70's AOR、ディスコクラシック、ゼロ年代R&BーーRiku Oshimaがオマージュから生み出す新しい音楽|BIG UP! Stars #99

Interview

文: 高木 望  写:Hide Watanabe  編:riko ito 

DIGLE MAGAZINEが音楽配信代行サービスをはじめ様々な形でアーティストをサポートしている『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第99回目はRiku Oshimaが登場。

70年代のAORから80年代のディスコクラシック、ゼロ年代のR&Bに至るまで、さまざまな楽曲の要素をコラージュしながら浮遊感あるサウンドを生み出すプロデューサー/ラッパーのRiku OshimaQugoRICK NOVAQN(ex. SIMI LAB)といった今をときめくアーティストたちとのコラボレーションからも注目される存在だ。

どこか懐かしくも「Lo-Fi」「チルウェイヴ」「シティポップ」といった既存のジャンルで定義しきれない楽曲の数々。一時期はほぼ月イチで楽曲をリリースし、良曲を連発しまくっていた彼が、2023年3月8日に2曲入りのニューシングル「I Wanna be Your Man」をリリースした。

今作でも炸裂するOshimaらしい“謎多き”サウンド。では、彼のグルーヴはどのように生み出されているのだろうか? 今回のインタビューでは、彼自身のルーツから楽曲の制作方法、そして新曲が生み出された経緯に至るまで話を伺った。

BIG UP!

『BIG UP!』はエイベックスが運営する音楽配信代行サービス。 配信申請手数料『0円』で誰でも世界中に音楽を配信することが可能で、様々なサービスでアーティストの音楽活動をサポート。また、企業やイベントとタッグを組んだオーディションの開催やイベントチケットの販売や楽曲の版権管理、CDパッケージ制作などアーティスト活動に役立つサービスも充実している。

さらに、音楽メディアも運営しており、BIG UP!スタッフによるプレイリスト配信、インタビュー、レビューなどアーティストの魅力を広く紹介している。

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柔道部への道場破りをきっかけにヒップホップのスタイルにシフト

ーOshimaさんが音楽を聴くようになったのはいつ頃ですか?

幼少期に遡ります。おばあちゃんが音楽の先生なんですよ。「やらされてる」感は否めなかったのですが、歌ったりピアノを弾いたりすることは日常的でした。あと、母親がセンスに厳しかったんです。おしゃれな音楽を常に叩き込まれていて(笑)。

ーレクチャーを受けていたのはどういった音楽でした?

ソウルミュージックが多かったです。Patrice Rushen(パトリース・ラッシェン)やMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)、Earth, Wind & Fire(アース・ウィンド & ファイアー)も聴いていました。あとはボサノバとかもよく車で流れていましたし。ただ受動的とはいえ、不思議と聴くことには抵抗はありませんでした。

ーそこから自発的に音楽を作るようになったのは?

大学1〜2年頃です。芸術系の大学に進学し、版画を専攻していたんですよ。あるとき、トラックメイカーである兄から高校時代にDTM機材やターンテーブルなどを譲り受けたまま、放置していたのを思い出したんです。それで、ふとしたタイミングで機材を使い音楽を作ってみたら、周りの友達からも好評で。そこからボサノバやジャズをミクスチャーして、フレンチハウスに昇華していくような音源を作るようになりました。

ーいずれも幼少期のルーツと繋がる音楽ですね。

一時期はソウルミュージックやディスコ、フレンチハウスのDJもやっていて、全体的に丸い音を好んで聴いていたと思います。ロックなどは疎いので、守備範囲は偏っている気がするけど。

ー大学時代から新たに聴き始めたジャンルなどはありましたか?

Daft Punk(ダフト・パンク)に触れて「こういう音楽もあるんだ! やってみたい!」と衝撃を受けました。バキバキした感じの、エッジの鋭いサンプルの切り方などは、彼らの音楽から学んだと思います。

ーでは、どういったきっかけでハウスから現在のようなヒップホップにシフトしたんですか?

