TENDREが奏でる祈り。『LIFE LESS LONELY』に込めた愛とは

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文: 黒田 隆太朗 

『LIFE LESS LONELY』をリリースしたTENDRE。「2020年に作るアルバムとして、考え抜いた末の答え」だという新作と、その奥にある音楽観について語る。

TENDREが作るエレガントなポップ・ミュージックには、ひとりきりの静かな夜にそっと寄り添うような慎ましい優しさがある。どんな人生にも必ず孤独と向き合う時間があり、そしてそうした時間にこそ人は大切な存在を確かめるのだろう。『LIFE LESS LONELY』はそうした心の奥底にまで溶けていく音楽である。本作は混迷の時代にいち音楽家として何を歌うべきか、そうした問いに対するTENDREなりの答えが記されている。これは彼にとって次なるキャリアへの最初の一歩であり、そしてリスナーへの真摯なメッセージでもあるのだろう。

Ryohuを招いたファンクチューン「FRESH」や、King Gnuの新井和輝とのセッションから生まれた「DUO」、さらにはWONKの荒田洸が参加した「JOKE」など、カラフルで華々しい音楽を展開するのが前半5曲。哀愁漂うミッドテンポの楽曲を揃えた、彼の香しい歌と言葉に酔いしれる楽曲が後半5曲。本作はTENDREの魅力をふたつのムードで表現したアルバムである。そして幅広い音楽性を跨いでいきながら、それでも統一感を持って聴こえるのは、本作にある彼の言葉に一貫性があるからに他ならない。TENDREの人生観とも言える、上品で芯を食ったワードこそ本作の魅力だろう。当面の目標は「不滅の曲を作ること」、そして変わり続けることとのこと。新作の奥にある音楽観についてじっくりと語ってもらった。

自由を手にする為の長いプロセス

ー素晴らしいアルバムですね。

ありがとうございます。光栄です。

ーひとりの時間にそっと寄り添うような、そんな優しく上品な作品だと思います。

色々な事が起こっている2020年に作るアルバムとして、僕が考え抜いた末の答えがこのアルバムという感じですね。TENDREは今年で3年目になるので、大きな前進を果たすようなものを作りたいと思って制作に入ったんですけど、(コロナ禍によって)図らずも一人でいる時間が増えていって。きっと音楽家も音楽ファンもそうした時間を味わうことが増えたと思うんです。今回のアルバムでは、2020年の状況をしっかり踏まえた上で、自分がアーティストとして出せる答えをしっかり提示できた気がしています。

ーつまり、コロナ禍の空気を踏まえて方向転換があった?

そうですね。ただ、だからと言って固有名詞を入れちゃうと、のちのち過去のものとしてしか捉えられないものになってしまうので、歌詞にコロナといれるようなことはしたくはなかったんですけど。でも、今年の空気を表すものにはなったかなと。面白かったのは、こういう状況になったといえ、自分が思うことは常日頃の考えと変わらないということで。人としてもアーティストとしても、自分はこういうスタンスでやっていくべきだと思うし、次に進む上での自分の意義も見えてきましたね。

ーTENDREらしいスタンスというのは?

スタンスっていうのは、“何を歌にするか”ってことだと思うんですけど…まず、僕はTENDREを始めるまでは、自身の立ち位置としてはオーバーグラウンドに行ってるわけではなくて、TENDREを始めたことによってそれまで撒いてきた種が花咲いていったんですね。で、TENDREとして活動していくことで、自分が思っていた以上の景色が見れたので、順調にいくのであれば今年は日本のオーバーグラウンドなシーンに出向くための一歩を踏み出そうと思っていました。

ーなるほど。

そこでマーケティングやビジネスのことも考えて日本のシーンを見つめ直した時に、僕は剣も盾も持っていたいということに気づきまして(笑)。

ー剣と盾?

