違法音楽アプリMusic FM撲滅へ向けて。1人の男が踏み出した大きな一歩

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文: 久野麻衣  写:Yuya Eto 

違法音楽アプリであるMusic FMを撲滅すべく、署名活動などのアクションを起こしたYouTuber・セゴリータ三世に今回の活動の背景や現在の状況について話しを聞いた。

今、中高生を中心に広く利用されている音楽アプリ、Music FM。最新の楽曲までもが無料で楽しめるということで中高生から支持を集めているようだが、そのアプリ内の楽曲は違法にアップロードされたもので、著作権を侵害する違法アプリだ。

そのMusic FMを撲滅すべく、YouTuberとして活動するセゴリータ三世が署名を呼びかける動画を公開。

その動きに対して中学3年生のMusic FM利用者が「CDを買うお金がない」という理由で反論したことによってTwitterのトレンド1位となるほど大きな議論を呼んだ。

中にはその違法性を知らず利用している人も多く、再生回数によってアーティストに還元されるSpotify、Apple Musicを始めとするストリーミングサービスとの区別も世間にはまだ浸透していないようだ。

しかし、このセゴリータ三世の動きに賛同する人も多く署名はすでに1万人を突破。なんとかこの状況を打破するべく、活動を続けている。そんなセゴリータ三世に今回の活動の背景や現在の状況について話しを聞いた。

CDを買う子がバカにされていることがショックだった

ーまずは自己紹介をお願いできますか。

僕は2014年1月1日からYouTubeに動画投稿を始めました。最初はガジェット系が多かったのですが、自分が好きだったこともあり、音楽やラーメンの動画も加わり、今はその3本立てで動画をアップしています。

最初はゴリラの被り物をしていたんですが、視聴者が増えてきてくれて動画でも食べていけるかなと思い、それまでの仕事を退職したことをきっかけに顔出しを解禁しました。

ーでは、Music FM撲滅へ向けた動きについてお聞きします。もともとセゴリータさんがMusic FMを知ったきっかけって何だったんでしょうか?

相当前から知ってはいました。「Music FMっていうものがあるんですよ」という視聴者からのコメントが多かったので。ただ、知ってはいたけど漠然としていたんですよね。僕はもともとCDを買う人だったのでそれが当たり前だと思っていたんですよ。だから、Music FMはそんなに広まってないだろうなっていう気持ちでした。

ー今回、動き出したのは音楽業界の人たちとMusic FMについて話したことがきっかけだったそうですね。

ずっと前からTwitterを通じて音楽レーベルで働いている方と繋がっていたんです。その方と飲みに行く機会ができて、色々と話をする中でMusic FMというアプリがある、CDを買わない人もたくさんいる、という話をしたら「CDを買って当たり前でしょ」という反応だったんですよね。実際のリスナーの状況と音楽業界の感覚に隔たりを感じたので、その日の夜にSkypeでの実態調査をしました。

ー実態調査に答えてくれている方は若い方ばかりでしたよね。セゴリータさんの視聴者は若年層が多いのでしょうか?

高校生〜25才くらいまでの男性が多いですね。YouTubeを見て育った世代が、学生時代を経て音楽を好きになって、僕のチャンネルに辿り着くことが多いみたいです。

ー実際に調査をして、様々な方の意見を聞いてどう思いましたか?

単純にMusic FMの浸透具合に衝撃を受けました。なによりショックだったのが「なんで無料で聴けるのにお前は買うの?」ってCDを買う子がバカにされていること。その子たちが友達とCDショップに行ってワクワクしながら選んでいる中で、つまんなそうに携帯をいじるっていう状況が僕には考えられないんですよ。

ジャケ買いして「やっちゃった〜!」とか、目をつぶって選んだ新譜が思わぬ当たりだったとかを経験してきたので、あんなに楽しい場所なのにどうしてそう思われちゃうんだろうって。言葉が正しいかわからないけど、単純にすごいかわいそうだと思ったんですよね。実際に「セゴさんなんとかしてください」って声も多かったので、何かできることないかと思ったのが今回のアクションの始まりでした。