大学在学中にラップしている友達と出会ったことですね。ちょうどフレンチハウスを作っている時期に「ゲームをしたりカップラーメンを食べたりしながら、ラップをしている柔道部がある」っていう話を聞いて(笑)。面白そうだから「頼もお〜」って部室へ道場破りをしに行ったら、本当に部員3人がひたすらラップをしていたんです。

ーすごい光景ですね(笑)。その3人のレベルは高かったんですか?

正直、上手いか下手かはわかりませんでした。でも「俺、曲作れるから一緒にやってみない?」とその場で提案して。半年後には、彼ら向けの曲が3〜4曲出来上がっていました。

基本的に彼らの好みはJラップで、アメリカの東か西かと言われたら東側のゆったりしたヒップホップが好きだったんです。だからその時点で、すでに今のスタイルに近い音楽を作るようにはなっていました。

ー彼ら向けに作った最初のトラックの出来栄えはどうでした?

2点ですね。100点中2点。ボーカルのミックスもぐちゃぐちゃで、声が埋もれていたり大きすぎたりして(笑)。でも、その後も3年ぐらい一緒に活動し、三軒茶屋のspace orbitでもライブをしていたんですよ。そのときにCDのリリースも経験しています。

卒業後、進路は散り散りになってしまったのですが、僕だけ変わらない温度感で音楽を続けています。「ライブしたいときはいつでも声かけて。僕は足を止めないから」っていう想いで今に至ります。

焦りからほぼ毎月楽曲をリリース

ーOshimaさんは2021年から約1年間、ほぼ月1回のペースで楽曲をリリースされていらっしゃいましたよね。ペースの早さにとにかく驚きました。

しかもミックスからマスタリング、レコーディング、曲によってはジャケットデザインまで自分でやっていましたからね。今となっては「どうかしてたな」と思います(笑)。

ただ、サブスクやストリーミングって公開後も差し替えられるじゃないですか。先ほども言った通り、クルーで活動していた時期にCDリリースは経験していて、そのときに永遠に手直しのできない媒体で出すことの不安や、売り捌く大変さを痛感したんです。フィジカルを作ったときの辛さがないからこそ、ばんばんアップできたのかもしれないです。

ーでも、月イチで出すことのモチベーションは何だったんですか? どんどんアイディアが湧き出てきた、とか?

そんな天才肌じゃないんですよ(笑)! むしろひたすら再生数の伸びに悩んでいた時期でした。僕のようにまだまだ知名度が低いアーティストだと、3ヶ月リリースが空くだけで「これ誰だっけ?」と忘れられてしまいます。

ただ、何ヶ月も連続でリリースすれば「この人、月イチで名前を見かけるな」と気になってもらえるはずだと思って。アルバム『Space Disco』(2021年4月)から始まり、シングル「Ding Dong」(2021年12月)まではひたすら投げ続けました。

ーそうだったんですね。いわゆる修行時代、音楽を構築するうえで影響を受けた存在はいますか?

今でも明確に影響を受けている、と断言できるアーティストはいません。ただ僕はベースの動きに合わせてキックとスネアを決め、コードを作り……と、ベースラインを起点に音楽を作り始めるんです。だからベースが表に出ているようなミックスをするアーティストが好きですね。

ーOshimaさんの楽曲は単調かと思いきや、思わぬメロディ展開をする印象があります。意識的に「ドラマチックにしなきゃ」というルールを設けているんですか?

そこはもう感覚的ですね。「AメロBメロが変わらなかったからCメロでは絶対に変えなきゃいけない」というわけでもないです。ただ普段からトラック、メロディ、歌詞の順番に作るのですが、ひとつの曲を作っていくうちに、全く別の路線が生まれることがあるんですよね。

いくつかのメロディを考えながら「良い」と思うほうへと切り替えていくうちに「このメロディとこのメロディをドッキングしてしまおう」という発想にもなっていく。そこで、新たに生まれたメロディを後半に据えることは多いです。

ーなるほど。

ただ、そうやって「良いメロディ」へと差し替え続けるうちにお蔵入りする楽曲もあるんですよ。今回リリースしたシングルA面の「I Wanna be Your Man」は、結構前にデモが出来上がっていて、いつ出そうか迷っていました。

