きっとずっと恋をする。唄うたい長澤知之が語る、音楽に託したロマン

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文: 黒田 隆太朗  写:木村篤史 

長澤知之が『ソウルセラー』と対になる新作『SLASH』をリリース。90年代のバブリーなサウンドに惹かれているという今のモードから、<きっとずっと恋をする>と歌うロマンに迫る

スペードが象られたジャケット写真は、前作『ソウルセラー』で描かれていたハートを反転させたものである。本人曰く、エレキギターを鳴らす瞬間は、剣を持っているような感覚になれるとのこと(スペードという言葉の由来は「剣」)。アコースティック・ミニアルバム『ソウルセラー』と対になる、バンドサウンドを軸にした新作『SLASH』がリリースされた。<政府の陰謀>と連呼するインパクトのある「ムー」で幕を開け、中盤にはエネルギッシュなロックナンバーがズラりと並ぶ本作は、同時に「Back to the Past」や「戦士は夢の中」といったノスタルジックな佳曲も揃えている。彼が本作で蘇らせたのは、90年代のバブリーなサウンドだ。長澤がThe Beatlesと出会い、多感な10代を過ごしたその時代の音である。きっと本作は、長澤知之の少年心が炸裂したアルバムであり、同時に追憶のアルバムでもあるとも言えるだろう。音楽に恋をした煌めきの記憶が鳴っている。

バブリーな90’sサウンド

ーアコースティックな音色を主軸に作られた『ソウルセラー』と、バンドサウンドをメインに構成された『SLASH』。この二面性はご自身のどんな音楽観から来るものだと思いますか。

ギターを弾き語るところから始めたので、その道の上にアコースティック・サウンドがあるのかな。小さい頃に聖歌隊に入っていたので、賛美歌的なメロディが好きだし、朴訥としたものや童謡のような音楽も好きなんですよね。でも、高校生くらいになってロックバンドを組んだりしていたので、もちろんバンドサウンドも好きで、『SLASH』のほうが遊んでいると言えば遊んでいますね。

ーなるほど。

ただ、やっぱりThe Beatlesが好きだからかな。彼らはいろんなことをやっていましたし、影響は受けています。

ー今でも魅せられているんですね。

ずっと好きですね。昨日ジョン・レノン(John Lennon)の「Grow Old With Me」を、リンゴ・スター(Ringo Starr)がカバーして配信リリースしたんですけど。ポール(Paul McCartney)がベースとコーラスを担当していて、生き残った二人が「一緒に歳を取ろう」とジョンの曲を歌っていたことが凄く素敵で感動しました。なんともいえない希望と愛情がほんわかとあって好きです。

ーなんともいえない希望と愛情、それは長澤さんの曲にも通ずる感触ですね。どんな時に曲ができてくることが多いんですか?

喜怒哀楽がそのまま歌になる感じです。喜んでいる時は喜びを感じる曲を書くし、僕は直情的なので思ったままに作品にしています。日記みたいな感覚で曲を書いてるから、カッコつける必要がない。やりたいことを野性的にやっている部分があって、単純に感情のべんがゆるいのかもしれないけど(笑)。

ー(笑)。

整理整頓された音楽は個人的につまんないんです。人間がそれやる必要ある?って思っちゃうので、僕は生々しいものが好きですね。

ーなるほど。ここからは新作について伺わせてください。作品としては対になるものだと公表されていますが、タイトルは前作とは印象が違いますね。

感覚的につけたんですけど、『ソウルセラー』はハートが書かれていて、上下逆にしたらほとんどスペードになるから。そして、スペードって元々剣という意味からきているんんですよ。エレキギターを鳴らす瞬間だったり、フィードバックの音とかバリーンっていう鋭い音は、そういうのを連想させるものだと思ったので。今作はバンドサウンドでジャキン!としているからスラッシュ!みたいな(笑)。

ーなるほど(笑)。少年心をくすぐる感じはありますね。

そうそう、フォルムもカッコいいしね。

ー音楽的には、ルーツとは別にこの一年くらいでよく聴いていた音楽はありますか。

最近、この歳になってようやくグランジロックを聴き始めて、こんなバンドいるんだって思いながらStone Temple PilotsJane’s AddictionAlice in Chainsを聴いていました。

ー今まで聴いてこなかったというのが意外です。

スマパン(The Smashing Pumpkins)はずっと大好きなんだけど、グランジはよく知らなかったんですよね(笑)。聴いてみたらメロディアスだし、グランジって下手なイメージがあったんですけどStone Temple Pilotsは上手いですね。

ー何故今になってそうした音にシンパシーを感じるようになったんですか

YouTubeでビリー・コーガン(Billy Corgan)が「1979」を弾き語りしている動画があったんですよ。彼が嬉しそうに弾き語りしている姿に凄くキュンとして、オススメで出てくる曲を聴いているうちに、よく考えたらグランジって聴いてなかったなって思って。そこから漁り始めました。

ー「90’s Sky」にはブリットポップっぽさをちょっと感じたのですが、長澤さんの中では何かイメージがありましたか。

そのまんまなんだけど、90年代っぽくしようと思いました(笑)。最近はよく今井美樹を聴いていて、80年代後半から90年代初期のJ-POPにある、DX7が使われているようなチープなシンセサイザーの音とか、ゲートリバーヴの音がかかったドラムとか、ああいうバブリーな音楽に惹かれています。

ーじゃあ当時の記憶がこの曲には反映されている?

