文: 石角友香 編:Miku Jimbo
知らず知らずのうちにある人の声を日常的に耳にしていることを、今回紹介するJun Futamataというアーティストの膨大なアーカイヴに触れて気付かされた。たとえば「東京マラソン」公式スターティングテーマやNHK『サイエンスZERO』OP・EDテーマ(2021年)、「ヤマザキ春のパンまつり」CMなどの歌唱。最近では江戸末期の長崎を舞台に依頼を受けて暗殺家業を行う“利便事屋”を描いたアクションストーリーであるTVアニメ『REVENGER』の劇伴音楽を手掛け、そこでも音楽性の重要な軸である声を聴かせているのがJun Futamataだ。ほとんどの場合、歌詞はなく、声を器楽的に用いて声によってレイヤーを作り出す。楽曲を構築する手法はインストともボーカル曲とも違う、それでいて彼女の声というパーソナリティがなくては成立しない無二の感覚をもたらすものだ。
プロフィールを読むと、ニューヨークでビバップ・メソッドとコード進行に基づく即興性を学び、ジャズクラブで現地のミュージシャンと即興セッションを行っていたとあり、そこで自身の作曲法が確立したのだろうと想像する。2021年リリースの初ソロ・アルバム『GRAVITY』は生楽器によるオーガニックなアンサンブルの上を声のレイヤーが交錯する、癒しとスリルがないまぜになった作風で、iTunesのニューエイジチャート1位など、広く聴かれる作品となった。
以降もCMやラジオ番組のジングル、ファッションショーやインスタレーションの音楽、<さいたま国際芸術祭(SACP)>へパフォーマーとして参加するなど、活躍のフィールドを拡張してきた。そんな中、Jun Futamataの音楽的フィロソフィのルーツといえそうなアイスランド・レコーディングによる楽曲リリースが2023年2月配信の「The River Knew」を皮切りにスタートした。スローなピアノの旋律の中から立ち現れる声は環境音をミックスしたようなニュアンスを持ち、不思議と落ち着ける。第二弾の「Hann Kemur Í Kvöld」はアイスランド語の歌詞を持ち、メロディはアイスランドのフォークロアを思わせる。いずれもかの地ならではの透徹した空気感の中に暖かさがポッと灯るようなサウンドスケープを描いているのが特徴的だ。そして5月24日に配信リリースされる「あなたの骨が、オパールにかわる頃(feat. Siggi Strings Quartet)」も含む、この秋リリース予定の2ndアルバムはSigur Rós(シガー・ロス)のスタジオでレコーディングされたものだ。なるほど、この研ぎ澄ました音像の由来はそこにあるのだなと腑に落ちた。
新曲「あなたの骨が、オパールにかわる頃」のメインリフは時間経過や細胞分裂を感じさせるストリングスが奏でるループで、Jun Futamataのボーカルは主体は人間というより、変成していく原子が音を発しているような感覚をもたらす。今回の歌詞は主に英語で、翻訳すると「あなたの骨が、オパールにかわる頃/あなたの瞳には何が見える?私達はそこにいるのだろうか?」という内容だそう。肉体としての自己とそれ以外の境界線が溶けていく想像が音に、そしてアンサンブルに結実しているような、そんな楽曲だ。
この曲に参加しているSiggi Strings QuartetはBjörk(ビョーク)から最も信頼されるバイオリニストであるUna Sveinbjarnardóttir(ウナ・スヴェインビャルナルドッティル)率いるカルテットで、ビョークの『ホモジェニック』『ヴァルニキュラ』『フォソーラ』や、Jóhann Jóhannsson(ヨハン・ヨハンソン)などのアルバムに参加している。確かなメソッドを持ちながら、すでに存在するフォーマットを超えるアーティストの作品で重要な役割を果たしてきたカルテットとJun Futamataのミニマル〜ポストジャンル的な指向は非常にハマりがいい。さらに言えば、第二の故郷のようなアイスランドの地で生きる人々とのコラボレーションが、ある種器用なFutamataから最も純度の高い作品を削り出しているのではないだろうか。現在聴ける新曲3曲を味わいながら、アルバムを待ちたい。
RELEASE INFORMATION
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NEW SINGLE「あなたの骨が、オパールにかわる頃(feat. Siggi Strings Quartet)」
2023年5月24日(水)リリース
Jun Futamata▼配信リンク
https://lnk.to/anatanohonega
early Reflection
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