文藝天国が魅せる総合芸術。2ndワンマン<アセンション>で提示した天国のカタチ

Report

文: Mai Kuno  写:たかつきあお  編:riko ito 

“オルタナ的藝術徒党”を掲げ、音楽以外にも多角的な表現活動を行う文藝天国が、2度目のワンマンライブ<アセンション>を2024年2月17日(土)東京・日本橋三井ホールにて開催。二部構成のコンセプチュアルなパフォーマンスによって文藝天国の美学を感じさせたイベントの模様をレポートする。

「ライブ」という言葉で表現することを躊躇する程に、総合的なアート体験だった。音楽、映像、ライティング、特殊効果など、様々な演出で身体と脳に刺激を受ける。この体験が彼らの言うところの「天国」なのだろう。

色彩作家・すみあいかと音楽作家・ko shinonomeによるオルタナ的藝術徒党「文藝天国」。彼らは“音楽と映像を軸に五感を通して天国をつくること”をコンセプトとして活動している。“五感を通して天国をつくる“ということについて、文章で理解したつもりでいたが、今回開催された彼らの2nd one-man live<アセンション>を体験することで、ようやくその本質を理解できた気がする。

この日のチケットは事前に参加者へ郵送されており、ボーディングチケット(搭乗券)を模したデザインが“このライブは旅のような体験になる”と暗示していた。

ライブは2部構成で、第1部「破壊」からスタート。会場が暗転すると、離陸のアナウンスと轟音が響き、ステージを覆う紗幕に地球が映し出される。どうやら我々は宇宙にたどり着いてしまったらしい。

そんなことを考えていると、「尖ったナイフとテレキャスター」のギターサウンドが空間を切り裂く。幕にはぐにゃぐにゃとメンバーのシルエットが浮かび上がり、まるで夢と現実の狭間にいるような感覚にさせられる。そこからつながるように「メタンハイドレート」へ突入。兄弟のようなリフが印象的な2曲が続くのは、なんとも気持ちがよかった。

幕が落ち、ステージの全貌も現れた。宇宙船のような真っ白なステージは無機質な世界観を表現しながらも、ライティングで表情を変えるデザインだ。そこに真っ白な衣装に身を包むすみあいか(V.DJ)、ko shinonome(Gt.)、ハル(Vo.)の姿があった。

2曲を終えたところで、ようやく息をついたような気がする。続く「七階から目薬」の温かく軽快なリズムで観客も緊張が解け、曲終わりに初めての拍手が起こった。そこから心地の良い雨音で始まる「夢の香りのする朝に。」「seifuku」「プールサイドに花束を。」までを続けて披露し、水に深く潜るような音からの「シュノーケル」へ。

第1部では、照明やスモーク、さらに香りもあっただろうか。そんな様々な演出の中で響くハルの透明感のある歌声と、客席へ真っ直ぐに向けられる彼女の眼差しに引き込まれていた。歌声と絡まるようなko shinonomeのギターフレーズも秀逸だ。

「破壊的価値創造」を披露し、メンバーがステージを後にしところで会場内にサイレンが鳴り響く。ステージには「新ユニット 破壊的価値創造」という文字。

そこへ「破壊的価値創造」のミュージック・フィルムで主演を務めたsoanが登場する。そう、新ユニット始動のゲリラ報告だ。早速、その夜24時に公開予定の1stシングル「ラスト・フライト」を披露してくれたのだが、ボーカル・soanはステージを左右に行き来し、観客へ手を差し伸べる。静のイメージであるハルとは対照的に、動のパフォーマンスで存在感を見せつけて第1部を締めくくった。

突然の出来事に圧倒されている間に、ステージではお茶会の準備が進められている。ロマンティックな衣装に包まれたすみあいかとko shinonomeが登場し、 ティータイムのようなMCタイムへ。緊張感のある第1部から解放されたようなふたりの表情に、客席もリラックスできたようだ。

そして、MCの雰囲気からシームレスに第2部「茶会」がスタート。1曲目は2ndアルバム『夢の香りのする朝に。』CD版に収録されたシークレットトラック「秘密の茶会」だ。ひだまりのような穏やかさを感じながら、第2部の展開に胸を膨らませる。続いて、鐘の音が鳴り響き「天使入門」へ。すみあいかが響かせるウィンドチャイムの音色が、生音ならではの生命感を楽曲へ吹き込む。そして、ハルの高音が美しい「マリアージュ」を終えたところで、会場に物語の朗読が流れた。