ちょっと寒い時期に出そうとは決めていたので、3月を逃したら次の12月になっていたはず。メロディ同士をドッキングする作り方が如実に出た曲だからこそ、間が空いたら変な足し算になっていたかもしれないです(笑)。

メロディの母音から歌詞を紡ぎだすまで

ーぜひ歌詞づくりについてもお聞きしたいです。「I Wanna be Your Man」もそうなのですが、Oshimaさんのリリックは日本語だけど英語のようにも聞こえて、不思議な言葉の選び方をしているなと思いました。 

普段からデモが完成した時点で「このメロディはどんな言葉に聞こえるのか」を考えるんです。ざっくりと母音は決まっているので、そこから連想するフレーズを選んでいきます。

「I Wanna be Your Man」の場合も、メロディまで全部作った後に「これって“アワナビユアメン”って聞こえるぞ!」って思って。しかも「アワナビユアメン」ってめっちゃ言いたくなりますよね(笑)。語呂がいいというか。じゃあ《I wanna be your man.》の“I(私)”は、誰にどんなことを言っているんだろうか……と連想しながら歌詞を組み立てていきました。

ー連想した先でいくつかのフレーズが浮かんでくると思うのですが、どういった言葉を採用しているんですか?

「I Wanna be Your Man」では90年代〜2000年代前半のR&Bにありそうなフレーズを、コテコテのオマージュとして取り入れました。どこかで聴いたことあるような英語のフレーズが混ざることで、懐かしさのある曲になるんですよね。レトロな音楽をオマージュするところは、僕自身の色だと捉えています。年々オマージュの要素が強くなっていくんです。

『Space Disco』のときも「80年代のリバイバル」というテーマがあって。「Cigarette」(2022年10月リリース)もAORを意識しながら、高速道路を飛ばすような世界観を大事にしていました。どちらも現代ではあまり聞かないような言葉を意図的に散りばめてみたんです。聞いたことがあるようでない。でもよく聴いたら日本語歌詞だし今っぽい、という絶妙なラインを常に意識しています。

ーしかもOshimaさんの場合「ただのレトロオマージュ」で完結させていないですよね。現代的な要素とのバランスはどのようにとっていますか?

ビートの打ち方で調整しているかもしれません。「I Wanna be Your Man」は基本的に四つ打ちでビートを取っているのですが、サビの終わりで半分のテンポに落としているところなどは“今っぽさ”だと思うんです。

あと、そもそもあまり音質に対するこだわりはなくて「ボロいカーステ(カーステレオ)で聴いても良い曲」に仕上がれば良いなと思っています。でも「汚れちゃった」ではなく「あえて汚している」と解釈してもらえるような処理は意識していて。それが時代性のバランスにも繋がっているかもしれません。

ーでは、B面である「Make It Easy on Yourself」をリリースした経緯もぜひお聞きしたいです。この曲は、A面ありきで作られたんですか?

この曲はトラック自体が元々完成していて、昨年2022年後半のライブでもイントロダクションとして使っていました。前半から後半にかけて、束縛されるようなサウンドから一気に解放される瞬間が気に入っています。半分インストのようなつもりで作りました。

ー前半の逆再生のようなトラックから後半でボーカルが入っていく展開、面白いですよね。

曲が始まって半分くらいは、本当によくわからない曲ですよね(笑)。明確なサビもないですし。「I Wanna be Your Man」と同様、ずっとどこかでリリースしたかったのですが、時期を考えていて。ただ楽曲自体は「I Wanna be Your Man」ともテイストがマッチする。だからこそこのタイミングで出してみよう、と決めました。

ーどうやって“Make It Easy on Yourself(頑張りすぎないで)”というテーマに至ったんですか?

「そのままでいいじゃん」って自分に言い聞かせるけど、そのままにできないときってあるじゃないですか。でもそんなふうにモヤモヤした状態でも、ソファに沈むと開放感がある。その感覚が楽曲のイメージとリンクして「自分のなかの気持ちの葛藤はあるけど、疲れたらソファで寝てもいいよ」と伝える曲になりました。

「こんな人が作っていたんだ」を表に出していきたい

ーそういえば、いずれの2曲もOshimaさんがラップをしていませんよね。これからは歌が中心になっていくんですか?

