遊佐春菜・ハバナイカバーアルバムに込められた「物語」の正体|BIG UP! Stars #78

BIG UP! Stars

文: 高木 望  写:遥南 碧  編:riko ito 

DIGLE MAGAZINEが音楽配信代行サービスをはじめ様々な形でアーティストをサポートしている『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第78回目は遊佐春菜が登場。

壊れかけのテープレコーダーズHave a Nice Day!など、さまざまな場で活躍を見せる遊佐春菜のソロ・プロジェクトが始動。約7年ぶりのソロ・アルバム『Another Story Of Dystopia Romance』を4月20日にリリースした。

今回は遊佐春菜、全楽曲のライティングを担当したHave a Nice Day!の浅見北斗、そしてプロデュースを手掛けた〈KiliKiliVilla〉与田太郎にインタビューを遂行。

全曲Have a Nice Day!のカバー曲で、いまを生きる女性の視点から再構成したという今作の制作背景や楽曲に込めた思いを3人に語ってもらった。

リリース当時は存在しなかった歌の意味が、遊佐の声で付与された

ー制作の話はいつ頃から?与田さんから最初に遊佐さんへ提案されたと伺いました。

与田太郎:

やりたいと思ったのは2019年の夏。2019年の冬頃に「作りませんか?」っていう提案をし、2020年に「FAUST」だけ先に進行したのですが、直後にコロナが始まりました。2020年の終わりから去年の春ぐらいにガッとまとめ、去年の夏頃に完成したんです。

遊佐春菜:

与田さんから「私(遊佐)のボーカルでHave a Nice Day!(以下ハバナイ)の曲を歌ったアルバムを作ってみない?」という話をいただいたのを覚えています。私もハバナイのメンバーなのにね(笑)。我ながら「謎なアルバムだな」って思いましたし、当初はイメージがあまり湧きませんでした。

ーもともと与田さんは2017年にハバナイのシングル『Fallin Down』を自身のレーベル〈KiliKiliVilla〉からリリースされましたよね。改めて2019年に今回の遊佐さんのソロプロジェクトを「やりたい」と思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

与田太郎:

まずはハバナイがすごく好きで。彼らがリリースする楽曲は、それぞれの歌詞でちゃんと時代を切り取っている印象があります。何より彼らのことをライブハウスで観たとき、僕自身が体験してきた90年代当時の無軌道なレイブやパーティと通じるものを感じたんです。全く別のモノだけど、同じことが繰り返されている気がしました。
 
「ハバナイの楽曲を構成し、ひとつの物語を作り出してみたい」と考えていた時、『DYSTOPIA ROMANCE 4.0』(2019年)で何曲かアレンジを担当したんですよね。「ファウスト」のレコーディングで浅見さんと遊佐さんのツインボーカルをお願いしたのですが、遊佐さんの歌声を聴いて「あ、遊佐さんソロでもいけるな」と。そして「女性目線のアルバムを作ってみよう」と思ったのが始まりでした。

ーなるほど。ちなみに浅見さんも今回のレコーディングには同席されたんですか?

浅見北斗:

いや、制作には全く関わっていないんです。

与田太郎:

もう勝手に作りました(笑)。「作っていいいかな?」っていう連絡だけして。

遊佐春菜:

最初のメールは2人に来ていたんですよね。浅見さんから「面白そう」って反応があって以降、私も一切進捗を伝えていませんでした。みんなでワイワイ作るのかなって思ってたんですけどね(笑)。ハバナイ主導だと思っていた人も多かったみたいですよ。

ー浅見さんは最初に与田さんからの提案が来た時、どういう印象を受けましたか?

浅見北斗:

『4.0』のアレンジを与田さんがやっていたからこそ、なんとなく形の想像はできていました。遊佐ちゃんのボーカルでもハバナイの曲が成立することは分かっていたし。
 
ただ、実際に完成した楽曲を聴いてみると「ミッドナイトタイムライン」のアレンジなんかは自分では絶対に作れないカタチで、もちろん俺の声では成立しないアレンジなんだけど、「こういう答え方も可能だったんだな」っていう発見があって面白かったですね。

ーなるほど。

浅見北斗:

時代が変化することによって歌の意味は変化するし、普遍的な意味を持っている歌ほど時代に合った聴こえ方になると俺は思ってるんですけど。ただ「ミッドナイトタイムライン」や「巨大なパーティー」をリリースした時点では楽曲の内側にあるシリアスな意味がまだ社会にはほとんど存在してなかった気がするんですね。なのでいま現在の世界にこういうカタチでまた新しくリリースしてもらえるのは、俺としては非常に感謝しています。

それと同時に「こういう歌はいまの自分にはもう作れないだろうな」って感じることもある中で、過去の自分の歌の意味を再認識できたのですごくありがたかったです。
次ページ:女性である印象が強い、ハバナイの歌詞の主体

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