大比良瑞希は何を思いこの1年を過ごしてきたのか?音楽家としての信念を語る

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文: 黒田 隆太朗  写:遥南 碧 

7月1日に約2年ぶりとなるワンマンライヴを控える大比良瑞希にインタヴュー。前回行ったインタビューから1年、その間に感じていた迷いや葛藤、そこから見出した確信を語る。

7月1日のライヴでは、これまで以上に確信に満ちたシンガーとしての姿を見れるかもしれない。大比良瑞希は葛藤し、そしてその分だけ音楽家として飛躍していくのだと思う。

少し振り返ってみよう。昨年の上半期は3曲のリミックス音源を配信リリースし、それらをまとめた作品『unify – EP』を9月に発表。その後トリビュート作品『RELAXIN’ WITH JAPANESE LOVERS VOLUME 7』に参加し、フィッシュマンズの大名曲「いかれたBABY」をカヴァー。今年に入ってからも「ミントアイス」、「SAIHATE」と2曲の新曲をリリースし、つい先日には『電影少女-VIDEO GIRL MAI2019-』の主題歌としてオンエアされている「からまる feat.大比良瑞希」を発表してきた。つまり、彼女はこの1年の間に様々なアプローチで自身の音楽を更新してきたのである。だが、そうしたエネルギッシュな活動とは裏腹に、彼女は大いに戸惑いを感じていたという。大比良瑞希は何に迷い、何を求め、そしていかにして自分の信じる道を取り戻したのか。赤裸々に語ってくれた。

歌への確信

ーDIGLEとしての取材は約1年ぶりとなります。2年ぶりのワンマンも控えているということで、久しぶりに心境を伺えたらなと思って取材を申し込ませていただきました。

よろしくお願いいたします。

ー昨年は配信でリミックス音源を3曲出され、フィッシュマンズのカヴァーを発表。今年に入ってからも2曲の新曲をリリースされていますが、この1年でアーティストとして何か変化したことはありますか。

一番変わったことは歌に対する考え方ですね。自分は何をやりたかったのかっていうのを凄く考えた1年だったし、音楽の中身を考える1年だったなって振り返ると思います。

ーそれは何故?

一昨年に自分の制作のチームが変わって、以前よりもチームが大きくなったんです。それによって自分が何を考えてるのかっていうことをより分かりやすく示さなくてはいけない場面も増えて、音楽にする前段階でのヴィジョンも自分でちゃんと言葉で説明できないといけないなって思うようになりました。

ーそれはアーティストとして自立していないと、この時代では上手く転がっていかないんじゃないかという意味もありますか?

それもありますね。今はストリーミングがメインになってきたことで、短い曲のほうがいいんだとか、イントロから掴みのあるものがいいんだとか、YoutubeにしてもSpotifyにしても再生回数ばかり競うようになっているし、数字の見方が音楽的じゃなくなってるじゃないですか。もちろん、そういうリアルなところも大事だけど、そのフレームを気にし過ぎても自分がなくなっていくし、私は正直あんまり流行りに乗りたくないタイプで(笑)。みんなが食いつきたがるミーハー感のある音楽は性に合わないし、DIY精神を忘れずに、自分がカッコいいと思っていたものや、自分の美意識をもう1回つきつめないといけないなって凄く思っています。

ーつまりチームが大きくなったことで自分を確認する必要があったし、そこで大比良さんはビジネス的な側面を強めることには抵抗があったと。

もちろん音楽で食べていきたいというのが最初にあるし、自分が信じて作る音楽で人の役に立ちたいというのもあるから、まずビジネスとして考える事も必要なことで、そこはバランスだと思います。ただ、その時に自分の軸がしっかり定まっていること、自分を好きでいること、っていう意識をもっと持とうと思うようになりました。その状態で周りを巻き込むことが今求められてるし、音楽に嘘がない状態で売れたいと思うから、今もう一度自分に言い聞かせたくて。

ー自分と向き合う時間が続いたなら、リスナーとしても自分のルーツを聴いて行っているのは、必然的なことかもしれないですね。

そうですね。Lianne La HavasRoos JonkerAmy WinehouseCurtis Mayfieldとか、この前来日したJohn MayerCorinne Bailey Rae、あとWhitney Houstonのドキュメンタリー映画を3、4か月前に見たんですけど、改めて凄いなって思いました。歌だけでここまですべてを許してくれるような感情になれるんだって感動しましたね。

ーそこで自分はどういう音楽をやりたいって思いましたか?