総じて言えることではないかもしれないですけど、日本のチャートを見ていると、トゲや何かに対する抗いがあるものが多い傾向にあるなと思います。本当に平和な曲が売れてるってわけではないなと、僕は感じたんですよね。ただ、アーティストとして一番やっちゃいけないことはそこを追うことで、俺の声はこれだし、それこそ、生まれた時の顔は変えられないわけです。

ー持っているもので勝負するしかないと。

そう考えた時に、TENDREという名前に「柔らかい」という意味があったり、音楽を聴いてくれる人にも穏やかな印象を抱いてもらっているようで、それが僕の剣にもなるし、誰かを癒す盾にもなるだろうと考えたんです。僕はちゃんと言うことは言うという意味での剣を持つし、でも、それは何かを傷つけるための剣ではなくて、あくまでも何かを守るための剣でしかない。まあ、端的に言えば僕は平和主義なので、そういうところからどんなことを人に対して歌えるのか、それを本当に考えていきたいなと。

ーなるほど。

それは生半可な優しさではなくて、色々な角度からちゃんと物事を見た上で、それに見合う自分なりの優しさを持つことであり、人を動かす言葉を選んでいこうっていうことですね。一重にスタンスについて話すことは難しいんですけど、長々と話せばそういうことかなと思います。

ー言い換えると、迎合することなく大衆性を獲得するために、TENDREさんだけの道を探るというところでもありますね。

そうですね。メディアやマスに出るっていうことは、そこに向けてシフトチェンジしようということではなくて。自分がその場所に行った時、どう面白がられるかが凄く大事なんだと思います。そういう意味でも、僕がどういうスタンスで曲を書いているのか、どういうことを普段考えているのか、音楽を通してコミュニケーションを取ろうかなと思って制作しました。今は不滅の曲を作れるようになることが目標かな。

ー普遍的なものや大衆的なものを目指すというのは、TENDREさんのどういう志や理想が表れたものだと思いますか。

長くやること、じゃないですかね。僕は自分の生業を考えた時に、音楽という選択肢しかなかったし、作るという作業においては完成というものはないので、フレッシュな状態で続けていけるかどうかは凄い大事なことなんですね。そういう意味で自分は、シンガーとしても、プロデューサーとしても、音楽家としても、柔軟性というのはずっと活かしていければいいかなと思っています。僕はTENDREというものではあるけれど、何者にでもなれるっていう、そういう普遍性もあったらいいなと。

ーどんどん変わっていく存在でありたい?

例えば「TENDREが作った音楽は間違いない」とか、「あの人がいる場所はなんか面白そうだよね」とか、そういう存在になれたらいいかなあって思います。その場でモードを切り替えていくというか、歌いたい時は歌うし、作りたい時は作るし、その自由を保つためにより広い世界を見ていきたい。普遍的な曲を作りたいというのも、最終的に音楽における自由を手にする為の、長い長いプロセスでしかないかなと思います。

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黒田 隆太朗

平成元年生まれ、千葉県出身。ライター/編集。MUSICA編集部→DIGLE編集部。

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河原太朗のソロ・プロジェクト。2017年12月にTENDRE名義での6曲入りデビュー EP 『Red Focus』をリリース。2018年10月には、tofubeatsによるリミックスも話題となった配信限定シングル「RIDE」を含む1stアルバム『NOT IN ALMIGHTY 』をリリース。2019年はARABAKI ROCK FES 、VIVA LA ROCK 、GREENROOM、FUJIROCK FES、RISING SUN ROCK FES、SWEET LOVE SHOWER、CDJなど国内の主要フェスにも軒並み出演を果たした他、同年6月に開催された東名阪のワンマン・ツアーは追加公演を含む全公演がソールドアウト。続く、新作『IN SIGHT – EP』のリリース・ツアーも同じく追加公演を含む全公演がソールドアウトを記録。

Charaや堀込泰行、三浦透子といったアーティストへの楽曲提供・プロデュース、SIRUPや日本でも人気を集めるオランダのSSWベニー・シングスとのコラボレーションなどを行う他、J-WAVE “TOKYO MORNING RADIO”では別所哲也氏の代打としてナビゲーターを務めるなど、その活動は多岐に渡る。
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