文: 石角友香 編:Miku Jimbo
女性をエンパワメントする音楽には共感するけれど、尖った表現をするラッパーや難解な音楽は日常的に聴くのはしんどい、というリスナーもいるだろう。今回紹介する、奈良県出身で関西を中心に活動するシンガーソングライターのやましたりなの表現は若い女性による日々の中での感情を驚くほど普遍的に描いている。2018年の夏にリリースした代表曲「ダイエットのうた」はTuneCore JapanのCMに起用され、その動画はこれまでに72万回以上再生。ダイエットに挑戦する中でのあるあるが共感されただけじゃなく、甘さとハスキーさ、そして独特のフックのある声の魅力、時々破天荒に突き抜ける自由奔放なメロディも痛快さを生み出している。大阪・梅田界隈を中心に年間100本以上のストリートライブを行う中で身につけた現場感や自分の個性を、きっと彼女はよく知っている。
これまで、音源ではギターロックのアレンジを加えて、バンドサウンドの作品をリリースしてきた彼女。1stアルバム『catchy』(2019年)ではタイトル通り、ポップスの王道を様々なタイプの楽曲に落とし込み、前出の「ダイエットのうた」を収録している他、女子同士のマウント合戦に異を唱えたり自分を卑下したりしていたが、2023年リリースのEP「レイメイ」では現実を見据え、変わらない毎日と格闘する気持ちを力強くなったボーカルと洗練されたバンドサウンドに落とし込んでいた。とことんギミックや創作をなくしたスタンスと言っていいだろう。
シンガーソングライターの中にもファンタジーを盛り込み、匿名的なアーティスト活動をし、音楽性もダンスミュージックやビートミュージックを選択する人もいる。むしろ時代の趨勢はそちらに傾斜しているかもしれない。そんな中、生身でストリートやライブハウスの舞台に立つやましたりなが今回、本領を発揮する弾き語りスタイルでの初のアルバム『ね。』をリリースするのは、改めて自分がどんなシンガーソングライターなのか?という意思表明なんじゃないだろうか。
アコースティックギター1本の弾き語りというシンプルさが一貫している8曲。1曲目はやましたが一人の女性のために曲を書き下ろすYouTube企画『メキワン』から生まれたという「構造色」。構造色とは物質自体には色がないのに光の波長程度の微細構造によって発色する現象、らしい。誰かのために書いた曲とはいえ、目標への途上でもがく気持ちは彼女にも通じるものなんだろう。ありのままでいいとは言わずに“構造色”という比喩を使う辺りに作詞家としての変化を見る。人生の過程に沁みそうな歌は他にもバンドアレンジだった「ジャンクション」を弾き語りで再構成したテイクや、「いいことばっかじゃない世界」もそうだ。大人になるにつれて窮屈になるけれど、ものの道理を知ったのにわがままではいられないし、道理がわからず苦しかった子供の頃に戻りたいわけでもない。年齢を重ねるリアルも共感を誘うが、もっと大事なのはなんとか今を肯定しながら前に進もうとしているリアリティなんじゃないかと思う。
生き方についての歌と同じぐらい、恋愛における一瞬の輝きや信頼、逆に冷めていく関係についてもやましたは歌を紡ぎ続ける。アルバムのリード曲である「そういうことかい」は妙に優しいメロディがむしろ哀しい、恋人の心が離れていく絶対的な理由に気づいた歌だ。過剰に感情的になることはなく、涙声になりそうでならないギリギリのテンションを保って歌われる気づきが突き刺さる。また、一度離れそうになった二人の気持ちの変化を使い捨てカイロを二人のどちらがポケットに忍ばせるか?で描いた「カイロ」はじわじわと温かい。かと思えば、勘違い男を徹底糾弾する痛快な「Eric」なんて1曲もある。
とてつもない不安とか生きづらさを抱えているわけじゃない。でも、今のままでいいとも思っていない、そんなどこにでもいる私や私の友達のような音楽が、シンガーソングライターやましたりなの『ね。』なのだ。
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