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文: 石角友香
Night to Lie、夜になるほど真実が浮かび上がるのか?それとも逆に夜になるほど嘘つきになるのかーー。どちらにも取れる余白を持ちつつ、1曲ずつ刻印を押された真実のようにこれまで6曲の単曲をリリースしてきた彼。SNSを調べてみると、2000年、北海道生まれで、6歳のときにピアノに出会い、クラシックを経由し、13歳でELLEGARDENに衝撃を受け、ロックに開眼とある。そして現在はソロで主にDTMで楽曲制作、ネット配信の活動を主にしているようだ。コンセプトは“Hopeless Songs=救われない曲”。Helpless Songsでもあるというわけだ。
セルフタイトルの「Night to Lie」のリリースが今年1月。まだ半年強で既に6曲の単曲リリースをしてきた彼。その初作「Night to Lie」の印象は「この人は自分の声と言葉とギターが武器であることを知ってるな」というものだった。ぱっと聴き、Lo-Fiヒップホップのチルなムードを醸しつつ、諦観と焦りがないまぜになった感情を淡々と押韻しつつ吐き出す。感情を押さえた米津玄師みたいな良い声で、どこか00年代のBUMP OF CHICKENもART-SCHOOLもsyrup16gも並列で語られていた頃の、日本のオルタナティヴロックの言語感覚なども少し思い出させたりした。
この間、アコギの良さやピアノも加わった「夜空に君の色を」、言葉数の多さやヒップホップ由来のフローが登場する「Sunflower」などで、トラックメイキングの多彩さも表現してきたが、そのことによって構成が複雑化するわけじゃないのがNight to Lieの曲に対する概念を示唆しているようで面白い。基本的にギターリフでもビートでもいいのだが(それらがレイヤーになったループとも言えるが)、同じテンションの1曲の中で、一つの強い摩擦を起こせればいいとでも言わんばかりの潔さがこの人の曲にはある。さらに「この人、ほんとにギターが好きだな」という印象は残しつつ、「水流」や前作の「Cute Aggression」ではエレクトロニックな上モノやつんのめるビートが際立ってきた。それでもギターリフは彼にとって真実のような何かを司るサウンドとして小さくても必ず鳴っている。これはなにげに大事なことだと思う。
そして新曲「Overdose」である。前作「Cute Aggresssion」で恋に落ちてしまった主人公はその初期衝動と純愛に次第にアディクトしていくさまが描かれている印象だ。イントロに流れる心音は自分でも聴こえるぐらい“君”を欲している禁断症状なのかもしれない。だが、サウンドの温度感はこれまで同様、平熱。もしかしたら、既にシラフじゃないのかもしれない。ディレイのかかったギターは意識が遠のくし、これまでで最もローが強調されたベースラインはフィジカルに訴求する。また、低音ボーカルと地声もしくは少し高いボーカルをダブルにすることで生まれる多重人格性も、オーバードーズ(過剰摂取)の疑似体験的な体感を生む。しかし、この曲で主人公は相手に何かを懇願したりはしていない。ただ、自分以外の誰かを完全に知ることができそうな錯覚と欲望の渦中にいる自分を俯瞰しているのだ。こんなにせつないのに冷静なラブソング、聴いたことがない。そしてこの曲でもギターリフは通奏低音のように、もしくは静脈の拍動のようにささやくように刻まれている。アウトロでほんの少し、アコギが奏でられ、フレーズがバグを起こしたように終わるのは単にアレンジの遊びなのだろうか。もしくはメタファーとしてのオーバードーズのその先なのだろうか。必要最低限のアレンジがむしろさまざまな想像を喚起する、Night to Lieの音楽。カラフルでも享楽的でもない、恋の刹那にいる人がどんなリアクションを見せるのか、興味がある。
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