うん、90年代の風景ですね。自分が見てたもの、好きだったものを鳴らそうと思いました。「世界は変わる」では、キーボードの山本健太くんにしつこく「90年代初期っぽい、凄く商業的なJ-POPっぽい音を出して」と伝えて(笑)。そういう気分が今作にはありました。

ー90年代っていうのは、長澤さんにとってどんな時代でしたか。

The Beatlesに出会ったのも90年代ですし、それこそブリットポップも聴いてました。ラジオに流れてきたものに感化されて、ウキウキしていた時代ですね。凄くロマンチックな時期というか、ドリーミーな時期。時代が変わって社会的な音楽のあり方も全然違うので、別に過去がよかったなって思うことはないんですけど。今の僕が惹かれている音はあの時代のどこかバブリーな感じで、当時のことを思い出しながら曲を書いていました。

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8歳でビートルズとブラウン管ごしの対面を果たし覚醒。
10歳でギターを始め、11歳で初めてのオリジナル曲完成。
18歳でオフィスオーガスタのデモテープオーディションでその才能を認められ、以後、福岡のライブハウス「照和」、東京のライブハウスでのマンスリーライブを行いながらデモ音源を制作。

2005年9月、東京/大阪で行われた「YAMAZAKI MASAYOSHI in Augusta Camp 2005」のオープニングアクトを務める。それまでのデモ音源を集めインディーズCD「長澤知之」をライブ会場限定で発売(現在入手不可)。

2006年8月2日シングル「僕らの輝き」でよりメジャーデビュー。

2007年3月「PAPER STAR」、10月「P.S.S.O.S.」と2枚のミニアルバムをリリース。その楽曲のオリジナリティとクオリティの高さが評価され話題となる。

ライブ活動と楽曲制作を地道に重ね、2009年3月に1年半ぶりとなる3枚目のミニアルバム「EXISTAR」をリリース。その4月には東京(代官山UNIT)、大阪(鰻谷SUNSUI)、福岡(DRUM SON)で、全てソールドアウトのワンマンツアーを敢行。続く8月5日に 待望の新作MINI ALBUM「SILENTSIREN」をリリース。一層の注目を集め勢いを増しながら、年内2度目となるワンマンツアーを東京、大阪、名古屋、福岡で行った。

2010年8月、Augusta Camp会場にて限定1000枚で発売されたシングル「回送」は即完、10月のワンマンライブもソールドアウトとなる。年末にはCOUNTDOWN JAPANに初出演。

2011年2月に行った自主企画イベント「ライド5」もチケットは発売開始で瞬く間に完売となる。
4月6日、ついに自身初のフルアルバム「JUNKLIFE」をリリースするとともに、ワンマンライブを全国8公演行い、アルバムはロングセラーヒットとなる。

2012年1月25日にはセカンドシングル「カスミソウ」をリリース。同年6月6日にはミニアルバム「SEVEN」を発売。ジャケットには、本人が大きなキャンバスに描いた絵が使用され、大きな反響を呼んだ。
このミニアルバムのツアーでは、本人の多彩なパフォーマンスを表現する為、弾き語りとバンドの2形態で「Nagasa・Oneman7」を行った。
この模様を収録した「Nagasa・Oneman7 Acoustic LIVE DVD」が、Augusta Family Clubにて販売中。

2013年は制作活動を行いながら、精力的にイベントへ参加、7月31日、配信シングル「誰より愛を込めて」のリリース、11月6日には待望のセカンドフルアルバム「黄金の在処」をリリース。12月には、アルバムにもゲスト参加した津野米咲(赤い公園)、Nabowaが出演したイベント「シークレットライド7」を行った。

2014年2月には全国ツアー「Nagasa・Oneman8 Band Ver.」を行い、またツアー直後の2014年4月より長澤自身が全面プロデュースをするイベント「長澤知之 LIVE ~IN MY ROOM~」を6ヶ月連続で開催し、毎公演のチケットが完全にプレミア化。11月13日、14日東京・キネマ倶楽部を皮切りにIN MY ROOM TOUR 2014も敢行。ライブ会場限定*企画アルバム『長澤知之Ⅲ』の販売も同ツアーより開始した。
*2017年一般流通スタート

2015年7月31日に、数年前よりプライベートプロジェクトとして楽曲制作やライブを断続的に行っていたユニットであるAL(小山田壮平×長澤知之)に、ベーシストの藤原寛、ドラマーの後藤大樹を迎え、正式にバンドとして活動をスタートする事を発表。

2016年4月13日にALファーストアルバム『心の中の色紙』をリリースし、同作を携えての全国ツアー「AL 1st Tour 2016」を開催。
2016年8月2日、デビュー10周年を迎え、12月7日には4年ぶりとなるミニアルバム「GIFT」をリリース。同作を携え弾き語りツアー『Nagasawa Tomoyuki Live 'Gifted' 2017』を開催。

2017年4月12日に、デビューからの10年を総括するアンソロジー・アルバム『Archives #1』をリリース。約3年ぶりとなるバンドツアー『-10th Anniversary Anthology- Nagasawa Tomoyuki Band Tour 'Kumo No Ito' 2017』を行った。
8月にはオフィスオーガスタ所属アーティストによるスペシャルユニット“福耳”が5年ぶりにリリースした両A面シングル『ブライト/Swing Swing Sing」収録「ブライト」を書き下ろした。

2018年1月17日、ALセカンドアルバム『NOW PLAYING』をリリース。3月からは同作を携え全国7か所のツアー「AL 2nd Tour 2018」開催。
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