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文: 石角友香 編:Miku Jimbo
海外のインディポップやインディR&Bの影響も感じる歌唱スタイルと、日本語の文学性が同居するユニークなシンガーソングライター、nene。2002年生まれで現在21歳の彼女の幼少期は、歌うのが好きな少女というより、ものづくりにおいてなかなか早熟だったようだ。5歳から10年間ピアノ教室に通い、小学5年生の時にはTVドラマ『泣くな、はらちゃん』の弾き語りシーンに憧れて独学で弾き語りをスタート。その頃すでに友人と作曲を始め、高校2年生から本格的に楽曲制作をスタートしたらしい。楽器もピアノやギターだけでなく、中学時代は吹奏楽部に所属しサックスを担当、高校時代には軽音楽部で3ピースバンドのギター&ボーカルを担当していたというから、かなり音楽に傾倒した生活だったことは間違いない。高校卒業時の卒業制作がカバーCDの制作で、オケはDTMで自作したというのも、ボーカリスト志向というより、音楽作り全般を目指すスタンスが伺えるエピソードだ。
そんなスタンスがさらに具体的なプロ志向となって現れたのは、より専門的な音楽知識を得るために音楽大学へ進学したことだろう。作詞作曲やカバー動画の作成などと並行して、都内ライブハウスでソロやバンド編成でのライブも行っている。作品リリースを果たした現在もオーディションに挑戦し、より多くのオーディエンスにオリジナル曲を届けるきっかけを模索しているようだ。
2023年9月にリリースされた1st EP『眠れない僕ら』が音源としてはneneとリスナーの最初のコンタクトだったが、4曲入りのそのEPは同世代の若者より少しだけ騒がしい街と距離を置いた佇まいが印象的だった。しかし内心では明るく振る舞うことや人に合わせることに疲れているハイティーンや20代前半のリスナーも少なくないだろう。まだ何者でもない世代の自分を模索する心情が恋愛や生き方をテーマとするneneの音楽とリンクする人も少なくないはずだ。
彼女の持ち味は何よりその声。透明感と切なさとアンニュイさ、時折覗く衝動がそのまま歌唱に現れている。ブレスが多めだったり、ところどころでしゃくれる特徴も個性として際立っている。好きなアーティストの筆頭にbeabadoobee(ビーバドゥービー)と中島みゆきを挙げる人もなかなか珍しいが、その好みが彼女の歌唱や作品性にも現れていると思う。叙情味と背景にある芯の強さという意味では、他に挙げているさよならポエジー、Hump Back、indigo la Endの名前もしっくりくる。
また、フィーチャリングで3ピースギターロックバンドのマリースメック「普通」のコーラス・語りや、ポストジャズバンドI love you Orchestra Swing Styleの「Lip-sync feat. nene」へのボーカル参加も。特徴的な声と歌唱が注目されている証と言えそうだ。
2023年12月にリリースした1stシングル「ララバイ」は初めてファンクにトライした、スモーキーな仕上がりのナンバー。サビの転調で景色が変わる聴きごたえ十分な1曲で、彼女のソングライティングの精度が上がったことを実感させた。そして今回の2ndシングル「Hay fever」(花粉症の意)はEPや1stシングルでのキーボードも入った音数の多いアンサンブルから、グッとエレクトリックギターのアンサンブルに振り切ったシンプルなアレンジが新鮮だ。歌詞面でも、それまで夜をさまざまな視線から逃れる居心地のいい場所として描いていたところから、年齢や時間の経過で変わっていってしまう僕と君の関係を後悔を含めた表現で綴るようになっている。《鼻の効かない僕はくしゃみで春に気付く》など、鈍感さや季節の描き方に不思議と生々しさがあり、それが研ぎ澄まされたギターロックのバラードである種、粛々と届けられるあたりにこれまでにない迫力を感じるのだ。声の特徴を生かす楽曲やアレンジが見え始めた手応えがあるこの曲を発端に、今後のリリースがさらに楽しみになった。
INFORMATION
2ndシングル『Hay fever』
2024年4月24日リリース
〈nene〉外部リンク
early Reflection
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