反響が良かったら……ですかね(笑)。昨年から「歌えるんだったら歌ってほしい」という声が、ライブで共演したアーティストやお客さんからも挙がっていたんです。「メロディを考えるのって大変なんだよな…」と思いながら作ったのが「Bird Call」だったのですが、好評だったのでもう一度チャレンジしてみた、という経緯です。いまストックしているデモ楽曲でも、僕はもうラップしていないんです。

ー次にリリースされる楽曲が楽しみです。毎回異なるカラーがあると思いますが、次はどういった楽曲になりそうですか?

今回リリースする2曲もそうですが、今は作る曲全部のテイストが無意識に変わるので、正直まだわからないです。ただ「I Wanna be Your Man」で柄にもなくかっこつけちゃったんで、もうちょい崩していきたいですね。肩肘張らないような、クスッと笑えるようなものを作っていくつもりです。

ギャグ路線でいうと、『Space Disco』で味を占めたところはあります。ずっと「UFO」しか言ってない曲があったりして突っ切ったので(笑)。オンとオフが重要なんだな、とは感じました。あとは基本的にトラックメイカーなので、僕のトラックとかフックを必要とされたいというか。「自分らしさ」に価値と名前がついてくると嬉しいな、と思っています。そのうえで「ダサかっこいい」みたいな抜け感は、これからも大事にしていきたいです。

ーコラボしてみたい人はいますか?

Bruno Mars(ブルーノ・マーズ)……は冗談だとして(笑)、女性のラッパーの作品にはまだ参加したことがないので、プロデューサーとして共作をしてみたいな、とは思いました。あとはQN君は勢力的に活動していて、ラップもすごくかっこいい。今まで2作品で共演しましたが、またやりたいです。今までやってくれたメンバーはかなり僕のツボをわかってくれているので、これからも一緒にやっていきたいな、と思っています。

ー最後に、これからの活動で注力していきたいことや、チャレンジしたいことを教えてください。

直近はライブをストップして楽曲制作に注力しようかな、と思っています。フルアルバムも今年の暮れぐらいには作りたい。そのときはシングルカットもミックスを変えて、新曲だらけにはしたいですね。そして引き続き、オマージュものはやっていこうかな、と。

あと、2022年10月にリリースした「Cigarette」では、初めて自分でプロデュースしたMVを出しました。「やってみる価値はあるな」と手応えがあったので、今後もビデオは出したいです。今は曲と顔を一致させていくべきフェーズなんじゃないかな、って。そう言った意味でも「こういう人が作ってたんだ」ということを、これからもっと表に出していきたいです。

Release Information

New Digital Single「I Wanna Be Your Man」

2023年3月8日リリース

▼各種ストリーミングURL
https://big-up.style/utn7SYCwFt

BIG UP!

『BIG UP!』はエイベックスが運営する音楽配信代行サービス。 配信申請手数料『0円』で誰でも世界中に音楽を配信することが可能で、様々なサービスでアーティストの音楽活動をサポート。また、企業やイベントとタッグを組んだオーディションの開催やイベントチケットの販売や楽曲の版権管理、CDパッケージ制作などアーティスト活動に役立つサービスも充実している。

さらに、音楽メディアも運営しており、BIG UP!スタッフによるプレイリスト配信、インタビュー、レビューなどアーティストの魅力を広く紹介している。

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Riku Oshima(リク オオシマ)

1995年生まれ、神奈川県出身のプロデューサー/ラッパー。幼少期からソウルミュージックやボサノバなどの音楽に触れ、大学在学中に本格的に楽曲制作を開始。どこか懐かしいレトロな質感とローファイな軽やかさを併せ持ったサウンド、ハイセンスながらも抜けのある世界観で聴く者を虜にしている。

2020年に1st アルバム『1Chome Model City』、2021年には2ndアルバム『Space Disco』とハイペースに作品をリリース。また、Qugo、RICK NOVAとの共作「Cigarette」をはじめ、気鋭の注目アーティストとのコラボも重ね話題に。トラックメイク、ミックス、マスタリング、アートワークの制作などを自身で手がけているほか、MVの制作なども行っている。
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