それぞれピンのシーンなどもとても暖かく撮って頂きました。特に2人で向かい合って歌うシーンがお気に入りで。私たちのメッセージを届けたいという気持ちが上手く表現できているんじゃないかなと思っています。

振り落とされないように、自分を見失わないように

―先日、初の有観客ライブ、そして初のワンマン・ライブ<シャーマニズム>をヒューリックホール東京にて8月に開催することがアナウンスされました。

去年の10月にカバー・ライブ<シュークリームライブ>をYouTube Liveで行ったんですけど、それとは全く別の環境だと思うので、とても緊張しています。会場にみなさんがいて、舞台に私が立つ。これまで動画や音楽で共感してくれていた感覚とはまた別の、アツい体験をしてもらえるのではないかなと。

―<シャーマニズム>というタイトルにはどのような意味、思いが込められているのでしょうか?

私は歌うことで本当の自分になれているという感覚があって。きっと、みんなの中にも大なり小なり自分の知らない自分が存在していると思うんです。そういったいつもと違う、うちに秘めた自分を開放して、憑依することができるようなライブにしたい。そういう意味を込めて<シャーマニズム>というタイトルにしました。

できるだけ有観客で観てほしいという気持ちもありつつ、こんな状況下なので、配信にも力を入れているんです。会場で観るのとはまた違った魅力をお届けできるんじゃないかなと考えています。

―なるほど。では、今後の活動についても教えてください。今年はどのような動きを計画していますか?

ソロでの活動を頑張っていきたいのはもちろんなんですが、V.W.P(※)というグループも結成したので、そちらでの動きにも期待していてほしいです。

※KAMITSUBAKI STUDIO所属の花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒幸祜の5人で結成されたバーチャル・アーティスト・グループ。

―音楽的に今後挑戦したいことなどはありますか?

うーん、どうだろう……。どんな曲でも機会があれば挑戦してみたいです。自分で制限などは設けず、1曲1曲誠実に向き合っていきたいですね。

―では、アーティストとしての大きな夢や目標を挙げるとするならば?

それも自分では考えないようにしています。春猿火として活動を始めてからのこの1年半は、私にとっては本当に未知の体験の連続で。ものすごいスピードで活動している感覚なので、そこから振り落とされないように、自分を見失わないように活動していきたいですね。数年後、もしくは数十年後の春猿火がどんなアーティストになっているのか、私自身も楽しみにしています。

―2021年の元日に公開された動画では、「脱・引きこもり」を今年の目標に掲げていました。すでに半分が過ぎましたが、進捗はいかがでしょう?

……悪化しているような気もします(笑)。お仕事以外での大きな出来事は水族館に行ったこととピクニックをしたことくらいで、まだ去年の方が外に出ていたかもしれません。ここから挽回していきたいです……(笑)!

BIG UP!のアーティストをセレクトしたプレイリスト
『DIG UP! – J-Indie -』

EVENT INFORMATION

春猿火 1st ONE-MAN LIVE『シャーマニズム』

開催日:2021年08月27日(金)
会場:ヒューリックホール東京

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保坂隆純

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