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文: 石角友香 編:Miku Jimbo
「作詞作曲、編曲からアートワークやMV制作まで一人でこなすマルチプレイヤー」とプロフィールに記載されていると、そのアーティストの来歴が気になってしまう。そもそも音楽制作がDTMからスタートした人も多いだろうが、離想宮はトラックメーカーではない。彼女が現在拠点としている群馬の地元紙のインタビューによると、国立音楽大学作曲科を卒業後、音楽と無関係の仕事をしながらオリジナルを作り始めたらしい。2020年に離想宮というアーティストネームで活動を開始した彼女はどちらかといえばシンガーソングライター寄りの資質を作詞作曲以外にも拡張せざるを得なかったのだろう。というのも、曲が求める音像を職業アレンジャーやミキサーと共有しにくいほど、ジャンル感が特異だからだ。ちなみにユニークなアーティストネームはフランスの郵便配達夫がたった一人で33年をかけ、石を積み上げることで宮殿を作り上げた「シュヴァルの理想宮」に由来している。生業を他に持つ人間が作る“ナイーヴ・アート”と呼ばれることや、一人で作品を作り上げるプロセスも離想宮そのものだ。
「闇のみんなのうた」をキャッチフレーズに掲げている彼女。2021年、YouTubeにアップした「鵙の早贄」でも顕著だが、バロックなどのクラシック音楽とロマ音楽などの民族音楽が融合し、現実社会から少し隔絶されたニュアンスの曲調やアレンジ。まさに昭和の時代のNHK『みんなのうた』で、仄暗い異世界に触れたあの感覚が蘇る。そして歌詞では明るい現実より暗い妄想を好んでいるようで、しかしそんなに簡単な二元論に落ち着かないリアリストぶりも顔を覗かせる。架空のフォークロアのごとき旋律の中で、現在進行形の若い女性の心象が垣間見えることこそが、彼女の音楽が無二な理由だろう。
他にもミニマルなハウス調のビートにクラシックと歌謡曲がミックスされたメロディが乗る「運命の女」、エレクトロな音色と昭和のラテンミュージックが融合したような「卑怯者でした」など、いずれも既視感があるようで実はない。時空が捩れる作曲やアレンジと、硬い文体による捻れた歌詞が流して聴くことを許さないのだ。また、提供曲としてはお笑い芸人・滝音の2023年単独ライブ全国ツアー「実印スタンプラリー」用に書き下ろした楽曲「タキオニック!」がある。
今回リリースする新曲「共犯者」はこれまでのレトロな室内楽的な楽曲から、本人曰く「一度しっかりしたバンドサウンドを意識した曲を作りたい」というスタンスで制作された。
これまでにないファンクテイストの太いベースラインが印象的で、一瞬オーセンティックなファンクが展開するのかと思いきや、エレクトロ・スウィングとジャズのスウィングが交互に顔を出す。洒落た展開やコード感、メロディは半音進行であやうさを醸し出すが、そこで歌われる内容はやはりこの人ならでは。バディなのか束の間の恋愛関係なのかわからないが、ソリッドなワーディングがまるでクライムサスペンスを想起させながら、実は仲違いした友人や恋人に対する失望や、身勝手な自分への自嘲を描いたのだという。そう言われてみないと気づかないぐらいドラマチックなのだが、唯一《自分のものにならないものの多さに納得がいかなくて 飢えた獣みたいな焦燥の中にいる》という歌詞のラインに滲む苛立ちはリアルだ。ハードな逃亡劇の映像が浮かびつつ、日常的にままある完全に分かり合えない人間関係を思うーー体験としてなかなかない面白さを内在させた音楽。作品を一人で完結させる手法でしか生み出し得ない濃厚さと誠実さが確かにある。
INFORMATION
early Reflection
early Reflectionは、ポニーキャニオンが提供するPR型配信サービス。全世界に楽曲を配信するとともに、ストリーミングサービスのプレイリストへのサブミットや、ラジオ局への音源送付、WEBメディアへのニュースリリースなどのプロモーションもサポート。また、希望するアーティストには著作権の登録や管理も行います。
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