中国ポップスを世界に。元・北京オリンピック会場での2DAYSワンマンが即完売するスーパースター・HUA CHEN YUに見る知られざるC-POPの変革

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アジアの音楽シーンは世界、そして日本でも人気だが、中国ポップスはいまだ知られていない部分が多い。そんな中、中国ポップスを世界へ届ける橋渡し的な存在として、シンガーソングライター・HUA CHEN YU(華 晨宇/ホァ・チェンユー)に注目が集まっている。彼のスター性、そして音楽的魅力について紹介する。

いまや世界的に注目が集まっているアジアの音楽シーン。日本国内でもアジア各国の音楽が流入しているが、一方で、独自の検索エンジンやSNSが発達している中国のポピュラー音楽は情報が入手しにくく、その魅力は知られていない部分が多い。ラブソングやバラードが圧倒的人気を誇るという中国国内シーンの独自性もまた、中国大陸系のC-POPが世界から独立した状態で発展している理由と考えられる。

そんな現状を打開する可能性を秘めているアーティストが、中国のシンガーソングライター・HUA CHEN YU(華 晨宇/ホァ・チェンユー)だ。

HUA CHEN YUは、華々しいキャリアと圧倒的なライブ規模を実現する、言わば“中国のスーパースター”。2013年にデビューした後、2014年にはデビュー1年目にして初の単独公演を成功させた。活動1年未満で万人超えのコンサートを開催したアーティストは、中国のポップス史でも数少ないという。

2016年には『2016MAMA Mnet Asian Music Awards』最優秀アジアアーティスト賞を獲得。2018年には、北京オリンピックのメイン会場として知られる中国最大級スタジアム「北京国家体育場」(通称・鳥の巣)で2日間の単独公演を開催。20代の歌手が鳥の巣でコンサートを行ったのは初めてで、しかもチケットが数分で完売したというのだから驚きだ。

彼がスターダムを駆け上った理由として、まず“歌声”がある。柔らかく、どこか中性的ながらも芯のある声。高音域は透明感があり、中低音域は粘りを効かせる。そして自由闊達な歌唱表現は、あらゆるジャンルの楽曲に適応する。2020年には中国の人気番組であり、シンガポールやアメリカでも放送されている『歌手・当打之年(Singer: The Year of Fighting)』に出演。日本からMISIAといった実力者が参加していることからもわかるように、この番組はアジア各国で屈指の歌唱力を持つアーティストが集う。その中でHUA CHEN YUは、2020年に番組放送以来最年少の「歌王(チャンピオン)」となった。

歌唱力だけでなく、HUA CHEN YUの音楽に対する造詣の深さと作曲センスにも注目したい。

2014年発表の1stアルバム『カジモドの贈り物(Quasimodo’s Gift)』でHUA CHEN YUは、3曲を作曲。エレクトロニック・ロック調に展開する「Let You Go」を生み出すなど、デビュー1作目からグローバルな視点を感じさせる。2ndアルバム『異類(Alienware)』(2015年)からは作曲の大半を担うようになり、全11曲中7曲をHUA CHEN YUが書いた。ハードロックを意識した「我管你(I Don’t Care)」や、アコースティックギターが印象的な切ないバラード「寫給未來的孩子(For My Future Child)」、加えて「世界是個動物園(The World Is A Zoo)」「憂傷的巨人(The Giant In Sorrow)」のように遊び心がある楽曲など、多彩なビートや重層的なアンサンブルから幅広い音楽の素養が垣間見える。

3rdアルバム『H』(2016年)では、切なく温かいメロディに電子音や激しいラップが絡み合う「Here We Are」、管弦楽器を取り入れた荘厳なサウンドの「巨鹿(Giant Deer)」、ギターリフとうねるようなリズムが印象的なロックチューン「To Be Free」、朴訥としたサウンドが憂いを表現した「Miles Away from Lonely」など、さらなるサウンドの広がりを見せた(なお、「Miles Away from Lonely」は日本での休暇中に生まれた曲とのこと)。そして5枚のアルバムの中でも異彩を放つのは、4thアルバム『新世界(NEW WORLD)』(2020年)だろう。本作では自然や人生といった壮大なテーマに取り組んだとのことで、サウンドはこれまでと一転してシンプルに。その中でも裏打ちのリズムを用いた「瘋人院(Madhouse)」やHR/HM調の「七重人格(Seven Personalities)」といった楽曲も収録し、ダイナミズムのある作品を作り上げている。

最新作は、2023年1月リリースの5thアルバム『希忘( Hope)』。本作ではついに全曲の作曲を彼が行い、数多くの楽曲で編曲も担っている。クラウトロックやエレクトロ、ポップパンク、トイポップ、フォーク、ジャズなど、再び多種多様なジャンルを展開。しかし、全曲ともに東洋のフィーリングを感じるサウンドとなっていて、中国のシーンにおける大衆性も意識しているようだ。その証拠に、『希忘( Hope)』は中国国内で数々の賞を受賞している。C-POPと西洋音楽――これらの絶妙な融合が、HUA CHEN YUという新しいジャンルを創出したと言えるだろう。

さらに、世界でも類を見ない大規模なライブ演出も、彼がグローバルなアーティストとなり得るポテンシャルを感じさせる。

HUA CHEN YUは2014年から幾度もワンマン公演<火星演唱会>(マーズ・コンサート)を数万人規模の会場で成功させている。デビュー10周年となる今年は、<マーズ・コンサート2023>を中国各地で開催。同イベントが日本で一般的なワンマン公演と異なるのは、音楽コンサートにテクノロジー、アート、エンターテインメントを組み合わせている点だ。現地レポートによると、ダンスや光のショーに加え、麻雀やゲームといった多様なアクティビティを提供することで、来場者が一日中楽しめる場を作り上げたという。観客に音楽以外の体験を届けるという同イベントのスタイルは、世界でも注目され得る試みだろう。

また、<マーズ・コンサート2023>は各日で昼・夜2公演実施され、昼は東洋と西洋の要素を掛け合わせた文化フェス、夜はHUA CHEN YUによるコンサートを実施。会場に設けられた高さ28メートルのインスタレーションは、昼間は自然とテクノロジーの融合を感じさせ、夜は10組の可動式巨大装置を用いて変幻自在に姿を変えるライブステージとして活用された。二つのステージとさまざまな舞台装置、3D空間のサウンドで観客を包み込む音響設備を駆使したパフォーマンスは、芸術性と表現の無限の可能性を示したと言える。

音楽作品でもコンサートでも、“伝統”と“革新”そして“東洋”と“西洋”を融和を目指すHUA CHEN YU。その飽くなき表現への貪欲さは底しれず、今後も世界的なトレンドを取り入れながら成長し続けるのは明らかだ。そんな彼の活動と活躍は今後、中国のポピュラー音楽を世界に広げる架け橋になるだろう。

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HUA CHEN YU(華 晨宇/ホァ・チェンユー)

1990年生まれの歌手/ソングライター。音楽オーディション番組『快楽男声』でチャンピオンとなり、2013年にデビュー。2014年にはデビュー1年目にして数万人規模の単独コンサートを成功させた。2018年には北京オリンピックのメイン会場として知られる中国最大級スタジアム「北京国家体育場」(通称・鳥の巣)で単独公演を2日間開催。また、2022年に行ったオンライン・コンサートは抖音(中国版TikTok)で生放送され、視聴回数が2億回を超えた。

"ホア・ホア (花花)"の愛称で親しまれており、中国のソーシャルメディア「Weibo」ではフォロワー3700万人を超える。
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