ーこれまで業界の人たちが動いていない理由の一つとして、浸透率を実感していないということはあるのかもしれないですね。

調査してみると、若い子達が本当に多いんですよね。30代になるとその半分〜3割くらいなので、CD買う世代はやっぱり買うんだなって思いました。

ーTwitterで「スマホ世代はCDを買って読み込む行為を知らないから」という意見を見てなるほどなと思いました。

そうですね。あとよく聞く意見は「インターフェース的に優れている」「痒いところに手が届く」とい話で、運営的には優秀だと思うんですよね。グレーゾーンを攻めるような部分も含めて…。本当に気に入らないですよね。

ー類似アプリも多くあるので「本物のMusic FMどれ?」と言った声や、アプリが消された際には復活を願う声が多くありますが、なぜ中高生はそこまでにMusicFMに執着しているのでしょうか?

Music FMはそれ自体がSNSとして成り立っているようなんです。ただ音楽を聴くためのツールではなく、そこでコミュニティが出来てYouTubeのように「この曲いいよね」とか高評価されるコメントがあったりして。自分の好きな音楽に対して反響してくれる人がいるコミュニティに生きがいを持っている人もいると思うんです。

Music FMをなくすことはそういう人たちの遊び場を取り上げってしまうのかもしれないですが、ダメなものはダメですから。違う場所を見つけて強く生きていってほしいです。

ー別の動画ではMusic FMと契約していた方とお話していましたが、その方は元々のお知り合いだったんですか?

元々僕の動画にコメントしてくださっていた方で、今は非公開にしていますが、生放送で視聴者とSkypeをしていた時にたまたま繋がって、「Music FMと契約していました」という話をしてくれたんです。それを編集して公開しました。

その通話の中で「ダウンロード数や再生回数によって値段が決まっているんです」という情報をくれて、“自分たちは著作権の管理はせず、場所を提供しているだけですよ”というMusic FMの主張とは反したことが起きていたことが明らかになったんです。

ーその流れから撲滅へ向けた署名運動の呼びかけが始まり、Twitterでトレンド1位になるほどの話題となりました。あそこまで反響があることは予測していましたか?

いやいや、びっくりしましたよ。僕の自作自演とか色んな噂があるんですけど、あの動画を出したのが深夜1時くらいで、朝起きたら大騒ぎになっているぞって起こされたんです。ちょうど世間を騒がすようなニュースが抜けている時だったというのもありますが、こればかりは運というかタイミングですね。

ー議論を呼ぶきっかけとなったのが中学3年生の投稿だったわけですが、正直その投稿にどう感じましたか?

お小遣い5000円って多いなと思いました。僕は高校生でもお小遣いもらってなくて、時給690円の低賃金なカフェでバイトしていたので。5000円“しか”ないんだって、そこに衝撃を受けました。5000円もらってるなら今はサブスクでバンバン聴けるし最高なのになって。

ー中高生からは「お金ないからしょうがないじゃん」という意見が多いですよね。それに対する「お金がないから万引きしていいわけではないだろ」という意見に反発する反応を多く見かけました。

大多数に流れて行くので、“みんなが使ってるからいいや”っていうのがあるんだと思います。見せしめではないですけど、逮捕者がでれば日本人ってビビると思うんですよね。

それに大人であっても違法か合法か分かっていない人もいます。チケット転売の場合は明確に「転売はだめですよ」って音楽業界が声高に言ってましたけど、これに関しては言ってないじゃないですか。ユーザーもよくわからないけど使っちゃおう、ということはあると思います。

ー過去には雑誌でおすすめのアプリとして紹介されているケースも話題となりましたね。

悲しいなって思いますね。その騒動が起きてからずっとどうしたらいいのか考えていて。それこそ、とんでもないものに戦いを挑んでいるのかなって思うこともあったりして。ただ最近は色々な感情を通り越して、それよりも悲しいなって気持ちが強くなりました。

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