文: 石角友香 編:Miku Jimbo
きっと彼女のライブを観たことのある人なら、目指すところやバックボーンも理解できるのだろう。紹介者でありつつ、至らない点が多くて恐縮なのだが、shiie名義の楽曲を遡って聴くと、その“ザ・ギターロック”な音像に驚くと同時に、バンドサウンドでなければ意味がないと言わんばかりの飾らない内省や焦り、かと思えば冷静な現状把握、そして最終的には前向きなかすかな希望を残す歌詞がこの音像を求めていることに気づく。2019年頃から都内ライブハウスで弾き語りでの活動をスタートさせているようだが、ほどなくバンド編成での音源制作・リリースを開始し、2023年1月現在、サブスクリプションサービスで聴ける2021年以降の楽曲はバンド編成がメイン。唯一、2022年リリースの「深海」ではエレクトロニックと生音の融合が、いっそ深い海の底に落ちていけたらラクなのに……という、自意識の重さと現実の重力から逃れたいイメージをアレンジで具現化している。
ソロ名義のshiieと並行して、“生活”と名乗るメンバーと2ピースバンド、the rebel ageでの活動も続けている彼女。そちらはさらにグランジ色もあるギターサウンドで、反面、彼女のボーカルはソロより淡々としている。だが、ソロもバンドもバックボーンにある00年代以降の日本のギターバンドが最もその輝きを放ち、必然性を持っていた頃の曲構造やコード進行の影響が感じられるのだ。過去にメンバー募集をしていた投稿で、背景になっているアーティストにa flood of circle、the pillows、THE BACK HORN、9mm Parabellum Bullet、アルカラ、Base Ball Bear、ストレイテナーなどを挙げていた彼女。それらのバンドに通底するのはハードなサウンドと美しいメロディであり、もっといえば媚びない姿勢を真っ先に思い出す。shiieの作品は彼らのように物語性やファンタジーで抽象化していない分、日記や独り言に近い性質を持っているけれど、こうでありたい自分を保つために人は表現という面倒な手段に手を出すのだ。堂々巡りをしつつも、その決心が際立つ音楽に心を惹かれる。オリジナル曲にその不器用なまでの本音は横溢しているのだが、影響を受けたバンドのカバー動画も、こう言ってはなんだが女性アーティストの弾き語りの選曲としてはかなりソリッドでストイック。自分を鼓舞すると同時に、支えになっている楽曲ばかりなのだろう。
ギターロックを表現手段にしてきた彼女の一つの到達点だった前作「ハイウェイ」に続く新曲が今回配信リリースされる「Blue Bleu Blues」だ。少し驚いたのが、バンドサウンドでありつつ、曲調はずいぶん軽快になり、大きなグルーヴをまとった8ビートチューンなのだ。ここで彼女は相変わらず《しょうも無いことばかりで 不甲斐なさばかりで》と認めながら、《僕は懲りずに 仰いでは 青い夢を見る》し、《Blue Bleu Blues 僕は歌うのさ》と括る。こうして過去から現在の楽曲へと順番に聴いていくと、ようやくこの境地に達したのかな?と思うのだが、実は4年ほど前に、一歩を踏み出せずにいた頃、自分に言い聞かせるように書いた曲であり、初めて人に聴かせたオリジナル曲なのだという。もっと尖った言葉も連ねているが、最初の一歩は自分で自分の背中をなんとか押したという印象だ。当初から彼女は自分のブルースを歌うつもりだったのだ。その事実を知るとある種、この曲がshiieというアーティストのテーマに思えてくる。そしてこの曲のリリースをもって、一旦、shiieとしての活動を終え、2023年からは3ピースバンド、Moon Glaceとしての活動を開始するとのこと。バンドサウンドでこそ生きる音楽を作ってきた彼女だが、新バンドがどのような方向性を見せてくれるのか、大いに楽しみだ。
RELEASE INFORMATION
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