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文: 黒田 隆太朗 写:Hideki Otsuka、Kazuyuki Hotokezaka
トクマルシューゴの音楽を聴いて朗らかな気持ちになるのは、彼の実験精神の発露が、あくまでも普遍性へと帰結しているからである。芳醇な音楽性を含みながら、衒学的なものはひとつとしてない。そのポップソングに、美しさと安心感を覚えるのだ。彼曰く、音楽を作る行為は、理想郷を作る行為なのだという。なるほど、数多くの楽器が重なり合い、調和の取れた世界を形成する様はまさしく理想郷。先月リリースされた「Sakiyo No Furiko」は、彼が作り出した新たな秘境である。
楽曲の良さは勿論のこと、この曲にはトピックがふたつある。ひとつは彼の個人名義でのオリジナル作品が、『TOSS』以来4年ぶりであるということ。もうひとつは、久々に演奏・録音・編集までを彼ひとりで行ったということだ。つまり「Sakiyo No Furiko」は、彼の原点であり真骨頂である。
さて、6月7日にはトクマルシューゴ主宰のフェス、「TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020」が行われる。メインラインナップの栗コーダーカルテット&ビューティフルハミングバード、んoon、長谷川白紙、折坂悠太、トクマルシューゴの5組に加え、「外伝」と称し様々なアーティストのミニライブも予定されている。初のオンライン開催が決まった、3年ぶり5回目のイベントである。今後音楽ライブの形態が否応なく変わっていくことが予想される中、本イベントもシーンの未来へ向けた試金石となるだろう。
突如発表された新曲と、彼の理念を具現化させたイベント「TONOFON FES」について、リモートで話を聞いた。
ー「Sakiyo No Furiko」は躍動感と温かみを感じる曲ですね。春が来なかった2020年ですが、新しい季節を期待させるような曲に僕には聴こえました。
春…来なかったですねえ。ただ、今は昼間から毎日のように子供達が遊んでいるじゃないですか。子供達が街中を走り回っているところを見ると、昭和の風景を思い出すというか、微笑ましいんですよね。春は来なかったけど、不思議な風景が戻ってきたなという感じはしています。
ーある種の美しさを感じている?
そうですね。この前凄く空が晴れ渡っていて、空気がめちゃくちゃ澄んでいるような気がしました。街に人が少なくなって、自分が子供の頃に描いていた、理想的な風景を見ている感じがあります。ウイルスが解決しても、この風景は見ていたい気持ちはありますね。
ー新曲に関しては、トクマルさん自身はどんなイメージを持っていますか?
この曲は去年の春頃、時間を超えて聴ける曲を作れたらいいなと思いながら、じわじわと作り始めました。命が芽生える瞬間を切り取ったもの、そして自分の求めている理想郷が混ざればいいなとイメージしていましたね。
ーMVも命が吹き込まれた石細工が踊っているような映像になっていますね。
たとえばブランコのおもちゃとか、ぼーっと見ていられるものが子供の頃から凄く好きで。昔よくあったくるくるダンスするオルゴールとか、そういうものがモチーフですね。僕はああいうものを作りたいなと思っています。電車の模型のNゲージやプラレールもいっぱい持っていたんですけど、無機物なものが動き回っているのが凄く好きなんですよね。
ー理想郷というのは、トクマルさんにとってどういう場所ですか?
凄く穏やかな世界であってほしいといつも思っているんですけど、それにプラスして、ちょっと変わったことも起きてほしい。大袈裟な変化を求めているのではなくて、ちょっとしたことでいいなって思えたり、感動できる、そんな世界が僕の理想郷ですね。
ートクマルさんの楽曲は、まさに素朴で普遍的なメロディがありつつ、アレンジで「ちょっとした変化」を起こすような曲だなと思います。
そうですね。僕は昔の音楽もよく聴くし、ルーツを追っていくのが凄く好きなんです。(音楽の)歴史から外れようという気持ちはなくて、定石通りにやるというか。いわゆるAメロ、Bメロ、サビみたいな構成があったり、メロディラインも不思議なことをやっているわけではない。自分が考える普通のものと、ちょっと変わったものを織り交ぜていく作曲が、僕の好きな手段ですね。普段聴く音楽も、自分の中にすんなり入り込みつつ、あとで思い出した時に引っかかるものを聴いています。
ーたとえば?
たとえばThe Beach Boysはめちゃくちゃ普遍的なメロディがあるにも関わらず、実験的な要素を裏側に隠している。1年に何枚もアルバムを出すようなバンドだったので、表向きはポップで売れる曲を書けとレコード会社に指示されているのかもしれないけど、その裏側で面白いことをやってやろうって気概が見え隠れする。そういう音楽を聴くのが好きですし、楽曲のそういうところを探すのが面白いんですよね。
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