気がつくと、そこには文藝天国のミュージック・フィルムに出演する壊死ニキの姿があった。何かを探し求めるように会場を彷徨い、それをスポットライトが追いかける。会場全体がミュージック・フィルムの世界になったようだった。そんな物語のバトンを受け取ったのがハル。物語の続きを語るように、アカペラで「フィルムカメラ」が始まる演出はとても美しかった。

第1部の無機質な緊張感とは対照的に、繊細な心情の表現が印象的な第2部。その後もko shinonomeがループステーションを駆使したイントロで魅せる「おいしい涙」、環境音からつながって始まる「緑地化計画」と、曲世界への入り口を丁寧に用意していく。続く「宿命論とチューリップ」「エア・ブラスト」はすみあいかがMCで話していた“2ヶ月後にやってくる季節”、つまり春を予感させる曲。桜が舞うような照明で幸福感に溢れていた。

そして、ライブを締めくくるエンドロールが流れ、ラストは「奇跡の再定義」。ゆっくりと紡がれる曲と合わせて徐々に濃くなっていくスモークはこの規模のライブ演出としては例を見ないほど。すっかりステージが煙に覆われたところで、祈りのようなハルの歌声が途切れ、溢れ出るように奏でられるko shinonomeのギターが余韻を残していく。5分ほどあっただろうか。やがてギターの音も途切れスモークが晴れる頃、着陸のアナウンスと共に観客は現実世界へ戻ってきたのだった。ゆっくりと着地してくれたおかげで、スムーズに現実世界へ帰ってくることができたと思う。

ライブタイトルの<アセンション>とは「次元上昇」を意味する。この言葉は観客を現実世界から天国へ連れていくことの表現としてだけでなく、彼らの進化の意味でもあるだろう。そう感じたのは、今回のライブの内容はもちろんなのだが、並行して2つのイベントを同時開催させたことも大きい。

現在、彼らは音楽活動を行う「文藝音楽班」以外に、「文藝映像班」「文藝服飾班 」「文藝食卓班」という4つを展開させている。この日は「文藝服飾班」によるフレグランスメゾン・PARFUM de bungeiのリミテッドショップのオープンと、「文藝食卓班」によるオルタナティブスイーツや紅茶を提供するポップアップ紅茶専門店・喫茶文藝を別会場で展開していた。

活動5年目となった彼らが自分たちの思想や活動、“天国”について、ひとつの形を明確に提示できるフェーズに入ったのだ。ここから天国は完成へと近づいていく。そんな始まりを感じる日だった。
ライブ会場を後にする際、お土産として渡されたのはこの日お披露目されたPARFUM de bungei の新作オーデコロン「somei」の香りのハンドソープ。ライブ中に香っていたのはこの香りだろうか? 多角的に展開する活動がひとつに繋がり、さらに余韻が広がっていく。それは彼らの美学であると同時に、「この日のことを忘れないで」という純粋な想いだと受け取った。

SET LIST
第一部
M1. 尖ったナイフとテレキャスター
M2. メタンハイドレート
M3. 七階から目薬
M4. 夢の香りのする朝に。
M5. seifuku
M6. プールサイドに花束を。
M7. シュノーケル
M8. 破壊的価値創造
M9. ラスト・フライト(新ユニット・破壊的価値創造)

第二部
M10. 秘密の茶会
M11. 天使入門
M12. マリアージュ
M13. フィルムカメラ
M14. おいしい涙
M15. 緑地化計画
M16. 宿命論とチューリップ
M17. エア・ブラスト
M18. 奇跡の再定義

PROFILE

文藝天国(ぶんげいてんごく)

色彩作家・すみあいかと音楽作家・ko shinonomeによるオルタナ的藝術徒党。文藝音楽班、文藝映像班、文藝服飾班 、文藝食卓班の4つの班によって成り立つ。 音楽と映像を軸に五感を通して「天国」を作り続けている。

音楽と映像に夜作品制作を軸としつつ、スイーツコースを提供する“喫茶文藝”や、フレグランスブランド“PARFUM de bungei”を手がけるなど、多岐にわたる活動を展開している。

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