自分はFeistが一番好きで、18、19歳の頃に見た彼女のライブ映像が今までで一番感動した映像なんです。今見ても彼女にしか出せない憂いの感情があって、そういう音楽から得てきた感動を、改めて自分の中で消化したい。ただ、変な話、シンガーソングライターってやることがいっぱいあるじゃないですか?(笑)。

ー音楽以外のことも含めて?(笑)。

そう。作詞、作曲、ギター、歌はもちろん、グッズやアートワーク、イベント企画などを考えたり、SNS発信など、基本的にはセルフプロデュースだったりしますよね。今の時代特に、やろうと思えば全部自分でできる。私はそれぞれに均等に力を使う感じで、わりと色々なことに自分で手を出してやってきたんですけど、一番大事なのは歌だなって改めて気づいたんです。それで自分の中で歌をもっと掘りたくなったんですよね。

ー力を分散させるのではなく、一番大事なところに集中するようになったんだ。

まさに。

ーそれに関して、自分の中でどれくらい手応えを持っていますか。

歌に関してはこの1年で自分だけのものにできたっていう実感があるんですけど、それはたぶん、去年の11月に出した「いかれたBaby」(フィッシュマンズ)のカヴァーで得られた感覚かなって思います。

ーというのは?

それまでは自分の歌いやすいメロディで作れていたけど、あれは自分の歌じゃなかったから。その上、これまでも沢山の人がカヴァーしてきたような楽曲で、自分の中でも特別なバンドのカヴァーだったこともあって、自分だったらどう歌うかっていうことを色々試していったんです。いつもよりレコーディングに長い時間をかけて人の曲を歌ってみたからこそ、自分を知れたんだと思います。

ーなるほど。

あと、3月にはASIAN KUNG-FU GENERATIONGotchさんソロプロジェクトでのコーラスもさせて頂き。他にも今度の私のワンマンライヴにゲスト出演していただくことになったシンガーソングライターの七尾旅人さんだったり、先日リリースとなったドラマ『電影少女』のテーマソング “からまる”の音楽担当されている作曲家、プロデューサーの蔦屋好位置さんだったり、自分が憧れてきた人達に仕事で会うことが増えた時に、怯えないで普通のスタンスでいられるようになったのは、ここまでやってきたことが間違いじゃなかったんだって確信できた瞬間でした。

私は誰の真似もしていないし、自分だけの声の出し方とグルーヴが自然と生まれてきた実感が今はあって。誰とやっても自分の歌に対して恐れはないって、今ようやく思えます。

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この記事を作った人

WRITER

黒田 隆太朗

平成元年生まれ、千葉県出身。ライター/編集。MUSICA編集部→DIGLE編集部。

PHOTOGRAPHER

遥南 碧

パンク、ブラック、ロックが好きな大阪出身のエモグラファー。「愛が見える写真」、「音が聞こえる写真」を撮ります。もっと色んな写真を見たいなと思ったらWEBサイトも覗いてなー!お仕事のご相談もお気軽に!

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大比良瑞希
MIZUKI OHIRA
東京出身のシンガーソングライター/トラックメイカー。
2015年、ミニアルバム「LIP NOISE」のリリースでソロ活動をスタート。
FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、りんご音楽祭、音泉温楽、GREENROOM FESTIVALなど、大型フェスへの出演も多数。企業CMへの楽曲提供や様々なアーティストのサポートなど多岐に渡って活躍しており、コーラスワークでは過去に、tofubeats、LUCKY TAPES、Alfred Beach Sandal×STUTS、Awesome City Clubの作品やライブに参加。
2019年4月スタートのテレビ東京・木25ドラ「電影少女-VIDEO GIRL MAI 2019-」で、音楽を監修する蔦屋好位置氏のプロジェクト・KERENMI(ケレンミ)の目に留まり、主題歌のフィーチャリングボーカルに大抜擢。
クールネスとパッショネイトが交錯する個性的な歌声は、高感度な音楽ファンは元より多くのアーティストにも称賛されており、サブスクリプション・ストリーミング時代を駆け抜ける次世代型シンガーソングライターとして注目されている。
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